日本人の思想や社会的背景が読み取れる「日本文学」。『古事記』などを起源とする長い歴史を持ち、さまざまな文豪の手によって進化を遂げてきました。名作とされるモノも多く、何から手に取ればよいか悩む方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、日本文学のおすすめ作品をご紹介。映画化された人気作など、入門編としても読みやすい作品をピックアップしました。ぜひ選書の参考にしてみてください。

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日本文学作品とは?

感情や思想などを、言語で表現した芸術である文学作品。そのなかでも、日本で生まれたものが日本文学作品の定義の1つです。小説だけでなく、随筆や詩歌、戯曲なども日本文学作品に含まれます。

『古事記』や『万葉集』などが日本文学の起源。1300年以上もの歴史があります。小説においては、明治時代の1887年に二葉亭四迷が発表した『浮雲』が、言文一致体で書かれる現代の小説の先駆けになりました。

名作として読み継がれる日本文学作品は、現代にも通じる普遍的な思想が感じられるものや、研ぎ澄まされた美しい文体のものなど、魅力はさまざま。日本人の精神性・社会的背景を理解する上でも、日本文学作品は参考になります。

特に明治から昭和期に書かれた文豪の有名な作品は、日本文学作品の傑作といわれるモノも多く、入門編としてもおすすめです。より読書の幅を広げたい方は、ぜひ手に取ってみてください。

日本文学作品のおすすめ

こころ

新潮社 著者:夏目漱石

こころ

“日本文学の金字塔”と謳われる、夏目漱石の代表作の1つ。自らの過去の業に縛られた人間の「こころ」を巧みに描いた日本文学の傑作です。新潮文庫版では累計発行部数750万部を突破しています。多くのメディアミックスもされました。

鎌倉の海岸で出会った、学生の私と1人の男性。妻と静かに暮らし、不思議な魅力を持つ彼を、私は「先生」と呼んで慕うようになります。しかしある日、私の元へ届いたのは先生の遺書でした。そこには、先生の悲しい人生の告白が綴られていたのです。

教科書にも掲載される1作。物語は3部構成で、私と先生の出会いから先生の死に至るまでの過程を明らかにしていきます。現代にも通じる人間のエゴイズムや心の葛藤を克明に描いた、おすすめの日本文学です。

人間失格

新潮社 著者:太宰治

人間失格

太宰治の代表作であり、“日本文学の最高峰”とも謳われる名作。夏目漱石の『こころ』と国内の累計発行部数1位を争う人気作です。無頼の生活に明け暮れた、太宰治自身の苦悩を書いた自伝的小説といわれています。たびたび映画化や漫画化もされてきました。

主人公は東北の名家出身の大庭葉蔵。幼い頃から他人や世間を恐れ、周りの機嫌ばかりをうかがう道化を演じていました。自分を偽り、他人を欺き、破滅的行為に手を染め続ける葉蔵は、ある日、人妻と心中未遂を図り…。

葉蔵の手記として書かれた本作品は、“恥の多い生涯を送って来ました”という一文が有名。自らを偽りながらも愛されたいという、誰でも持ちうる人間の自意識を徹底的に掘り下げました。現代でも多くの人々の共感を集め続ける、おすすめの日本文学です。

雪国

新潮社 著者:川端康成

雪国

日本人として初めてノーベル文学賞を受賞した、川端康成の代表作。”国境の長いトンネルを抜けると雪国であった”という冒頭文が有名な、世界的名作です。世界中で翻訳出版もされています。

年の暮れ、山あいの温泉街へ向かうため汽車に乗り込んだ文筆家・島村。新緑の季節に訪れた時に出会った、19歳の美しい娘・駒子に再び会いに行くためでした。

すると、同じ車両で病人の男に付き添っていた葉子という女性に、島村は興味を惹かれます。実は、葉子と駒子の間にはあるつながりが隠されていたのです。

雪国での切ない愛憎劇を、徹底した情景描写によって表現しているのが本作品の特徴。まるで詩を読むような美しい表現の数々に圧倒されます。日本語の美しさと可能性を堪能できる、おすすめの日本文学です。

羅生門・鼻

新潮社 著者:芥川龍之介

羅生門・鼻

表題作の2編をはじめとする、芥川龍之介初期の作品からなる短編集です。ブラック・ユーモアあふれる芥川龍之介の筆致を堪能できる1作。教科書などにも掲載されてきた、日本文学の名作が揃っています。

京の都が天災や飢饉ですさんでいた頃、荒れ果てた羅生門で死体の髪の毛を1本1本引き抜いている老婆を目撃する『羅生門』。あごの下までぶら下がる鼻をコンプレックスに思っていた僧侶が、鼻を短くしようと悪戦苦闘する『鼻』など、名作を8編収録しました。

人間のエゴイズムや他者の幸福を妬む心理など、共感できるポイントが多くあります。読みやすい短編集なので、日本文学の入門編としてもおすすめ。古典や説話に着想を得たという、芥川龍之介の原点をぜひ読んでみてください。

斜陽

新潮社 著者:太宰治

斜陽

没落貴族の家庭を舞台に、従来の道徳に挑戦を投げかけた太宰治の代表作の1つ。昭和22年に発表された本作品は、社会に「斜陽族」という流行語も生み出すほどの影響力をもたらした日本文学です。

物語の舞台は終戦直後。没落した上流家庭出身のかず子には、寝たきりで死期が近い母と麻薬中毒になった弟・直治がいました。社会の渦のなかで将来が不安になったかず子は、妻子を持つ流行作家・上原にすがり始め…。

四人四様の滅びの姿とともに、戦後を生きた人間のしたたかさを描きました。また、恋を前にして目まぐるしく変わる、女性の心情もドラマチックに表現されています。読みやすい文章なので、日本文学の入門作品としておすすめです。

刺青・秘密

新潮社 著者:谷崎潤一郎

刺青・秘密

谷崎潤一郎の処女作『刺青』など、初期の短編7編を収録した傑作短編集。耽美主義的な世界観に彩られた、日本文学を代表するフェティシズム小説の1つです。

肌を刺されて悶える人の姿に愉悦を感じる、腕のよい刺青師・清吉。江戸中の者が入れ墨をしてもらうため彼の元を訪れますが、清吉は理想とする美女に己の魂を彫り込みたいという宿願を抱いていました。そんなある日、清吉はまさに理想の美女を見つけ…。

耽美とフェティシズムが入り乱れる、谷崎潤一郎の文学的原点を感じられる1作。唯一の自伝的小説『異端者の悲しみ』なども収録されており、趣向もさまざまな谷崎文学を楽しめます。谷崎潤一郎作品を初めて読む方にもおすすめの短編集です。

金閣寺

新潮社 著者:三島由紀夫

金閣寺

映画化や舞台化なども多数された、三島由紀夫の代表作。1950年に実際に起きた金閣寺放火事件に対して、三島由紀夫が容疑者についての見解を創作した長編小説です。”戦後文学の最高傑作”とも称され、国際的にも高く評価されています。

重度の吃音と外見に悩み、幼い頃からいじめられていた学僧・溝口。かつて父から、”金閣寺ほど美しいものはない”と言い聞かされていた少年は、想像のなかで金閣寺の美しさを膨らませていきます。彼はなぜ、憧れの存在である金閣寺を焼いたのでしょうか。

「金閣寺の美」に屈折した思いを抱く青年の姿を通して、現実と理想に苦しむ人間の普遍的な心理を描いている本作品。鬼気迫る心情描写に胸を揺さぶられます。日本文学の不朽の名作として、おすすめの1作です。

三四郎

新潮社 著者:夏目漱石

三四郎

『それから』『門』へと続く、夏目漱石の前期三部作の1作目。日露戦争後の日本を舞台に、学問や友情、恋愛に悩む等身大の青年の姿を描きました。映像化もされてきた、日本文学における青春小説の名作です。

23歳の小川三四郎は熊本の高等学校を卒業し、東京の大学に入学するため上京します。見るもの全てが目新しい、賑やかな大都会の空気に翻弄される三四郎。やがて彼は、自由気ままで魅力的な女性・里見美禰子に出会い、彼女に強く惹かれていきます。

三四郎の不器用な恋愛模様から、青春の爽やかさとほろ苦さを味わえる1作。夏目漱石作品のなかでも読みやすさに定評があります。学生にもおすすめの日本文学です。

檸檬

KADOKAWA 著者:梶井基次郎


檸檬

繊細な感情の機微を表現した、梶井基次郎を代表する日本文学作品です。表題作を含め、14作が収録された短編集。1925年に発表され、2013年にKADOKAWAから文庫版が出版されました。

男は体調を崩すと、美しいモノを見るという贅沢をしたくなります。香りや色彩に刺激を受け、棚に檸檬を1つ置く。自分を傷つける現実や病と戦う姿を、豊かな感受性を物語で表現しています。

それぞれの短編の主人公や登場人物が病に冒されており、そのなかでの感情を描いた本作品。基本的に作風は陰鬱で暗いものの、絶望しきってはない繊細な気持ちを文学として味わえます。心にのしかかる日本文学を探している方におすすめです。

砂の女

新潮社 著者:安部公房

砂の女

第14回読売文学賞を受賞した、安部公房の代表作。20カ国以上の言語に翻訳され、フランスでは最優秀外国文学賞も受賞しています。1964年に映画化もされた、日本文学史に残る傑作です。

仁木順平は趣味の昆虫採集のため、とある海岸の砂丘を訪れたのが物語の始まり。そこには、今にも砂に埋もれそうな集落がありました。

集落のうち、砂穴の底に埋もれていく一軒家に閉じ込められた仁木。考えつく限りの方法で脱出を試みますが、家を守るため、家主の女は仁木を引き止めます。さらに村の人々までもが、穴の上から仁木の逃亡を妨害し…。

独創的な世界観が魅力の安部公房作品。本作品では、不条理でサスペンス的な展開のなかで少しずつ変化していく仁木の姿から、人間の本質や自由とは何かを突きつけられます。不気味で奇想天外な日本文学を読みたい方におすすめの小説です。

山椒大夫・高瀬舟

新潮社 著者:森鴎外

山椒大夫・高瀬舟

近代日本文学を代表する作家の1人・森鴎外の代表作2編を含む短編集です。表題作の2編は、教科書にも掲載されてきました。武士道や殉死、安楽死など、当時の世情を踏まえた歴史小説とともに、森鴎外の哲学に触れられます。

人買いのため、引き離された母と姉弟の受難を通して、犠牲ついて考えさせられる『山椒大夫』。弟殺しの罪で島流しにされる男と、彼を護送する同心との会話から安楽死について考えさせられる『高瀬舟』など、全12編が収録されています。

軍医でもあった森鴎外ならではの人生観が、それぞれの物語で情緒的に語られているのがポイント。戯曲なども手掛けた森鴎外の入門編としてもおすすめの日本文学です。

新編 銀河鉄道の夜

新潮社 著者:宮沢賢治

新編 銀河鉄道の

詩人・童話作家である宮沢賢治の代表作。執筆から推敲と改訂が重ねられ、”永遠の未完成の傑作”ともいわれる童話作品です。たびたびミュージカルなどの演目としても上演されてきました。

主人公のジョバンニは、活版印刷所でアルバイトをしながら病気の母を看病している苦学生の少年。そんな彼に優しくしてくれるのは、親友のカムパネルラのみでした。ある夜、2人は不思議な銀河鉄道に乗り、美しく悲しい幻想の旅へと繰り出します。

銀河の旅のなかでさまざまな人に出会い、「ほんとうの幸せ」は何かを見つめ直す日本文学の名作。本作品では、表題作を含む全14編を収録しています。宮沢賢治の童話世界を存分に堪能できる、おすすめの作品集です。

破戒

新潮社 著者:島崎藤村

破戒

たびたび映画化もされ、島崎藤村の不朽の名作ともされる日本文学作品。島崎藤村が7年をかけて執筆し、自費出版した本作品は、夏目漱石などの文豪からも高い評価を受けました。明治後期を舞台に、出自で差別を受ける教師の苦悩を克明に描いた長編小説です。

教員・瀬川丑松は、父から身分を隠すよう堅く戒められていました。生徒からも慕われるよい教師でありながら、出自を隠していることに悩む丑松。そんななか、出身を同じくする解放運動家・猪子蓮太郎に傾倒していきますが…。

社会問題を文学という形で取り上げた点で、日本文学の新たな可能性を開いたとされる本作品。自己のアイデンティティと差別の間で追い詰められていく丑松の痛切な心情に、心を揺さぶられます。現代に通じる社会派小説としてもおすすめの1作です。

歌行燈・高野聖

新潮社 著者:泉鏡花

歌行燈・高野聖

浪漫主義的な幻想小説に定評がある文豪・泉鏡花。本作品では、僧侶の体験談として語られる怪奇譚『高野山』のほか、能楽を題材にした美しい名作『歌行燈』など、泉鏡花の代表作を含む短編5編を収録しました。

高野山の旅僧は道に迷った薬売りを救おうと、奇妙な山路へ入り込みます。そこには1軒の家があり、妖艶な美女が住んでいました。美女にもてなされる僧でしたが、彼女はよこしまな気持ちを抱く男を動物に変えてしまう妖怪だったのです。

幻想的で艶やかな文体に思わず魅了される、おすすめの日本文学作品。多くの文豪にも影響を与えたという泉鏡花の筆致に、ぜひ触れてみてください。

浮雲

新潮社 著者:二葉亭四迷

浮雲

明治期の小説家・二葉亭四迷のデビュー作。本作品は、文章に口語や俗語を取り入れる言文一致体で書かれた、日本で最初の近代文学とされています。”日本近代小説の先駆け”とも名高い、日本文学の代表的1作です。

主人公は秀才ではあるものの世情に疎く、要領の悪い青年官吏・内海文三。自意識ばかりが高いために官吏の職を失い、慕っていた女性すら友人に取られそうになります。

苦悩する文三の内面を緻密に描写した本作品は、日本の知識階級を1人の人間として初めて造形した点でも画期的でした。少しずつ変化していく文体からも、二葉亭四迷の試行錯誤の跡が見てとれます。現代の日本文学の祖を読んでみたい方に、おすすめの小説です。

山椒魚

新潮社 著者:井伏鱒二


山椒魚

突如訪れた孤独で生きる存在に焦点を当てた、井伏鱒二を代表する日本文学作品。処女作でもある表題作を筆頭に、12作の短編を収録しています。表題作は1929年に発表され、1948年に新潮社から文庫版が発売されました。

岩屋の中に住んでいた1匹の山椒魚。彼はいつのまにか体が大きくなり、棲家から出られなくなっていました。そんな山椒魚の悲しみを、哀愁とユーモアたっぷりに描写しています。

小さなプライドを持ち、虚勢を張りながら徐々に性格が悪くなっていく山椒魚。状況よりもその後自分がどうするかが重要だということを、気づかせてくれると高い評価を得ています。味わい深い短編集の日本文学に興味がある方におすすめです。

友情

新潮社 著者:武者小路実篤

友情

志賀直哉らとともに雑誌『白樺』を創刊した小説家・武者小路実篤の代表作。青春期における友情と恋愛の葛藤を鮮やかに描いた日本文学で、自由主義的な風潮を重んじた白樺派を象徴する1作でもあります。

脚本家・野島と新進作家・大宮は、固い友情で結ばれた親友同士。ある時、野島は大宮のいとこの友人・杉子に恋し、大宮に援助を求めます。しかし、一方の杉子は大宮に心惹かれており、野島の恋心を拒否。パリに去った大宮に恋文を送るのです。

若い読者からの人気も高く、日本文学における”永遠の青春小説”とも名高い名作。大正時代の若者たちの、甘酸っぱく熱烈な恋愛模様がリアルに感じられます。リズミカルな文体で読みやすい、おすすめの青春小説です。

海と毒薬

新潮社 著者:遠藤周作

海と毒薬

九州の大学附属病院における、米軍捕虜の生体解剖事件を小説化した、遠藤周作の不朽の名作。毎日出版文化賞を受賞し、遠藤周作の文壇的地位を確立させました。1986年に映画化もされています。

無愛想で一風変わった中年の町医者・勝呂には、大学病院時代に忌まわしい過去がありました。第二次世界大戦末期、教授たちに反抗できず、米軍捕虜への人体実験に参加していたのです。彼らの心理的背景には何があったのでしょうか。

カトリックへの信仰心をルーツに、日本の精神風土について書く遠藤周作ならではの衝撃的な1作。戦争時の極限状態に置かれた人々の心理描写から、倫理観の問題点や人間の残虐性を浮き彫りにします。時代を超えて背筋を凍らせる、おすすめの日本文学です。

自選 谷川俊太郎詩集

岩波書店 著者:谷川俊太郎

自選 谷川俊太郎詩集

現代日本を代表する詩人・谷川俊太郎が、2千数百編の自身の詩から厳選した詩集です。子どもが読んでも楽しめる言葉遊びから、実験的な長編詩まで、多彩な173編の詩が収録されています。

デビュー作から、2009年までに刊行された数々の詩集から選び抜かれた詩は、その多様性に驚かされる読者も。幅広い年齢の方に読みやすい詩集になっています。日本文学における詩の名作に触れられる、おすすめの詩集です。

仮面の告白

新潮社 著者:三島由紀夫


仮面の告白

昭和の世で同性愛をテーマにし話題となった、三島由紀夫の代表作の1つです。1949年に発表され、1950年に新潮社から文庫版が発売されました。三島が24歳で本作品を描いた事実と共に、名を現代に残す日本文学の名作です。

女性に性的な魅力を感じず、血に塗れた死を憧憬しながら、自分が性的欲求を感じる対象に悩み苦悶する少年。そんな彼は、友人の妹に想いを寄せられ、幸せを感じ始めます。しかし、彼女と接吻をした瞬間、すべてに気づいてしまうのです。三島由紀夫自身が”自分を殺す”自伝小説です。

男でありながら男性に性的興奮を覚え、女性と恋愛をするフリをする。自分をも騙すように交流を重ねても、結局男性を追ってしまう主人公。一般的な感覚とは違う自分に悩む姿に共感できると、評価が高い作品です。性的指向に関する日本文学に興味がある方におすすめです。

沈黙

新潮社 著者:遠藤周作


沈黙

江戸時代の日本を舞台に、神の有無とキリシタン禁制を描いた歴史小説です。戦後に描かれた日本文学の金字塔とも謳われる作品で、1966年には谷崎潤一郎賞を受賞しています。2017年にはマーティン・スコセッシを監督に『沈黙ーサイレンスー』として映画化もされました。

島原の乱が鎮圧された頃、ポルトガル人司祭のロドリゴは日本に潜入します。そこで彼が見たのは、キリシタンが禁制され、残酷な拷問をされる日本人の信徒たち。背教も意識し始めた彼らは、キリスト信仰の真理に向かいあいます。

現実でも、キリスト教の大きな問いである神の沈黙。本気で神を信じ本気で神を考える苦悩が、酷い日本の状態と共に描写されています。ある種の答えを作中で提示しているので、宗教色が強い日本文学に興味がある方におすすめです。

藤十郎の恋・恩讐の彼方に

新潮社 著者:菊池寛


藤十郎の恋・恩讐の彼方に

文藝春秋の創刊者である菊池寛を、有名作家の地位へと押しあげた代表作を含む日本文学作品です。歴史短編小説を10作収めており、異色のテーマと広い題材が特徴。1970年に、新潮社から文庫が発売されました。吉川英治名義で、著者本人の解説も掲載されています。

表題作は元禄期に活躍した俳優・坂田藤十郎の偽りの恋愛を描写する『藤十郎の恋』と、復讐を否定した『恩讐の彼方に』の2作です。ほかにも、『忠直卿行状記』『極楽』『入れ札』など、初期の名作を揃えています。

人の悩みや苦悩を描いており、時代小説ではあるものの、現代にも通じるテーマを取りあげていると評価が高い作品です。また、テーマは重いものが多いですが、鬱々とした雰囲気ではないのも特徴として挙げられています。暗いながらも読みやすい日本文学に興味がある方におすすめです。

黒い雨

新潮社 著者:井伏鱒二

黒い雨

映画化やドラマ化もされた、井伏鱒二の記念碑的名作。原爆体験記をもとに、井伏鱒二が被爆という世紀の体験を文学として昇華した原爆小説です。野間文芸賞を受賞しています。

備後の山あいにある村へ帰った閑間重松とその姪・矢須子。被爆者であるとして縁談がうまくいかない矢須子に、重松は苦心していました。やがて、原爆投下後の広島に降った「黒い雨」に打たれていた矢須子に、原爆病の症状が現れ始めます。

被爆体験がその後の人々の日常を蝕んでいく悲劇を、原爆症と精神性の両面から描いた本作品。冷静沈着な筆致で綴られる原爆の惨状が、現代に生きる読者に静かに平和を訴えかけるおすすめの日本文学です。

野菊の墓

新潮社 著者:伊藤左千夫

野菊の墓

時代や世代を越えて愛される恋愛小説の傑作『野菊の墓』を含む、4編を収録した作品集。表題作は、歌人として正岡子規に師事した伊藤左千夫の名を、文壇に広めた日本文学の名作です。映画化や舞台化もされてきました。

いとこ同士でありながら、互いの心に清純な恋心が芽生えていた15歳の政夫と17歳の民子。しかし、世間体を気にする大人たちに2人は引き裂かれてしまいます。町の中学へ進んだ政夫は、民子が他に嫁いで間もなく病死したことを知り…。

純真な初恋の切なさを描き、”涙なしには読めない”とも謳われる表題作。田舎の静かな田園風景が目に浮かぶ、美しい情景描写も見どころです。明治時代から読み継がれる珠玉の恋愛小説に、ぜひ触れてみてください。

桜の森の満開の下

講談社 著者:坂口安吾

桜の森の満開の下

表題作は、太宰治らと並ぶ無頼派作家・坂口安吾の代表作の1つ。”日本幻想文学史上屈指の傑作”と銘打たれる短編小説です。多数の言語に翻訳され、映画化や舞台化などもされてきました。

鈴鹿峠に住む山賊が、女房として1人の高貴な美女をさらっていきます。しかし、彼女はほかの女性と異なり山賊のことを恐れず、むしろライバルの女性たちに牙を剥き…。

山賊と美女の残酷さが、桜の舞う幻想的な情景描写のなかで怪しく際立つ1作。映像が目に浮かぶような凄まじい美とともに、狂気を感じられます。日本ならではの幻想文学の情緒を味わえる、おすすめの日本文学です。

江戸川乱歩傑作選

新潮社 著者:江戸川乱歩


江戸川乱歩傑作選

探偵小説の第一人者である江戸川乱歩の、初期の傑作を収録した傑作選です。短編の1つである『人間椅子』は、2007年に映画化もされています。1960年に文庫が発売されました。

暗号コードを用いた巧妙なトリックを披露するデビュー作「二銭銅貨」はもちろん、苦痛と快楽を描く著者の趣味を最大限描写した怪奇短編『芋虫』も収められています。ほかにも、『赤い部屋』『屋根裏の散歩者』など、合計で9つの物語が収録された1作です。

本作品は、ミステリーとしても読める短編集。そのなかで、江戸川乱歩の描く不気味さがしっかりと出ている、恐怖小説としても高い評価を得ています。ダークな日本文学を楽しみたい方におすすめです。

注文の多い料理店

新潮社 著者:宮沢賢治


注文の多い料理店

詩人としても名を残す宮沢賢治が、生前に唯一出版した童話集をもとにした日本文学作品です。1924年に発売された同名の童話集を全編収録し、1990年に文庫が発売されました。

童話集全編と共に『なめとこ山の熊』『雪渡り』など、地域の特色を生かした童話を19作収録。岩手県の住人たちに触れられる作品集です。

有名な表題作を筆頭とした童話で、岩手の人々や自然の美しさと残酷さを感じられます。童話集ではあるものの、さまざまな読み方ができると評判であるため、大人にもおすすめ。日本文学の深い作品集に興味がある方は、ぜひ手に取ってみてください。

個人的な体験

新潮社 著者:大江健三郎


個人的な体験

予想外の事態に陥った青年が、向きあい大人になるまでの過程を描いた日本文学作品。1964年に発表され、1981年に文庫版が発売されました。ノーベル文学賞を受賞した大江健三郎の、代表作の1つです。

産まれてきた自分の子供の脳に異常があると知らされ、鳥(バード)は恐怖感に襲われます。アフリカ旅行を夢見ていた彼が過ごすのは、子供の死を願う絶望の日々。悩んだ末に、自分の運命を受け入れる男の葛藤を描きます。

脳に障害を持つ子供からの、逃亡劇を描く作品です。主人公の解けようもない問いとの格闘がポイント。成長が描かれているものの、内容はハードなので、考えさせられる日本文学を探している方におすすめです。

アニマル・ロジック

新潮社 著者:山田詠美

アニマル・ロジック

By: shinchosha.co.jp

人間動物園にて、華麗に生き抜く女性の姿を描いた長編小説です。1996年に泉鏡花文学賞を受賞しており、1999年に文庫版が発売されています。

主人公は、黒い肌の美しい野獣・ヤスミン。人間の動物園であるマンハッタンで生きる彼女は、言葉や理論よりも五感を信じて生きています。そんな彼女の物語を、一喜一憂を共にする「私」が語る1作です。

20世紀末のアメリカを舞台に、さまざまな問題を描ききった本作品。性の問題や麻薬問題、人種差別の問題など、テーマは暗いものが多く扱われています。飄々と大都会で生きる、ヤスミンの生き様にも注目。哲学的な日本文学を探している方におすすめです。

ブンとフン

新潮社 著者:井上ひさし


ブンとフン

小説から飛び出した人物が、世界を混乱させるユーモアたっぷりのファンタジー小説です。1974年に新潮社から文庫が発売されました。2023年に音楽劇化されるなど、現在も愛される日本文学作品です。

小説家・フン先生が描いた小説には、大泥棒・ブンが登場します。そんな、神出鬼没の泥棒であるブンが、現実世界に飛び出してしまいました。自由な発想が現実世界を痛烈に風刺する、井上ひさし初の長編小説です。

本作品は、基本的にナンセンスギャグを盛り込んだ、笑って読める小説として作られています。そのなかで、皮肉な風刺が込められているのが特徴。笑いながらも、社会を感じられる日本文学に興味がある方におすすめです。