医療従事者や患者たちのドラマを、さまざまな角度から描いた医療小説。現役医師が手掛けた作品も多く、世間の目に触れにくい医療現場のリアルな人間模様や人々の多様な心情を垣間見られるのが魅力です。

今回は、そんな医療小説のおすすめ作品をご紹介。ドラマ化や映画化もされた人気作からシリーズで長年愛される名作まで、まず手に取りたい作品を厳選しました。近年の話題作も取り上げたので、ぜひチェックしてみてください。

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医療小説のおすすめ作品|人気

ノーフォールト 上

早川書房 著者:岡井崇

ノーフォールト 上

医療訴訟をはじめとする現代日本の医療が抱える問題点を、産婦人科を舞台に描いた医療小説です。2009年に『ギネ 産婦人科の女たち』としてドラマ化もされています。

大学病院の産科に勤める女性医師・柊奈智は、ある日の深夜の当直で容態が急変した妊婦の対応にあたります。緊急帝王切開手術を経て子どもは無事に誕生したものの、数日後に母親は原因不明の出血によって死亡してしまうのです。

出血の原因がわからないままに、奈智は遺族から訴訟を起こされてしまいます。医療事故の原因の特定が難しい産科で繰り広げられる、緊迫した人間ドラマが見どころ。産婦人科医の活躍とリアルな心情を垣間見られる、おすすめの医療小説です。

白い巨塔 一

新潮社 著者:山﨑豊子

白い巨塔 一

大学病院を舞台に、医学界に渦巻く人間の欲望と医療過誤の実態を暴いた医療小説の不朽の名作です。国内外でたびたび映像化され、社会現象を巻き起こす大ヒット作品になりました。

国立大学の医学部第一外科助教授・財前五郎は、メディアでも脚光を浴びているエリート。自他ともに次期教授にふさわしい人物と認めていました。しかし、現教授・東は傲慢な財前を嫌い、後任の教授候補として他大学からの移入を画策するのです。

タブー視されていた医学界の裏側に鋭く切り込んだ、骨太な物語が高い評価を集めた傑作。泥沼の教授選に勝ち抜こうとする野心家な財前を軸に、医師たちの壮絶な権力闘争が描かれます。組織人としての医師たちの人間ドラマに興味がある方におすすめの医療小説です。

悪医

朝日新聞出版 著者:久坂部羊

悪医

「悪い医者とは何か」をテーマに、がん治療に対する医者と末期患者それぞれの葛藤を描いた1作。第3回日本医療小説大賞を受賞した、医療小説の名作です。

再発したがん患者・小仲辰郎は、がん治療の拠点病院で外科医・森川良生に”これ以上、治療の余地がありません”と告げられます。セカンドオピニオンも断られた小仲は、腫瘍内科・免疫細胞療法のクリニック・ホスピスへと移り、さまざまな医者に出会っていくのです。

一方、数々の問題に忙殺されるなか、治療を中断した小仲を忘れられない森川。末期がん患者にどのような対応をすべきか悩む日々が続いていました。

生きるために治療を続けたい患者と、残された時間を有意義に過ごすために治療断念を提案する医者。命をめぐる患者と医者の思いの違いが、両方の視点から描かれます。治る見込みのない病にどう向き合うかを考えさせられる、おすすめの医療小説です。

閉鎖病棟

新潮社 著者:帚木蓬生

閉鎖病棟

精神科病棟で起きた殺人事件と病棟内部の様子を、患者の視点から描き出したおすすめの医療小説です。第8回山本周五郎賞を受賞し、2019年には実写映画化もされています。

舞台は、とある精神科病棟。それぞれに重い過去を抱え、家族や世間からは疎まれ遠ざけられながらも、患者たちは日々を明るく生きようと奮闘していました。そんなつつましい日常は、殺人事件の発生によって破られます。

長期入院する患者たちの日常を描くとともに、事件の犯人を犯行へと駆り立てた理由を追っていく本作品。精神科医・帚木蓬生ならではの視点で、精神科病棟と患者たちを取り巻く実情が克明に表現されている医療小説の名作です。

禁忌の子

東京創元社 著者:山口未桜

禁忌の子

身元不明の遺体の正体と、己のルーツにまつわる謎に迫っていく本格ミステリー。2024年に第34回鮎川哲也賞を受賞しました。現役医師である山口未桜のデビュー作にして、2025年の本屋大賞の候補作にも選出された医療小説の注目作です。

救急医・武田のもとに一体の溺死体が搬送されてきます。身元不明の遺体は、なんと武田と瓜二つ。彼の死の理由と自身との関係を探るため、武田は旧友の医師・城崎とともに調査を始めます。しかし、鍵を握る人物は密室で死体となって発見され……。

自分と同じ姿形をした遺体との遭遇を発端に、生殖医療にまつわる切実な真相が解き明かされていきます。医療現場の臨場感あふれる描写や専門用語も交えつつ、テンポよく進むストーリー展開が魅力。一気読みしたという読者も多い、最近の医療小説のおすすめ作品です。

ヴァイタル・サイン

小学館 著者:南杏子

ヴァイタル・サイン

女性看護師の目線を通して、過酷な医療現場の現実をドキュメント風に描き出した長編医療小説。終末期の患者を多数抱える病棟に勤務する、31歳の看護師・堤素野子が主人公です。

休日も気が休まらない過酷なシフトをこなす堤素野子は、整形外科医である恋人との時間を支えに日々を過ごしていました。そんなある日、休憩室のパソコンで看護師と思われる人物のSNSアカウントを見つけた素野子。そこには、看護師たちの本音が綴られており……。

感謝されるよりも罵られることの方が多いなか、看護師たちが数々の試練と向き合っていく日常を描いた1作。心身をすり減らしながらも患者に寄り添い続ける看護師たちの姿勢が胸に迫ります。看護師の実態に焦点を当てた医療小説を探している方におすすめです。

城砦 上

日経BP 著者:アーチボルド・ジョセフ・クローニン

城砦 上

医師の仕事に情熱を燃やす青年が、数々の苦難を乗り越えていく様を描いた医療小説です。海外発の傑作。「神様のカルテシリーズ」を手掛けた医師・夏川草介が翻訳を担当している点にも注目してみてください。

若き医師・アンドルーの半生を描く本作品。愚直なほどに生真面目な青年が、さまざまな経験を経て成長していく様が描かれます。医療制度に立ち向かい、富や名声を求める己の欲望に葛藤しながらも、医師としての希望を絶やさない彼の心の軌跡が見どころです。

スコットランド出身の外科医である著者の自伝的小説としても知られる1作。刊行された1937年当時のイギリスの医療を取り巻く状況も垣間見られます。多くの医師から根強い支持を集める、おすすめの海外医療小説です。

無言の旅人

幻冬舎 著者:仙川環

無言の旅人

尊厳死をテーマに、さまざまな立場にある人々の葛藤と選択を描いたミステリーテイストな医療小説です。交通事故によって意識不明になった三島耕一の家から、尊厳死の要望書が見つかるところから物語は展開していきます。

要望書に書かれていたのは、万が一何かが起こった際に延命措置を一切拒否するという耕一の希望でした。しかし、耕一の婚約者・大木公子や家族は動揺を隠せません。苦渋の選択を迫られた人々が決断を下したとき、耕一の身体に異変が起こり……。

本人が望む死を受け入れるべきかどうかという究極の選択を、残された関係者をめぐる形で考えていくのが見どころ。多様な人々の心情や思惑が交錯していきます。自分や大切な人の死のあり方について改めて考えさせられたという読者も多い、おすすめの医療小説です。

使命と魂のリミット

KADOKAWA 著者:東野圭吾

使命と魂のリミット

ドラマ化もされた、人気作家・東野圭吾の長編医療小説。大学病院を舞台に、謎の復讐劇に翻弄される医師たちの奮闘を描いたサスペンスフルな物語です。

教授・西園陽平が率いる心臓血管外科所属の研修医・氷室夕紀。心臓外科医を志しながら、その裏では西園が執刀する手術によって命を落とした父の死の真相を知りたいと願って生きてきました。そんなある日、病院に脅迫状が届くのです。

“隠蔽している医療ミスを公表しないと病院を破壊する”という脅迫状の内容と、夕紀の父の死という2つの謎が交錯していきます。ハラハラするような緊張感あふれる展開のなかに、それぞれの使命を全うする人々の姿を巧みに描いたおすすめの医療小説です。

医療小説のおすすめ作品|シリーズ

新装版 チーム・バチスタの栄光

宝島社 著者:海堂尊

新装版 チーム・バチスタの栄光

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大学病院を舞台に、原因不明の術中死の真相を明らかにしていく大人気医療小説です。シリーズ累計1000万部以上を記録する「バチスタシリーズ」の記念すべき第1作目。第4回このミステリーがすごい!の大賞に輝き、実写映画化やテレビドラマ化も果たしました。

東城大学医学部付属病院には、心臓移植の代替手術である「バチスタ手術」を専門とする天才外科チームが存在しています。しかし、そのチームで術中死が立て続けに発生。不定愁訴外来に勤める医師・田口は、病院長からの命令で内部調査を始めますが……。

“医学ミステリーの最高傑作”と謳われる本シリーズ。万年講師の医師と厚生労働省の変人役人を探偵役に、病院で巻き起こる事件を解決に導いていきます。個性豊かな登場人物たちが織りなす、エンターテインメント性の高い医療小説を読みたい方におすすめの名作です。

ドクター・デスの遺産 刑事犬養隼人

KADOKAWA 著者:中山七里

ドクター・デスの遺産 刑事犬養隼人

安楽死を取り巻く闇を警視庁の敏腕コンビが暴いていく、医療小説の人気作です。医療にまつわる社会の闇をテーマにした社会派ミステリー「刑事犬養隼人シリーズ」の第4作目にあたります。2020年に実写映画化もされました。

突然自宅にやって来た医者に注射を打たれた父親が、その直後に亡くなったという通報が1人の少年から寄せられます。少年の母親が、事件の前にあるサイトにアクセスしていたことを突き止めた警視庁捜査一課の刑事・犬養。サイトを開設していたのは謎の闇医者で……。

安楽死を20万で提供するという連続殺人犯「ドクター・デス」の正体と事件の動機を追いかける、刑事コンビの活躍が見どころ。刑事と医者が繰り広げるスリリングな頭脳戦を楽しめます。安楽死に対する問題提起にも考えさせられる、おすすめの医療小説です。

いのちの停車場

幻冬舎 著者:南杏子

いのちの停車場

訪問診療医を取り巻く人間ドラマを描いた「いのちの停車場シリーズ」の第1作目。2021年に実写映画化もされた、医療小説の名作です。

東京にある救急救命センターで働いていた62歳の医師・白石咲和子は、ある出来事から故郷・金沢へと帰郷。訪問診療の医師になります。「命を送る」現場に戸惑いながら、さまざまな患者との出会いを通して咲和子は在宅医療を学んでいくのでした。

在宅医療の現場で奮闘する人々に焦点を当てた1作。老老介護をはじめ、さまざまな境遇にある患者たちのドラマを通して「支える医療」のあり方が描かれます。終末期医療について考えるきっかけを与えてくれる、おすすめの医療小説です。

孤高のメス 外科医当麻鉄彦 1

幻冬舎 著者:大鐘稔彦

孤高のメス 外科医当麻鉄彦 1

アウトサイダーな凄腕医師の活躍とともに、日本の医療制度の問題に切り込んでいく骨太な医療小説。実写映画化もされた「孤高のメスシリーズ」の1作です。

大学病院を飛び出したのち、国内外で腕を磨いた一流の外科医・当麻鉄彦。現在は琵琶湖のほとりにある民間病院で、数々の難手術をこなしていました。そんな彼のもとに、大量吐血によって瀕死の状態となった少女が担ぎ込まれてきます。

宗教上の理由から両親が輸血を拒否するなか、一切の輸血なしで手術に挑むことになる当麻。難しい症例や制度の壁などを前に、緊迫した医療現場の様子がドラマチックに描かれます。類稀なセンスを持つ天才外科医の手腕を見てみたい方におすすめの本格医療小説です。

天久鷹央の推理カルテ

新潮社 著者:知念実希人

天久鷹央の推理カルテ

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2025年にアニメ化およびテレビドラマ化された、医療小説の話題作。天才的な頭脳を持つ医師が、難解な事件を解き明かしていく医療ミステリーです。「天久鷹央シリーズ」として、累計部数は350万部を突破しています。

天医会総合病院の特別部門・統括診断部には日々、ほかの科で「診断困難」と判断された患者のカルテが集められます。河童に会った・人魂を見たなど、患者の主張はさまざま。そんな摩訶不思議な「病」に、天才医師・天久鷹央はどのような「診断」を下すのでしょうか。

原因不明の殺人や謎の真相に、天久鷹央が驚くような洞察力と医学の知識で迫っていきます。診断学をもとにした本格推理が見どころ。中学生から楽しめる医療小説シリーズとして、おすすめの作品です。

医療小説のおすすめ作品|感動・恋愛

神様のカルテ

小学館 著者:夏川草介

神様のカルテ

若き内科医の苦悩と成長を描き、大ヒットを記録した「神様のカルテシリーズ」の第1作目。第10回小学館文庫小説賞を受賞したほか、2010年の本屋大賞では第2位に輝いた医療小説の名作です。映画化やドラマ化などでも話題を集めました。

「24時間、365日対応」の地方病院で内科医として勤務する29歳・栗原一止。専門外の分野の診療をしたり睡眠を3日も取れなかったりする過酷な日常を、妻に支えられながら懸命に過ごしています。そんな栗原に、母校の医局から引き抜きの声がかかり……。

大病院から見放された患者たちと誠実に向き合う一止の懸命な奮闘が、多くの読者の感動を読んだ本シリーズ。地域医療に従事する現役医師・夏川草介のあたたかな視点で、医師という職業の魅力が描かれます。心が安らぐような医療小説が読みたい方におすすめの1作です。

最後の医者は桜を見上げて君を想う

TOブックス 著者:二宮敦人

最後の医者は桜を見上げて君を想う

死を肯定する医師と生を諦めない医師の対立と、患者との関わりを描いた感動の医療小説。舞台化や漫画化も果たした近年の話題作です。本作品を第1作目に、「最後の医者シリーズ」としてシリーズ化されています。

ある病院で、患者に余命半年と宣告した「死神」と呼ばれる医師・桐子。彼は患者に死を受け入れ、残りの日々を大切に生きる選択肢もあると説きます。一方で、副院長・福原は最後まで奇跡を信じて生に賭ける道を選び……。

限られた命の時間のなかで、それぞれの信条に沿った戦いに挑む医師たち。生と死の究極の選択を前にした患者の生き様と葛藤が、痛切に描かれます。死生観を問いかける感動作としておすすめの医療小説シリーズです。

祈りのカルテ

KADOKAWA 著者:知念実希人

祈りのカルテ

問題を抱えた患者たちが隠している真意や謎を、研修医が解き明かしていくミステリーテイストな医療小説。5人の患者とのエピソードが、連作短編形式で描かれます。2022年にテレビドラマ化され、続編も刊行されているおすすめ作品です。

主人公・諏訪野良太は、純正会医科大学附属病院の研修医。初期臨床研修として、内科・外科・小児科といったさまざまな科を回っています。そんなある夜、夫と離婚して以来、睡眠薬の過剰摂取でたびたび救急搬送されてくるという女性が現れ……。

さまざまな診療科で出会う患者たちにまつわる日常の謎が描かれます。心を鋭く読む研修医・諏訪野が患者に寄り添っていく姿や、医療現場のリアルな描写が見どころ。患者が秘めた思いや医療従事者との心の交流が胸を打つ、医療小説の感動作です。

泣くな研修医

幻冬舎 著者:中山祐次郎

泣くな研修医

現役外科医・中山祐次郎が、研修医の等身大の日常を瑞々しく描いた感動の医療小説。「泣くな研修医シリーズ」として複数作品刊行されており、テレビドラマ化や舞台化もされました。

大学を卒業したばかりの25歳の新人医師・雨野隆治の毎日は、わからないことばかり。上司や先輩に怒られるなか、患者は次々と雨野の前に押し寄せます。救急当直・手術・看取りと、初めての経験を重ねながら雨野は少しずつ成長していくのでした。

無力感に打ちのめされながら、真っ直ぐがむしゃらに命と向き合う研修医の初々しい奮闘ぶりが感動を呼ぶ本作品。研修医の日常を覗き見られるような医療小説として、おすすめのシリーズ作品です。

崩れる脳を抱きしめて

実業之日本社 著者:知念実希人

崩れる脳を抱きしめて

過去に苛まれる研修医と脳腫瘍を患う女性の、恋と謎を描いたユニークな医療小説。”2度読み必死”と謳われるミステリーテイストな物語が高い評価を集め、2018年の本屋大賞候補作にもノミネートされました。

研修医・碓氷蒼馬は、神奈川県にある病院へと研修にやって来ます。そこで出会ったのは、悪性脳腫瘍を患う「ユカリ」こと弓狩環という女性でした。医師と患者という立場を超えて2人は心を通わせていきますが、やがてユカリの死の知らせが届き……。

大きく全2章に分けて2人の恋模様とユカリの死に隠された謎を描いていくのが特徴。二転三転するどんでん返しの展開は多くの読者に衝撃を与えました。医療小説に恋愛とミステリーを絡めた独創的な1作として、チェックしておきたいおすすめ作品です。

無影燈 上

集英社 著者:渡辺淳一

無影燈 上

2003年に紫綬褒章を受章した医学博士・渡辺淳一の、恋愛を題材にした医療小説です。酒に溺れた影のある医者と恋人との恋を描いた1作。宝塚歌劇による演目の原作としても起用されています。

大学病院の講師を勤めた優秀な外科医の直江庸介は、なぜかエリートの道から外れ、医師として個人病院へとやって来ます。看護師・倫子はそんな影を持つ直江に惹かれ、深く愛するように。どこか冷めた直江には、実は人に言えない秘密がありました。

医療現場を舞台にした華麗な現代ロマンの物語に定評がある著者。本作品では孤高の医師との恋物語を軸に、病院内の人間模様を描き出しています。恋への切実な思いと死への向き合い方を巧みに表現した、おすすめの医療小説です。