推理小説家の登竜門として知られる「江戸川乱歩賞」。レベルの高い文学賞として知られる本賞からは、多くの人気小説や人気作家が輩出されています。

そこで本記事では、江戸川乱歩賞を受賞した小説のなかから、おすすめの作品をご紹介します。また、江戸川乱歩賞の概要も解説するので、あわせてチェックしてみてください。

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江戸川乱歩賞とは?

江戸川乱歩賞は1954年に設立された、探偵小説を公募する文学賞です。推理小説家・江戸川乱歩の寄付を基金としてスタートした賞で、現在は日本推理作家協会が主催しています。

広い意味での長編推理小説を対象とし、正賞として江戸川乱歩像が、副賞として500万円が受賞者に贈られます。講談社やフジテレビが後援に入っており、受賞作は講談社からの刊行と、フジテレビでの映像化が行われるのが特徴。規模が大きく歴史もある文学賞です。

江戸川乱歩賞受賞作品のおすすめ

此の世の果ての殺人

講談社 著者:荒木あかね


此の世の果ての殺人

地球滅亡を目前に、殺人事件に立ち向かうミステリー小説です。2022年に、第68回江戸川乱歩賞を受賞。史上最年少、そして選考委員満場一致での受賞は、大きな話題となりました。テレビ番組でも広く紹介された作品です。

小惑星「テロス」が地球に衝突すると発表され、大混乱となった地球。それでも小春は、ある夢を叶えるために、自動車の教習を受け続けていました。そんななか、彼女は教習車のトランクから、女性の死体を発見します。地球最後の日を前に、小春と元刑事の教官・イサガワは、殺人の謎に挑むのでした。

終末が近づく世界が舞台なだけあり、ファンタジーとしても読み応えがあると人気の作品です。伏線回収や謎の解決はもちろん、ヒューマンドラマも楽しめます。もしもの世界を舞台にしたミステリー小説が好きな方におすすめです。

左手に告げるなかれ

講談社 著者:渡辺容子

左手に告げるなかれ

凄腕保安士が自分への容疑を晴らすために奮闘する、ミステリー小説です。1996年に、第42回江戸川乱歩賞を受賞しました。また、2011年には本作品の主人公・八木薔子を再び主人公にした続編『エグゼクティブ・プロテクション』が出版されています。

スーパーで保安士を務める八木薔子のもとを、刑事が訪ねてきます。彼女が数年前に別れた不倫相手の妻が殺され、その容疑をかけられてしまう薔子。自分への容疑を晴らすため、捜査を開始します。

1つの殺人事件から展開が広がっていく、スケールの大きい推理小説です。

脳男 新装版

講談社 著者:首藤瓜於


脳男 新装版

感情を持たない男を中心に、それぞれの正義が錯綜する物語を描いたサスペンスミステリー小説です。2000年に、第46回江戸川乱歩賞を受賞しました。2013年には映画化もされて話題になった本作品。物語は、爆破事件の発生から幕を開けます。

猟奇的な連続爆破事件を追う警察は、ついにアジトを見つけます。しかし、そこにいたのは、感情を持たない1人の男のみでした。男の本性を探ろうとする医師・鷲谷真梨子。そんななか、男が入院する病院に爆弾が仕掛けられ……。

脳科学的な視点でもストーリーが深掘りされており、サスペンスやミステリーとしてはもちろん、医療系作品としても楽しめるおすすめの1作です。

QJKJQ

講談社 著者:佐藤究


QJKJQ

猟奇殺人一家で巻き起こった殺人の謎を解明する、ミステリー小説。第62回江戸川乱歩賞の受賞作です。主人公の女子高生・亜李亜は猟奇殺人鬼ですが、それを家族には隠していません。なぜなら、家族もまた全員が猟奇殺人鬼だからです。

そんななか、兄が自宅で惨殺されているのを亜李亜が発見します。翌日には母もいなくなったことで、彼女は父を疑うようになり……。

設定の真新しさが興味を引く作品で、予想外の斬新な展開が楽しめます。ほかとひと味違う推理小説を探している方は、ぜひチェックしてみてください。

13階段

講談社 著者:高野和明


13階段

記憶を失った死刑囚の冤罪と立ち向かう2人の男を描いた作品です。第47回江戸川乱歩賞を受賞しました。選考委員満場一致の受賞で話題となり、2003年には映画化もされています。

前科を持つ青年・三上と、刑務官の南郷。彼らに与えられた任務は、犯行時刻の記憶を失ってしまった死刑囚の冤罪を証明することでした。しかし、手掛かりは死刑囚に残された階段の記憶のみで……。

内容は本格ミステリーで、伏線回収も鮮やかです。また、「死刑」を中心にした、人間の葛藤や業も注目ポイント。社会派なミステリー小説を探している方におすすめです。

新装版 天使の傷痕

講談社 著者:西村京太郎


新装版 天使の傷痕

殺人事件に遭遇した新聞記者の男が、事件の真相に迫る社会派ミステリー作品。トラベルミステリーの巨匠として知られる西村京太郎による、第11回江戸川乱歩賞受賞作です。

“テン”と謎の一言を遺してこの世を去った被害者。新聞記者である主人公の男は、興味から事件の真相を探り始めました。調査の結果”テン”は「天使」を指しているとわかるも、事件の闇は想像以上に深く……。社会的な問題を扱っており、考えさせられる作品です。

わたしが消える

講談社 著者:佐野広実


わたしが消える

軽度認知障碍の症状が出ている元刑事が、ある老人の過去に迫るミステリー小説です。2020年に、第66回江戸川乱歩賞を受賞しました。

交通事故に遭った元刑事の藤巻には、軽度認知障碍の症状が現れていました。大学生の娘に迷惑をかけられないと途方に暮れる藤巻。そんななか娘から、介護実習で通っている介護施設に身元がわからない老人がいると相談を受けます。藤巻は自身の症状と闘いながら、老人の身元を調べ始めるのです。

施設の門の前にいることから「門前さん」と呼ばれている老人。過去に迫っていくにつれて、隠された真実が明らかになっていきます。社会派ミステリーが好みの方におすすめです。

新装版 顔に降りかかる雨

講談社 著者:桐野夏生


新装版 顔に降りかかる雨

大金を持ち失踪した親友を追う女性が描かれた、ハードボイルドミステリーです。ドラマ化もしている作品で、1993年に第39回江戸川乱歩賞を受賞しました。

夫の自殺後、新宿で暮らす女性・村野ミロ。彼女は、大金を持って消えた親友・宇佐川耀子の共謀者として疑われてしまいます。大金を耀子に預けた成瀬時男は、暴力団に繋がる過去があった人物。ミロと成瀬は、事件を解決するため耀子を探し始めますが……。

魅力は、主人公であるミロのキャラクター性です。行動力があり、強い彼女。しかし、強さと共に人間らしい弱さも滲ませます。女性の強さと儚さが描かれたおすすめの作品です。

五十万年の死角

講談社 著者:伴野朗

五十万年の死角

近代中国を舞台にしたミステリー小説です。1976年に、第22回江戸川乱歩賞を受賞しました。物語は、太平洋戦争の開戦日から始まります。

太平洋戦争が開戦した日、日本軍は北京の医大研究施設を急襲しました。その目的は、貴重な北京原人の化石骨。しかし、北京原人の化石骨は、すでに金庫から消えていたのです。化石骨の行方を追う日本軍・中国共産党・国民党の暗躍が始まります。

ハードボイルドな推理小説で、サスペンス要素も多くスケールの大きい物語が展開されます。ストーリーがスムーズに進むので、推理小説をあまり読み慣れていない方でも無理なく楽しめるのが特徴。歴史ミステリーが好きな方におすすめの作品です。

新装版 ぼくらの時代

講談社 著者:栗本薫


新装版 ぼくらの時代

著者と同姓同名の主人公が活躍するミステリー小説です。『ぼくらの気持』『ぼくらの世界』など、同じく栗本薫を主人公にシリーズ化もされています。1978年に、第24回江戸川乱歩賞を受賞しました。

本作での栗本薫は、マンモス私大に通っている大学3年生です。アルバイト先のテレビ局内で、女子高生連続殺人事件に遭遇。バンド仲間である信とヤスヒコと共に、事件解決に挑みます。

若々しい文体ながら、しっかりと凝った構成の1冊に仕上がっているのが魅力。テンポがよくスラスラと読みやすい推理小説を探している方におすすめです。

襲名犯

講談社 著者:竹吉優輔


襲名犯

現在と過去が交錯する悲劇を描く、緊迫のミステリー小説です。第59回江戸川乱歩賞の受賞作。ある死刑囚の死刑が執行される場面から、物語は始まります。

ルイス・キャロルの詩をなぞったような犯行から、「ブージャム」と呼ばれている猟奇的連続殺人鬼。逮捕された彼は多くを語らず、容姿も端麗で、男を英雄視する人物も現れるほどでした。

ブージャムの死刑が執行されてから14年後、小指を取られた女性の死体が発見され、そこにはブージャムを名乗る落書きが……。また、14年前に起こった最後の被害者・南條信の弟に”襲名犯”からメッセージが届きます。

王道のミステリーで、ラストにはしっかりと驚きがある構成になっているのが特徴。常に不安感をまとっているような物語で、思わずページをめくりたくなる推理小説が好みの方におすすめです。

道徳の時間

講談社 著者:呉勝浩


道徳の時間

過去と現在で繋がる、奇妙な事件の真相に迫るミステリー小説です。2015年に、第61回江戸川乱歩賞を受賞しました。

ジャーナリスト・伏見が住む鳴川市で、連続イタズラ事件が発生します。時を同じくして、陶芸家の死亡事件が発生。残された落書きから、2つの事件の犯人は同一人物であると思われました。

そんななか、過去に鳴川市で起きた殺人事件のドキュメンタリー映画の撮影を依頼される伏見。撮影を通して、現代の事件との共通点がみえ始めます……。

「道徳」という形のないモノをテーマにしているからこそ、考えさせられる人気の作品です。深いテーマを扱った小説が読みたい方はチェックしてみてください。

新装版 検察捜査

講談社 著者:中嶋博行


新装版 検察捜査

法曹界の闇に迫る、リーガルサスペンス小説です。大物弁護士・西垣文雄が、自宅で惨殺されました。事件の担当となった検察官・岩崎紀美子は、真相を追ううちに、検察庁と日弁連の確執など深い闇に触れるのでした。

現役弁護士の著者が執筆しており、本格リーガル小説として高い評価を得ている本作。真摯に真実を追い求める姿に引き込まれます。法律を扱っているサスペンスに興味がある方におすすめの作品です。

焦茶色のパステル 新装版

講談社 著者:岡嶋二人

焦茶色のパステル 新装版

競馬界を舞台にしたミステリー小説です。1982年に、第28回江戸川乱歩賞を受賞しました。著者の岡嶋二人は、文字通り2人組の小説家。本作品は2人のデビュー作です。

東北の牧場で、牧場長と競馬評論家・大友隆一が殺害され、サラブレッドの親子も殺されてしまいます。隆一の妻・香苗は競馬の知識を持っていませんでしたが、夫の死に疑問を持つと、怪事件に見舞われるようになり……。

競馬界を揺るがす事件の謎を解き明かしていく本作。競馬界を描いているため、競馬が好きな方にもおすすめの小説です。

闇に香る嘘

講談社 著者:下村敦史


闇に香る嘘

第60回江戸川乱歩賞の受賞作で、全盲の主人公が兄の正体に迫るミステリー小説です。主人公・村上和久は孫娘に腎臓を提供しようとしますが、検査の結果は不適合。兄・竜彦に移植を頼むも、検査すら頑なに拒否します。

竜彦は中国残留孤児で、彼が永住帰国した際には、和久はすでに全盲になっていたため顔を確認できていません。その態度に違和感を覚えた和久は、27年間信じてきた兄が本当に兄なのかを疑い始めるのです……。

重いテーマを扱った社会派の推理小説作品に仕上がっています。

猫は知っていた 新装版

講談社 著者:仁木悦子


猫は知っていた 新装版

素人探偵の兄妹2人が、連続殺人事件に挑むミステリー小説です。1957年に、第3回江戸川乱歩賞を受賞しました。

兄・仁木雄太郎と妹・悦子が、連続殺人事件に巻き込まれます。怪しい電話や秘密の抜け穴、そして事件の現場に現れる黒猫の謎……。悦子のひらめきと雄太郎の推理力を武器に、2人は真相に追っていきます。

心が和むような文体で、ミステリー作品ながら読みやすいおすすめの1冊です。

再会

講談社 著者:横関大


再会

1つの拳銃による事件を発端に、幼馴染みの闇が照らされるサスペンスミステリー小説です。

幼馴染み4人が、タイムカプセルに入れ校庭に埋めた拳銃。時を経て、なぜかそれが再び現れます。4人のうち、誰が嘘をついているのか、誰が拳銃を掘り出したのか……。事件が動きだすとき、大きな謎が判明します。

少しずつ明かされる真実がポイント。思わずページをめくってしまう作品が読みたい方におすすめです。

沈底魚

講談社 著者:曽根圭介


沈底魚

公安警察を舞台に、スパイの影を追うミステリー小説です。2007年に、第53回江戸川乱歩賞を受賞しています。

現職の国会議員に、中国のスパイがいるという情報を掴んだ日本の警察。警視庁外事課に捜査本部が設置され、警察庁から女性キャリア理事官が指揮官として配属されます。捜査の末に名前が浮上したのは、次期総理とも噂される芥川健太郎でした。

内容が詰め込まれており、何度も展開が変わる物語を楽しめる小説です。スパイの影がチラつくことでハラハラするストーリーが続き、飽きずに読み続けられます。ハードボイルドな推理小説が好きな方におすすめです。

到達不能極

講談社 著者:斉藤詠一


到達不能極

南極の地で現代と過去が交錯する冒険ミステリー小説です。過去と現代が大胆に交錯する物語。圧倒的スケールの第64回江戸川乱歩賞受賞作です。

遊覧中に突然システムダウンを起こし、南極に不時着してしまったチャーター機。搭乗者の2人は物資を求めて「到達不能極」基地を目指します。しかし、その基地は戦争中、ナチスがある実験をおこなっていた地だったのです……。

ナチスがおこなっていたSF的実験が、現代の事件に関係してくるワクワク感が満載の小説。要素が多く、ハイスピードな物語を楽しめます。

天使のナイフ 新装版

講談社 著者:薬丸岳


天使のナイフ 新装版

少年犯罪をテーマに法と正義の意味を問う、サスペンスミステリー小説です。

娘の目の前で妻を殺されてしまった主人公・桧山貴志。犯人は13歳の少年3人で、少年法に守られて罪を問われるはありませんでした。それから4年後、犯人の1人が何者かに殺される事件が発生します。桧山は容疑者として疑われることになるのでした。

少年法の存在を軸に、「贖罪」の意味を考えさせられる本作品。少年犯罪を扱っている推理小説に興味がある方におすすめです。