理想的なユートピアとは反対の暗黒世界を舞台にした「ディストピア小説」。行動や思想の自由が制限された社会やテクノロジーが発達しすぎた近未来などを題材にしています。現代の日本とは異なる価値観の世界を擬似体験できるのが魅力です。

今回は、そんなディストピア小説のおすすめをご紹介。何十年も読み継がれる古典や最近の作品から、手に取りたい名作を厳選しました。深く考えさせられる読書体験を味わってみてください。

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ディストピア小説とは?

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ディストピア小説とは、理想的な社会であるユートピアとは反対の暗黒世界を舞台にした物語作品のことを指します。自由が制限された徹底的な管理社会や暴力が支配する世界、テクノロジーが暴走した近未来などがディストピア小説に代表的な世界観です。

監視社会や表現規制を風刺的に描いている作品が多いのがディストピア小説の特徴。人々の行動や思想が極端に偏った社会で、登場人物たちがどのように生きるのかが見どころになっています。

ディストピア小説の魅力は、現代社会とは異なる価値観の世界を擬似体験しながら、現実社会への警鐘や社会批判を読み取れること。古典とされる作品でも現代社会でありうる危機が多く描かれており、現実に照らし合わせて考えるきっかけにもなります。

思考実験ができる哲学的な物語や、独自の設定で作り込まれたSF的な世界観の小説が好きな方にディストピア小説はおすすめです。

ディストピア小説のおすすめ

すばらしい新世界 新訳版

早川書房 著者:オルダス・ハクスリー

すばらしい新世界 新訳版

ディストピア小説の古典として有名なオルダス・ハクスリーの長編SF小説。1932年刊行の作品でありながら、テクノロジーの発展を巧みに予言するような世界観を描いているのが特徴。現代でも高い人気を有する不朽の名作です。

時は26世紀。世界戦争が終結し、人類は安定を至上命題とした世界を形成します。人間たちは工場で生産され、遺伝子の選別のもとで5つの階級に分類。徹底的に区別されていました。孤独な青年・バーナードは、野人保護区で恐ろしい存在を目の当たりにします。

快楽薬の配給によって不満とは無縁の安定を手に入れた超科学的な社会の有り様が、ユーモアを交えた筆致で描かれます。不快を取り除いた社会は真の幸福と言えるのか、人間の尊厳とは何かを考えさせられる、おすすめのディストピア小説です。

動物農場 新訳版

早川書房 著者:ジョージ・オーウェル

動物農場 新訳版

“『一九八四年』と並ぶオーウェルもう一つの代表作”と評される、ディストピア小説の傑作です。搾取していた人間を追い出し、自ら農場を運営するようになった動物たちが主人公。彼らの革命と、その行く末が寓話的に描かれます。

“すべての動物は平等である”という掟のもと、動物たちは飲んだくれの農場主に代わって理想的な「動物農場」を設立します。しかし、指導者だったブタは手に入れた特権を利用して、少しずつ独裁的な行動を取るようになり……。

自由と平等を掲げて共和国を築いた農場の動物たちが、次第に恐怖政治に取り込まれていく様が描かれます。社会が独裁へと至っていく過程と思考を、動物たちの多様な姿から垣間見られる1作。権力に対する痛烈な皮肉が込められた、おすすめのディストピア小説です。

華氏451度 新訳版

早川書房 著者:レイ・ブラッドベリ

華氏451度 新訳版

本が禁じられた近未来社会を舞台に、文明に対する鋭い風刺を込めたディストピア小説です。華氏451度とは、書物の紙が引火して燃える温度を指しています。

本を読むこと・所有することを禁じられた社会で、主人公・モンターグは隠されていた書物を焼き尽くす焚書官として働いていました。自分の仕事に誇りを持っていた彼の人生は、風変わりな少女との出会いをきっかけに劇的に変化していくことになります。

超小型ラジオや大画面テレビの普及によって、人々から思考することを奪った社会の姿を克明に描き出したディストピア小説。1950年代を風刺した作品でありながら、現代のメディア社会にも通じるリアルな警鐘を感じられるおすすめ作品です。

わたしを離さないで

早川書房 著者:カズオ・イシグロ

わたしを離さないで

2017年にノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロのディストピア的小説です。不条理な運命のもとに生まれた男女の切ない青春の日々が描かれます。日本でもドラマ化や舞台化がされた人気作です。

キャシー・Hは、「提供者」と呼ばれる人々を世話する優秀な「介護人」。彼女が生まれ育った施設で出会った親友のトミーやルースも「提供者」です。外界とは閉ざされた施設での日々には、残酷な真実が隠されていました。

謎めいた世界観の全容を、過去を回想するキャシーの独白形式で少しずつ明らかにしていく構成が見どころ。ディストピア小説としての過酷な物語のなかに、友情や恋に揺れ動く思春期の男女の心情がていねいに表現されたおすすめの1作です。

虐殺器官 新版

早川書房 著者:伊藤計劃

虐殺器官 新版

ディストピア小説の人気作『ハーモニー』を手掛けた伊藤計劃がおくる”ゼロ年代最高のフィクション”。第7回小松左京賞の最終候補にも選出された、日本発のディストピア小説の名作です。2017年に劇場アニメ化を果たしました。

過激なテロ事件の発生以降、先進諸国は徹底的な管理体制を採用してテロを一掃。一方、後進諸国では内戦や大規模虐殺が頻発し、世界は大きく二分された状態になりつつありました。

米軍大尉クラヴィス・シェパードは、各国の混乱の陰に常に名前が挙がる謎の男ジョン・ポールを追うことに。彼の目的は一体何なのでしょうか。

「虐殺の王」と称された男の謎を明らかにするミステリー要素を軸に、虐殺を引き起こす人間の心理に迫ったディストピア小説。世界観の設定が細部まで作り込まれており、戦争SF小説としても高い評価を集めているおすすめの1作です。

蠅の王 新訳版

早川書房 著者:ウィリアム・ゴールディング

蠅の王 新訳版

ノーベル文学賞受賞作家、ウィリアム・ゴールディングのディストピア小説。無人島に漂着した少年たちの冒険を描くとともに、暴力的で自分本位な人間の本質を抉り出した傑作です。

疎開するために少年たちが乗った飛行機が墜落。南太平洋の無人島に不時着します。生き残った少年たちはリーダーを選び、創意工夫をしながら助けを待つことに。当初、子供だけでの島暮らしは楽しく感じられたものの、次第に苛立ちが広がっていくのです。

救援が来ないなか、のろしの管理や食糧の問題などで対立していく少年たち。閉鎖的な環境で秩序が壊れ、暴力や裏切りが連鎖していく様が、子供ならではの心情とともに描かれます。集団心理の恐ろしさに迫ったディストピア小説のおすすめ作品です。

一九八四年 新訳版

早川書房 著者:ジョージ・オーウェル

一九八四年 新訳版

“ディストピア小説の最高傑作”とも謳われる古典的名作。超全体主義が支配する1984年の社会を舞台に、監視社会の恐ろしさを描いた1作です。1949年に刊行され、今も世界中の読者に読み継がれています。

3つの国に分割統治された1984年の世界。一党独裁制の全体主義社会にある国家・オセアニアで、ウィンストン・スミスは歴史の改ざん業務に従事していました。そんなある日、美しい党員・ジュリアと出会い、反政府地下活動に惹かれていくようになります。

テクノロジーによって国民全体が24時間監視され、思想や行動も制限された社会の姿がリアリティあふれる筆致で描かれます。権力に個人が脅かされる世界観に身に迫るような恐怖を味わえる、ディストピア小説の名著です。

新世界より 上

講談社 著者:貴志祐介

新世界より 上

アニメ化もされた、日本のディストピア小説の人気作。人類が念道力を獲得した1000年後の日本を舞台に、少年少女が隠された歴史を明らかにしていく様が描かれます。2008年に第29回日本SF大賞を受賞しました。

病的なまでに美しいユートピアと化した日本。子供たちは学校によって徹底的に管理され、思考の自由を奪われていました。念道力の扱い方を磨きながら安全な生活を送っていたある日、禁を犯したことをきっかけに見せかけの平和が崩れ始めます。

数多くの異形の生物が生息する謎に満ちた世界で、少年少女のスリリングな冒険と戦いが繰り広げられます。ホラー要素も交えられた怒涛の展開が見どころ。読む手が止まらなかったという読者も多い、おすすめのディストピア小説です。

消滅世界

河出書房新社 著者:村田沙耶香

消滅世界

人工授精で子どもを産むことが常識になった世界に生きる人間の価値観を描いた1作。『コンビニ人間』で芥川賞に輝いた村田沙耶香のディストピア小説です。”日本の未来を予言する小説”と話題になり、2025年に実写映画化が予定されています。

人工授精が社会の当たり前になり、夫婦間の性行為が近親相姦としてタブー視されるようになった世界。主人公・坂口雨音は、恋愛結婚した両親の自然妊娠によって誕生し、そのことに嫌悪感を抱いていました。

やがて、両親とは異なる清潔な結婚生活を営みはじめた雨音。夫とある実験都市に移住したことで、生活は一変します。

性行為や家族が必要とされなくなった世界を題材に、人間の愛と性のあり方に切り込んだ衝撃作。正常とは何かを読者に突きつけます。ゾッとするような読後感を味わえるディストピア小説を読みたい方におすすめです。

アンドロイドは電気羊の夢を見るか?

早川書房 著者:フィリップ・K・ディック

アンドロイドは電気羊の夢を見るか?

第三次世界大戦後の世界を舞台に、人間とアンドロイドの違いに迫ったディストピア小説です。”SF映画の金字塔”とも評された『ブレードランナー』の原作小説としても知られています。

放射能灰によって汚染された大戦後の地球では、生きた動物を持っているかどうかが地位や富の象徴とされていました。人工の電気羊しか持っていない主人公・リック。賞金を得るため、火星から逃亡してきたという8人のアンドロイドの首を狙うことにします。

社会に紛れ込んだアンドロイドを見つけ出し、「処理」していくリック。ですが、次第に「殺害」しているのではという認識に変わっていきます。人間と見分けがつかない精巧なアンドロイドの存在を通して、人間と機械を区別するモノとは何かを問いかけます。映画とは異なるストーリーを楽しめるのもおすすめポイントです。

ロボット(R.U.R)

岩波書店 著者:カレル・チャペック

ロボット(R.U.R)

カレル・チャペックが1920年に発表した戯曲の傑作です。「ロボット」という言葉の語源として有名な記念碑的作品。人造人間が人間に反旗を翻す様を描き、ディストピア小説としてもおすすめの1作です。

ロッスム・ユニバーサル・ロボット(RUR)社は人造人間の製造に成功し、販売を一手に担うようになります。人間の労働をロボットたちが肩代わりすることで、仕事や貧困から解放された人類。しかし、やがてロボットたちは反乱を起こし……。

人類よりはるかに優れた能力を持つようになったロボットたちが、人類の抹殺へと動き出します。機械文明の発展が人類に真の幸福をもたらすのかどうかを正面から問いかけた予言的作品です。

日没

岩波書店 著者:桐野夏生

日没

表現の自由をテーマに、現実の日本と地続きの恐ろしさを描いたディストピア小説。物語は小説家・マッツ夢井のもとに、性や暴力の表現を規制する政府組織「文化文芸倫理向上委員会」から召喚状が届くところからスタートします。

召喚状に従って出頭先に向かった彼女を待ち受けていたのは、断崖絶壁に建てられた療養所。そこには「更生」と称して多くの作家が収容されていたのです。「社会に適応した作品」を書くよう求められるなか、マッツは軟禁状態に置かれてしまいます。

国家権力と世論によって表現の自由が侵害され、言論弾圧へと至っていく様を描いた本作品。現代にも起こりうる不条理が巧みに表現されています。日本人作家のディスピア小説を探している方におすすめの1作です。