日本のヤングアダルト文学を牽引する作家の1人「森絵都」。『カラフル』をはじめとする児童文学の名作を数多く手掛ける一方で、『風に舞いあがるビニールシート』では直木賞を受賞するなど、子供から大人まで楽しめる作品を発表している人気作家です。
今回は、森絵都作品からおすすめの小説をピックアップ。ロングセラーの名作から、比較的新しい作品までご紹介します。ぜひ新たな小説との出会いの参考にしてみてください。
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子供から大人まで楽しめる作品を描く「森絵都」とは?
森絵都は1968年東京都生まれの作家・翻訳家です。日本児童教育専門学校、早稲田大学第二文学部を卒業後、児童文学の創作をしながらアニメのシナリオライターを経験。1990年に『リズム』で第31回講談社児童文学新人賞を受賞し、作家としてデビューを果たします。
児童文学を中心に作家活動をスタートさせた森絵都。『宇宙のみなしご』で第33回野間児童文芸新人賞、『カラフル』で第46回産経児童出版文化賞など、数々の児童文学賞に輝きました。その後、一般文芸の分野にも世界観を広げ、『風に舞いあがるビニールシート』では第135回直木賞を受賞しています。
小説以外に幼年童話や絵本なども手掛けており、子供から大人まで幅広い世代が楽しめる作品を数多く発表している人気作家です。
森絵都作品の魅力
登場人物の繊細な感情を巧みに描き、世代を問わず共感しやすいのが森絵都作品の魅力。特にヤングアダルト作品では、思春期ならではの閉塞感や人間関係への葛藤などがみずみずしく表現されています。中学受験の国語の問題にたびたび採用されているのも特徴です。
森絵都作品には、シビアな現実問題が織り交ぜられているモノが数多くあります。しかし、ユーモアを感じられる筆致で物語の重さを感じさせず、読みやすいのが魅力。前向きに生きる勇気を得られるような読後感の作品が多く揃っています。
また、森絵都は短編小説の名手としても知られているのが特徴。直木賞を受賞した『風に舞いあがるビニールシート』をはじめ、読みごたえのある短編小説で高い評価を得ています。日頃、長編小説を読み慣れていない方や、これから小説を読む習慣をつけたい方の入口としても森絵都作品はおすすめです。
森絵都のおすすめ小説
カラフル
文藝春秋 著者:森絵都
“ヤングアダルト小説の金字塔”と評される森絵都の代表作です。第46回産経児童出版文化賞を受賞。劇場アニメ化されたほか、2022年には『HOMESTAY』のタイトルで実写映画化もされています。
生前に罪を犯したために、輪廻転生のサイクルから外された主人公。二度と生まれ変われないはずでしたが、天使業界の抽選に当たり、サイクルに戻るための再挑戦をすることになります。クリアの条件とは、自殺未遂をした中学生・小林真の身体で生活を送り、犯した罪を思い出すことでした。
ロングセラーで幅広い世代から支持される、青春小説の不朽の名作。ファンタジーテイストな設定をベースに、学校や家庭に対する中学生のリアルな苦悩や閉塞感がユーモアを交えながら鮮やかに表現されています。森絵都の小説を読んでみたい方に、まずおすすめの1作です。
みかづき
集英社 著者:森絵都
学習塾業界を題材に、昭和から平成にわたる親子3世代の奮闘を描いた感動の大河ロマン小説。2017年の本屋大賞で第2位に輝き、第12回中央公論文芸賞を受賞した森絵都の人気作です。2019年にはテレビドラマ化もされています。
物語の始まりは昭和36年。小学校の用務員を務めながら子供たちに勉強を教えていた大島吾郎は、児童の母・赤坂千明とともに学習塾を開きます。やがて2人は結婚し、新たな家庭を築くことに。戦後のベビーブームや経済成長のあおりを受けて、塾は順調に拡大していきますが……。
塾経営にたずさわる家族の世代を超えた絆と熱い思いを、主人公を入れ替えながら描く壮大なストーリーが見どころ。戦後以降の、日本の教育を取り巻く状況や考え方の移り変わりも垣間見られます。幅広い世代が共感できるポイントが詰まった、おすすめの森絵都作品です。
ラン
KADOKAWA 著者:森絵都
家族を亡くした女性が、走ることを通して哀しみに向き合っていく様を描いた森絵都の青春小説。日常と非日常が入り混じる、ファンタジーテイストな世界観が特徴です。
13歳のときに家族を事故で失った主人公・環は、9年後の現在も孤独な日々を送っていました。そんなある日、仲良くなった自転車屋から譲り受けたロードバイクに導かれ、亡くなった家族が暮らす異世界へと迷い込んでしまうのです。
やがて、ロードバイクを手放すことになった環。家族に再び会うために、環は「あちらの世界」まで自らの足で走り抜こうとします。喪失感を抱えた人々の変化と成長が、マラソンへの挑戦とともに爽やかに描かれているのがポイント。前向きな読後感に浸れる森絵都作品を読みたい方におすすめです。
DIVE!! 上
KADOKAWA 著者:森絵都
アニメ化や実写映画化もされた、森絵都のスポ根青春小説。水泳の飛び込み競技でオリンピックを目指す青少年たちの挑戦を描いた物語です。2003年に第52回小学館児童出版文化賞を受賞しています。
10mの高さから飛び込み、空中での多彩な演技で技の正確さを競う過酷な競技・ダイビング。中学生・坂井知季たちが通うダイビングクラブは、クラブを存続させるためにオリンピック出場選手を輩出しなければならなくなります。果たして、彼らはこの高い目標を達成できるのでしょうか。
オリンピック出場のために青春を捧げた少年たちの、それぞれの人間ドラマに焦点が当てられているのが見どころ。採点競技・個人競技ならではの緊張感や苦悩がていねいに表現されています。スポーツにあまり関心がなかった方にもおすすめの森絵都作品です。
リズム
講談社 著者:森絵都
多くの中高生に読み継がれている森絵都のデビュー作『リズム』を収録した1作です。表題作は第31回講談社児童文学新人賞、第2回椋鳩十児童文学賞を受賞した秀作。続編『ゴールド・フィッシュ』も併録されています。
ガソリンスタンドで働きながらロックバンドとして活動するいとこの真ちゃんを、幼い頃から慕ってきた中学1年生・さゆき。好きな人々に囲まれた平和な日常を過ごしていましたが、真ちゃんは夢を追いかけて引っ越し、大好きだった真ちゃんの両親にも離婚話が浮上してしまうのです。
さゆきの中学3年間を描いた表題作は、思いがけず周囲の環境が変化していくなかで、戸惑いながらもさゆきが自分らしさについて考えはじめる物語。森絵都の原点になる小説を読んでみたい方におすすめです。
宇宙のみなしご
KADOKAWA 著者:森絵都
第33回野間児童文芸新人賞に輝いた、森絵都の児童文学作品。中学生の少年少女の密やかな冒険と心の成長をみずみずしい筆致で描いた物語です。
学校に通っていない中学2年生・陽子と、1つ年下の優しい弟・リンは、いつも自分たちでさまざまな遊びを生み出してきた仲良しの姉弟。そんな2人のブームは、真夜中に近所の家の屋根に登ることでした。やがてその遊びに、仲良しグループから外された少女やオタクの少年も加わることになり……。
真夜中の屋根の上というささやかな非日常を起点に、友達とはどのような存在なのか、大人になることはどのようなことなのかをあたたかく語りかけます。小学生向けの森絵都作品を探している方におすすめの1作です。
風に舞いあがるビニールシート
文藝春秋 著者:森絵都
お金に換えられない大切なモノのため、自分の価値観を貫いてひたむきに努力する人々の姿を描いた、森絵都の傑作短編集です。第135回直木賞を受賞し、表題作はテレビドラマ化もされました。
才能にあふれるパティシエの気まぐれに振り回されたり、犬の世話をするボランティア活動のために水商売に従事したり、難民の保護と支援を担う国連機関で働きながら夫婦のあり方に葛藤したりする、さまざまな人々の生き様を活写。表題作を含む、全6編の短編が収録されています。
日常を懸命に生きる普通の人々の、ちょっとした人生の転機が描かれる本作品。信念を持って生きる力強さを感じられる筆致が魅力です。森絵都の大人向けの短編集が気になる方は、ぜひ手に取ってみてください。
つきのふね
KADOKAWA 著者:森絵都
中学2年生の少女を軸に、先の見えない不安感に揺れる思いを巧みに描いた森絵都のヤングアダルト小説です。1998年に第36回野間児童文芸賞を受賞しています。
親友を裏切ってしまった中学生のさくらの日々は、憂鬱に満ちていました。先の進路や不良グループとの確執に悩むなか、ある日、宇宙船を開発中だという不思議な男性・智さんと出会います。しかし、心の拠り所だった智さんも次第に精神を病んでいき……。
放火事件が近所を騒がせるなど、次々と不安が襲いかかる日々を多感な少年少女がどのように乗り越えていくのかが見どころ。心の弱さや危うさを抱えた人々をやさしく包み込むような読み味が魅力的な、おすすめの森絵都作品です。
気分上々
KADOKAWA 著者:森絵都
多彩なテイストの物語を9編収録した、珠玉の短編集。2000〜2012年にかけて、文芸誌・女性誌・写真集などさまざまな媒体で掲載されていた森絵都作品が1冊にまとめられているのがポイントです。
表題作は、男子中学生がクラスメイトによって無銭飲食の罪を着せられてしまう物語。そのほかにも、「自分革命」を起こすために親友と縁を切った女子高生や、一族の理不尽な掟に悩む有名女優など、ままならない日々を懸命に生きるさまざまな立場の人々に焦点が当てられています。
1作品ずつ特色が異なる物語を楽しめるのが魅力。当時掲載された時系列順に並べられているので、森絵都の作家としての12年間の軌跡を垣間見られます。隙間時間にも読みやすい、おすすめの短編集です。
いつかパラソルの下で
KADOKAWA 著者:森絵都
20代の兄弟3人が、父の死をきっかけにその足跡を辿っていく大人向けの長編家族小説です。刊行当時ヤングアダルト小説を中心に執筆していた森絵都が、初めて大人の世界を描いた作品として知られています。
25歳の柏原野々は、病的なまでに潔癖で厳格だった父の教育に嫌気がさし、成人とともに家を飛び出していました。そんな父の四十九日の法要を前にして、生前の父と愛人関係だったという女性から連絡が入る事態に。予想外の出来事に、野々は兄・妹とともに父の秘密を探りはじめます。
子供の立場から父親の人間としての一面を探るとともに、自分自身のあり方も見つめ直していく過程が描かれます。官能的な表現も大胆に交えた、森絵都の意欲作を読んでみたい方におすすめの1作です。
アーモンド入りチョコレートのワルツ
KADOKAWA 著者:森絵都
第20回路傍の石文学賞を受賞した、森絵都のヤングアダルト向け短編集です。シューマン・バッハ・サティの3曲のクラシック音楽をモチーフに、多感な少年少女の二度と戻らないひと時を描いた3編が収録されています。
いとこ同士の少年たちが別荘で過ごすひと夏の物語『子供は眠る』。不眠症の少年と少女をつなぐ、音楽室でのひと時を描いた『彼女のアリア』。サティ好きな先生のピアノ教室での出来事を綴った表題作『アーモンド入りチョコレートのワルツ』の3つの短編を堪能できます。
各短編では、それぞれに異なる「終わり」が表現されているのが特徴。別れや卒業を通して、子供から大人へと成長していく過程と心情の移ろいが巧みに描かれています。中高生向けでありながら、大人も懐かしい気持ちに浸れるおすすめの森絵都作品です。
永遠の出口
集英社 著者:森絵都
1人の少女の小学生時代から高校を卒業するまでの9年間について綴った、森絵都の長編青春小説。第1回本屋大賞にもノミネートされた秀作です。
主人公は、どこにでもいる平凡な少女・紀子。誕生日会をめぐるささやかな事件や、まるで黒魔女のように恐ろしい担任との攻防。不良の道へ進みかけた中学時代に、砕け散った高校時代の初恋についてなど、ナイーブでしたたかな性格の紀子の成長エピソードを順に追いかける物語です。
本作品は、1章につき1年ずつ時間軸が進んでいく構成が特徴。誰の人生にも起こりえるような他愛のない出来事が、10代のみずみずしい感性を交えながらユーモラスに描かれます。成長していく子供のリアルな心の動きに触れられる、おすすめの森絵都作品です。
クラスメイツ <前期>
KADOKAWA 著者:森絵都
森絵都が直木賞の受賞後に初めて執筆した、24のストーリーからなる連作短編小説です。日本図書館協会選定図書や全国学校図書館協議会・選定図書にも選ばれた名作。たびたび中学受験問題としても採用されています。
本作品は北見第二中学校の1年A組が過ごした1年間を、クラスメイト24人の視点から描いていくのが特徴。自分を変えられる部活を探す千鶴や、人気者になりたいのにから回る蒼太、初めての親友と恋のライバルになるのではと焦る里緒など、24人それぞれの物語がリレーのように連なります。
中学生が身にしみて感じるリアルな感情や出来事が、さまざまな立場の登場人物の目を通して描かれているのが魅力。シリアスなモノからコミカルなモノまで、中学生の多彩なあるあるが詰まったおすすめの1作です。
異国のおじさんを伴う
文藝春秋 著者:森絵都
人間の愚かさと愛おしさをバラエティ豊かな短編で表現した、森絵都の人気短編集です。表題作をはじめとする、少し奇妙な日常のドラマを描いた全10編が収録されています。
不思議な招待を受けてオーストリアへと向かった作家の、心揺さぶられる旅程を追いかけた『異国のおじさんを伴う』。フリーライターが、取材の際に記録したレコーダーの文字起こしを怠らなくなった理由を振り返る『竜宮』など、どの作品から読んでも楽しめる珠玉の短編が揃っています。
登場人物が何かしらの「気づき」を得る様子が、それぞれの物語のなかに描かれているのがポイント。シニカルな展開やスカッとする結末、さりげないユーモアがちりばめられた筆致など、森絵都の技巧が光るおすすめの作品集です。
獣の夜
朝日新聞出版 著者:森絵都
2023年に刊行された森絵都の短編集です。各所で連載されていた、読後に心が穏やかにあたたまる7編の短編がまとめられています。
表題作は、あるサプライズパーティーにまつわる物語。35歳の誕生日を迎えた美也のために、同級生の紗弓はサプライズパーティーへと彼女を連れ出そうとします。しかし、予約していたイタリアンレストランではなく、美也はなぜか家の近所の焼き肉を食べに行くことを提案するのです。
現実と非現実が混ざりあう不思議な世界観が魅力。ありふれた日常が思いがけない方向へと変わる瞬間が、短編として巧みに切り取られています。気持ちが晴れるような森絵都作品を読みたい方におすすめの1作です。
時代を経ても変わらない人の心の揺れ動きを巧みに描く森絵都。大人から子供へと読み継がれる児童文学のほか、短編集の名作も多く、小説を読み慣れていない方も楽しみやすい作品が揃っているのも魅力です。まずは代表作『カラフル』で、森絵都の世界観を味わってみるのがおすすめ。ぜひ心に残る1冊を探してみてください。