独立したいくつかの物語を1冊で楽しめる「短編小説」。隙間時間でも読みやすく、人気の高い小説の形式のひとつです。しかし、ひとくちに短編小説といっても数が多く、どんな作品を選べばよいか悩む方もいるのではないでしょうか。
そこで今回は、おすすめの短編小説を国内外の名作のほか、恋愛・ミステリー・ファンタジー・SF・ホラーと人気ジャンル別にご紹介。初心者にも面白く読みやすい名作を厳選しました。
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短編小説とは?
短編小説とは、名前の通り分量の少ない小説のことを指します。明確に何文字が短編・中編・長編といった定義はありませんが、400字詰め原稿用紙で100枚以下の長さの作品が目安。短く隙間時間でも読みやすいため、忙しい方にもおすすめの小説ジャンルです。
一般的に単一のストーリーが、緊密な構成で進行していくため、人生の一断面が強調されている作品が多いのが特徴。字数制限があるためあえて描かれない部分もあり、難解で読みごたえがある作品が多くあります。読み手の想像力が膨らみやすいのが魅力です。
各章で少しずつ話がリンクしていたり、全体を通して読むとラストに真相が明らかになったりする「連作短編集」も人気。それぞれ独立した物語でオチも楽しめるといった具合に起伏があり、飽きずに読みやすいのも魅力です。
短編小説のおすすめ|国内の名作
昨夜のカレー、明日のパン
河出書房新社 著者:木皿泉
『すいか』『野ブタ。をプロデュース』『Q10』など、人気ドラマの脚本を手掛けた、夫婦脚本家・木皿泉のデビュー作。本屋大賞2位や、王様のブランチBOOKアワード大賞を受賞し、ドラマ化もされました。
7年前、25歳であっけなく亡くなった一樹。遺された彼の嫁・テツコと、一緒に暮らし続ける一樹の父・ギフとの何気ない日常を描いています。2人はともに暮らしながら、ゆるゆると一樹の死を受け入れていくのです……。
何気ない日常に散りばめられている「コトバ」の力が心にしみ、泣いたり笑ったりと心あたたまる1冊。連作形式のため、長編の読みごたえもあるおすすめの作品です。
ジヴェルニーの食卓
集英社 著者:原田マハ
アート小説で有名な原田マハが、印象派の巨匠モネ・マティス・ドガ・セザンヌの美の謎を描いた4編の短編小説。彼らの葛藤や作品への真摯な姿が、身近にいた女性たちの目線から描かれています。直木賞にもノミネートされました。
表題作はクロード・モネを描いたもの。ジヴェルニーに移り住み、青空の下で庭の風景を描き続けた彼のかたわらには、義理の娘・ブランシュがいました。モネのパトロンで、身を持ち崩した一家を引き取り、制作を続けた彼の目には何が映っていたのでしょうか。
美術史や評伝には描かれていない、画家の素顔や心情が、キュレーター経験のある原田マハによって鮮やかに表現されています。美術が好きな方や興味がある方におすすめの1冊です。
妻が椎茸だったころ
講談社 著者:中島京子
日常の片隅で起こる「ちょっと怖くて、愛おしい」5つの偏愛を描き、泉鏡花賞を受賞した短編小説。不思議で、優しさのある物語です。
表題作では、亡き妻が残したレシピ帖に”私は椎茸だった”という謎のメモを見つけた泰平が、料理教室に通い始めますが……。亡くなった妻を思う彼の気持ちが、少しユーモラスかつ切なくつづられています。
ほかにも、亡くなった叔母の家に突然現れ、家族のようにふるまう男が語る、叔母との関係をコミカルに描いた『ハクビシンを飼う』などを収録。メルヘンチックで美しさのある文章が魅力で、不思議やあたたかさ、怖さなどさまざまな雰囲気を味わえるおすすめの1冊です。
その日のまえに
文藝春秋 著者:重松清
生と死、そして幸せを見つめる感動の連作短編小説。王様のブランチで”涙なしには読めない感動作”と話題になったベストセラー作品です。
表題作では、余命の告知を受けた妻と夫が、新婚時代のアパートを訪れます。そして、妻の最期を2人の息子とともに夫が見届ける『その日』、妻が亡くなった病院の看護師さんから”お目にかかりたい”と連絡が来る『その日のあとで』と続き物の3編を収録。ほかにも、死に向かい合う人々を描いた4編を収録しています。
1編1編は淡々と物語が描かれていますが、すべてを読み終えてストーリーがつながったとき、大きな感動を味わえるのが魅力。泣ける短編小説を読みたい方におすすめです。
ボッコちゃん
新潮社 著者:星新一
400字詰め原稿用紙で10数枚程度と、短編小説よりも短い50編のショートショート集です。日本SFのパイオニアもいわれる巨匠・星新一が自選した、楽しくスリリングな物語。舞台化やドラマ化もされ、累計260万部を突破している不朽の名作です。
表題作は、バーで人気の店員・ボッコちゃんの大きな秘密や、彼女に恋した男の悲喜劇を描いたもの。ほかにも、『おーい でてこーい』『殺し屋ですのよ』などの名作も収録されています。
スマートなユーモアやユニークな着想、シャープな風刺にあふれており、星新一作品の魅力を堪能できる1冊。子供から大人まで楽しめる、おすすめの作品です。
鉄道員(ぽっぽや)
集英社 著者:浅田次郎
心揺さぶられる「優しい奇跡」の物語を8編収録した短編小説です。直木賞受賞作で、累計150万部を突破した大ベストセラー。ラジオとテレビでドラマ化されたほか、映画やマンガなどさまざまなメディアミックス作品が展開されています。
表題作の舞台は、廃線が決まった北海道のローカル線の、雪が降りしきる終着駅。退職間近の駅長・乙松は娘を亡くした日も、妻を亡くした日もただひとり立ち続けていました。ほかにも、『ラブ・レター』『角筈にて』などの名編を収録しています。
物語構成や語り口、人物造形が秀逸で、名作と呼ぶにふさわしい1冊。多くの読者を号泣させてきた、感動作に触れたい方におすすめです。
失はれる物語
KADOKAWA 著者:乙一
“乙一のマイルストーン”ともいわれる名作短編小説。表題作や『Calling You』『傷』や、書き下ろしの『ウソカノ』など、傑作8編を収録しています。2009年には映画化もされました。
表題作の主人公は、交通事故によって全身不随になり、音や視覚、五感のすべてを奪われていた私。残っているのは右腕の皮膚感覚だけでした。
ピアニストである妻は、腕を鍵盤に見立てて、日々の想いを演奏で伝えることを思いつきます。それは、「永劫の囚人」となった私の唯一の救いとなっていましたが……。
ファンタジックで悲しいストーリーが多いものの、美しさを感じられる作品集。切ないながらもあたたかみを感じられる、読後感のよい乙一作品を堪能したい方におすすめです。
イン・ザ・プール
文藝春秋 著者:奥田英朗
現代の病理をコミカルかつ軽快に描いた、短編「精神科医・伊良部シリーズ」の第1作品目。直木賞にノミネートされ、映画化や舞台化もされた人気作品です。
プール依存症や妄想癖などに悩まされ、伊良部総合病院の地下にある神経科に、わらをもつかむ思いで訪れた患者たち。そんな人々を、”いらっしゃーい”と甲高い声で出迎えたのは、とてつもなくヘンな医者・伊良部一郎だったのです……。
カバのような巨体を揺らし、好奇心でやりたい放題、患者の私生活に踏み込んでいく伊良部。彼の突出した存在感に、笑いながら読み進められます。面白い短編小説を求める方におすすめです。
大事なことほど小声でささやく
幻冬舎 著者:森沢明夫
スナックを営むゴンママのもとに集う、悩みを抱えた人々の物語を描いた連作短編小説です。『虹の岬の喫茶店』『夏美のホタル』など、多数の映画化作品を生み出す作家・森沢明夫の人気作品。2022年に映画化されています。
身長2m超のマッチョなオカマ・ゴンママこと権田鉄雄。昼間はジムで身体を鍛え、夜は駅前の寂れた通りにあるスナック「ひばり」を営んでいます。そこに集うのは、同じジムで出会った金髪モヒカンの歯科医師や謎のセクシー美女など、人知れず心に傷を抱えている人々でした。
皆のよき相談相手となっているゴンママは、悩みに合わせた特別なカクテルを提供。励ましの言葉をかけることも忘れません。そして、いつも陽気な彼もまた、人知れず悩みを抱え、独りで生きる不安に襲われていたのです……。
ゴンママがささやく言葉に、ジム仲間たちが救われていき、心がほっこりしたり前向きな気持ちになったりする読者が多数。笑えて感動できるヒューマンドラマを読みたい方におすすめです。
短篇五芒星
講談社 著者:舞城王太郎
3度芥川賞候補にノミネートされた5編の短編小説集。史上で初めて、5編すべてが芥川賞候補となりました。純文学・ライトノベル・漫画・映像作品など幅広く活躍する舞城王太郎の、デビュー当時の「文圧」はそのままに、透明感を増した新ステージの作品といわれています。
収録作品のひとつ『美しい馬の地』は、27歳の春、突然流産のことが気になりだした主人公・僕の物語。理不尽な赤ちゃんの死が高頻度で起こることに対して怒り、妄執する姿を描いています。
突飛な舞台設定や意外なラストなど、不思議な世界観を味わえる作品。舞城王太郎の独特な雰囲気があり、ライトで読みやすいおすすめの短編小説です。
箱庭図書館
集英社 著者:乙一
乙一の魅力すべてが詰まっているといわれる傑作短編小説。乙一がWebサイトで読者から募ったボツになった小説を、自らの手でリメイクした作品です。ミステリー・ホラー・恋愛・青春など、さまざまな要素を楽しめる物語が6編収録されています。
「物語を紡ぐ町」で繰り広げられる、時に切なく、時にあたたかく奇跡のように重なり合う物語です。少年が小説家になった理由や、2人ぼっちの文芸部員が繰り広げる「イタい」青春など、一見無関係な物語が次第に重なり合っていきます。
元原稿の筋書きや味わいのある登場人物などを素材として、乙一が語り口や仕掛けなどを、巧妙かつ多彩に手を入れたのが魅力。中学生ごろの年代の方から、普段本をあまり読まない方にもおすすめの1冊です。
ヴィヨンの妻
新潮社 著者:太宰治
文豪・太宰治が晩年に執筆した、代表的な短編小説。表題作は、15世紀に活躍したフランスの詩人・フランソワ・ヴィヨンを指しています。ヴィヨンのように放蕩している詩人・大谷とその妻・さっちゃんの物語。彼女の明るい語り口でつづられています。映画化やドラマ化もされました。
ほかにも、『パンドラの匣』『眉山』『トカトントン』と、未完となった絶筆『グッド・バイ』が収録。太宰治の文学的総決算ともいわれる名作に触れたい方におすすめです。
新選組血風録
KADOKAWA 著者:司馬遼太郎
歴史小説界の巨星と評される司馬遼太郎の連作短編小説。同氏の代表作のひとつで、幕末に活躍した新選組を題材としています。映画・ドラマ・漫画・舞台などメディアミックス作品が多数展開されている、人気の高い名作です。
舞台は幕末動乱期の京都、その治安維持のために組織された新選組。剣に生き剣に死んでいった近藤勇・土方歳三・沖田総司・斎藤一ら隊士たちの哀歓を浮き彫りにした15編が収録されています。
血なまぐさいシーンも多い一方、さまざまな隊士のエピソードや人間関係を垣間見ることができ、読みやすい作品。幕末ものに興味がある方や歴史小説初心者にもおすすめです。
山椒大夫・高瀬舟
新潮社 著者:森鷗外
武士道・殉死・安楽死などについて、文豪・森鴎外がその是非を問いかける短編小説の名作。同氏が48~53歳の文筆活動期に執筆した12編が収録されています。
代表作のひとつ『山椒大夫』は、人買いにだまされ引き離された母と姉弟の受難を通じて、犠牲の意味を問いかけます。『高瀬舟』は弟殺しの罪で島流しにされる男と、彼を護送する同心との会話から安楽死問題について見つめた作品です。
ほかにも、森鴎外の滞欧生活を振り返りつつ、世界観や人生観をうかがえる『妄想』などを収録しています。用語や時代背景などについて注解されているため、分かりやすいのもポイント。教科書にも載った近代文学作品の傑作に触れたい方におすすめです。
黒い画集
新潮社 著者:松本清張
浮気・不倫・密通などで自滅していく男女を描いた連作短編集です。戦後日本を代表する文豪・松本清張が、雑誌で好評を博した7作品を自ら厳選。名作『天城越え』を収録しているほか、収録作品のひとつ『証言』はドラマ化・映画化されています。
安全と出世を願い、平凡に生きている男の生活に「密通」ともいうべき後ろ暗い女性関係が生じ、影が差し始める物語。どこにでもあり、誰もが経験する可能性のある、日常生活に潜む恐ろしさを描き上げています。
男女関係で人生の道を踏み外してしまう恐ろしさにゾッとする読者が多数。人間の関係や心理を秀逸に表現し、松本清張作品らしさも堪能できます。700ページ超えと、読みごたえのある名作サスペンスの短編を読みたい方におすすめです。
短編工場
集英社 編:集英社文庫編集部
人気作家の一番面白いといわれる、12編の短編が詰まった1冊です。2000年代に『小説すばる』に掲載された短編作品を厳選したもの。浅田次郎・伊坂幸太郎・石田衣良・荻原浩・奥田英朗・乙一・熊谷達也・桜木紫乃・桜庭一樹・道尾秀介・宮部みゆき・村山由佳といった有名作家によるぜいたくなアンソロジーです。
読んだ日から忘れられないような1編や、くすりと笑えて元気になる1編など、さまざまな物語が収録されています。それぞれの物語で作家の個性があふれているのも魅力。面白い短編を読みたい方や、お気に入りの作家を見つけたい方にもおすすめです。
キッチン
KADOKAWA 著者:吉本ばなな
身近な人の死を大きなテーマに、悲しみを温かく包み込んでくれる短編小説集です。複数回文庫化されている人気作で、2021年に収録作「ムーンライト・シャドウ」が小松菜奈主演で映画化されています。
たった1人の親族であった祖母を亡くし、祖母と仲がよかった雄一とその母の家に住むことになったみかげ。そこでの暮らしで2人の優しさに触れ、みかげの心は少しずつほぐれていくものの……。
3作の短編を収録しており、大切な人を失うストーリーを紡いでいます。しかし、悲しいだけではない、心が温かくなる物語になっているのが特徴。ゆっくりでも前を向く、美しい短編小説が好きな方におすすめです。
我が家の問題
集英社 著者:奥田英朗
家族をテーマに、ささやかながら根深い悩みを温かく描写した短編小説集です。2014年に、文庫版が集英社から発売されました。2018年にドラマ化されています。
家庭に潜むちょっとした葛藤を、短編で楽しめます。それぞれの家庭に焦点を当て、まったく違うストーリーを紡ぐ1冊です。
ハッピーエンドばかりではないものの、ドロドロしていないあたたかい物語が多いのがポイント。会社のことや実家のこと、高校生の悩みなど、どのような家庭にもある葛藤をテーマにしているので、共感しながら楽しめます。登場人物を応援したくなるほっこりした家族ドラマが、好きな方におすすめです。
短編小説のおすすめ|海外の名作
悪魔の涎・追い求める男 他八篇 コルタサル短篇集
岩波書店 著者:フリオ・コルタサル
ラテンアメリカ文学の代表的作家・コルタサルの代表作10編を収録した短編集。斬新な実験性や幻想的な作風が特徴です。
『悪魔の涎』は、夕暮れの講演で何気なくとった1枚の写真から、現実と非現実が交錯し、不可思議な世界が生まれる物語。そして、『追い求める男』は薬物に夢中になっているサックス奏者が、ジャズ即興演奏のなかに彼岸を垣間見る物語です。
現実と非現実が混ざり合ったような独自の世界観があり、物語の世界に引き込まれるのがポイント。幻想的な海外短編小説の名作に触れたい方におすすめです。
誕生日の子どもたち
文藝春秋 著者:トルーマン・カポーティ
早熟の天才と評される著者が、頭の片隅に存在する純粋な記憶を書き綴った短編小説集です。19歳で文学賞を受賞し、その後も『ティファニーで朝食を』などの人気作を複数発表。村上春樹が訳を担当したことでも、話題になりました。
“汚れなき世界を収めた宝石箱”と謳われている1冊で、過酷な環境でも無垢に生き抜く美しい短編が収録されています。小学生から見た世界が繊細に表現されており、物語が心に残ると評判。切ない短編小説集を、探している方におすすめです。
白夜
KADOKAWA 著者:ドストエフスキー
ロシアの文豪が描く、少女に恋をした男の悲劇を描写した短編小説です。1958年に、KADOKAWAから文庫が発売されました。
ペテルブルグに住み、孤独のなかを生きる貧しい青年は運命の出会いを果たします。相手は、神秘に包まれた1人の少女。その間に恋心が芽生え始めた頃、青年は悲劇に見舞われ……。
身勝手な少女に恋をしてしまった、青年の絶望を鮮明に表現しています。128ページの作品で、軽く読める作品ながらもしっかりとストーリーを楽しめるのがポイント。儚い恋を紡ぐ作品に興味がある方におすすめです。
自由の牢獄
岩波書店 著者:ミヒャエル・エンデ
ミヒャエル・エンデ晩年の、傑作ファンタジーをまとめた短編小説集です。人間にとっての精神世界の重要性を強調した1冊で、エンデ文学の到達点とも謳われています。2007年に、文庫版が発売されました。
手紙や手記、パロディなどの手法を駆使して、それぞれの短編を紡いでいます。また、児童文学の巨匠として知られるエンデの、大人に向けた作品集としても話題に。本当に大切なものは何かを考えたいときに、おすすめの1冊です。
収録されているのは8編で、ファンタジーな設定で不思議な物語が繰り広げられています。しかし、テーマは現実にも繋がる、リアルなもの。訴えかけてくるような、哲学的な作品が好きな方におすすめです。
特別料理
早川書房 著者:スタンリイ・エリン
じんわりとした恐怖が襲う、サスペンスミステリー短編が楽しめる1冊です。2006年に単行本が、2015年に文庫版が発売されました。
推理作家のエラリイ・クイーンが絶賛した表題作の舞台は、不思議なレストラン。ほかとは比べられないほど絶品の料理を出すそこには、ある秘密があり……。
表題作だけでなく、アメリカ探偵作家クラブ賞を受賞した『パーティーの夜』など、10編を収録しています。
結末を明言しないストーリーが特徴的で、想像を膨らませられるからこそのドキドキを味わえます。途中で結末を予想できても、最後まで面白く読める文章力がすごいと評判。ラストの余白を楽しめるミステリーの短編小説に興味がある方におすすめです。
短編小説のおすすめ|恋愛
女のいない男たち
文藝春秋 著者:村上春樹
全編男性が主人公で、パートナーを失った「喪失」を主軸に描かれた、6編の連作短編集。収録作品のひとつ『ドライブ・マイ・カー』の映画化作品は、2022年にアカデミー賞の国際長編映画賞を受賞し、話題となった名作です。
『ドライブ・マイ・カー』の主人公で舞台俳優の家福は、亡き妻の記憶にさいなまされていました。そして、彼女が関係した男を追う話です。ほかにも、見慣れたはずの世界にひそむ、秘密を探っていく物語が収録されています。
ハッキリした物語のラインがありながら、人間存在の繊細な機微に触れた傑作。村上春樹がしたいことや、するべきことを完璧な形で成し遂げたといわれる、完成度の高い短編小説に触れたい方におすすめです。
アイネクライネナハトムジーク
幻冬舎 著者:伊坂幸太郎
伊坂幸太郎が珍しく恋を描き、同氏の作品ならではの、伏線や驚きに満ちた6編の連作短編小説。ミュージシャン・斉藤和義との交流から生まれた作品で、「出会い」をテーマにした曲の歌詞を、という依頼に応えるために描かれました。映画化やマンガ化もされています。
奥さんに愛想を尽かされ出ていかれたサラリーマンや、声しか知らない相手に恋をした美容師、元いじめっ子と再会したOLなどが主人公。情けなくも愛おしい登場人物たちが、不器用な駆け引きをしかけます。
きれいに伏線が回収されていき、初心者でも読み進めやすいのがポイント。軽妙かつ穏やかに恋愛が描かれた、おすすめの作品です。
阪急電車
幻冬舎 著者:有川浩
片道15分の阪急今津線を舞台にした、胸キュンの連作短編小説です。電車に乗った乗客たちの人生が少しずつ交差し、希望へ変わっていく物語。映画化もされており、ミリオンセラーを突破している人気作品です。
隣に座った女性がよく行く図書館で見かけるあの人だったなど、乗客の恋の始まりや別れの兆しなどの恋模様や人間模様、小さな奇跡の数々が描かれています。
テンポ感がよく、読みやすいのがポイント。各章が阪急今津線の駅の名前で、各駅で物語が進行していきます。心がほっこりする恋愛小説を読みたい方におすすめです。
ジョゼと虎と魚たち
KADOKAWA 著者:田辺聖子
仕事を持った大人の女性を主人公に、さまざまな愛や別れを描いた9編の短編小説。”青春恋愛小説の金字塔”とも称されている名作で、アニメ化や映画化もされています。
表題作は、足が悪く車椅子がないと動けない、市松人形のようなジョゼと、大学を出たばかりで管理人として同棲中の恒夫の物語。どこかあやうく、不思議でエロティックな男女の関係を描いています。
若い男女の恋愛をみずみずしく描いており、田辺聖子作品の魅力を堪能できる1冊。独特の世界観がある、ロマンティックな恋愛小説を読みたい方におすすめです。
デッドエンドの思い出
文藝春秋 著者:吉本ばなな
つらく切ないラブストーリーを5編収録した短編小説。刊行当時、吉本ばなな自身が”これまで書いた自分の作品のなかで一番好き”と発言している最高傑作です。日韓の合作で映画化もされています。
表題作の主人公は、婚約者に手ひどく裏切られた私。そんな私が、飲食店「袋小路」の雇われ店長で、子供のころ虐待を受けたと騒がれた西山君にふと、”幸せってどういう感じなの?”と尋ねるというあらすじです。
時が流れても忘れ得ない、かけがえのない一瞬が鮮やかに描かれています。寂しいものの、穏やかかつあたたかさもあり、吉本ばななワールドを堪能できるおすすめの作品です。
号泣する準備はできていた
新潮社 著者:江國香織
直木賞を受賞した12編の短編小説。濃密な恋や失恋の絶望、そして優雅な立ち直り方が伝わってくる、透明感あふれる物語の数々が収録されています。
表題作は、体も心も満ち足りていた激しい恋に突然訪れた破局から、哀しみを乗り越えていくよすがを描いた作品です。
ほかにも、昔の恋人とひとつの部屋で暮らす危うさを切り取った『手』、17歳のほろ苦く不器用な初デートの思い出を振り返った『じゃこじゃこのビスケット』などを収録しています。
“号泣するほどの悲しみが不意におとずれても、きっと大丈夫、切り抜けられる”とささやいてくれるような魅力がある1冊。江國香織作品特有の、詩のように美しく、光を帯びた繊細な文章を堪能できるおすすめの小説です。
ラブコメ今昔
KADOKAWA 著者:有川浩
恋愛小説で有名な有川浩による、”有川ラブコメ真骨頂”とも評される短編集。自衛隊員たちによる、さまざまな6編の恋模様を収録しています。
表題作では、二等陸佐・今村和久の前に、隊内紙で記者を務める元気娘・矢部千尋二等陸尉が現れました。彼女は、今村の妻とのなれそめを、コラムに掲載したいと言います。”みっともない”と逃げる今村と、粘る千尋の攻防戦の行く末はどうなるのでしょうか。
甘くほろ苦い恋愛が楽しめるほか、自衛隊員たちの仕事への誇りなども感じられるのが魅力。感動したり心があたたかくなったりする、胸キュン恋愛短編を読みたい方におすすめです。
百瀬、こっちを向いて。
祥伝社 著者:中田永一
若い世代の恋愛感情の芽生えを描いた短編小説集。”恋愛の持つ切なさすべてが込められた”作品といわれています。乙一が別名義・中田永一として発表した人気作品で、表題作は映画化や舞台化もされました。
表題作の主人公は、教室のなかで薄暗い電球のような存在だった「人間レベル2」の僕。あることがきっかけで、野良猫のような目つきの美少女・百瀬陽が僕の彼女となり、日常は一変します。しかし、その裏には僕にとって残酷すぎる仕掛けがあったのです……。
表題作のほか、『なみうちぎわ』『キャベツ畑に彼の声』『小梅が通る』の計4編が収録。ユーモアや叙情性を兼ね備えており、恋の切なさに感動する読者も大勢います。中高生ごろの年代の方におすすめの、みずみずしさにあふれた傑作です。
きみはポラリス
新潮社 著者:三浦しをん
“最強の恋愛小説集”と謳われている、三浦しをんの短編小説。世間の注目や原稿の注文が「恋愛」のことばかりだと感じた同氏が、とことん恋愛について書いてみようと執筆し、生まれた作品です。
初恋から禁忌の愛、純愛、結婚、同性愛などさまざまな愛の形が描かれています。誰かを大切に思うときに放たれる、特別な光を見出し、感情の宇宙を限りなく広げていくような魅力のある1冊。愛する存在がいる方から、誰かを愛したい方までおすすめの小説です。
試着室で思い出したら、本気の恋だと思う。
幻冬舎 著者:尾形真理子
ルミネの広告コピーから生まれた、繊細な大人たちの恋模様を丁寧に描いた恋愛小説集。ルミネや資生堂、Netflixなどの広告を手がけた、コピーライター・制作ディレクターの尾形真理子によるベストセラー作品です。
年下に片思いする文系女子や不倫に悩む美容マニア、元彼の披露宴スピーチを頼まれた広告代理店OLなど、恋愛下手な女性たちが路地裏のセレクトショップを訪れます。そして、不思議な魅力があるオーナーと一緒に、自分を変える運命の一着を探すうちに、自分の素直な気持ちと向き合っていく物語です。
揺れ動く女心を優しく励ましてくれるといわれる1冊。多くの人々の共感を呼んだ、話題の恋愛短編小説に触れたい方におすすめです。
放課後の音符
新潮社 著者:山田詠美
大人でも子供でもない女子高校生の揺れる心を、繊細に描いた8編の恋愛小説です。恋の匂いに揺れる、17歳の放課後に始まる、甘く切ない物語。”おとなを目指す女子のための恋活力向上小説”と謳われています。
幼なじみに恋の香りを悟られないようにする少女や、年上の女性に彼氏を奪われ、真っ赤な口紅を塗って決別のキスをした少女など、ドキドキが伝わってくるような十人十色の物語が収録されています。中高生ごろの年代の方から、学生時代の懐かしさを思い出したい方にもおすすめの短編小説です。
初恋温泉
集英社 著者:吉田修一
実在する温泉に訪れた、男女5組の恋愛模様を描いている短編小説です。都会に生きる男女の憂鬱や倦怠感などを描く芥川賞作家・吉田修一による作品。熱海・青荷・黒川などの温泉宿が出てきます。
表題作は、初恋の女性と結婚した男の物語。がむしゃらに働いて成功した彼は、夫婦で温泉に出かける前日、妻から離婚を切り出されてしまいます。男は、妻を幸せにするため頑張ってきたはずでしたが……。
ほかにも、不倫を重ねる元同級生や、親に内緒で初めて温泉に外泊する高校生カップルなど、さまざまな関係性を描いています。切なく、あたたかく、ほろ苦い恋愛物語を楽しめるのが魅力。温泉に行くかのような非日常感を味わえる、おすすめの作品です。
クジラの彼
KADOKAWA 著者:有川浩
恋愛小説の名手が紡ぐ、自衛隊員の恋愛を描いた短編小説集。2010年に文庫が発売された作品で、著者は『図書館戦争』シリーズなどで有名な有川浩です。有川浩の作品である『空の中』『海の底』の番外編も収録されています。
聡子が出会った冬原は、潜水艦乗り。浮上したら綺麗だったからと送られてきた写真は、彼からきた2ヶ月ぶりのメールでした。次にいつ会えるのかもわからない彼との恋の間には、常に壮大な海が横たわっています。
仕事にも恋愛にも一生懸命な登場人物たちが、不器用でありながら一生懸命に生きる姿に勇気をもらえると評判。甘くキュンキュンできるラブコメが、好きな方におすすめの短編小説集です。
短編小説のおすすめ|ミステリー
満願
新潮社 著者:米澤穂信
“ミステリー短編集の金字塔”と評される、米澤穂信のベストセラー小説。人間の不可解な心情の謎や闇がテーマの短編小説が6編収録されています。
山本周五郎賞を受賞したほか、国内主要ミステリーランキングの、このミステリーがすごい!、週刊文春ミステリー・ベスト10、ミステリが読みたいで史上初の3冠を達成。ドラマ化もされています。
表題作は、人を殺めて静かに刑期を終えた妻の本当の動機を描いたもの。ほかにも、恋人との復縁を望む主人公が訪れる『死人宿』、美しい中学生姉妹の官能と戦慄の物語『柘榴』、ビジネスマンが最悪の状況に陥る『万灯』など、切実に生きる人々が遭遇する奇妙な事件を描いています。
緻密な謎解きがあったり、岐路に立たされている人間の心の機微が巧妙に表現されていたりと、至高のエンターテインメントともいわれる傑作。ミステリー初心者から上級者まで、高評価を受けた短編小説を読みたい方におすすめです。
シャイロックの子供たち
文藝春秋 著者:池井戸潤
経済小説を多く手がける池井戸潤によるミステリー短編小説です。銀行という組織を通じ、普通に働き暮らすことの幸福さや困難さに迫った群像劇。ドラマ化・映画化もされ、累計60万部を突破したベストセラー作品です。
物語の舞台は、東京第一銀行長原支店。ある日、その銀行で現金紛失事件が起こります。捜査の結果、女子行員に疑いがかかりますが彼女は盗ったことを否定。ミスを隠したい銀行は、支店長らが金を出し合って補てんをすることになりますが、そのうち別の男性行員が失踪するのです……。
「たたき上げ」の誇りや、格差のある社内恋愛、家族への思い、上がらない成績など、事件の裏に透ける行員たちの葛藤を描いています。
二重構造が仕込まれており、だまし絵のような多面性が秘められているのがポイント。スリルあふれる、面白いサスペンスミステリーを読みたい方におすすめです。
鍵のない夢を見る
文藝春秋 著者:辻村深月
地方都市を舞台に、欲望と闘う女性たちが奈落に転がり落ちていく姿を捉えた短編小説。ミステリー小説家・辻村深月の直木賞受賞作で、ドラマ化もされました。
誰もが顔見知りの小さな町で窃盗を繰り返す友達のお母さんの物語、結婚を急かされる田舎の性質にうんざりしている女性の周囲で続くボヤの物語など、5人の女性の物語を収録しています。
ささやかな夢を叶える鍵を求めもがく女性たちをときに突き放し、ときにそっと寄り添って描かれており、辻村深月作品らしさを感じられる作品。人の心の内を描いた秀逸なサスペンスに触れたい方におすすめです。
戻り川心中
光文社 著者:連城三紀彦
直木賞作家・連城三紀彦による、花にまつわる恋愛ミステリーを、5編収録した短編小説。表題作は日本推理作家協会賞を受賞しており、日本ミステリー史に残る傑作といわれています。1982年にドラマ化もされているほか、2023年にはSNS上で「神がかってる短編集」のひとつとして話題を呼びました。
大正歌壇の寵児とされた苑田岳葉。彼は2度心中未遂事件を起こし、2人の女性を死に追いやり、その情死行を歌として遺し自害した天才歌人でした。
岳葉が本当に愛したのは誰だったのでしょうか。女性たちを死なせてまで彼が求めたものとは何だったのでしょうか。表題作では歌に秘められている岳葉の野望と、彼に道連れにされる女性の哀れを描いています。
美しい文体と緻密に描かれた心理描写により、耽美的で叙情的などさまざまな魅力を兼ね備えた作品。天才といわれ、多くの読書家をうならせてきた連城三紀彦の才能が結集した、おすすめの1冊です。
犯人のいない殺人の夜
光文社 著者:東野圭吾
人気のミステリー作家・東野圭吾が人間の欲望を描いた7編のミステリー短編小説。1994年発売で、光文社から出版されているなかでは初期の作品です。収録作品のうち何作品かは『木曜劇場 東野圭吾ミステリーズ』としてドラマ化されています。
表題作は、岸田家のなかで殺人が起きますが、死体もなければ犯人もいないという不思議な物語。『小さな故意の物語』では、親友が屋上から落ちて亡くなった後、彼が自殺したとは考えられない「俺」が当時の様子を探す物語です。
それぞれ人間の心の恐ろしさを描き、意外な結末が待ち受けているなど、短いながらしっかりと濃密なミステリーを楽しめます。人気作家のミステリーをサクッと読みたい方におすすめです。
第三の時効
集英社 著者:横山秀夫
大注目のミステリー作家・横山秀夫による、”警察小説の最高峰”といわれる、6編の連作短編小説。「F県警強行犯シリーズ」の第1作品目です。この警察小説がすごい!ALL THE BESTで1位を獲得し、たびたびドラマ化されています。
表題作は、時効目前の事件を追う刑事の執念を描いたもの。時効の発生は事件発生から15年ですが、容疑者が事件後に海外に滞在したためタイムラグがあります。F県警はこの間に容疑者を追い詰めようとしますが……。
刑事たちのリアルな葛藤や、男たちの矜持を描いた傑作。緊迫感あふれるストーリーで読む手が止まらない魅力があります。刑事ものが好きな方におすすめです。
望郷
文藝春秋 著者:湊かなえ
“イヤミスの女王”と評される、湊かなえによる連作短編小説。瀬戸内海の島を舞台に、島で育った人々が抱える故郷への愛や憎しみなど、屈折した心が生む6つの事件を描いています。収録作品のひとつ『海の星』は日本推理作家協会賞を受賞。ドラマ化もされました。
『海の星』の主人公は、都会で家庭を持った島出身の洋平。彼に突然届いた同級生からの手紙が、小学6年生のときに失踪した父の記憶を呼び起こす物語です。
鮮やかなストーリーテリングや、周到に張り巡らされた伏線、繊細な心情描写などにより湊かなえの筆力の高さがうかがえる1冊。短編でありながら秀逸な傑作ミステリーに触れたい方におすすめです。
儚い羊たちの祝宴
新潮社 著者:米澤穂信
邪悪な5つの事件を描き、ラスト1行の衝撃にこだわり抜いたとされる、ダークミステリーの短編集。”米澤流暗黒ミステリの真骨頂”と評されています。
夢想家のお嬢様たちが集う、優雅な読書サークル「バベルの会」をめぐる物語。夏合宿の2日前に、会員のひとり・丹山吹子の屋敷で惨劇が起きます。そして、翌年も翌々年も同日に彼女の親近者が殺害され、4年目にはさらに凄惨な事件が起きるのです……。
残酷な真実を目の当たりにして、背筋が凍るような恐怖を味わえるのがポイント。どんでん返しミステリーが好きな方や、ブラックなミステリーが好きな方におすすめです。
我らが隣人の犯罪
文藝春秋 著者:宮部みゆき
有名なミステリー作家・宮部みゆきのデビュー作で、5編のユーモアミステリーを収録した短編小説。オール讀物推理小説新人賞を受賞した、宮部ミステリーのエッセンスが詰まった傑作です。
表題作は、念願の新居に引っ越した僕・三田村誠と家族の物語。彼らは、いきなり隣家の犬・ミリーの鳴き声に悩まされることとなります。僕と妹・智子は、家によく遊びに来る仲よしのおじさん・毅彦と手を組み、ミリーを誘拐することにしたのですが……。
心がほっこりする話や感動する話などが収録されています。伏線や意外なラストなど、デビュー作ながら秀逸な1冊。気楽にミステリーを楽しみたい方におすすめです。
刑事のまなざし
講談社 著者:薬丸岳
“何度読んでも涙がこぼれる”といわれる、薬丸岳真骨頂の連作短編ミステリー。同氏がデビュー翌年に執筆した『オムライス』に登場する、刑事・夏目信人を主人公とした「刑事・夏目シリーズ」の第1作品目です。ドラマ化もされました。
10年前、通り魔によって幼い愛娘を植物状態にされた夏目が選んだのは、刑事の道でした。虐待された子供やホームレス殺人、非行犯罪など、社会の歪みで苦しむ人々をあたたかく、時に厳しく見つめながら夏目は真実を探り出していきます。
優しく人情味あふれる夏目のキャラクターが魅力的で、心を動かされる読者も多い作品。感動のヒューマンミステリーを読みたい方におすすめです。
ハッピーエンドにさよならを
KADOKAWA 著者:歌野晶午
偉才のミステリー作家・歌野晶午による、ブラックユーモアと小説的なたくらみに満ちた、奇想天外なアンチ・ハッピーエンドの短編小説集です。
『死面』は夏休みのたびに母の実家がある田舎に行く私の物語。新鮮な山海の料理やいとこたちとの交流など楽しい夏の日々を送っていました。あの部屋にさえ入らなければ……。
『殺人休暇』の主人公・理恵が合コンで出会って付き合ったのは、容姿はよいものの内気な男。次第に薄気味悪い行動を取り始めたため、彼女は男と別れようとしますが……。
平凡な日常が向かう先にある、驚愕の結末が見どころ。不気味でホラーチックな要素もあります。イヤミスやバッドエンドの小説を読みたい方におすすめです。
御手洗潔の挨拶
講談社 著者:島田荘司
奇想天外にみえるトリックを秘めた4つの事件に、名探偵・御手洗潔が挑む短編小説です。和製シャーロック・ホームズともいわれる御手洗潔が、難事件を解決する本格ミステリー「御手洗潔シリーズ」の第3作品目で、短編集としては初の作品。シリーズは映画化やドラマ化もされています。
嵐の夜に、マンションの11階から姿を消した男が、13分後に高架線の上で電車にひかれて亡くなりました。しかし、全力疾走してもたどり着けない距離で、首には銃殺の跡もついていたのです。男は亡くなってから、全力疾走で現場へ向かったのでしょうか。
御手洗潔のキャラクターや推理力に魅了される読者が多い作品。切れ味のよい、本格ミステリーに触れたい方におすすめです。
世にも奇妙な君物語
講談社 著者:朝井リョウ
直木賞作家・朝井リョウが、自身が大ファンだというテレビ番組『世にも奇妙な物語』をオマージュして描いた短編小説。2021年にはドラマ化されています。
奇妙で異様な世界観で描かれた本作品。第1話の『シェアハウさない』では、経済的に自立した人々がなぜシェアハウスに住むのかを追求するため、フリーライター・田上浩子が潜入取材を試みる物語です。ほかにも、現代的なテーマで、どんでん返しを楽しめる5編が収録されています。
数々の伏線や先の読めない展開、予想外の結末、恐怖を味わえる作品。”オチがすごい”と各書店でも評判を呼びました。怖い一方で面白さも味わえる、不思議な短編集を読みたい方におすすめです。
シャーロック・ホームズの冒険
新潮社 著者:コナン・ドイル
世代を超えて愛される、ミステリー名作シリーズ「シャーロック・ホームズシリーズ」の第1短編集。近代の探偵小説を確立した作品ともいわれます。
物語はロンドンで巻き起こる事件を追って、名探偵シャーロック・ホームズが神出鬼没するというもの。赤毛の男が入った奇妙な組合の謎を追う『赤髪組合』や、乞食を3日やったらやめられない『唇の捩れた男』などの物語が10編収録されています。
読者の意表をつくような事件な展開や、ホームズの鋭い推理、個性的なキャラクターなど魅力にあふれた1冊。ユーモアもあり、海外ミステリーの初心者にもおすすめです。
九マイルは遠すぎる
早川書房 著者:ハリイ・ケメルマン
現場に赴くことなく事件を解決する、安楽椅子探偵ものの代表作とされる短編小説集。本格推理小説のエッセンスともいわれる、珠玉の8編が収録されています。
主人公は、通りがかりに漏れ聞いたひとことを頼りに推論を展開し、殺人事件の犯人を指摘したニッキイ・ウェルト教授。彼はささいな手がかりから、純粋な推理を武器に難事件を鮮やかに解き明かし、解決していきます。
テンポ感がよいため読み進めやすく、爽快な推理が楽しめる作品。海外ミステリー初心者にもおすすめの短編小説です。
クリスマス・プレゼント
文藝春秋 著者:ジェフリー・ディーヴァー
予想外の結末が何度も楽しめる、アメリカのミステリー作家が発表した短編小説集。著者は、「リンカーン・ライム」シリーズで知られるジェフリー・ディーヴァーです。本作品のなかには、「リンカーン・ライム」シリーズと関係のある短編も。1冊に、16編を収録しています。
ストーカーからの被害に悩むモデルや、手にしていると危険な大金を持ってしまった警察官、自身の罪を認めない悪党と対峙する検察官など、多種多様なストーリーが展開される作品です。
大きな特徴は、16編すべてにどんでん返しが用意されていること。衝撃を受けるトリックが満載で、短いながらもひねりがあるミステリーが好きな方におすすめです。
短編小説のおすすめ|ファンタジー・SF
光の帝国 常野物語
集英社 著者:恩田陸
不思議な能力を持つ「常野一族」をめぐる、壮大な連作短編ファンタジー小説です。不思議な優しさや哀しみに満ちた物語が収録されています。「常野物語シリーズ」の第1作品目で、ドラマ化もされました。
「常野」から来たとされ、膨大な書物を暗記する力や遠くの出来事を知る力など、それぞれ不思議な能力を持っている常野一族。彼らは穏やかかつ知的で、権力の志向を持たず、普通の人々のなかに埋もれてひっそりと暮らしていました。彼らは何のために存在し、どこへ帰ろうとしているのでしょうか。
切なくも心あたたまり、時には残酷さもある物語。恩田陸作品の魅力である、緻密な風景描写や巧妙な構成力を堪能できる、おすすめの短編小説です。
煌夜祭
中央公論新社 著者:多崎礼
冬至の夜に漂泊の語り部たちが、18の島をめぐって集めた物語を話し合う「煌夜祭」を描いたファンタジー短編小説。多くの読者が驚愕したという、多崎礼のデビュー作にして、C★NOVELS大賞を受賞した作品です。
魔物が歩き回り、人を食う冬至の夜に開催される煌夜祭。語り部たちが夜を徹して、死なない体を持ち、人を喰らう魔物たちの物語を披露します。今年も冬至の夜が訪れ、廃墟と化した島主屋敷跡で、2人だけの煌夜祭が幕を開けるのです……。
人と魔物による恐ろしくも美しい物語を堪能できます。また、連作短編で張りめぐらされた伏線回収を楽しめる点も魅力。少しダークで切ないファンタジーが好みの方におすすめです。
四畳半神話体系
KADOKAWA 著者:森見登美彦
4つの並行世界で繰り広げられる、パラレルワールドものの短編小説です。めっぽうおかしく、少しほろ苦さもある青春物語。アニメ化作品も人気を博した、森見登美彦の人気作品です。
主人公で冴えない大学3回生の私は、バラ色のキャンパスライフを想像していましたが、ほど遠い現実で生活を送っていました。”ぴかぴかの1回生に戻って大学生活をやり直したい!”と思う彼の妄想が、京都の街を駆けめぐります。
魅力的な登場人物や、森見登美彦作品特有の言い回しなどにより、楽しみながら読める1冊。面白く読める、青春SF小説を読みたい方におすすめです。
My Humanity
早川書房 著者:長谷敏司
SF小説家の長谷敏司が、29~39歳までの10年間に執筆した初の作品集。擬似神経制御言語「ITP」をテーマにした、同氏の人気作品『あなたのための物語』のスピンオフ2編や、軌道ステーションで起きたテロの顛末を描いた『BEATLESS』のスピンオフなどが収録されています。
ナノマシンやITPなど、発達したテクノロジーのなかで、人間とは何かを考えさせられる傑作。本格SFから、ライトなSFまで楽しめる、おすすめの短編小説です。
終末のフール
集英社 著者:伊坂幸太郎
地球滅亡へのカウントダウンを生きる人々の群像劇で、”今日を生きることの意味を知る物語”と謳われている短編連作集です。
物語の舞台は2xxx年の仙台市北部にある団地「ヒルズタウン」。”8年後に小惑星が衝突し、地球は滅亡する”と予告されてから5年が過ぎた世界です。当初は絶望でパニックに陥った世界も、平穏な小康状態を取り戻しており、ヒルズタウンの住民たちも同様でした。
彼らは余命3年という時間のなかで、人生を見つめ直していきます。終末を前にした人間にとっての幸福とは何なのでしょうか。
家族の再生や、新しい生命への希望、過去の恩讐など、ヒルズタウンの住民たちによるさまざまな物語が収録されています。考えさせられるテーマながら読みやすく、「生きること」を見つめなおしたい方におすすめの作品です。
あなたの人生の物語
早川書房 著者:テッド・チャン
現代SF界を代表する作家、テッド・チャンによる8編の傑作短編小説です。優れたSF作品に贈られるヒューゴー賞・ネビュラ賞・ローカス賞受賞作など、高評価を受けている作品を収録。また、表題作は『メッセージ』として映画化もされています。
表題作は、地球を訪れたエイリアンとのコンタクトを担当した、言語学者・ルイーズの物語。エイリアンのまったく異なる言語を理解するにつれて、彼は驚くべき運命に巻き込まれていきます。
ハードSFから信仰の本質を問う作品まで、テッド・チャンのデビュー作を含めた秀作が揃っているのが魅力。SF的な想像力にあふれており、短編ながら充実しているおすすめの1冊です。
きまぐれロボット
KADOKAWA 著者:星新一
星新一の代表作のひとつで、エフ博士の不思議な発明や発見などさまざまな騒動を描いた、36編のショートショート集。”大人と子供のための童話”と謳われています。累計発行部数は200万部を突破しました。
お金持ちのエヌ氏は、博士が自慢するロボットを買い入れます。お腹が空けばおいしい食事を作り、部屋の掃除、話し相手などオールマイティーなロボットです。
そのロボットを連れて、エヌ氏は離れ島の別荘に出かけます。しかし、ロボットは次第におかしな行動をするようになり……。
教訓や皮肉をユーモアたっぷりに描いた傑作。小学生ごろからでも読みやすく、普段あまり本を読まない方にもおすすめの小説です。
われはロボット 決定版
早川書房 著者:アイザック・アシモフ
「SF黄金時代」の立役者のひとりであるアイザック・アシモフの名作。自身が創案した「ロボット工学の三原則」に基づいて、ロボット開発史を描いた連作短編小説です。『アイ,ロボット』として映画化もされました。
ロボット工学三原則にはすべてのロボットが必ず従うはずでした。しかし、『迷子のロボット』で、第1条”ロボットは、人間に危害を加えてはならない”というものを改変する事件が発生。その事件に、ロボット心理学者・キャルヴィンが挑みます。
心理ミステリー色も強く、人間とロボットのハートフルな物語も楽しめる作品。ロボットを題材としたSFに興味がある方は必読で、古典的名作に触れたい方にもおすすめです。
魚舟・獣舟
光文社 著者:上田早夕里
SF作家・上田早夕里の書き下ろし中編を含む全6編の短編集。”SF史に刻まれる大傑作”ともいわれる、濃密な作品集です。
表題作の舞台は、現代社会が崩壊し、陸地の大半が水没した未来世界。そこに存在している”魚舟”や”獣舟”と呼ばれる異形の生物と、人々とのかかわりを衝撃的に描き、各界から絶賛を浴びました。
そして、『くさびらの道』の舞台は、寄生茸に体を食いつくされる奇病が覆う日本。さらに、寄生された生物は死ぬだけではなく……。息を呑む戦慄の展開が待ち構えています。
短編ながら優れた表現力により、物語世界の広がりを感じられる傑作。短編小説に読みごたえも求めたい方におすすめのSF小説です。
ウは宇宙船のウ
東京創元社 著者:レイ・ブラッドベリ
“SFの抒情詩人”とも評された、レイ・ブラッドベリが自選した16編の傑作短編小説。日本では1997年にマンガ化もされました。
同氏の独特の流麗な文体により、幻想的な雰囲気を味わえる作品集です。太古の昔にいざなわれたり、突如未来の果てまで運ばれたりと、不思議な読書体験ができるのが魅力。詩的でファンタジックな古典SFの名作を読みたい方におすすめです。
たんぽぽ娘
河出書房新社 著者:ロバート・F・ヤング
生涯で約200の短編を遺した、SF作家のロバート・F・ヤングによる、甘く切なく美しい13編の傑作選。表題作は、日本ではオールタイムベストSFで定番になっているほか、ゲーム『CLANNAD』や小説『ビブリア古書堂の事件手帖』に登場し、話題となりました。
表題作は、たんぽぽ色の髪をした未来から来た女性との出会いを描いた、タイムトラベルものです。ほかにも、甘い男女の出会いを描いた『河を下る旅』や、宇宙クジラと交流する孤独な男を描いた『スターファインダー』などの名作を収録。ロマンティックで美しいSFを堪能できる、おすすめの短編小説です。
皆勤の徒
東京創元社 著者:酉島伝法
作り込まれた独自の世界観に没頭できる、ハードSF短編小説集です。第34回日本SF大賞を受賞した作品で、2015年に文庫判が発売。表題作である『皆勤の徒』は、第2回創元SF短編賞も受賞しています。
巨大な鉄柱が支える甲板の上に、建設されたある会社。そこで働く語り手は、「人間」と呼ばれる大型生物のもとで、有機生命体を素材とする商品を製作しています。甲板の上と泥土の地で生きる語り手の毎日は、平穏なものではなく……。
ただ造語や突拍子もない設定を並べたわけではない、緻密に組み上げられた世界観で高い評価を得ています。その独創的な内容に、衝撃を受けたという声も。1冊を通して、ハードなファンタジーに浸りたい方におすすめです。
短編小説のおすすめ|ホラー
霧が晴れた時 自選恐怖小説集
KADOKAWA 著者:小松左京
日本の恐怖小説界に、絶大な影響を与え続けている、”ホラー短編の金字塔”と評される1冊。SF作家の御三家のひとり・小松左京が自選した作品集です。
小松左京のホラーのなかでも名作中の名作『くだんのはは』では、太平洋戦争末期に、阪神間大空襲で焼け出された少年が、世話になったお屋敷で見た恐怖の真相を描いています。
ほかにも、小松左京の家に伝わるおまじないに構想を得た『まめつま』など、ホラーテイストの作品を選りすぐった傑作選です。
戦中や戦後の雰囲気も感じられます。1編1編が濃密で、短編ながら読みごたえのある作品。歴史的に有名な、文豪によるホラー短編小説を読みたい方におすすめです。
夜市
KADOKAWA 著者:恒川光太郎
美しく残酷さもある、運命の一夜を描いた、切ないファンタジーホラー短編小説。日本ホラー小説大賞を受賞した名作で、直木賞にもノミネートされました。
表題作の舞台は、妖怪たちがさまざまな品物を取引する、望むものが何でも手に入る不思議な市場「夜市」。小学生のとき、夜市に迷い込んだ裕司は、自分の弟と引き換えに「野球の才能」を買います。
その後、甲子園にも出場するなど野球部のヒーローとして成長しますが、弟を売った罪悪感を抱き続けていました。そして、今夜弟を買い戻すために、裕司は再び夜市を訪れますが……。
奇跡的な美しさがある、感動のラストが見どころ。日本ホラー小説史上最も切ないとされており、ホラー初心者にもおすすめの1冊です。
鬼の跫音
KADOKAWA 著者:道尾秀介
道尾秀介の真骨頂で、ミステリーと怪談のはざまの新境地とされる短編集。ねじれた愛や消せない過ち、哀しい嘘、暗い疑惑など、心の「鬼」に捕らわれた男女6人が迎える、予想外の終局を描いています。
人間の心の闇や、日常に潜む悪意がテーマ。それぞれ独立した物語ながら、すべての章に登場する謎の男・Sによって結び付けられます。見ていた世界が一変するという、鮮やかなトリックが見どころで、驚愕必至ともいわれる1冊です。
1編ごとに奇想や驚愕が繰り返され、人の心の哀しさや愛おしさが描かれています。恐ろしくも面白い短編小説を読みたい方におすすめです。
ZOO 1
集英社 著者:乙一
ジャンル分け不能ともされている、ホラー色の強い傑作短編集。本作品に収録されている5編は、2004年に映画化もされました。
『カザリとヨーコ』では、双子の姉妹なのになぜか姉・ヨーコだけ母から虐待を受けているというあらすじ。『SEVEN ROOMS』では、謎の犯人に拉致監禁された姉弟が脱出のために取った手段を描いています。
グロテスクで人間の深層心理に迫るような恐ろしさを味わえるだけでなく、切なさや奇妙さなどもあり、乙一ワールドに引き込まれる1冊。さまざまなテイストの、考えさせられるホラー小説に興味がある方におすすめです。
フリークス
KADOKAWA 著者:綾辻行人
現代ミステリーの「新本格ムーブメント」の端緒ともいわれる作家・綾辻行人による3編の短編集。本格ミステリーと恐怖、異形への真摯な愛が生み出した、不道徳かつ端麗な物語です。
3つの病室が舞台で、入院患者が書いた原稿に沿って物語が展開されます。狂気の科学者J・Mは、自分より醜い怪物を造るために、5人の子供に人体改造を施しました。そして、ある日彼は惨殺体となって発見されますが……。
綾辻行人が得意とする叙述トリックも楽しめます。驚愕の結末も見どころで、ミステリーとしてもホラーとしても秀逸なおすすめの短編小説です。
よもつひらさか
集英社 著者:今邑彩
戦慄と恐怖の異世界を、繊細に紡ぎ出した12編のホラー短編小説。奇妙な味わいがあり、全身が凍るような恐怖体験ができる傑作です。
表題作はの舞台は、死者と語り、冥界に臨む「黄泉比良坂」。ひとりでこの坂を歩くと、死者に会うことがあるという不気味な言い伝えがありました。
そして、なだらかな坂を行く私に、登山姿の青年が声をかけてきます。ちょうど立ちくらみを覚えた私は、青年の差し出す生ぬるい水を飲み干しましたが……。
奇怪で不思議な物語や背筋が凍るような物語などが、サクッと読み進められるのがポイント。しっかりとホラーも堪能できる、読みやすい短編小説を求める方におすすめです。
鼻
KADOKAWA 著者:曽根圭介
どんでん返し3連発の連作短編小説。現実ではない世界でありながら、胸がざわつくようなリアル感を味わえます。表題作は、日本ホラー小説大賞の短編賞を受賞しており、”日本のホラー小説史に残る衝撃の傑作”と評されています。
表題作の舞台は、人類が「テング」と「ブタ」に二分されている世界。鼻を持つテングはブタに迫害され、殺され続けています。そして、外科医の私はテングを救うため、違法とされるブタへの転換手術を決意しました。
一方で、自己臭症に悩む刑事の俺は、少女の行方不明事件の捜査中に、因縁の男と再会することになりますが……。2人の物語が交差するときに、衝撃の結末が待ち構えているのがポイント。さまざまなテイストの秀逸なホラーを楽しめる、おすすめの1冊です。
玩具修理者
KADOKAWA 著者:小林泰三
“国内ホラー史に鮮烈な衝撃を与えた不朽の名作”といわれるホラー短編集。小林泰三のデビュー作にして、全選考委員の圧倒的支持を得て、日本ホラー小説大賞の短編賞を受賞した傑作です。
表題作は、どんな複雑なものでも、死んだ猫でも直してくれる玩具修理者の物語。壊れたものを一旦バラバラにして、一瞬の掛け声とともに修理します。
ある日、弟を過って死なせてしまった私は、親に知られぬうちにどうにかしなければと、弟を玩具修理者のもとへ持っていきますが……。
現実か妄想か分からなくなるような、究極の悪夢を描いており、生と死の境に疑問を投げつけたといわれる衝撃作。ゾクっとする、とにかく恐ろしいホラーを読みたい方におすすめです。
ぼっけえ、きょうてえ
KADOKAWA 著者:岩井志麻子
戦慄と悲哀の、遊郭怪談をつづった4編の短編集。日本ホラー小説大賞と山本周五郎賞を受賞しており、怪奇文学の新古典ともいわれています。累計発行部数は40万部を超え、長年愛され続けているロングセラー作品です。
表題は、岡山地方の方言で”とても、怖い”という意味。明治時代、岡山の遊郭で醜い女郎が、寝つかれぬ客に語り始める身の上話を描いています。残酷で孤独な彼女の人生には、ある秘密が隠されていたのです……。
妖しい恐ろしさがあり、文学界に新境地を切り拓いたとされる傑作。ゾッとする和風ホラーが好きな方におすすめの短編小説です。
異形のものたち
KADOKAWA 著者:小池真理子
甘く冷たい恐怖と戦慄の生と死のあわいの世界を描いた、大人のための6編の幻想怪奇小説集。日本怪談文学史の伝統を、現代に受け継いでいるのが特徴です。
最初の物語『面』の主人公は、遺品整理のため、実家に戻った邦彦。彼は、妻との関係や存命だったころの父母のことなど、思いを巡らせながら農道を歩いていると、向こうから白い日傘をさした和服姿の女性が歩いてきました。その女は、般若の面をつけていて……。
生者のすぐ隣にいる、この世のものではない存在を本作品から感じられ、甘美な恐怖を味わえます。哀しくファンタジックなホラーを読みたい方におすすめです。
鬼談百景
KADOKAWA 著者:小野不由美
99編の怪談が収録された短編小説。小野不由美が初めて手がけた百物語で、山本周五郎賞を受賞した傑作『残穢』が100話目の物語といわれています。2016年には収録作品のうち10編が映画化されました。
学校の七不思議にまつわる怪談や、マンションの部屋で聞こえる不自然な音など、この世のいたるところに潜む怪異が不意に現われる物語を収録しています。
うっすらと闇に覆われるような恐怖が味わえる作品。怪談小説を初めて読む方やショートショートをサクッと読みたい方におすすめです。
ついてくるもの
講談社 著者:三津田信三
ホラー小説の旗手といわれる三津田信三によるホラー短編集。実話怪談のような7編の怪異譚を描いており、同氏の本領を発揮したと謳われている傑作です。
表題作の主人公は高校2年生の私。学校からの帰り道、彼女は坂道のがけ下に、えもいわれぬほど鮮やかな朱色を目にします。それは、廃屋の裏庭に、なぜかある雛壇に飾られたお雛様でした。どの人形も同じ箇所が傷付けられているなか、一体だけ無傷だったお雛様を助けなければと思った私ですが……。
いつの間にか恐ろしい「何か」に取り囲まれているかのような恐ろしさを味わえる作品。リアリティーがあり、とにかく恐ろしいホラーが好みの方におすすめです。
ミスト 短編傑作選
文藝春秋 著者:スティーヴン・キング
モダンホラーの帝王と称される巨匠スティーヴン・キングによる短編小説です。第2短編集『Skeleton Crew』から、中短編5編が選り抜かれて収録されています。
映画化やドラマ化もされている中編の『霧』。豪雨に襲われ、スーパーマーケットに集まった被災者を襲う厄災やパニックを描いています。本作品は初めてスティーヴン・キングの作品を読む際にもおすすめされる名作です。
古きよきSFや幻想小説風、暴力をテーマにした作品などテイストはさまざまですが、スティーヴン・キングらしい恐怖を味わえます。海外ホラー入門にもおすすめの名作です。
ポー傑作選1 ゴシックホラー編 黒猫
KADOKAWA 著者:エドガー・アラン・ポー
世紀の天才と謳われるエドガー・アラン・ポーの怪異譚を堪能できる傑作選です。14編を収録した作品で、2022年に新訳として発売。英米文学研究の第一人者である、河合祥一郎が訳者を務めています。2023年には、Netflixにて収録作「アッシャー家の崩壊」がドラマ化されました。
表題作の「黒猫」は、酒に溺れ愛猫と妻を殺し、地下室に隠した男が恐怖に襲われる復讐物語。他にも、「ウィリアム・ウィルソン」や「赤き死の仮面」などの、傑作ホラーを楽しめます。また、河合祥一郎による解説やポー人物伝なども掲載されている、充実の1冊です。
人間の精神が崩壊していく過程を、生々しく描写していると高評価を得ています。心にくる、じんわりとしたホラーが好きな方におすすめです。
短編小説とひとくちにいっても、心がほっこりする感動作から、ゾッとするホラー、どんでん返しが味わえるミステリーまでさまざまな作品があります。今回ご紹介した作品は、短いながら1編1編が充実しており、物語世界に浸れる名作ばかり。サクッと読める小説を探している方や、忙しい方もぜひ手に取ってみてください。