書店員の投票によって決定される「本屋大賞」。本のプロである書店員が、その年にもっともおすすめしたいと感じた作品が選ばれます。本屋大賞受賞作品は、アニメ化や映画化などメディアミックスされるケースも多く、さまざまな楽しみ方ができるのも魅力です。
そこで今回は、本屋大賞受賞作品から特におすすめの作品をご紹介します。大賞受賞作品を中心に、翻訳部門や発掘部門からもピックアップ。ぜひ参考にしてみてください。
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全国の書店員が決める「本屋大賞」とは?
「本屋大賞」は、全国書店員の投票によって決められる書籍のコンテストです。オンライン書店を含む、新刊書を扱う書店スタッフに投票権があり、過去1年間で各々が”面白くておすすめしたい”と感じた本に投票します。本屋大賞の発表は毎年4月初旬~中旬ごろに行われており、2024年は4月10日に発表されました。
同賞は3部門から構成されているのがポイント。該当年に発売された新刊を対象とする「本屋大賞」、同じく該当年に発売された翻訳小説を対象とする「翻訳小説部門」、過去に出版され時を経ても魅力の色あせない作品を選定する「発掘部門」があります。
「発掘部門」では、エントリーされた作品のなかから、特に本屋大賞実行委員の共感を集めた1冊を選出し「超発掘本!」として発表しています。
本が売れないといわれる時代。同賞は顧客と書籍、双方に対する理解が深い書店員の声を採用したコンテストを開催することで、売り場からベストセラーを生み出し、出版業界を盛り上げていくことを目的として設立された経緯があります。読書が好きな方はぜひ注目してみてください。
歴代の本屋大賞受賞作品のおすすめ
成瀬は天下を取りにいく
新潮社 著者:宮島未奈
2024年に第21回本屋大賞を受賞した連作短編青春小説です。中学生の主人公・成瀬あかりを主人公にした「成瀬シリーズ」の第1作品目。著者のデビュー作でありながら、坪田譲治文学賞や読書メーター OF THE YEAR2023-2024、ダ・ヴィンチ BOOK OF THE YEAR 2023小説部門などを受賞し、14冠を達成しています。
滋賀県大津市出身の成瀬あかりは、他人の目を気にせず、いつもマイペースに生きる中学2年生。コロナ禍に見舞われた夏休みのある日、いつもスケールの大きいことを言っている彼女が”わたしはこの夏を西武に捧げようと思う”と友人の島崎に宣言し、閉店を控える西武大津店に通い始めます。
さらにはM-1に挑んだり、実験のため坊主頭にしたりと、全力で我が道を突き進んでいく成瀬。そんな彼女から誰もが目を離せません。
何事にも真っ直ぐ突き進む成瀬と、仲間たちの人間模様を描いた爽快感あふれる作品。彼女と島崎の友情に心があたたかくなる読者も大勢います。話題性が高く、面白い青春小説を読みたい方におすすめです。
汝、星のごとく
講談社 著者:凪良ゆう
2023年に第20回本屋大賞を受賞した恋愛小説。凪良ゆう作品は、2020年の『流浪の月』に続いて2度目の本屋大賞受賞です。ほかにも、2022王様のブランチBOOK大賞など多くの賞を受賞し、直木賞や吉川英治文学新人賞にノミネートされています。
穏やかな海に囲まれた、瀬戸内の島から始まる物語です。その島で育ってきた高校生の暁海と、自由奔放な母の恋愛に振り回されて島に転校してきた櫂。ともに心に孤独や欠落を抱えている2人は、惹かれ合い、すれ違い、成長していきます。
不器用な2人の恋愛模様や挫折、成長などを透明感のある筆致で描き切った傑作です。苦しく厳しい現実に光が差すような、島や街の美しい描写も魅力。凪良ゆうが真正面から描いたという、感動の恋愛小説を求める方におすすめです。
同志少女よ、敵を撃て
早川書房 著者:逢坂冬馬
2022年に第19回本屋大賞を受賞したSF小説です。逢坂冬馬のデビュー作にして、第11回アガサ・クリスティー賞で大賞も受賞したほか、第166回直木賞候補に選出。年間ベストセラー・本ランキングでは2022年もっとも売れた小説になりました。
独ソ戦に巻き込まれ、モスクワ近郊の農村の住民が犠牲になるところから始まる物語。少女・セラフィマは母親を失い、さらに自らも射殺される寸前で赤軍の女性兵士・イリーナによって救出されるのでした。戦うか死ぬかを問われたセラフィマは、イリーナの指導のもとで一流の狙撃兵になることを決意します。
やがて、兵士として成長したセラフィマは、スターリングラードの前線へと出兵。敵味方問わず多くの犠牲者がでるなか、撃つべき真の敵とは何なのかという問いに直面したセラフィマは……。豊富な資料をもとに組み立てられた戦争小説を読みたい方におすすめです。
52ヘルツのクジラたち
中央公論新社 著者:町田そのこ
2021年の第18回本屋大賞受賞作品。印象に残る言葉である「52ヘルツのクジラ」は、仲間が聞き取れない周波数で鳴くクジラのことです。
家族にいいように扱われてきた女性・貴瑚と、母に虐待され「ムシ」呼ばわりされていた少年。愛されることを知らずにいるふたりが出会ったとき、いったい何が起こるのでしょうか。
他人に声が届かない孤独な存在である、主人公をはじめとしたマイノリティの人々を、52ヘルツのクジラに例えている点に注目。声なき声を題材にした、本屋大賞受賞の傑作を読みたい方におすすめです。
流浪の月
東京創元社 著者:凪良ゆう
2020年の第17回本屋大賞受賞作品。実力派と称される作家・凪良ゆうが、社会的に許されない関係を持つふたりの男女を描いた小説です。
小学生のときに父親を亡くし、母親もいなくなってしまった家内更紗。ある日、公園で”ロリコン”と噂される佐伯文に声をかけられると、誘われるがまま家へ付いて行ってしまいます。更紗と文は穏やかな時間を過ごしますが、ふたりの関係は事件として扱われてしまうのでした。
15年の時を経て再会するふたりがどのように決断するのかが見どころ。正しいとはどういうことなのか、誰が決めることなのかを考えさせられる物語です。
そして、バトンは渡された
文藝春秋 著者:瀬尾まいこ
2019年の第16回本屋大賞受賞作品です。2021年には実写映画が公開され大ヒットした小説。2020年に発売された文庫版は映画の影響もあり、各社の集計で2021年で最も売れた文庫本として注目されました。
高校2年生の森宮優子。彼女は水戸・田中・泉ヶ原の姓を経て、今は森宮を名乗っています。自分の名前の由来を知る人は近くにおらず、次々と変わる親代わりは血の繋がっていない人ばかりでした。
バトンを渡すようにさまざまな親元を転々とする優子ですが、特殊な環境で育っても決して不幸を感じることはありませんでした。
ひとりの少女に複数の大人が「親」として関わっていく、ほかにない設定が印象に残る作品。読後、タイトルの意味を改めて考えたくなる物語です。
かがみの孤城
ポプラ社 著者:辻村深月
2018年に第15回本屋大賞を受賞した、ファンタジーミステリー小説です。ほか、第6回ブクログ大賞の小説部門大賞や、ダ・ヴィンチBOOK OF THE YEAR 2017を受賞するなど、計9冠を獲得し、累計発行部数は170万部を突破しています。
2022年にはアニメ映画化され、大きな話題を呼びました。著者自身が”10代のころの辻村深月に読ませたい作品”と語っている点にも注目です。
学校に居場所がなく、引きこもりになってしまったこころ。ある日突然、光り始めた鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城の形をした建物でした。建物の中にいたのは、こころと同じような悩みを持った7人。どうして7人はこの場所に集まったのでしょうか。
ミステリー要素もあり、後半にかけて一気に謎が明かされていくのも見どころ。繊細で不安だらけな思春期の少年少女を見事に描いた、傑作を読みたい方におすすめです。
蜜蜂と遠雷 上
幻冬舎 著者:恩田陸
2017年の第14回本屋大賞受賞作品です。ピアニストたちが、ライバルや自分自身と向き合いながら成長していく物語。著者の恩田陸は『夜のピクニック』で第2回本屋大賞も受賞しています。
養蜂家の父と一緒に引っ越しを繰り返す少年・風間塵や、13歳で母親と死別してからピアノが弾けなくなった栄伝亜夜。ほかにも、出場制限へのタイムリミットが迫る高島明石、センスのある演奏で優勝候補と目されるマサル・C・レヴィ=アナトールなど、多様なピアニストが芳ヶ江国際ピアノコンクールで頂点を目指します。
魅力的なキャラクターが競うなか、大会で優勝するのはいったい誰なのでしょうか。音楽を題材にした本屋大賞受賞作品を読みたい方におすすめです。
羊と鋼の森
文藝春秋 著者:宮下奈都
2016年の第13回本屋大賞受賞作品です。ほかにも、第4回「ブランチブックアワード大賞2015」と第13回「キノベス!2016」で第1位を獲得し、話題になりました。2018年には実写映画化もされている1作です。
外村は、高校時代にピアノ調律師・板鳥と出会ったことをきっかけに、調律の仕事に興味を抱きます。ピアノが好きな姉妹・先輩・恩師といった人々との交流を通して、外村は少しずつ成長してゆくのでした。
才能のあるなしにかかわらず人は生きていかなくてはならないという真理を訴えかける作品。自分の人生が特別なものかどうか思い悩んだ際におすすめの傑作です。
鹿の王 1
KADOKAWA 著者:上橋菜穂子
2015年に第12回本屋大賞を受賞したファンタジー小説です。上橋菜穂子による、人気のシリーズ作品です。
大国・東乎瑠(ツオル)から故郷を守るため、死兵の役割を任された戦士団・独角。家族を病で失い、絶望の淵にいたヴァンは独角のリーダーとして戦いますが、奴隷として岩塩鉱に囚われてしまいます。
ある日の夜、不気味な犬の群れに襲われた岩塩鉱。謎の病が蔓延するも生き残ったヴァンは、同じく病から逃れた幼子にユナと名付けて親代わりになるのでした。
血のつながりのない父と子、ふたりの壮大な冒険の行く末に注目。スケールの大きい物語を堪能したい方はチェックしてみてください。
村上海賊の娘 一
新潮社 著者:和田竜
2014年の第11回本屋大賞受賞作品です。史実に基づいて描かれたスケールの大きい歴史小説。第35回吉川英治文学新人賞も受賞している点に注目です。
戦国の世にその名を轟かせた海賊衆・村上海賊。瀬戸内海の島々を拠点に、勢力を誇る村上武吉の生き様は、娘・景にも受け継がれていました。嫁ぎ先もない景は、合戦前夜に難波へ向かいますが……。
第1次木津川口合戦を下敷きにした作品。村上海賊と織田信長の軍との戦いがいきいきと描かれています。戦国時代に興味のある方におすすめです。
海賊とよばれた男 上
講談社 著者:百田尚樹
2013年の第10回本屋大賞受賞作品です。出光興産の創業者・出光佐三をモデルに描かれたノンフィクション歴史小説。名作小説『永遠の0』でも知られる百田尚樹の作品です。
戦争ですべてを失った石油会社・国岡商店の国岡鐵造。借金を抱え、大手石油会社からは排斥されてしまったため商品もありません。しかし、国岡商店は社員を雇い続け、旧海軍の残油を売るなどして再起を図ろうとするのでした。
よくも悪くも、現代社会に多大なる影響を与えた石油をめぐって奮闘する人々に注目したい作品。ノンフィクション小説が好きな方におすすめの1冊です。
舟を編む
光文社 著者:三浦しをん
2012年の第9回本屋大賞受賞作品です。2013年に実写映画化、2016年にアニメ化されています。主人公は出版社で営業として働く馬締光也。彼は、言葉に対する鋭敏な感性を持っています。
光也は能力を見出されて辞書編集部に引き抜かれ、新作『大渡海』の完成を目指し、同僚と共に長いプロジェクトに挑むことになるのでした。やがて光也は運命の女性と出会って……。
定年が近づくベテラン編集者、日本語研究に没頭する老学者、辞書作りに前向きになっていく同僚たちと苦労を共にしながら、少しずつ前進していく光也の姿に注目。事を成し遂げるために奮闘する人々を描いた本屋大賞受賞作品を読みたい方におすすめです。
謎解きはディナーのあとで
小学館 著者:東川篤哉
2011年に第8回本屋大賞を受賞したミステリー小説です。お嬢様刑事と毒舌執事のコンビが華麗に事件を解決する、人気のシリーズもの。実写ドラマ化や映画化もされた作品です。
新米刑事・宝生麗子は世界的に名を馳せる宝生グループのお嬢様。仕事を終えて邸宅へ戻れば、仕事着からドレスに着替えてディナーを味わいます。
麗子が事件に苦戦するたびに相談役として話を聞くのは、執事兼運転手・影山。失礼な物言いで麗子の未熟さを指摘しながら、影山は難事件を見事に解決へと導いていくのでした。
麗子と影山のコミカルなやり取りも魅力のひとつ。少し鼻につくキャラクターの風祭警部にも注目したい作品です。初心者にも読みやすいミステリー小説を求める方は、ぜひチェックしてみてください。
天地明察 上
KADOKAWA 著者:冲方丁
2010年に第7回本屋大賞を受賞した時代小説。ほかにも、第31回吉川英治文学新人賞・第4回舟橋聖一文学賞・第4回大学読書人大賞・第7回北東文芸賞など、さまざまな賞を受賞している注目作でもあります。
4代将軍・家綱の時代。日本独自の暦を作る計画が動き出します。白羽の矢が立ったのは碁打ちの家系に生まれながらも、自身の境遇に嫌気がさして算術を極めようとしていた渋川春海でした。
少しずつ狂い始めていた暦を正すため、日本文化を変えようとして始まった壮大なプランは、はたして成功するのでしょうか。登場人物の成長が楽しめる本屋大賞受賞作品を読みたい方におすすめです。
告白
双葉社 著者:湊かなえ
2009年に第6回本屋大賞を受賞したミステリー小説。「週刊文春ミステリーベスト10」の第1位にも選ばれています。著者のデビュー作でありながら、大ヒットを収めた名作。2010年に実写映画化されています。
“愛美は死にました。しかし事故ではありません。このクラスの生徒に殺されたのです”。ホームルームで突如語られた教師からの告白によって、物語の幕は上がります。語り手が次々と変わることで、少しずつ事件の全体像が明かされていき……。
娘を校内で殺された過去を持つ主人公の復讐劇がたどる、物議を醸した衝撃のラストに注目。湊かなえが得意とする「イヤミス」の名作を読みたい方におすすめです。
ゴールデンスランバー
新潮社 著者:伊坂幸太郎
2008年の第5回本屋大賞受賞作品。また、第21回山本周五郎賞も受賞しています。2010年に実写映画化され、2019年には韓国でも映画化されました。
大衆が見ているなかで首相が爆殺。犯人と目され、報道されている青年・青柳雅春には身に覚えがありません。首相暗殺という大罪の濡れ衣をきせられ、陰謀に巻き込まれていく雅春。謎の集団から追跡され、独り必死に逃走劇を繰り広げます。
作品内ではビートルズの音楽がモチーフとして用いられている点に注目。スリルを味わえる、洗練されたストーリーを楽しみたい方におすすめです。
一瞬の風になれ 第一部 イチニツイテ
講談社 著者:佐藤多佳子
2007年の第4回本屋大賞受賞作品で、陸上競技を題材にした小説です。2006年「本の雑誌が選ぶノンジャンルベスト10」でも第1位に選出。全3巻で構成されています。
春野台高校の1年生・神谷新二は、スポーツテストで感じた疾走感を味わいたいと願います。天才的なスプリンターで幼なじみ・連と陸上部へ入部。納得のいく走りを求めて練習する日々を送ります。次第に、デビュー戦の日が近づいてきて……。
勝ち負けだけでは語れない、青春の1ページを爽やかに描いた作品。部活動に打ち込んだ経験のある方や、今まさに部活動に打ち込んでいる現役の学生におすすめです。
東京タワー オカンとボクと、時々、オトン
新潮社 著者:リリー・フランキー
2006年の第3回本屋大賞受賞作品です。著者は、イラストレーター・絵本作家・写真家・俳優・音楽家など、マルチに活動するリリー・フランキー。2005年には実写映画が公開されています。
「ボク」が最も大切にする人・オカン。4歳でオトンと離れ、筑豊の小さな炭鉱町でボクとオカンは一緒に暮らしていました。
成長したボクは上京し、東京で悪戦苦闘する日々。年を取ったオカンは、病魔と闘っていました。次第に、ボクが恐れていたことが少しずつ現実になりつつあり……。
かけがえのない人との思い出と喪失の悲しみを描いた感動長編です。大切な存在を想いながら読むのがおすすめの1冊。ボクとオカンの行く末が気になる方は手に取ってみてください。
夜のピクニック
新潮社 著者:恩田陸
2005年の第2回本屋大賞受賞作品です。また、第26回吉川英治文学新人賞も受賞。2006年には実写映画化もされた小説です。
高校生活の最後に開催される「歩行祭」は、全校生徒が徹夜で80キロを歩く北高の恒例イベント。甲田貴子はある決意を胸に歩行祭に挑みます。
高校生活で誰にも伝えられなかった秘密を清算すべく、同級生が高校生活の思い出を語らうなかで、貴子だけは落ち着かない気持ちでいるのでした。
永遠の青春小説とも謳われ、青春特有の雰囲気を堪能できるのが魅力の作品。大人と子供の境目にいる登場人物を、的確に描写した本屋大賞受賞作品を読みたい方におすすめです。
博士の愛した数式
新潮社 著者:小川洋子
2004年の第1回本屋大賞受賞作品です。また、第55回読売文学賞の小説賞も受賞。2006年には実写映画も公開されています。記憶がたった80分しか維持できない、悲しい運命を背負った男性と家政婦の物語です。
博士の背広の袖には、自分の記憶が80分しかもたないことが記された、古いメモが付いています。記憶力のない博士にとって「私」はいつも初対面の家政婦でした。
博士は記憶を失うたび、私に靴のサイズや誕生日を尋ねます。やがて、私の10歳の息子も加わって、博士と過ごす日々はかけがえのない時間となっていき……。
記憶を失い続ける博士が、数学という普遍的なことを通して家政婦やその息子とコミュニケーションを図る様子に注目。悲しいけれどぬくもりがあふれている、感動の本屋大賞受賞作を読みたい方におすすめです。
歴代の本屋大賞受賞作品のおすすめ|翻訳部門
犯罪
東京創元社 著者:フェルディナント・フォン・シーラッハ
2012年本屋大賞「翻訳小説部門」で第1位に選ばれた連作短編小説です。実際の事件に材を得て、異様な罪を犯した人々の哀しさや愛おしさなどを描いた作品。著者はドイツ・ミュンヘン出身で、現在はベルリンにて刑事事件弁護士を生業としながら執筆業も行っている作家です。
愛する妻を殺した老医師、兄を救うために裁判下で嘘をつく弟、エチオピアの村を豊かにした銀行強盗。弁護士として活躍する著者が実在の事件を下敷きに、犯罪者の人間としての姿を描き出しています。
事件をテーマにしながら、ミステリーや警察組織の暗部の追求といった話ではなく、犯罪者の持つ悲しい素顔に着目した作品。犯罪者がなぜ犯罪に手を染めたのかが気になった方におすすめです。
書店主フィクリーのものがたり
早川書房 著者:ガブリエル・ゼヴィン
2016年第13回本屋大賞「翻訳小説部門」で第1位に選ばれた作品です。ミステリー仕立てで描かれたファンタジー小説。主人公は、島で唯一の書店で働く偏屈な店主・フィクリーです。事故で愛する妻を亡くしてから、フィクリーはたった独りで本を売り続けています。
ある日、書店の中にはなぜか幼い少女の姿が。マヤと名乗る孤独な幼女を、フィクリーは育てることを決めます。マヤの存在は次第に島の人々との架け橋となり、本や書店に興味を持たなかった人が訪れるようになるのでした。
本を通して人と人の交流が深まっていく様子が印象深い作品です。本好きな方はもちろん、本の魅力を知りたい方にもおすすめの1冊です。
アーモンド
祥伝社 著者:ソン・ウォンピョン
2020年第17回本屋大賞「翻訳小説部門」で第1位に選ばれた作品。少年の感動と希望の成長を描いた小説です。著者は韓国・ソウル出身の作家で、映画監督としても活躍しています。
扁桃体(アーモンド)が人より小さく、生まれつき怒りや恐怖を感じられない少年・ユンジェ。15歳のある日、祖母と母が通り魔に襲われたときでさえ、彼の表情が変わることはありませんでした。
事件によって母は植物状態になってしまい、孤独になったユンジェ。彼の前に現れたのは、ユンジェとは対照的に激しい感情を持つゴニでした。2人の出会いが、ユンジェの人生を大きく変えていきます。
彼が人とのつながりのなかで、少しずつ人間らしい感情を手に入れていく姿に注目したい作品。人が生きていくためには、他人と寄り添っていく必要があると実感できます。韓国文学が好きな方におすすめです。
ザリガニの鳴くところ
早川書房 著者:ディーリア・オーエンズ
2021年第18回本屋大賞の「翻訳小説部門」で第1位を受賞し、全世界で1500万部を突破した大ベストセラーミステリー小説。2019年と2020年にアメリカで1番売れた本とされています。2022年には映画化され、大きな話題を呼びました。
両親に見捨てられ、ノースカロライナ州の湿地でたった1人生きる少女・カイア。彼女と1つの殺人事件をめぐる物語です。6歳から1人で生きているカイアは、読み書きを教えてくれた少年・テイトに恋心を抱きますが、彼は大学進学のために去っていってしまいます。
それから、カイアは村の人々に”湿地の少女”と呼ばれ、蔑まれながらも、生き物が自然のままに生きる「ザリガニの鳴くところ」へ思いをはせ、静かに暮らしていました。しかし、ある日村の裕福な青年・チェイスが彼女に近づき……。
犯人解明重視の「フーダニット」ミステリーや、カイアの成長譚、差別や環境問題など社会小説など、さまざまな楽しみ方ができます。繊細ながら力強い自然の美しい描写も魅力。読み始めたら止まらない話題作に興味がある方におすすめです。
ようこそ、ヒュナム洞書店へ
集英社 著者:ファン・ボルム
2024年第21回本屋大賞「翻訳小説部門」の1位を獲得した、韓国で30万部を超えるベストセラー小説。ファン・ボルム初の長編で、新米の女性書店主と、店に集まる人々の日常を描いた物語です。Web上の電子出版プロジェクトから、またたく間に人気に火がつきました。
ソウル市内の住宅街に「ヒュナム洞書店」ができます。会社を読めた主人公のヨンジュが、追い詰められたかのように立ち上げた店です。
書店にやってくるのは、就活に失敗したバリスタや、夫の愚痴をこぼすコーヒー業者、無気力な高校生と母、ネットでブログが炎上した作家など悩みを抱えた普通の人々。彼らは今日もヒュナム洞書店で出会い……。
多忙な日々を送るうち送るうち”休みたい”と著者が思ったことから生まれた作品で、”休んでもいい”と言ってくれるような魅力があります。優しい気持ちになれるような秀作を読みたい方におすすめです。
歴代の本屋大賞受賞作品のおすすめ|発掘部門
マスカレード・ホテル
集英社 著者:東野圭吾
2014年の本屋大賞発掘部門に選ばれた、ベストセラー作家・東野圭吾によるミステリー小説。都内で起きた連続殺人事件に、刑事とホテルマンのコンビが挑む人気シリーズで、2019年には実写映画化もされています。
手がかりが一切ない連続殺人事件。残された暗号は、次の犯行場所として一流ホテル・コルテシア東京を示していました。刑事・新田浩介は、潜入捜査のためホテルマンになりすまし、ホテルマン・山岸尚美は新田の教育係として行動を共にします。
疑わしいゲストが次々と来館するなか、新田と山岸は事件の真相を突き止められるのでしょうか。ミリオンセラーを達成している、話題の作品を押さえておきたい方にもおすすめです。
破船
新潮社 著者:吉村昭
2022年の第19回本屋大賞発掘部門で「超発掘本!」に選ばれた作品です。記録文学の第一人者と呼ばれる吉村昭の傑作。海辺の村に伝わる風習が引き起こすおそろしい出来事を描いた時代小説です。
嵐の夜に村へ近づく船を坐礁させ、荷物を奪うことで生き抜く貧しい漁村。異様な風習は「お船様」と呼ばれています。
ある冬、村を訪れた船の乗組員はすべて死んでおり、荷物もほとんどありませんでした。死体の着衣を分配しますが、やがて村に災厄が降りかかって……。
吉村昭作品のなかでも異色の1冊。村ぐるみで罪を犯す、漁村の人々の行く末が気になる方はチェックしてみてください。
プラスティック
講談社 著者:井上夢人
2024年に第21回本屋大賞で「超発掘本!」に選ばれた、サスペンスミステリー小説。1993年に「小説推理」で連載されていた作品です。著者の井上夢人は『99%の誘拐』『ラバー・ソウル』など、斬新な切り口でファンを魅了しています。
54個の文書ファイルが収められているフロッピーディスク。1番最初に記録されていたのは、主婦・向井洵子が、出張中の夫の帰りを待つ間、奇妙な出来事に遭遇したことを記した日記でした。その日記こそが、アイデンティティをきしませ、崩壊させる導火線となるのです……。
フロッピーディスクやワープロなど時代を感じる設定が出てきますが、いつ読んでも衝撃的なおすすめの作品。不穏な空気がただよっている点や、謎が謎を呼ぶ展開により、井上夢人ワールドに引き込まれる読者が後を絶ちません。
本屋大賞受賞作品は、本のプロである書店員が自信を持って薦める作品です。歴代で選ばれた作品はメディアミックスされているケースも多く、さまざまな楽しみ方ができます。話題性もあるので、流行に敏感な方にもおすすめです。海外作品の翻訳部門や、過去の作品を選定する発掘部門にも注目してみてください。