歴史上の人物や出来事などを描き、登場人物の人生を追体験できる「歴史・時代小説」。鎌倉時代から明治時代までを描いた作品や、中国史を描いた作品など、時代設定も場所もさまざまな作品があります。
そこで今回は、時代小説や歴史小説のおすすめ人気作品を、ランキング形式でご紹介。中学生ごろからでも読みやすい初心者向けの作品から、読みごたえのあるシリーズものまで、面白い作品を厳選したので、選ぶ際の参考にしてみてください。
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歴史・時代小説とは?
歴史・時代小説とは、歴史上で起こった出来事や人物などを題材として描かれた、小説ジャンルのひとつです。その時代に生きている登場人物の人生を追体験できるような魅力があり、人情味あふれた美しい人間模様が描かれた作品が多くあります。
史実に基づき、歴史の本質を描いたものが歴史小説。作家の想像力を駆使して、史実のなかに想像の出来事や登場人物を、うまく織り交ぜながら描いた作品が多いのが特徴です。
一方で、史実に基づいておらず、登場人物も架空の人で、設定が江戸時代の作品を時代小説と呼ぶのが一般的。ただし、史実に基づいた出来事や人物が出てくる時代小説もあり、明確に歴史小説と時代小説が区別されているわけではありません。
歴史・時代小説を主に執筆している作家も多く、有名作家として、山岡荘八・吉川英治・池波正太郎・藤沢周平・司馬遼太郎などの名前が挙げられます。
歴史・時代小説のおすすめランキング
第1位 燃えよ剣 上
新潮社 著者:司馬遼太郎
幕末の動乱期を、剣に生き剣に死んだ新選組副長・土方歳三の、華麗なまでに頑なな生涯を描いた歴史小説です。累計500万部を突破した司馬文学の代表作のひとつで、幕末ものの長編をなす長編。たびたびドラマや映画などで映像化されているほか、マンガ化もされているベストセラーです。
武州石田村の百姓の子として生まれた「バラガキのトシ」こと土方歳三。彼が天然理心流四代目の剣豪・近藤勇と出会ったことで、歳三の人生や幕末史は大きく動き始めます。
新選組は、近藤局長と土方副長の体制で本格始動。沖田総司・永倉新八・斎藤一ら凄腕の門客が京都の街を震撼させ、新選組とともに歳三の名もあがっていきますが……。
新選組の成り立ちや凄まじい戦闘シーンのほか、歳三と、近藤・沖田とのほのぼのしたやり取り、お雪との恋路など人間模様も描かれています。新選組が好きな方は必読の1冊。歴史小説の初心者にもおすすめです。
第2位 竜馬がゆく 一
文藝春秋 著者:司馬遼太郎
日本文学の金字塔ともされ、総発行部数は2500万部を超える司馬文学のベストセラー小説。全8巻で、維新回天の立役者となった坂本竜馬の生涯を、同時期に生きた多数の若者の青春群像とともに描いた、壮大な歴史ロマンです。たびたびドラマ化もされ、2022年には初めてマンガ化されました。
第1巻は、弱虫の末っ子だった竜馬の幼年時代や、江戸での剣術修行の様子、奥手だった青年時代、人斬り以蔵や桂小五郎との出会いを描いたものです。
坂本竜馬の力強い生きざまに魅了される読者も多く、現在の日本人の竜馬像は本作品から形作られたともいわれる傑作。長編ながら読みやすいため、幕末ものの歴史小説を読みたい初心者にもおすすめです。
第3位 宮本武蔵 一
新潮社 著者:吉川英治
一介の武士が、二天一流の開祖・宮本武蔵となるまでを描き、超骨太なエンターテインメントといわれる歴史小説。現在の日本人の宮本武蔵像に大きな影響を与えた、国民的作家・吉川英治の代表作です。ドラマ化や映画化もされているほか、マンガ化作品の『バガボンド』も人気を博しています。
若い功名心に燃えて、関ヶ原の合戦に臨んだ武蔵(たけぞう)と、その友達・又八。彼らは、屍がひしめく関ヶ原で敗軍の兵として、命からがら落ち伸びる途中で、お甲・朱実母子の世話になります。それから1年。武蔵はひとり故郷の作州宮本村へ戻りますが、その身を追われ……。
弱虫の又八と強い武蔵との対比や、朱美やお通との恋愛模様など、魅力的な登場人物や人間ドラマも見どころです。力強い作風で、前向きになる読者も多い傑作。人気マンガの原作に触れたい方にもおすすめです。
第4位 村上海賊の娘 一
新潮社 著者:和田竜
信長と石山本願寺の10年にわたる死闘「石山合戦」で起こった、第一次木津川合戦の史実に基づいた歴史巨編です。和田竜が4年の歳月を費やした最高傑作で、本屋大賞や吉川英治文学新人賞をダブル受賞。累計300万部を突破し、マンガ化もされています。
時は戦国、信長と本願寺のにらみ合いが続く乱世に、名をとどろかせた海賊衆・村上海賊がいました。そして、瀬戸内海の島々で強勢を誇る、当主の村上武吉。彼の剛勇さや荒々しさを継いだのは、娘・景でした。
海賊働きに明け暮れ、気が荒く地元では嫁の貰い手がない醜女。そんな彼女が合戦前夜の難波へ向かうときに、物語が始まるのです……。
残虐で凄惨な合戦シーンに迫力があり、合戦の非情さが鮮烈に表現される一方、随所にユーモアも感じられます。個性あふれる登場人物も魅力。本格歴史小説でありながら、エンターテインメント性も高く、読みやすいおすすめの作品です。
第5位 八朔の雪 みをつくし料理帖
角川春樹事務所 著者:髙田郁
天涯孤独の少女・澪が江戸の街でさまざまな困難を乗り越え、料理人として成長していく、「食」がテーマの時代小説。特に女性人気が高い時代小説作家・髙田郁の代表作です。マンガ・ドラマ・映画などさまざまなメディアミックス作品が展開されており、シリーズ累計400万部を突破しています。
物語の舞台は、神田御台所町で上方料理を提供する「つる家」。調理場で腕をふるう澪は、故郷・大坂で、幼少期に両親を失っていました。
大坂と江戸の味の違いに戸惑いながら、澪は天性の味覚と負けん気で、日々研鑽を重ねます。しかし、ある日彼女の腕をねたみ、名料理屋「登龍楼」が妨害を仕掛けてきますが……。
何事にも屈しない、芯のある澪の姿や、周囲の人々の人情に、心あたたまる傑作。料理もおいしそうな、人情ものの時代小説を読みたい方におすすめです。
第6位 壬生義士伝 上
文藝春秋 著者:浅田次郎
浅田文学の金字塔といわれ、浅田次郎が描く「新選組」の時代小説。柴田錬三郎賞受賞作です。新選組でただひとり、庶民の心を失わなかった隊士・吉村貫一郎の非業の生涯が描かれています。舞台化・ドラマ化・映画化・マンガ化もされた名作です。
小雪舞う1月の夜更け、大坂にある南部藩の蔵屋敷に、満身創痍の侍がたどり着きます。それは、貧しさから南部藩を脱藩した後、新選組に入隊し、”人斬り貫一”と恐れられた吉村貫一郎でした。
妻子の仕送りのために守銭奴と蔑まれても、飢えた者には握り飯を差し出していた貫一郎。生き残った元新選組隊士や教え子の口から隊士としての彼の生き様が語られます。
幕末の時代背景や貫一郎の武士としての義、家族愛や友情など人間ドラマも凝縮されており、物語の世界に入り込みやすいのが魅力。新選組を題材とした時代小説が好きな方や、初心者にもおすすめです。
第7位 坂の上の雲 1
文藝春秋 著者:司馬遼太郎
明治時代の明暗や、近代国家誕生にかけた人々を描いた大長編歴史小説。日露戦争を勝利に導いた秋山好古・真之兄弟と、俳句に命をかけた正岡子規、伊予松山出身の3人を中心とした青春群像劇です。ドラマ化されたほか、2007年には愛媛県松山市に「坂の上の雲ミュージアム」も建てられています。
第1巻は、維新で賊軍とされた伊予松山に住む貧乏士族の秋山兄弟と、彼らの竹馬の友で怖がりの、のぼさん(正岡子規)が故郷を離れ、学問や天下を目指して東京に向かうというあらすじです。
多くの登場人物が出てくる作品で、それぞれの人生の物語が現代人に大きな示唆を与えてくれるともいわれる傑作。数ある司馬遼太郎作品のなかでも、特に高い評価を受けているおすすめの作品です。
第8位 海賊とよばれた男 上
講談社 著者:百田尚樹
歴史経済小説の最高傑作ともいわえる、実話をもとにした、百田尚樹の大ベストセラー。終戦後すべてを失った日本で、異端の石油会社「国岡商店」を営む国岡鐵造が石油を武器に変え、世界と戦った生涯を描いた物語です。映画化もされ、関連書籍も累計500万部を突破しています。
1945年8月15日、敗戦により、一代かけて築き上げた会社資産のほとんどを失った国岡鐡造。借金を背負いつつも店員のひとりも解雇にせず、再起を図っていきます。やがて、彼は戦後の日本に大きな勇気や希望を与える大事業を成し遂げるのです.……。
国岡鐵造の生きざまにかっこよさを感じ、熱い気持ちになる読者も多い傑作。心震える近代の歴史小説を読みたい方や、経済小説が好きな方にもおすすめです。
第9位 蒼穹の昴 1
講談社 著者:浅田次郎
19世紀末の中国清朝末期を舞台にした、大ベストセラー歴史小説。近代中国史を描いた「蒼穹の昴シリーズ」第1作品目です。日本と中国でそれぞれドラマ化され、シリーズは累計590万部を突破。直木賞にもノミネートされました。
貧しい糞拾いの少年・春児は、老占い師・白太太から”汝は必ずや、あまねく天下の財宝を手中に収むるであろう”と予言を受けます。
そして、予言を信じた春児は、科挙試験を受ける幼なじみで兄貴分の文秀に頼り、都に上りました。都で袂を分かち、それぞれの志を胸に歩み始めた2人に待ち受ける、宿命の覇道とは何なのでしょうか。
春児の姿に生き抜くことの尊さを感じられる1冊。中国史に詳しくない方でも、物語の世界に入り込みやすいおすすめの作品です。
第10位 天地明察 上
KADOKAWA 著者:冲方丁
江戸時代初期、日本独自の暦の実行者に選ばれた渋川春海の人生を描いた、ベストセラー時代小説。冲方丁初の時代小説にして、本屋大賞・吉川英治文学新人賞などさまざまな賞を受賞し、直木賞にもノミネートされました。映画化やマンガ化もされています。
徳川四代将軍・家綱の時世に、立ち上がったある「プロジェクト」。それは、当時使われた暦・宣明歴が正確さを失い、ずれが生じ始めていたことから、日本独自の暦を作り上げるというものでした。
改暦の実行者として選ばれたのは、碁打ちの名門に生まれた春海。彼は己の境遇に飽き、算術に生きがいを見出していました。そして、彼と「天」との壮絶な勝負が始まります。
春海がプロジェクトのために奔走するさまを、みずみずしく重厚に描いています。算術といった難しいテーマながら、登場人物の魅力的な描き方や明快な文章で読みやすい作品。爽やかな気持ちになる読者も多く、時代小説初心者にもおすすめです。
第11位 新選組血風録
KADOKAWA 著者:司馬遼太郎
歴史小説の第一人者・司馬遼太郎が、斎藤一・加納惣三郎・井上源三郎・沖田総司ら、新選組隊士たちの生死や哀歓をつづった15編の連作短編小説。映画化・ドラマ化・マンガ化された人気作品です。
物語の舞台は、勤王佐幕の血生臭い抗争に明け暮れる維新前夜の京都。治安維持を任務として組織された新選組の、近藤勇の不敗神話や、生きて戻れぬ死闘を前にしてひょうひょうと振る舞う篠原泰之進、好きな女のために新選組に潜り込み惨殺された深町新作など、さまざまな隊士の実像を浮き彫りにしています。
時代に逆らって生きた個性豊かな剣士の、武骨で真っ直ぐで爽やかな姿や、人間ドラマに引き込まれ面白く読める作品。同じく司馬遼太郎作品の『燃えよ剣』とあわせて読むのもおすすめです。
第12位 剣客商売 一 剣客商売
新潮社 著者:池波正太郎
老剣客と息子の活躍を描いた時代小説。吉川英治文学賞を受賞した、池波正太郎の3大シリーズのひとつです。ドラマはキャストを変えて何度も放送されているほか、マンガ化もされ、累計発行部数は2400万部を突破しています。新潮文庫の本編は全16巻です。
物語の舞台は、田沼意次の活躍する江戸中期。剣術ひと筋に生きる白髪頭の粋な小男の秋山小兵衛と、浅黒く岩のようにたくましい息子・大治郎が剣に命をかけ、江戸の悪事を叩き斬っていきます。
事件を飄々と解決していく小兵衛の強さや、人間味にあふれた性格が魅力。また、彼と大治郎のほか、小兵衛の再婚相手となるおはる、小兵衛に憧れる女武芸者・三冬の組み合わせにより、面白さやアットホームな雰囲気が味わえます。軽快なタッチで描かれ、時代小説の初心者にもおすすめの作品です。
第13位 国盗り物語 一
新潮社 著者:司馬遼太郎
1517~1582年までの66年間を描いた、戦国時代の歴史小説です。全4巻で、前半は貧しい油売りから美濃国主となった斎藤道三、後半は天才的な知略で天下統一を計った織田信長の生涯の物語。NHKで大河ドラマ化もされています。
第1巻では斎藤道三が、一介の浪人から美濃国守や土岐頼芸の腹心として寵遇されるまでの、若き日の策謀や活躍を描いた物語です。
司馬遼太郎独自の明晰な歴史の見方「司馬史観」や優れた人間洞察で、テンポよくダイナミックに描いているのが魅力。戦国時代の壮大な、エネルギーに満ちたドラマを見たい方におすすめです。
第14位 関ケ原 上
新潮社 著者:司馬遼太郎
天下分け目の決戦「関ケ原」の起因から終結までを描くなかで、己の生き方を求めて思惑する、戦国武将たちの人間像を浮き彫りにした歴史小説。ドラマ化されたほか、2017年には映画化もされ、累計590万部を突破した国民的ベストセラーです。
秀吉の死によって傾き始めた豊臣政権を奪還するために、徳川家康がめぐらせた謀略や、豊臣家の安泰を守ろうとする石田三成。司馬遼太郎の新解釈で、武将たちの生きざまが描かれています。
登場人物の心情がリアルに描かれており、物語の世界に入り込みやすく、一気読みしやすい傑作。戦国時代を描いた小説を読みたい方におすすめです。
第15位 影法師
講談社 著者:百田尚樹
生涯の契りを誓った2人の男の、友情や絆を描いた感動作。名作『永遠の0』に連なる百田尚樹の代表作で、同氏初の時代小説です。
下級武士から筆頭家老にまで上り詰めた勘一。彼は、竹馬の友・彦四郎の行方を追っていました。2人の運命を変えた20年前の事件とは、確かな腕を持つ彦四郎が「卑怯傷」を負ってしまった理由とは何なのでしょうか。
人間愛があり、切なさや美しさを感じられます。文庫版には、単行本未収録の作品『もう一つの結末』が巻末袋とじで付属しているのもポイント。涙あふれる読者も多い、感動の時代小説を読みたい方におすすめです。
第16位 のぼうの城 上
小学館 著者:和田竜
2012年に映画化され話題になった、戦国エンターテインメント超大作です。戦国時の武州にある忍城を舞台に、城代・成田長親という、従来の武将とは異なる新しい英傑像を提示した作品。本屋大賞2位を受賞し、直木賞にもノミネートされ、累計150万部を突破しています。
戦国期、天下統一を目前にした豊臣秀吉は、関東の雄・北条家に大軍を投じました。そのなかにあったのが支城の忍城。それは、周囲を湖で取り囲まれ、「浮城」の異名を持つ難攻不落の城。秀吉方約2万の大軍を指揮した石田三成の軍勢に対し、忍城の軍勢の数はわずか500でした。
そして、城代の成田長親は、領民たちから木偶の坊から取って”のぼう様”などと呼ばれても、泰然としている御仁だったのです……。
絶体絶命の状況にドキドキハラハラしながら、どんどん読み進めやすい作品。爽快感もあり、面白く読める歴史小説を求める方におすすめです。
第17位 鬼平犯科帳 決定版 一
文藝春秋 著者:池波正太郎
斬り捨て御免の権限を持ち、幕府の火付盗賊改方の長官・長谷川平蔵を描いた時代小説です。シリーズ累計2700万部を突破している大ベストセラー作品。ドラマ・映画・マンガ・アニメなどさまざまなメディアミックス作品が展開されており、特にドラマは国民的時代劇として有名です。
江戸時代後期、取り締まりの剛腕ぶりで、盗賊から”鬼の平蔵””鬼平”と呼ばれ恐れられている平蔵の素顔は、「妾腹の子」として育った苦労人。義理人情があり、ときには捕らえた盗賊にも情けをかける心優しい人物です。
平蔵の人情味あふれるキャラクターが魅力で、”読む快感とは、まさにこのことである”と評される池波文学の傑作。痛快で人情味あふれる時代小説を読みたい方におすすめです。
第18位 樅ノ木は残った 上
新潮社 著者:山本周五郎
大衆文学や時代小説で知られる昭和の文豪・山本周五郎の最高傑作として知られる歴史小説。江戸時代の仙台藩で起こった「伊達騒動」を題材としています。1970年にはNHKの大河ドラマ化もされました。
取り潰し寸前に陥っている伊達藩を舞台に、伊達騒動で暗躍した、原田甲斐の姿を描いた作品。仙台藩主・伊達綱宗は、放蕩に身を持ち崩したことにより、幕府から逼塞を命じられました。
明くる夜、藩士のうち4人が上意討ちによって次々と斬殺。疑心暗鬼で混乱に陥る藩政に乗じ、県政を増していくのは仙台藩主一族の伊達兵部と、幕府老中の酒井雅楽頭でした。彼らの謀略を見抜いた宿老・原田甲斐は1人、藩を守るための決意を固め……。
周囲に誤解されてもなお、忠義に従って孤高を貫く原田甲斐の魅力的な姿を描いた傑作です。本作品には詳細な注釈や伊達の家系図、地図などが付いており、状況把握がしやすく読みやすいのがポイント。緻密な心情描写があり、「人間」をしっかりと描いた名作を読みたい方におすすめです。
第19位 本所おけら長屋
PHP研究所 著者:畠山健二
本所亀沢町にある貧乏長屋「おけら長屋」で起こる笑いと涙の「珍」騒動を描く時代小説。第1幕は全20巻で、第2幕の『新 本所おけら長屋』は続刊しており、シリーズ累計215万部を突破する人気シリーズです。
おけら長屋は、大家の徳兵衛や米屋奉公人の八五郎、未亡人のお染など、癖のある店子たちが入り乱れて毎日お祭り騒ぎ。長屋に住む12世帯の面々は皆、お金はないものの人情に厚く、かっとなりやすいものの涙もろい、自分より他人が気になり仕方ないそんな性格でした。
そんなある日、津軽の某藩を辞去し、江戸へ流れてきた浪人・島田鉄斎が長屋にやってきます。剣の腕が立ち、冷静に物事に対処できる彼は、おけら長屋の住人から頼りにされる心強い存在となっていきました。鉄斎を迎え、おけら長屋の住人はある事件に遭遇するのです……。
落語テイストで会話が飛び交い、面白く読み進められ、世代を問わず人気の高い作品。笑って泣ける、シリーズものの時代小説を初めて読む方にもおすすめです。
第20位 足軽仁義 三河雑兵心得
双葉社 著者:井原忠政
雑兵の視点から家康が天下取りをする様子を描いた「三河雑兵心得シリーズ」の第1作品目です。この時代小説がすごい!2022年版の文庫書き下ろしランキングで1位を獲得。累計75万部を突破している人気作品です。
桶狭間の戦いから3年経ったある日。17歳の百姓・植田茂兵衛は、弟をいじめた不良たちに仕返しをしたところ、はずみでその中の1人を死なせてしまい村を出奔します。
そして、松平家康の家来・夏目次郎左衛門に拾われ、彼の屋敷で奉公することになりました。茂兵衛は後に家康の足軽となってさまざまな戦場を渡り歩き、血や泥にまみれながらも少しずつ成長していきます。
乱暴であるもののお人好しで、敵の事情を慮って見逃すこともある、茂兵衛の性格が魅力。戦いの様子や戦法なども詳しく解説されているため、歴史・時代小説初心者にもおすすめです。
第21位 孤宿の人 上
新潮社 著者:宮部みゆき
宮部みゆきの時代小説最高峰ともいわれる、人情味にあふれた傑作長編。無垢な少女・ほうを中心に描いたお家騒動や、彼女の魂の成長を描いた感動作です。
舞台は北が瀬戸内海に面し、南が山に囲まれた讃岐国・丸海藩。この地に、幕府の罪人・加賀殿が江戸から流されてきます。妻子や家人を殺害した彼は、悪霊と恐れられていました。やがて、領内では不審な毒死や謎めいた凶事が相次ぐようになります。
一方で、身寄りのない9歳のほうは、丸海藩に捨て子同然置き去りにされました。幸い、藩で医者を勤める井上家に引き取られますが、ほうの面倒を見てくれた井上家の琴江が毒殺されてしまうのです。これらは、加賀殿の仕業なのでしょうか。
しっかりと描かれた時代背景や宮部みゆきの語り口により、物語の世界に引き込まれやすいのが魅力。泣ける時代小説を読みたい方におすすめです。
第22位 陽炎ノ辻 居眠り磐音 一 決定版
文藝春秋 著者:佐伯泰英
平成で最も愛されたとされるエンタメ時代小説です。江戸の浪人・坂崎磐音が「居眠り剣法」で試練や敵に立ち向かっていく、全51巻の「居眠り磐音シリーズ」第1作品目。ドラマ化・映画化・マンガ化もされており、累計2000万部突破と、佐伯泰英作品のなかでも人気の高いシリーズです。
物語は、豊後関前藩の若い武士3人が、国許へ帰参するところから始まります。その夜、3人は思いもよらない運命に直面。やがて、浪人となった磐音は、江戸の深川で用心棒稼業を始め、やがて幕府をも揺るがす大きな陰謀に巻き込まれていくのです……。
お人好しで優しく、穏やかながら剣の腕前もよい磐音の姿に、かっこよさを感じる読者も多い作品。エンターテインメント性が高い、おすすめの時代小説です。
第23位 しゃばけ
新潮社 著者:畠中恵
薬種問屋の若旦那・一太郎が不気味な事件に巻き込まれ、仲間の妖たちと推理に乗り出す、愉快で不思議な時代小説シリーズ第1作品目。日本ファンタジーノベル大賞の優秀賞を受賞しています。また、ドラマ化や舞台化もされている人気作品です。
江戸有数の薬種問屋「長崎屋」の一粒種・一太郎は、病弱で外出もままなりません。しかし、人目を盗んで出かけた夜に、彼は人殺しを目撃します。
以来、猟奇的な殺人事件が続き、一太郎は家族同然の妖たちと、事件の解決に乗り出すことになりました。しかし、その矢先、犯人の刃が彼を襲うのです……。
愉快な妖たちが繰り広げる騒動が見どころ。しんみりしたり、ほのぼのしたり、ドキドキワクワクしたりと、さまざまな要素を楽しめます。ファンタジーや推理小説の要素もある、おすすめの作品です。
第24位 漂流
新潮社 著者:吉村昭
無人島に漂着して生き残った男の、不撓不屈の生還劇。江戸時代の史料にも残っている、彼の生存の秘密や壮絶な生きざまを巨細に描いた、感動の長編ドキュメンタリー小説。映画化もされています。
江戸・天明年間、シケに遭い黒潮に乗ってしまった男たちは、不気味な沈黙を保つ火山島に漂着しました。水も湧かず、生活の手段がない無人島で、仲間の男たちは次々と倒れていきます。
そのなかで、土佐の船乗り・長平はただひとり生き残り、12年間に及ぶ格闘の末に生還。彼はどのように生き延びたのでしょうか。
どんな逆境でもあきらめないことの大切さを教えてくれる傑作。緊張感あふれるサバイバルものを読みたい方におすすめの歴史小説です。
第25位 三国志 一
講談社 著者:吉川英治
日本では卑弥呼が邪馬台国を統治するころの2世紀末、中国五漢末期に活躍した英雄、劉備・曹操・孔明・周瑜らの壮大なドラマを描いた歴史小説。”吉川三国志”とも呼ばれ、多数ある三国志もののなかでも、金字塔とされる傑作です。
政治が腐敗し、黄巾賊が各地にはびこり、民衆が苦しむ中国五漢末期。青年・劉備は、同志の関羽や張飛とともに、桃園で義盟を結び、世を救うことを誓い合います。以来100年にわたる、治乱興亡のドラマが始まるのです……。
野心や大志を秘めた英雄や悪漢たちが、武を競い智をめぐらせる様子に、胸が躍り物語に引き込まれる読者も多い傑作。描写が丁寧で読みやすく、三国志ものを初めて読む方にもおすすめです。
第26位 弥勒の月
光文社 著者:あさのあつこ
『バッテリー』などで有名な児童文学作家・あさのあつこ初の時代小説。同心・木暮信次郎と小間物屋「遠野屋」の主人・清之介、岡っ引き・伊佐治の3人が、江戸の闇や人間にせまる人気の「弥勒シリーズ」第1作品目です。
ある日、小間物問屋「遠野屋」の若おかみ・おりんの水死体が発見されました。信次郎は、死体検分に立ちあった清之介の冷静さに違和感を覚えます。ただの飛び込みと思われた事件でしたが、清之介に関心を持った新次郎は、伊佐治とともに事件を追い始めるのです.……。
際立つ登場人物の個性や、ストーリーの構成力の高さ、ミステリー仕立ての謎などにより、物語の世界に入り込みやすい作品。捕物帳が好きな方や、時代小説の初心者にもおすすめです。
第27位 一路 上
中央公論新社 著者:浅田次郎
浅田次郎が「参勤交代」を題材に描いた、歴史小説でありロードノベルです。上下巻の大作で、ドラマ化もされました。
主人公は、失火で父が不慮の死を遂げ、家督を相続するために江戸から西美濃・田名部郡に帰参した19歳の小野寺一路。彼は小野寺家代々のお役目で、参勤交代の指揮を執る「参勤道中御供頭」を仰せつかります。
差配に不手際があれば、ただちに家名断絶と追い詰められる一路。200年以上前に記された家伝「行軍録」を手がかりに、古式に則った行列を仕立て、参勤交代に挑みますが……。
2週間足らずの参勤道中の日々が、コメディータッチで描かれています。笑いあり涙ありで面白く読める歴史小説を求める方におすすめです。
第28位 札差殺し 風烈廻り与力・青柳剣一郎
祥伝社 著者:小杉健治
南町奉行所の風烈周りとして火事を防ぐかたわら、難事件の探索も任されている青柳剣一郎が、事件の裏を見抜き悪を暴いていく傑作。時代小説の旗手といわれる、小杉健治の50作品を超える人気シリーズ「風烈廻り与力・青柳剣一郎シリーズ」の第1作品目です。
ある日、剣一郎が尾けていた男が2人の刺客に襲われ、駆け付けると、いきなり五尺はある長剣が剣一郎の袂を裂きました。さらに、一刀流の剛剣がうなりを発して迫ります。
折しも、旗本の子女が立て続けに自死する事件が続くなかで、富商・大和屋が斬殺される事件が発生。なぜか、その目撃者を2人の刺客が執拗に狙っていたのです……。
気高い武士の心を持つ剣一郎のキャラクターが魅力的で、ミステリー要素もあるのがポイント。江戸時代の時代小説を読みたい方や、読みごたえのあるシリーズを読み進めたい方におすすめです。
第29位 波乱 百万石の留守居役 一
講談社 著者:上田秀人
時代小説の大本命ともいわれる、上田秀人の人気作品。若く強すぎる藩の外交官を描いた「百万石の留守居役シリーズ」の第1作品目です。
外様第一の加賀藩で、筆頭家老・本多政長は、五万石を誇っていました。さらに、江戸城の実権を大老・酒井忠清らが握っています。なんと、忠清は外様大名で加賀藩主・前田綱紀を、次期将軍に擁立しようとします。
外様つぶしの策略か、親藩入りの好機かと、藩内の論は真っ二つ。そして、襲撃された重心・前田直作を助けた瀬能数馬の運命も、動き出そうとしていたのです……。
幕府の陰謀と、加賀百万石の確執の表現がリアルで、物語の世界に入り込みやすいのが魅力。下からの目線で幕府を描いた時代小説に触れたい方におすすめです。
第30位 風林火山
新潮社 著者:井上靖
ノーベル賞候補にも挙げられた名作家・井上靖が、戦国時代の天才軍師・山本勘助を主人公に描いた、ロマンあふれる歴史小説。NHK大河ドラマ化もされた名作です。
山本勘助は、自ら謀殺した諏訪頼重の娘・由布姫を、武田信玄の側室として子供を産ませ、諏訪一族との宥和を計ります。しかし、由布姫は信玄の子を産みながらなお、一族の敵として信玄の命を狙っていました。
気高き姫への思慕の念を胸にして、川中島の激戦に散ってゆく勘助の眼前に、風林火山の旗がなびき、上杉謙信との決戦の時が迫ってくるのです……。
夢半ばで歴史から過ぎ去っていった、勘助を含む勇敢な人々の姿を、華麗な筆致で描いています。人間味あふれる人物描写や、迫力ある戦闘シーンにより、物語の世界に引き込まれやすいのも魅力。歴史小説の初心者にもおすすめの傑作です。
第31位 利休にたずねよ
文藝春秋 著者:山本兼一
第140回直木賞受賞作で、山本文学の金字塔とされる長編歴史小説。千利休に艶やかな感性を与えたといわれる、秘めた恋や人生の謎に迫った作品です。2013年には映画化もされました。
女物と思われる緑釉の香合を肌身離さずに持ち、おのれの美学を貫き、豊臣秀吉に切腹を命ぜられた千利休。彼の心のなかに棲んでいたのは、19歳のときに殺した女性だったのです……。
利休の研ぎ澄まされた感性や、気迫に満ちた人生を生み出したものとは、利休を「茶の道」へ導いた若き日の恋とは何だったのでしょうか。
利休を中心にさまざまな人物の視点で物語が進みます。徐々に利休の謎が解き明かされていくため、推理小説のように楽しめるのが魅力。茶道が好きな方や、構成力に優れた傑作に触れたい方におすすめです。
第32位 霧隠才蔵 上
KADOKAWA 著者:火坂雅志
後に真田幸村の人柄に惚れて「真田十勇士」のひとりとして加わることになる、孤高の伊賀忍者・霧隠才蔵を中心に、壮大なスケールで描かれた傑作時代小説です。
異例の長身で伊賀一の術者である才蔵は、徳川家の命により、巻物『愛宕裏百韻』の探索を行っていました。その巻物には、徳川幕府の根底をくつがえす秘密が隠されているといいます。
しかし、豊臣家の復興を目論んでいる真田幸村も、同じく伊賀忍者・猿飛佐助に巻物の奪取を命じました。関ヶ原合戦後に起こった天下争いの背後で、秘術を駆使した暗闘が始まるのです……。
魅力的な登場人物や分かりやすい文体により、どんどん読み進めやすいのがポイント。忍者ものに興味がある方におすすめの作品です。
第33位 あきない世傳 金と銀 源流篇
角川春樹事務所 著者:髙田郁
呉服商「五鈴屋」へ奉公に出た主人公・幸の商道を描いた時代小説。「あきない世傳 金と銀シリーズ」の第1作品目です。
幸はモノがさっぱり売れない享保期、摂津・津門村に学者の子として生を受けます。父から”商は詐なり”と教えられて育ちますが、享保の大飢饉、家族との別離を経て、9歳で大坂・天満にある五鈴屋に奉公へ出されることになりました。
一生鍋の底を磨いて過ごす女衆でありながら、番頭・治兵衛に才を認められ、幸は次第に商いに心を惹かれるようになっていくというあらすじです。
辛い境遇であるものの、周囲の人々に見守られながら成長していく幸の姿が見どころ。初心者にも読みやすく、商人の物語が好きな方におすすめの小説です。
第34位 徳川家康 一 出生乱離の巻
講談社 著者:山岡荘八
剛毅と智謀を兼ね備え泰平の世を切り拓いた、徳川家康の生涯を描く感動の歴史小説です。全26巻の巨編で、吉川英治文学賞受賞作。NHKで大河ドラマ化もされたほか、映画化・舞台化・マンガ化もされました。
第1巻では家康の誕生が描かれています。竹千代(家康)が生まれた年に、信玄は22歳、謙信は13歳、信長は9歳でした。
動乱期の英傑たちが天下制覇の夢を抱くさなかだったため、竹千代の誕生は弱小の松平党にとって希望の星だったのです……。
人物の心情描写が秀逸で、家康の人生を追体験しやすいのが魅力。日本一長い時代小説でもあり、徳川家康の生涯をじっくり追いたい方におすすめです。
第35位 真田太平記 一 天魔の夏
新潮社 著者:池波正太郎
名将の真田昌幸・信之・幸村親子の活躍をテーマに描いた歴史小説。全12巻で、池波正太郎の「真田もの」のなかでも集大成とされる傑作です。ドラマ化やマンガ化もされました。
時は天正10年3月。織田・徳川連合軍により、戦国随一の強さを誇った武田軍団が滅ぼされてしまいました。物語は、宿将・真田昌幸が上・信二州に孤立し、試練のときを迎えたところから始まります。
天下の帰趨を探るべく真田の忍びたちを四方に飛ばし、新しい時代の主・織田信長に一旦は従いますが、その夏、またも驚天動地の時代が待ち受けているのです……。
真田家の波乱万丈な歴史をたどった大作で、人間味のある魅力的な人物描写や、ドラマチックな展開が魅力の作品。戦国時代の歴史小説や、真田ものに興味がある方におすすめです。
第36位 流離 決定版
光文社 著者:佐伯泰英
江戸の遊郭・吉原を陰で守る、神守幹次郎と汀女夫婦の活躍を描いた時代小説。「吉原裏同心シリーズ」第1作品目で、現在も新刊が発表され続けています。
安永5年、豊後岡藩で馬廻り役を務める幹次郎は、意に沿わない婚姻で苦しむ、納戸頭ので幼なじみの妻・汀女と出奔します。2人は妻仇討の追っ手から逃れ、当てのない流浪の旅に出ました。
やがて、江戸に出た幹次郎と汀女は、幕府が唯一許しを与えた吉原で、2人の追っ手に加わっていた汀女の弟・信一郎の危難に出くわしますが……。
2人が吉原裏同心になるまでのいきさつがリアルに描かれており、物語への没入感が得やすい傑作。テンポがよいため読みやすく痛快な、おすすめの時代小説シリーズです。
第37位 塞王の楯 上
集英社 著者:今村翔吾
「絶対に破られない石垣」と「どんな城をも落とす鉄砲」、それぞれの職人同士の誇りをかけた戦いを描いた戦国歴史小説。2022年には第166回直木賞を受賞し、話題になりました。
幼いころ、落城によって家族を喪った石工・匡介。彼は、「絶対に破られない石垣」を作れば、世から戦をなくせると思っていました。一方で、戦で父を喪った鉄砲職人・彦九郎は「どんな城をも落とす砲」で人を殺し、恐怖を天下に知らしめることで戦をする者はいなくなると考えていたのです。
そして、秀吉が病死し、匡介は京極高次に大津城の石垣の改修を、彦九郎は攻め手の石田三成に鉄砲作りをそれぞれ任され、信念をかけた職人の対決が幕を開けます。
何重にも張り巡らされた伏線からラストへと向かう物語の流れや、大津城の細やかな描写などが魅力の1冊。読みやすい話題の作品に触れたい方におすすめです。
第38位 炎環
文藝春秋 著者:永井路子
源頼朝の挙兵や、鎌倉幕府の成立を描き、直木賞を受賞した傑作歴史小説。永井文学の原点ともいわれています。NHK大河ドラマ『草燃える』の原作のひとつで、累計50万部を突破しているベストセラーです。
京の権力に圧迫され続けてきた東国に、ひとつの灯がともります。源頼朝の挙兵はまたたく間に関東の野をおおい、鎌倉幕府が成立。本作では、鎌倉の若い権力の周辺で生き、愛し、闘う武将たちや女人たちを描いています。
ひとりひとりが主役のつもりでひしめき合い、傷つけあううちに歴史の流れが変わっていくことを描いた傑作。源頼朝・義経・北条時政・北条政子・阿野全成・阿波局・梶原景時・三浦義村といった、鎌倉時代に活躍した人々の生きざまを見たい方におすすめです。
第39位 蝉しぐれ
文藝春秋 著者:藤沢周平
過酷な運命に翻弄されながらも成長していく、少年藩士・牧文四郎の姿を豊かな光のなかに描いた時代小説。藤沢文学の代表的傑作といわれ、ドラマ化・映画化・舞台化もされています。
物語の舞台は、東北の小藩・海坂藩です。清流と木立に囲まれた静かな城下組屋敷での、文四郎の少年の日の淡い恋や友情、突然の父の非業の死。そして、微禄の武士となった彼は、遥かな存在となった初恋の女性への思いを胸に、悲運と闘いながら、父の仇を打つべく己を鍛え続けるのです……。
丁寧に描かれた文四郎の姿や、緻密な心理描写など、みずみずしさを感じられる1冊。切ないながらも爽やかで美しい、名作時代小説に触れたい方におすすめです。
第40位 黒牢城
KADOKAWA 著者:米澤穂信
歴史小説の精髄とミステリー小説の王道を併せ持った、米澤穂信の直木賞受賞作。また、山田風太郎賞や国内4大ミステリーランキングで第1位を獲得する史上初の快挙を成し遂げました。
物語は本能寺の変より4年前、天正6年の冬の戦国時代。織田信長に背いて有岡城に立てこもった荒木村重は、城内で起きる難事件に翻弄されます。動揺する人々を落ち着かせるため、村重は土牢の囚人で織田側の軍師・黒田官兵衛に謎を解くように求めました。
城という巨大な密室のなかで起こった、4つの事件の裏には何が潜んでいるのでしょうか。そして、官兵衛は何を企むのでしょうか。戦や推理、劇的な人間ドラマが繰り広げられます。
村重と官兵衛、2人の心理戦が緻密に描かれていたり、戦国時代の価値観や慣習が盛り込まれていたりと読みごたえのある1冊。歴史小説初心者や、ミステリーが好きな方にもおすすめです。
第41位 おそろし 三島屋変調百物語事始
KADOKAWA 著者:宮部みゆき
宮部みゆきのライフワークともされ、精力的に書き継いでいる時代小説シリーズ第1作品目。江戸の袋物屋「三島屋」の白黒の間に訪れた客が、”語って語り捨て、聞いて聞き捨て”というルールのもと、怖い話や不思議な話を語る連作短編です。
主人公は、ある事件を境に、他人に心を閉ざした17歳のおちか。彼女は叔父夫婦が江戸で営む「三島屋」に身を寄せ、ふさぎ込む日々を、黙々と働くことでやり過ごしていました。
ある日、叔父・伊兵衛はおちかに、これから訪ねてくる客の応対を任せて出かけてしまいます。そして、客と出会ったおちかは、次第に話に引き込まれていき……。
人間の心情描写が秀逸で、宮部みゆきの筆力により、読者を引き込むような魅力のある1冊。ゾッとしたり悲しかったりと怖い面もある一方で、美しくファンタジックな雰囲気もあります。ホラーが好きな方や、時代小説の初心者にもおすすめの1冊です。
第42位 星落ちて、なお
文藝春秋 著者:澤田瞳子
奇才と呼ばれる幕末明治の絵師・河鍋暁斎を父に持つ娘・とよの一代記。澤田瞳子作品としては5度目のノミネートで、2021年に直木賞を受賞した作品です。
物語は明治22年、河鍋暁斎が亡くなるところから始まります。彼の門下でずっと身の回りの世話をしていたとよに対して、ことあるごとに難癖をつける腹違いの兄・周三郎。そして、弟・記六は金を無心に来る有様で、妹・きくは病弱で床に臥せる日々を送っています。
また、写真や洋画の流行で、暁斎の門下が描く絵にも時代の荒波が押し寄せていました。河鍋家と門弟の間で辛うじて保たれていた均衡が崩れつつあり、河鍋一門の行く末は、とよにかかっているのです……。
とよが時代の制約のなかで、葛藤したり苦悩したりしながら、懸命に生きる道を模索していく姿が胸を打つ傑作。女性の人生を描いた傑作に触れたい方や、働いている方におすすめの時代小説です。
第43位 御鑓拝借 酔いどれ小籐次 一 決定版
文藝春秋 著者:佐伯泰英
剣の達人にして無類の酒好きな、赤目小籐次の活躍を描いた時代小説です。全19巻の「酔いどれ小籐次留書シリーズ」第1作品目。ドラマ化もされており、「居眠り磐音シリーズ」に次ぐ、佐伯泰英の人気シリーズです。
身の丈は五尺一寸、風采の上がらない五十男の赤目小籐次。豊後国森藩から解かれ、浪人となった彼には胸に秘する決意があります。それは、旧主・久留島通嘉の受けた恥辱をすすぐことでした。備中次直二尺一寸三分を手にして、大名四藩を相手に、小籐次独りの闘いが幕を開けます。
実は来島水軍流の凄まじい遣い手という小籐次の活躍に、胸を躍らせる読者も多い作品。痛快で面白い時代小説シリーズを読みたい方におすすめです。
第44位 きたきた捕物帖
PHP研究所 著者:宮部みゆき
謎解き・怪異・人情と、さまざまな要素が楽しめる時代ミステリー小説。江戸の深川で、2人の「きたさん」が事件を解決しつつ成長していく、「きたきた捕物帖シリーズ」の第1作品目です。
ヘタレで半人前の岡っ引き見習いで16歳の北一は、文庫売りで生計を立てていました。そんな彼が、相棒となる湯屋の釜焚き・喜多次と出逢い、親分のおかみさんや周りの人たちの協力を得ながら、事件や不思議な出来事を説き明かしていく物語です。
現代社会にただよう閉塞感を吹き飛ばしてくれるような、痛快感を味わえます。宮部みゆきの別作品や『桜ほうさら』や、『〈完本〉初ものがたり』など、ほかの宮部みゆき作品とリンクしているのもポイント。ミステリーが好きな方にもおすすめの時代小説です。
第45位 用心棒日月抄
新潮社 著者:藤沢周平
用心棒稼業に身をやつした主人公の青江又八郎が、行く先々で出会う出来事を描く連作時代小説です。藤沢周平初期の代表作で、本作品と『孤剣』『刺客』『凶刃』の全4巻。『江戸の用心棒』や『腕におぼえあり』などのタイトルで、何度かドラマ化もされています。
26歳の又八郎は、ある理由から人を斬り脱藩。国許からの刺客に追われながら、江戸の裏店(うらだな)で、用心棒稼業に手を染めます。
しかし、ちまたを騒がせている赤穂浪士の隠れた動きが活発になるにつれ、請け負う仕事はなぜか、浅野と吉良両家の争いの周辺のことで……。
藤沢周平がユーモアの要素を取り入れたと発言しており、明るく爽やかな、エンタメ時代小説に仕上げられています。1話1話が短いため読みやすく、初心者にもおすすめの作品です。
第46位 超高速!参勤交代
講談社 著者:土橋章宏
弱小貧乏藩・磐城湯長谷藩の知恵と勇気の参勤交代の様子を描いた時代劇ドラマです。土橋章宏が映画向け脚本として書いたものが、優秀な脚本に贈られる城戸賞に輝き、本人によって小説化。映画化作品も大ヒットした人気作品です。
1735年初夏、改革の嵐が吹きすさぶ、8代将軍・徳川吉宗の時代。わずか1万5000石の磐城湯長谷藩に、隠し金山の疑いがかかり、幕府の老中から”5日以内に参勤せねば、藩を取り潰す”と難題をふっかけられます。
それは、8日はかかる60里以上もの道のりを、実質4日で走破しなければならないというもの。金も時間もない若殿様以下7人は、江戸城本丸に向けてひた走りますが、一行の前には、公儀隠密・御庭番・百人番所といった精鋭部隊が立ちはだかります。彼らの運命はどうなるのでしょうか。
笑えるシーンや泣けるシーンが満載で、読み進めやすく、普段あまり読書をしない方にも向いています。痛快な時代エンターテインメント小説を読みたい方におすすめです。
第47位 まるまるの毬
講談社 著者:西條奈加
親子三代で菓子を商う「南星屋」を舞台に、愛嬌にあふれゆるぎない人の心のあたたかさを描いた、「口福」な時代小説。吉川英治文学新人賞受賞作で、Webサイト「読書メーター」の読みたい本ランキング文庫部門では1位に輝きました。
南星屋は売り切れご免の繁盛店。武家の身分を捨て、職人となった店主の治兵衛と、出戻り娘・お永、ひと粒種の看板娘・お君で切り盛りしていました。しかし、この店には他人には言えぬ秘密があったのです……。
おいしそうなお菓子や、登場人物のあふれる人情により、心あたたまる読者が多い1冊。読書初心者にも向いており、ほのぼのした時代小説を読みたい方におすすめです。
第48位 火怨 北の燿星アテルイ 上
講談社 著者:高橋克彦
古代東北の英雄・阿弖流為の生涯を、空前のスケールで描いた、歴史冒険巨編。吉川英治文学賞受賞作で、2012年にはドラマ化もされました。
得体の知れない蝦夷と蔑まれながらも、東北で平和に暮らしていた陸奥の民。しかし、8世紀に入り金の産出や、「伊治鮮麻呂の反乱」をきっかけに、朝廷の支配が本格化します。
圧倒的な戦力を誇る朝廷の大群に、蝦夷の若きリーダー・阿弖流為が、蝦夷のすべての期待を背負い立ち上がるのです……。
個性的な登場人物たちやダイナミックなストーリーに、魅了される読者も多い作品。史料が少ない謎多き古代日本を描いた、感動の歴史小説に触れたい方におすすめです。
第49位 西郷札 傑作短編集 三
新潮社 著者:松本清張
物語の時代背景が、幕末から明治維新の6編と、徳川時代初期の6編の全12編を収録した、松本清張の時代小説第1集です。表題作は同氏のデビュー作で、直木賞にもノミネート。ドラマ化もされました。
表題作は、西南戦争のときに薩軍が発行した軍票をもとに、一獲千金を夢見た男と破滅を描いたもの。ほかにも、政治家・江藤新平の末路を描き、同じ権力機構内にいる人々のあつれきや、対照的な勝敗を浮かび上がらせた『梟示抄』など、異色の時代小説が収められています。
秀逸な時代描写や人物の心理描写など、松本清張の手腕が発揮されている傑作です。1編1編が短く読みやすいのもポイント。独特の雰囲気が味わえる、おすすめの時代小説です。
第50位 家康 信長との同盟 一
幻冬舎 著者:安部龍太郎
直木賞作家・安部龍太郎が家康を描き、同氏の戦国時代小説の集大成ともされる波乱万丈の作品。信長でも秀吉でもなく、なぜ家康が戦国の覇者となれたのかを、新たな歴史観で描き切っています。
第1巻は、家康が19歳で桶狭間の戦いに出て、大敗するところからスタート。敗戦を機に、松平元康(後の家康)は、信長と同盟を結びます。先見性や経済力を武器にのし上がる天才を目の当たりにして、単なる領地争いの時代は終わったのだと実感する元康。そして、彼は平安の世を目指していきます。
従来の家康にまつわる説とは、違った解釈がいくつもあるのが見どころ。新鮮な家康像が見られる、おすすめの歴史小説です。
第51位 水滸伝 1 曙光の章
集英社 著者:北方謙三
中国・明代の長編小説を、ハードボイルド小説や歴史小説の名作家・北方健三が描いた全19巻+別巻の大作。司馬遼太郎賞を受賞しています。
時代は12世紀の北宋末期、重税と暴政によって国は乱れ、民は困窮していました。汚濁しきった政府を倒そうと立ち上がった漢たちは、圧倒的な官軍に挑みます。
地位を捨て、愛する者を失い、自らの命を懸けて戦う漢たちの姿に胸を熱くする読者も多い傑作。壮大で長い物語ながら読みやすく、中国を題材にした名作歴史小説を読みたい方におすすめです。
第52位 あかね空
文藝春秋 著者:山本一力
人情時代小説の名手と名高い山本一力の、第126回直木賞受賞作です。豆腐屋一家の二代にわたる物語。2007年には内野聖陽と中谷美紀主演で映画化もされています。
豆腐職人の栄吉は、希望と不安を胸に、その身ひとつで京から江戸へ下ってきました。おのれの力量一筋で生きる彼を支えるおふみ。やがて2人は夫婦となり、京と江戸の味覚の違いに悩みながら、やっとの思いで表通りに店を構えます。
さまざまな困難を乗り越え、何とか光が差してきた2人は、やがて3人の子供に恵まれました。しかし、あるときから、なぜかおふみは長男の栄太郎ばかりかわいがるようになります。やがて、一家に暗い影が落ちて……。
会話が多いので、時代小説初心者でも読みやすい作品。成功だけでなく、その裏にある葛藤など人情の機微を描いており、家族の絆について考えさせられます。しみじみとした人情噺の傑作を読みたい方におすすめです。
第53位 火喰鳥 羽州ぼろ鳶組
祥伝社 著者:今村翔吾
元侍火消の再生と再起を描いた時代小説「羽州ぼろ鳶組シリーズ」の第1作品目。2017年に啓文堂書店時代小説文庫大賞を受賞し、2018年にはオーディオドラマ化されています。
かつて江戸随一といわれていた武家火消・松永源吾。”火喰鳥”と呼ばれていた彼は、5年前のある火事が原因で、定火消を辞して、妻・深雪と貧乏浪人暮らしをしていました。
そんなある日、源吾のもとに出羽新庄藩から、突然”壊滅した藩の火消組織を再建してほしい”という誘いが来ます。少ない予算で立て直しを図ったため、”ぼろ鳶”と揶揄される寄せ集めの火消たちを率いて、源吾は昔の輝きを取り戻せるのでしょうか。
源吾をはじめとして、人の命を守るために突っ走っていく火消たちの姿に胸が熱くなる傑作。ストーリーもテンポよく疾走感があるため、サクサク読み進められます。エンターテインメント性が高く、熱い時代小説を読みたい方におすすめです。
第54位 家康、江戸を建てる
祥伝社 著者:門井慶喜
ピンチをチャンスに変えた、究極の天下人・家康による、面目躍如の挑戦を描いた快作。直木賞にノミネートされ、ドラマ化もされました。
天正18年、落ちゆく小田原城を眺めながら、関白・豊臣秀吉は家康に”北条家の関東二百四十万石を差し上げよう”とささやきます。
その真意は、湿地ばかりが広がる土地と、豊穣な駿河や遠江・三河・甲斐・信濃との交換というもの。しかし、家臣たちが激怒するなか、家康はその要求を受け入れるのです……。
壮大な荒野を開拓し、情熱を傾けて現在の東京を「建てた」、家康や家臣、職人たちの姿が生き生きと描かれているのが魅力。歴史ファンと建築ファン両方を虜にしたといわれ、多くの読者の支持を得たおすすめの1冊です。
第55位 陰陽師
文藝春秋 著者:夢枕獏
平安時代の名高い陰陽師・安倍晴明が、この世ならぬ不可思議な難事件を鮮やかに解決していく様子を描いた伝記ロマン小説。「陰陽師シリーズ」最初の物語で、現在も新刊が発表され続けています。マンガ・映画・ドラマなどさまざまなメディアミックス作品が展開されている人気作品です。
安倍晴明は、従四位下で、大内裏の陰陽寮に属していました。彼は、死霊や生霊、鬼など、普通の人間には見えない妖を相手に事件を解決。一方で、親友・源博雅が霊感はまるでないものの、刀では敵なしの強さを誇っており、2人が力を合わせて物の怪に挑んでいきます。
小説に「陰陽師」というジャンルを確立させたともいわれ、各界に影響を与えた名作。古典が苦手な方にもおすすめの歴史小説です。
第56位 黄砂の籠城 上
講談社 著者:松岡圭祐
日本人の叡智や勇気を初めて世界が認めた、義和団の乱と北京の籠城戦をテーマに描かれた、歴史エンターテインメント小説です。
1900年春、外国人敗訴を叫ぶ武装集団・義和団の勢力が増している砂塵舞う北京。義和団は暴徒化して教会を焼き、外国公使館区域を包囲していました。
それに対抗するべく結成された、日・英・米・露・独・仏・伊などの列強11ヵ国による多国籍軍。足並みが揃わない軍を先導したのは、新任の北京駐在武官・柴五郎だったのです。
驚くべき犯人の正体が明らかになるミステリー要素のほか、臨場感あふれる緊迫した戦闘シーンがあり、アクション小説としても楽しめます。読む手が止まらない、スリリングな作品に触れたい方におすすめです。
第57位 天を衝く 1
講談社 著者:高橋克彦
高橋克彦が、故郷を舞台に熱い思いを込めて描いた、『炎立つ』『火怨』に続く歴史巨編「陸奥三部作」の最終章。独自の史観で、北の英雄・九戸政実や、戦国の隠れた豪傑たちの熱い魂を描いています。
時は織田信長が天下布武を掲げたころ、陸奥の南部家では内紛が続いていました。そして、新たな時代を予見する九戸党の棟梁で、戦の天才で”北の鬼”といわれる政実はついに宗家を見切り、武者揃いの一族郎党を束ねて、東北の地を駆けめぐるのです……。
政実の真っ直ぐな生きざまに、心打たれる読者も多い作品。あまり触れられない、東北の歴史小説を読みたい方におすすめです。
第58位 咸臨丸、サンフランシスコにて
KADOKAWA 著者:植松三十里
歴史時代小説家・植松三十里の原点ともいわれる、歴史文学賞受賞作。アメリカ人水夫との対立や、士官・中浜万次郎への反発など不穏な空気のなか、「咸臨丸」で勇敢に太平洋横断に挑んだ水夫たちの運命を描いた作品です。
安政7年、条約批准のために遣米使節団を乗せ、江戸湾を出港した咸臨丸。勝海舟が船長を務め、瀬戸内の吉松ら日本人水夫が乗り組みました。しかし、船は悪天候に悩まされ、病気も蔓延してしまうのです……。
歴史に名を残す人々の裏で、偉業を成し遂げた人々の姿に感銘を受ける読者も多い傑作。なかなかスポットが当たらない、歴史の裏で起こった奮闘を見たい方におすすめです。
第59位 地図と拳
集英社 著者:小川哲
“日本SF界の新星”といわれる小川哲による、歴史×空想巨編小説です。日露戦争前夜から第2次大戦まで、半世紀を生きた男たちの運命を描いた作品。2022年に山田風太郎賞、2023年には直木賞を受賞しています。
架空都市「李家鎮」が物語の舞台です。奉天の東に、密が流れる川や燃える土に富む桃源郷があると聞きつけ、満州の名もなき街に呼び寄せられた男たち。殺戮の半世紀を生きる、彼らの運命はどうなるのでしょうか。
地図・建築・国・戦争などのテーマが絡み合った、複雑な世界観で描かれています。多くの登場人物がさまざまな思念を持って行動し、意外な形でつながっていくのがポイント。長い年月で描かれる、重厚感のある群像劇を読みたい方におすすめです。
第60位 木挽町のあだ討ち
新潮社 著者:永井紗耶子
ミステリー風に描かれた長編時代小説です。江戸の芝居小屋の近くで起きた惨劇の真相が、目撃者の証言によって浮かび上がっていく人情味あふれるストーリー。2023年に山本周五郎賞を受賞しているほか、直木賞にもノミネートされています。
ある雪の降る夜、芝居小屋のすぐそばでの出来事。美しい若衆・菊之助が自分の父親を殺めた下男を斬り、見事な仇討ちが成し遂げられます。下男の首を高くかかげた菊之助は、多くの人々から称賛されました。
それから2年が経ち、菊之助の縁者だという1人の侍が、仇討ちの一部始終を知りたいと芝居小屋を訪れますが……。
仕掛けが秀逸で、想像を超える驚きが待ち構えているのがポイント。”現代人の心を揺さぶり勇気づける”と謳われており、感動する読者も大勢います。ミステリーが好きな方や、時代小説初心者にもおすすめの1冊です。
第61位 狐のちょうちん 公家武者信平ことはじめ
講談社 著者:佐々木裕一
名門の鷹司松平家を立ち上げた、実在の公家大名・松平信平が成り上がっていく時代小説シリーズ。「ことはじめ」シリーズでは松平信平の若き日を描いています。
1636年、公家としては最高といわれた家格の鷹司家に生まれた信平。15歳になった彼は仏門に入ることを嫌い、将軍・家光の正室で姉の孝子を頼って江戸に出ました。
五十石の貧乏旗本暮らしを始めた信平。清い心と秘剣の腕を持つ彼は、江戸を大きく揺り動かしていきます。
信平が悪を斬っていく様子が痛快な、エンターテインメント性の高い作品。初心者でもサクサクと読み進めやすく、勧善懲悪ものが好きな方におすすめです。
第62位 小説フランス革命 1 革命のライオン
集英社 著者:佐藤賢一
フランス革命を題材にした、全18巻からなる歴史小説の巨編。数々の歴史小説を手がける直木賞作家・佐藤賢一の代表作のひとつで、2014年に毎日出版文化賞特別賞を受賞しています。
1789年、フランス王国は破産の危機に瀕していました。大凶作による飢えや物価高騰によって苦しむ、民衆の怒りは爆発寸前です。財政立て直しをするため、国王のルイ16世は170余年ぶりに「全国三部会」を招集します。
そこで、貴族でありながら民衆から絶大な支持を得た主人公・ミラボー。平民代表として議会に乗り込みますが、彼には想像もしない難題が待ち構えているのです……。
佐藤賢一が18世紀末の書物や新聞などを読み漁った労作で、人物像や演説の内容などを詳細に描いています。登場人物についての詳細や会話、心理描写などにも触れられ、分かりやすいのもポイント。世界史にまつわる歴史小説を読みたい方におすすめです。
第63位 ローマ人の物語1 ローマは一日にして成らず上
新潮社 著者:塩野七生
ローマの1300年にわたる攻防を描き切った歴史小説シリーズ。1992~2006年にかけて、単行本で計15冊が刊行されました。1993年には新潮学芸賞、1999年には司馬遼太郎賞を受賞しています。
前753年に、1人の若者・ロムルスと彼に従う3000人のラテン人によって、ローマは建国されました。7代続く王政のもと、ローマは国家としての形態を整えていきますが、前509年に共和政へ移行します。その後は、成文法制定のため、先進国のギリシアへ視察団を派遣。ローマ人は絶頂期のギリシアに何を見たのでしょうか。
本作品ではローマ建国からイタリアを統一するまでの、帝国誕生期にあたる500年に生きた、王・貴族・庶民に焦点を当て、足跡や周辺事情などを丁寧に追っていきます。
塩野七生の手により、ローマ人の様子が俯瞰的に生き生きと描かれているのがポイント。歴史だけでなく、当時の政治の仕組みや古代ローマ人の考え方などが分かる、面白い歴史解説書としても楽しめます。世界史に興味がある方におすすめの歴史大作です。
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今回は名作中の名作とされる作品から、近年話題の作品まで、面白い歴史・時代小説をご紹介しました。年代も違えば国も違う人間ドラマが詰まっており、時代背景も学べる魅力的な小説が多数あります。まだ手に取ったことがない方も、ある程度読み込んだ方も、本記事を参考にお気に入りの作品を見つけてみてください。