独立したいくつかの物語を1冊で楽しめる「短編小説」。隙間時間でも読みやすく、人気の高い小説の形式のひとつです。しかし、ひとくちに短編小説といっても数が多く、どのような作品を選べばよいか悩む方もいるのではないでしょうか。
そこで今回は、おすすめの短編小説を国内外の名作のほか、恋愛・ミステリー・ファンタジー・SF・ホラーと人気ジャンル別にご紹介。初心者にも面白く読みやすい名作を厳選しました。
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短編小説とは?

短編小説とは、分量の少ない小説のことを指します。明確に何文字が短編・中編・長編といった定義はありませんが、400字詰め原稿用紙で100枚以下の長さの作品が目安。短く隙間時間でも読みやすいため、忙しい方にもおすすめの小説ジャンルです。
一般的に単一のストーリーが、緊密な構成で進行していくため、人生の一断面が強調されている作品が多いのが特徴。字数制限があるためあえて描かれない部分もあり、難解で読みごたえがある作品が多くあります。読み手の想像力が膨らみやすいのが魅力です。
各章で少しずつ話がリンクしていたり、全体を通して読むとラストに真相が明らかになったりする「連作短編集」も人気。それぞれ独立した物語でオチも楽しめるといった具合に起伏があり、飽きずに読みやすいのも魅力です。
短編小説のおすすめ|名作・人気
シャイロックの子供たち
文藝春秋 著者:池井戸潤
銀行を舞台にした連作短編小説です。2006年に発表された作品で、W映像化でも話題に。WOWOWでドラマ化され、阿部サダヲ主演で映画化もされました。有名作家である池井戸潤が、”ぼくの小説の書き方を決定づけた記念碑的な一冊”とまで記した作品です。
出世のため、家族のためにさまざまな行員が働く銀行で、現金紛失事件が発生します。現金紛失事件をきっかけに、銀行内には不穏な空気が流れはじめ……。
1つの場所を舞台に、社内恋愛中のOLやさえない係長など、主人公が変わっていく1作。行員の苦労とともに、仕事を通してのヒューマンドラマを描写します。事件が発生する、ミステリーが楽しめる短編小説を探している方におすすめです。
短編工場
集英社 編集:集英社文庫編集部
人気作家の短編小説を1冊にまとめた、集英社発売の短編集です。2000年代に『小説すばる』で発表された短編から、名作を厳選した本作品。伊坂幸太郎『太陽のシール』、宮部みゆき『チヨ子』、乙一『陽だまりの詩』など、有名短編が12作品収録されています。
複数人の作家の世界観に触れてみたい方におすすめ。1作1作が独立した短編小説なので、少しずつ読み進めながら1冊を長く楽しめるのもポイントです。次に読む作家を決めたい方は、ぜひ本作品をチェックしてみてください。
アイネクライネナハトムジーク
幻冬舎 著者:伊坂幸太郎
それぞれの恋愛が緻密に繋がっていく、伊坂幸太郎の連作短編小説です。2014年に出版され、2015年本屋大賞ランクインでも話題に。2019年には、三浦春馬主演の映画も公開されています。いくえみ綾が作画で、漫画化もされました。
かつての妻に愛想を尽かされたサラリーマンや、他力本願で恋をしようとする青年、いじめっ子への復讐を計画するOL。情けなくも愛おしい、等身大の人間の物語を描写したエンターテインメント小説です。
主人公が異なる連作短編ですが、伏線が回収される展開が魅力。日常を切り取る物語のなかで、場所や時代を超えて繋がる関係に驚いたという声も。バラバラの1話が繋がる感覚が楽しめる、平和な伊坂幸太郎作品に興味がある方におすすめです。
鉄道員(ぽっぽや)
集英社 著者:浅田次郎
実直に生きる駅長に訪れた奇跡を描く表題作を収録した、名作短編小説集です。大ベストセラーとなった1冊で、第117回直木賞を受賞しています。高倉健主演の映画も大ヒットし、日本アカデミー賞では作品賞や監督賞、主演男優賞など、数々の賞で最優秀賞を獲得しました。
娘を亡くした日も妻を亡くした日も、駅に立ち続ける男の奇蹟の物語を紡いだ『鉄道員(ぽっぽや)』。表題作をはじめ『ラブ・レター』『角筈にて』など、合計8作品の短編小説を収録しています。
現実と非現実が重なるような短編が多く、切なくも心があたたまる作品として知られています。目頭が熱くなるような短編集を探している方におすすめです。
箱庭図書館
集英社 著者:乙一
ウェブ文芸として企画された「オツイチ小説再生工場」から生まれた傑作短編小説集です。2013年に文庫版が発売された、人気作家・乙一の『ZOO』『失はれる物語』に続く作品集。著者の魅力が詰まっています。
コンビニ強盗との奇妙な共同作業や、暗くてイタい文芸部男女のやりとり。お正月の雪がもたらす出会いなど、ある町を舞台にミステリー・ホラー・恋愛・青春の、6つの物語を紡ぎます。
読者から送られてきたボツになった小説を、乙一がリメイクして発表した短編が収録されています。男女の掛け合いが面白いと、高く評価されている短編小説も。1冊で複数のジャンルの短編を楽しみたい方におすすめの作品です。
カンガルー日和
講談社 著者:村上春樹
数々の名作を世に出した人気小説家の、独特な世界観が面白い短編小説集です。1986年に文庫版が発行された1冊で、18の短編作品が収録されています。
ある動物園に生まれた赤ちゃんカンガルー。カップルは赤ちゃんカンガルーを見るに相応しい”カンガルー日和”を、1ヶ月間待っていました。
ついにやってきたカンガルー日和を舞台に、カップルの会話劇を描いた『カンガルー日和』。表題作以外にも『眠い』や『図書館奇譚』などの、人気短編小説を楽しめます。
不思議な世界観に、ユーモアを織り交ぜた短編集として高評価を得ている本作品。長編小説よりも理解しやすいという声も多く、村上春樹作品に苦手意識がある方にもおすすめです。
ZOO
集英社 著者:乙一
不思議な物語が収録された、乙一の傑作短編小説集です。2006年に文庫が発売され、5つの短編を楽しめます。話題の短編を2冊に分けて掲載しているうちの第1巻で、収録話は5話すべてが映像化されました。
なぜか姉のヨーコだけが虐待される、双子の姉妹を描いた『カザリとヨーコ』。ほかにも、ミステリーともホラーとも言えない、ジャンル分け不可の傑作短編が収録されています。
“死”に関する物語が多く、死生観について考えさせられる内容がポイント。少し重い不思議な短編小説を探している方におすすめです。舞台化もされた『落ちる飛行機の中で』など、人気の短編を収録した第2巻もあるので、気になる方はぜひチェックしてみてください。
ボッコちゃん
新潮社 著者:星新一
日本SF作家の第一人者として知られる星新一の、傑作50作が収録されたショートショート集です。公式が星新一の入門書と謳う1冊で、1971年に文庫が発売。表題作の『ボッコちゃん』は2019年に舞台化されており、そのほかの収録作も複数回にわたってドラマ化されている人気短編集です。
バーで人気がある美人店員「ボッコちゃん」の、ある秘密を描いた表題作を筆頭に、スリリングなSFショートショートを収録。ユニークな着想と溢れるユーモアで、小宇宙群を感じられます。
発表から時間が経過した短編小説ですが、現代で読んでも新鮮なSF世界にワクワクできると評判。1作が短いため、長い読書は集中力が続かない方におすすめ。SFの傑作短編集が気になる方は、ぜひチェックしてみてください。
羅生門・鼻
新潮社 著者:芥川龍之介
大正時代に活躍した、現代にも名を残す有名作家の名作短編小説集です。1968年に新潮社から文庫本が発売。ブラックユーモア溢れる短編を6作品収録しています。
天災や飢饉で寂れていた京の都。荒れた羅生門には、運び込まれる死体の髪の毛を抜く老婆がいました。表題作『羅生門』では、老婆を見つけた男が生きる術を模索します。見苦しい鼻を持つ僧侶が、鼻を短くしようと悪戦苦闘する『鼻』がもう1つの表題作です。
人間の心理を巧みに表現した、現代にも通じる物語の短編を楽しめると評判。人間の本性を、過酷な社会とともに描写した作品が気になる方におすすめ。日本小説界の名作に興味がある方は、ぜひチェックしてみてください。
ヴィヨンの妻
新潮社 著者:太宰治
太宰治の代表的短編小説集です。表題作を含め、8作品の短編を収録しています。表題作『ヴィヨンの妻』は、2009年に松たか子主演で映画化。1950年に新潮社から文庫本として発売されています。
家庭のエゴイズムを憎悪しながらも、新たな家庭への夢を文学へと昇華させた『ヴィヨンの妻』。ほかに、『親友交歓』『トカトントン』『父』など、死の予感を彩る作品を楽しめます。
不真面目な男が多く登場する作品集で、彼らを支える女性たちの活躍が面白いと評判。暗い内容ではあるものの、どこか明るさやあたたかみを感じるという声も。作品を通して、太宰治の人間性に触れてみたい方におすすめの1冊です。
謎のクィン氏
早川書房 著者:アガサ・クリスティー
アガサ・クリスティーが描く、神秘の探偵が主人公の連作短編小説集です。”ミステリーの女王”と呼ばれる著者が、事件と真相を紡ぐミステリー作品。嵯峨静江が翻訳を担当した新訳決定版です。
窓に映る幽霊の影が目撃したモノ、カジノのルーレット係の奇怪な振る舞い。いくつもの事件に立ち向かう、神秘の探偵であるハーリ・クィン氏とサタースウェイト氏の活躍を描写します。12の物語が楽しめる1冊です。
神出鬼没で不思議な存在であるクィン氏と、人間観察に優れたサタースウェイト氏のコンビが面白いと評判。推理し事件を解決するわけではないクィン氏の存在が、普通のミステリー小説とは違う独特な雰囲気を醸していると高評価を得ています。
一風変わった探偵が活躍する短編小説に、興味がある方におすすめです。
短編小説のおすすめ|恋愛
クジラの彼
KADOKAWA 著者:有川浩
自衛隊員との甘い恋を覗き見できる短編小説集です。2010年に文庫版が発売された1冊で、6つのストーリーが収録されています。著者の他作品である『空の中』『海の底』のスピンオフも楽しめます。
聡子が出会った冬原は潜水艦乗りで、2ヶ月ぶりのメールも短い文章のみです。いつ帰ってくるのか、いつ出かけてしまうのかもわからない冬原。そんな”クジラ”である彼と聡子の間には、いつも7つの海が横たわります。
有川浩らしい甘々の恋愛が楽しめる作品で、キュンキュンしたい方におすすめです。恋愛を中心に自衛官の事情も細かく描いているので、苦労を垣間見られます。特定の職業に焦点を当てた恋愛短編小説集を探している方は、ぜひチェックしてみてください。
放課後の音符(キイノート)
新潮社 著者:山田詠美
狭間で揺れる女子高生の心情を繊細に表現した恋愛小説集です。直木賞を受賞した経験もある著者が、1989年に発表した本作品。1995年に文庫版も刊行されました。放課後を舞台にした短編小説が、8作品収録されています。
片思いのまま終わってしまった気持ちや、心の中で発酵してきた甘い感情。大人でもなく子どもでもない、恋の香りに揺れる17歳の放課後を瑞々しく描きます。
大人びた17歳の女子高生の恋愛事情を、情感たっぷりに楽しめる1冊です。放課後の情景に時代を感じながらも、変わらない懐かしい感情に浸れると話題。青春の恋愛短編小説集を探している方に、おすすめの作品です。
きみはポラリス
新潮社 著者:三浦しをん
さまざまな恋の形を表現した恋愛短編小説集です。著者は『まほろ駅前多田便利軒』や『舟を編む』などで知られる三浦しをん。2011年に文庫版が発売された1冊で、11作品が収録されています。
三角関係や同性愛、片想いや禁断の愛。言葉で括っても、地球上に1つとして同じモノは存在しない”恋”。形にとらわれず、人が人を大切に想う気持ちを紡いだ作品です。
普遍的な恋ではなく一筋縄ではいかない恋を扱っています。言葉で表せるような関係でも、その内容はシンプルではないとわかると評判です。人間から人間への気持ちはもちろん、動物から人間への気持ちも描いているのが特徴。一風変わった恋愛短編小説に、興味がある方におすすめです。
初恋温泉
集英社 著者:吉田修一
温泉を舞台に、さまざまな事情を抱える男女の心のうちを掬い上げる恋愛短編小説集です。5組の男女の恋事情を描写しています。
表題作は、初恋相手の女性と結婚した男性が妻から離婚を切り出される『初恋温泉』。ほかに、不倫を続ける男女や親に内緒で初めて外泊をする高校生カップルなどの、旅路を覗き見できる1冊です。”温泉”という非日常だからこそ浮き彫りになる、本当の気持ちを表現しています。
温泉を舞台にしているだけあり、男女の心の機微を自然の描写とともに表しているのがポイントです。大人の恋愛事情を垣間見た後の、高校生カップルの物語が青く面白いと評判。愛とは何かを考えさせられる、恋愛短編小説に興味がある方におすすめです。
最後の恋 つまり、自分史上最高の恋。
新潮社 著者:阿川佐和子、角田光代、沢村凜、柴田よしき、谷村志穂、乃南アサ、松尾由美、三浦しをん
“最後の恋”をテーマに名作家たちが短編を描いた、恋愛アンソロジーです。2008年に文庫版が発売された作品で、”共感度800%!”と公式が謳う傑作。阿川佐和子や三浦しをんなどが参加しています。
少年少女のような初々しい恋はできない、変わらない気持ちなどないと知っている大人たち。それでも初めての気持ちを知る、すれ違いや別れを経験してきた彼らの”最後の恋”を描きます。経験してきたすべての恋を肯定したくなる、珠玉のアンソロジーです。
恋を経験してきた男女の次の恋愛を描いている本短編集。テーマは”最後の恋”で統一しているものの、各作家が異なったアプローチで物語にしているのもポイントです。過去の恋を糧にするおすすめの短編小説集です。
ラブコメ今昔
KADOKAWA 著者:有川浩
自衛官のベタ甘な恋愛模様を描写した、有川ラブコメの真骨頂と謳われる1冊です。2008年に単行本が出版され、2012年に文庫版が発売されました。6つの甘い恋愛物語を収録しています。
突っ走り系の女性広報自衛官に迫られる鬼上官。双方一歩も引かない恋の行方を見届ける『奥様とのナレソメ』を含め、珠玉の制服ラブコメが盛り沢山です。恋に恋する、すべての人に向けて描かれた作品です。
キュンキュンの恋愛ストーリーが楽しめる本作品は、全編通して自衛官をメインキャラクターにしているのが特徴。恋愛模様とともに、国を衛る自衛官の覚悟も垣間見られます。純愛に爽快感を覚えるおすすめの短編小説集です。
白夜
KADOKAWA 著者:ドストエフスキー
世界的に有名なロシアの文豪が描いた淡い恋の物語です。1848年に発表された作品で、1958年にKADOKAWAから文庫本が発売されました。文庫で128ページで完結する短編小説です。
ペテルブルグに住むインテリ青年は、孤独な日々を送っていました。ある日、彼は神秘の白夜に包まれた1人の少女と出会います。青年のなかに夢のような淡い恋心が芽生え始めるも、その恋心は脆くも崩れ去ってしまい……。
たった数日の出来事を、失恋の悲しさとともに綴った名作です。ドストエフスキーらしさを、端々からしっかりと感じられると評判。世界的に有名な作家の恋愛短編小説を、読んでみたい方におすすめの1冊です。
短編小説のおすすめ|ホラー
るんびにの子供
KADOKAWA 著者:宇佐美まこと
受賞作を含む、怪談作品7篇を収録した短編小説集です。ホラー・ミステリー作家として知られる、宇佐美まことのデビュー作。表題作『るんびにの子供』は、第1回『幽』怪談文学賞短部門で大賞を受賞しています。
草が生い茂り、危ないから近づくなと言われている1つの池。4人の園児たちは、池から上がってくる1人の少女を目撃します。子供たちは、少女を園でも見かけるようになり……。
奇妙な少女との関わりを描く『るんびにの子供』や、孫と偽り老夫婦と同居する男を追う『柘榴の家』など、ホラー短編を楽しめる1冊。ただ怖がらせるだけでなく、小説としても面白いホラー短編小説集に興味がある方におすすめです。
秋の牢獄
KADOKAWA 著者:恒川光太郎
ホラー小説大賞出身作家のホラー短編小説集です。2007年に単行本が発売された作品で、2010年に文庫化。著者は『夜市』で第12回日本ホラー小説大賞を受賞した恒川光太郎です。3つの短編小説を収録しています。
11月7日の水曜日。女子大生の藍は、この日を何度もループしていました。毎日同じ講義をする教授に、毎日同じ会話をする友達。朝になるとすべてがリセットされる日々に、果たして終わりはくるのか……。
不思議な出来事が起こるSF作品としても楽しまれている短編集で、”牢獄”をテーマにした物語が展開されます。ダークで幻想的な雰囲気のホラー短編小説が好きな方におすすめの1冊です。
人体模型の夜
集英社 著者:中島らも
人体の部位にまつわるホラー短編をまとめた短編小説集です。眼・鼻・腕・脚など12のパーツをテーマにした、12の物語を楽しめます。公式が”ホラー小説の極致”と謳うほどの名作揃い。2022年に発売された新装版です。
首屋敷と呼ばれる空き家の地下に佇む着飾られた人体模型。忍び込んだ少年が人体模型の胸元に耳を当てると、畏怖に塗れた物語が聞こえてきます。
妻の胎内に悪魔が宿っていると伝えられた男の物語『邪眼』。鋭敏な嗅覚を持つ女性を異臭が襲う『はなびえ』など、至極のホラーを収録しています。
多才で複数の小説賞を受賞した経験もある中島らもの文章力で、情景が浮かんでくると怖さに定評がある作品です。人体に関わるホラーなので、恐怖を身近に感じられる短編小説に興味がある方におすすめです。
穴らしきものに入る
KADOKAWA 著者:国広正人
ユーモアとともに恐怖を感じられるホラー短編小説集です。表題作は、第18回日本ホラー小説大賞の短編賞を受賞した傑作。表題作を含め5つの物語が収録されています。
ホースの穴に指を入れたら、全身が中に入ってしまった男。男はホースに入った一件から、同僚の口の中やドーナツの中心など、穴に入りたくなってしまいます。穴に入るほど明るくなったと言われ充実感が増す彼ですが、”ある穴”に執着したことで状況は一変してしまい……。
設定の奇抜さに定評がある作品で、アイディアで読ませる短編集として高く評価されています。シュールなホラー小説が好きな方におすすめの1冊です。
鬼談
KADOKAWA 著者:京極夏彦
ホラー・ミステリーの名手として知られる京極夏彦が、人と鬼の狭間を漂う物語を描写した短編小説集です。2018年に文庫本がKADOKAWAから発売されました。9作品が収録されています。
藩で剣術指南役を任される家系に生まれた作之進には、右腕がありませんでした。物心ついた頃から右腕がなかった作之進は、それが普通だと思っています。しかし、ある日父から”お前の腕を斬ったのは儂だ”と告げられ……。
心が鬼となった人間の、じんわりとした恐怖を物語から感じられる作品です。鬼の残酷な行動に背筋が冷たくなると評判。人間の悲喜に焦点を当てた、雰囲気のあるホラー短編小説に興味がある方におすすめです。
短編小説のおすすめ|ミステリー
我らが隣人の犯罪
文藝春秋 著者:宮部みゆき
ミステリー界に名を残す有名作家の第1短編小説集です。1990年に単行本が発売され、1993年に文庫化されました。表題作を含め4つの短編小説を収録しています。表題作『我らが隣人の犯罪』は、第26回オール讀物推理小説新人賞受賞作です。
念願の新居へ引っ越した家族の悩みは、隣家の犬の鳴き声でした。主人公と妹は、仲良しのおじさんと手を組み犬の誘拐を計画します。しかし、計画は思いもよらない方向に進み……。
身近な事象をテーマにしているミステリーが、面白く読みやすいと評判です。本人にとっては重いストーリーを、軽いタッチで描写しているのがポイント。サクッと読める名作ミステリーが好きな方におすすめの1冊です。
犯人のいない殺人の夜
光文社 著者:東野圭吾
東野圭吾が送る人間の欲望を描いた短編小説集です。2020年に新装版が発売された人気作。2012年には『東野圭吾ミステリーズ』として1話完結でドラマ化されました。7つのミステリー短編が楽しめます。
ある一家で起きた、犯人も死体もいない殺人事件を描く表題作『犯人のいない殺人の夜』。屋上から落ちて死んだ親友の死の謎を追う『小さな故意の物語』など、珠玉の作品が掲載されています。
弱い殺意や事故から、意図せず膨らむ事件の謎を楽しめる1冊。後味の悪いミステリーで背筋が寒くなったという声も。変化球の謎解きを中心にした、一風変わったミステリーを探している方におすすめです。
儚い羊たちの祝宴
新潮社 著者:米澤穂信
ダークな雰囲気が漂う米澤穂信の連作短編小説です。2011年に新潮社から文庫版が発売されました。ある読書サークルを舞台に巻き起こる5つの事件を、連作形式で1冊にまとめています。
夢想家のお嬢様が集う読書サークル”バベルの会”。夏合宿の2日前に、会員・丹山吹子の屋敷で事件が発生します。翌年も翌々年も、吹子の近親者が殺される事件が発生。”バベルの会”をめぐる5つの事件を、ラストに明かされる残酷な真実とともに描写します。
古い時代を感じさせる金持ちの屋敷で巻き起こる悲劇を、ブラックユーモアを交え描いた本作品。先に進むのが怖いほどのダークな内容でも、ページをめくる手が止められないと評判です。どんでん返しがあるミステリーが好きな方におすすめの短編小説です。
どんどん橋、落ちた 新装改訂版
講談社 著者:綾辻行人
犯人当てを楽しめるミステリー短編小説集。2002年に刊行された文庫版を全面改訂した新装改訂版です。綾辻行人が超難問として描く、5つの物語が収録されています。
ミステリー作家・綾辻行人に持ち込まれる問題は、一筋縄ではいかないモノばかりです。事件が起こる場所は崩落し渡れなくなった”どんどん橋”の向こう側、燃える”ぼうぼう森”の中、平和だったはずの”ある一家”。一体、難事件の犯人は……。
読みながら犯人を推理できるミステリーで構成された作品集です。遊び心がある本格ミステリーに興味がある方におすすめ。犯人を推理しながらミステリーを読むのが好きな方は、ぜひチェックしてみてください。
透明人間は密室に潜む
光文社 著者: 阿津川辰海
若手最注目作家とも謳われる阿津川辰海の傑作短編小説集です。本格ミステリー短編が4篇収録されています。2020年に単行本が販売され、2022年に文庫化されました。
透明人間が事件を起こすとどうなるかを描いた表題作『透明人間は密室に潜む』。そのほか、アイドルオタクが裁判員裁判に直面する物語、犯行現場の”音”に注目する物語が掲載されています。
透明人間が殺人を企てる難しさをリアルに描写した表題作など、特殊設定のミステリーが楽しめる1冊。なかには、笑いながら楽しめる作品も含まれています。コミカルなミステリー作品が好きな方におすすめです。
ぼくらは回収しない
東京創元社 著者:真門浩平
1999年生まれの俊英が綴る、5篇の短編小説を収録したミステリー作品集です。2024年に発売された1冊で、第19回ミステリーズ!新人賞を受賞した『ルナティック・レトリーバー』も掲載されています。
名門大学の学生寮で女子学生が亡くなったのは、数十年に1度の日食が起きた日でした。密室だった現場の状況から自殺と考えられるも、才能溢れた彼女の選択に違和感を覚える寮生たち。3年間をともに過ごしながら孤高の存在だった女子学生と理解しあえなかった彼らは、独自に事件の調査を始めますが……。
読みやすい展開が好評で、ミスリードと種明かしの華麗さも高く評価されています。若い著者だからこその瑞々しい文章にも定評があり、トリックが明かされた際の爽快感も評判。青春を感じられるミステリーが好きな方におすすめの短編小説集です。
クリスマス・プレゼント
文藝春秋 著者:ジェフリー・ディーヴァー
数々の人気シリーズを生み出してきた名作家が、どんでん返しを仕掛ける短編小説集です。『リンカーン・ライムシリーズ』などで知られる、ジェフリー・ディーヴァーの短編16作品が収録されています。
ストーカーに悩むモデルや危ない金を手にした警官、罪を認めない悪党と向き合う検察官など。事件と対峙する人々を追うミステリーをまとめています。人気の『リンカーン・ライムシリーズ』を、短編で楽しめる物語も収録された1冊です。
16のストーリーすべてに予想外のオチが用意されているのが特徴。1つ1つの物語にひねりがあり面白いと、高く評価されています。1冊で多くの物語を楽しみたい方におすすめのミステリー作品集です。
短編小説のおすすめ|SF・ファンタジー
光の帝国 常野物語
集英社 著者:恩田陸
特殊な能力を持つ一族を追うファンタジー連作短編小説集です。『常野物語』シリーズとして、本作品を含め全3作が刊行されています。2001年にはテレビドラマ化もされました。
穏やかで知的な常野の一族は、権力への志向を持たずに生きてきました。人を見通し癒す一族が持つ不思議な力。能力は何のためにあるのかを問う、優しく哀しいファンタジーを紡ぎます。
それぞれの時代に生きた人々の物語を描いた、一族が中心の連作作品集です。”常野”にルーツを持つ主人公たちの、生きづらさや人柄を汲み取った内容が話題に。人の内面に焦点を当てたファンタジー短編小説に興味がある方におすすめです。
My Humanity
早川書房 著者:長谷敏司
技術が発達した地を舞台に、さまざまな人間の物語を描く著者初の短編小説集です。2014年に文庫本が発売。なかには、著者の長編『BEATLESS』のスピンオフや、『あなたのための物語』と同じ設定の短編2篇も収録しています。
擬似神経制御言語ITPによる経験伝達と、個人の文化的背景との争いを描写した『地には豊穣』。ITPによる小児性愛者の矯正がグロテスクな展開へと進む『allo,toi,toi』など、4つの物語を楽しめます。
『allo,toi,toi』が印象に残ったと評判で、ファンタジー設定を通して生まれながらの加害者の生きづらさがわかると評価されています。現実にも通じる問題に興味がある方におすすめです。
うどん キツネつきの
東京創元社 著者:高山羽根子
第1回創元SF短編賞で佳作に選ばれた表題作を含め、5つの短編小説を収録した短編集。2014年に単行本が発売され、2016年に文庫化されました。
犬そっくりの生き物を飼う3人姉妹の人生を、ユーモア溢れる内容で描いた表題作『うどん キツネつきの』。ほか、ボロアパートで暮らす人々の日常を綴った『シキ零レイ零 ミドリ荘』など、日常に潜む不思議を覗き見できます。
壮大すぎない身近に感じられるSF作品が好きな方におすすめ。笑いながら読めるやさしいSF短編小説集を探している方は、ぜひチェックしてみてください。
あなたの人生の物語
早川書房 著者:テッド・チャン
数々のSF賞を受賞した傑作短編小説集です。表題作『あなたの人生の物語』とデビュー作『バビロンの塔』はネビュラ賞を、『地獄とは神の不在なり』はヒューゴー賞を受賞しています。表題作を原作とする映画『メッセージ』は、アカデミー賞8部門にノミネートされました。
言語学者であるルイーズは、地球を訪れたエイリアンとのコンタクトを担当することに。そして、エイリアンの言語を理解していくうちに、驚くべき運命に巻き込まれていきます……。
著者の想像力に驚きながら、作品に没頭できると話題。科学的な描写と空想的な描写のバランスがよく、作り込まれた世界観も高評価を得ています。深いSF短編小説に触れてみたい方におすすめの1冊です。
たんぽぽ娘
河出書房新社 著者:ロバート・F・ヤング
ニューヨーク州生まれの名短編作家の傑作をまとめた作品集です。200篇近くの短編小説を発表したロバート・F・ヤングの厳選13作品を、伊藤典夫が翻訳しています。2015年に、河出書房新社から出版されました。
未来から来たという女のたんぽぽ色の髪が舞う、甘く美しい短編が楽しめます。ファンタジー設定のなかの、ロマンチックな物語が高評価を得ている本作品。深い愛を描いたノスタルジックな小説に興味がある方におすすめです。男女の出会いを描写する作品が好きな方は、ぜひチェックしてみてください。
短編小説とひとくちにいっても、心がほっこりする感動作からゾッとするホラー、どんでん返しが味わえるミステリーまでさまざまな作品があります。今回ご紹介した作品は、短いながら1編1編が充実しており、物語世界に浸れる名作ばかり。サクッと読める小説を探している方や、忙しい方もぜひ手に取ってみてください。