近代日本の代表的作家と名高い小説家「夏目漱石」。デビュー作『吾輩は猫である』で注目を集め、『こころ』『坊っちゃん』など現代にも読み継がれる数々の名作を世に送り出しました。1000円札の肖像にもなった、日本が誇る作家の1人です。

今回は、そんな夏目漱石のおすすめの小説をピックアップ。代表作から読みやすい名作まで魅力とともにご紹介します。選書に悩んでいる方は、ぜひ参考にしてみてください。

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多くの名作を生み出した「夏目漱石」とは?

夏目漱石は1867年、現在の東京都出身の小説家です。地元の名家である夏目家の5男・金之助として生まれました。大学卒業後は英語教師として勤務。この頃に「I love you」を「月が綺麗ですね」と訳したというエピソードが残されています。

1900年には文部省から英語研究のためのイギリス留学を命じられるも、神経衰弱により帰国。俳人・高浜虚子の勧めもあり、37歳で執筆活動を始めます。デビュー作『吾輩は猫である』が話題を呼び、文学界に名を知らしめました。

その後も『坊っちゃん』『草枕』などの名作を次々と発表し、1907年に朝日新聞に専属作家として入社。新聞連載をメインに作家活動を続けていましたが大病を患い、1916年『明暗』執筆の途中にして49歳でこの世を去りました。

俳人・正岡子規と交流が深かったことでも知られている夏目漱石。後の多くの文豪にも影響を与えた、日本文学界の巨匠のひとりです。

夏目漱石作品の魅力

12年の作家活動の間に、数多くの名作を生み出した夏目漱石。社会と人間の関係性や人間が成長するとは何かといった、普遍的なテーマを多く感じられるのが夏目漱石作品の魅力です。丁寧に綴られる心情描写には、現代人にも共感できるポイントが多くあります。

また、それまでの日本文学で主流だった自然主義文学とは異なる作風で注目を集めているのも特徴。現実をありのまま描くだけでなく、『吾輩は猫である』のように現実を客観的に観察するような作風は余裕派と呼ばれ、日本文学に新たな流れを生み出しました。

そんな夏目漱石作品はエンターテインメント性も高く、近代文学初心者にもおすすめ。留学経験や英文学を学んだ経歴を感じさせる、鋭い風刺やユーモアにあふれた筆致も見どころです。

子供から大人まで何度も繰り返し読みたい名作が揃っています。ぜひ親子で夏目漱石作品を楽しんでみてください。

夏目漱石のおすすめ作品

こころ

新潮社 著者:夏目漱石

こころ

罪の意識に苦しむ人間の心と本質を巧みに描いた、“夏目漱石の最高傑作”と名高い代表作です。新潮文庫版に限っても累計部数は750万部を突破。日本文学史に残る不朽の名作として、教科書にも採用されています。

鎌倉の海岸で1人の寂しげな男性に出会った学生の私は、彼のことを「先生」と呼んで慕うようになります。そんなある日、私の元に届いた1通の手紙。その手紙は、先生の悲しい過去の告白が綴られた、先生からの遺書だったのです。

遺された手紙から明らかになる、先生の人生の悲劇。人間の普遍的な弱さや葛藤が、夏目漱石ならではの丁寧な心情描写で表現されています。夏目漱石作品の魅力を味わうにあたって、まず手に取りたいおすすめの小説です。

坊っちゃん

新潮社 著者:夏目漱石

坊っちゃん

夏目漱石の実体験を元にした初期の代表作です。江戸っ子気質の青年「坊っちゃん」が巻き起こすさまざまな事件を描いた青春小説として、ドラマ化などもされています。

物理学校を卒業後、四国の中学校に数学教師として赴任した「坊っちゃん」は、正義感あふれる一本気な性格の青年です。いやみな態度や理不尽な行動をとる周囲に対し、類まれな行動力で反発します。そんな坊っちゃんの痛快劇を描きました。

近代小説に勧善懲悪のテーマを復活させたといわれる本作品。軽快な文体とユーモアあふれる人物描写で読みやすく、幅広い世代の読者から高い人気を有しています。日本の文豪の作品を読んでみたい中学生にもおすすめの夏目漱石作品です。

吾輩は猫である

新潮社 著者:夏目漱石

吾輩は猫である

夏目漱石のデビュー作にして、文学界に大きな評判を呼んだ傑作長編小説。猫の視点から人間社会への痛烈な批判や風刺を綴りました。現代までさまざまなパロディ作品も生み出されている日本文学の名著です。

“吾輩は猫である。名前はまだ無い”という有名な一文から始まる本作品の語り手は、中学教師・珍野苦沙弥の家で飼われている雄猫。彼は珍野家で暮らしながらさまざまな人間の姿を目撃し、何気ない日常を過ごしていきます。

猫から見た人間の言動への疑問を、江戸落語の笑いの文体や英国由来のブラックジョークを交えて愉快に描いているのが見どころ。夏目漱石の思想が面白おかしく垣間見られる、おすすめの1作です。

文鳥・夢十夜

新潮社 著者:夏目漱石

文鳥・夢十夜

「小品」と呼ばれるささやかな短編を中心とした、全7編を収録する作品集です。表題作『夢十夜』は、2007年に『ユメ十夜』として映画化もされました。

人に勧められて飼い始めた文鳥との行く末を淡々と描き、夏目漱石の孤独がうかがえる『文鳥』。“こんな夢を見た”から始まる10編の短い夢物語のなかに、恐怖や不安など人間の深層心理が読み取れる『夢十夜』など、夏目漱石の多彩な筆致を堪能できます。

死を感じる幻想的な雰囲気とともに、夏目漱石の日記のような感覚で読み進められる作品が多いのがポイント。隙間時間に夏目漱石作品を楽しみたい方におすすめの作品集です。

三四郎

新潮社 著者:夏目漱石

三四郎

大学入学をきっかけに、恋や友情、勉学に悩む青年の姿を描いた等身大の上京物語。夏目漱石が40代の頃に手掛けた前期三部作の第1作目です。ドラマ化などもされています。

熊本の高等学校から東京の大学に進学した23歳の小川三四郎。女性との関係も持ったことがない三四郎がきらびやかな都会で出会ったのは、自由気ままな都会の女性・里見美禰子でした。美禰子に翻弄されながらも、三四郎は彼女に強く惹かれていき…。

普遍的な青春期の悩みが生き生きと表現されており、現代人も共感できるポイントが多くあります。夏目漱石作品初心者や大学生にもおすすめの、甘酸っぱい青春小説です。

それから

新潮社 著者:夏目漱石

それから

『三四郎』に連なる、前期三部作の第2作目。親友の妻になった元恋人を愛してしまう明治知識人の苦悩と葛藤を描いた恋愛小説です。

主人公・長井代助は30歳になっても定職につかず、父親からの援助で毎日を暮らしていました。そんなある日、かつて愛していながらも仁義から親友・平岡に紹介し、彼の妻になった元恋人・三千代と再会。そこから代助は妙な運命に巻き込まれていきます。

社会の道徳的に許されない道でありながら、自分の自然な心に従う知識人の心の揺れが巧みに描かれている夏目漱石作品。明治時代当時の人々の思想や価値観に触れられる、おすすめの小説です。

新潮社 著者:夏目漱石

門

夏目漱石の前期三部作において3作目にあたる長編小説です。親友を裏切り、その妻と結ばれた男の罪の意識が克明に描かれています。求道者としての夏目漱石を読み取れる名作です。

親友・安井の妻だった御米と結ばれた宗助は、その負い目を抱えて暮らしています。父の遺産相続は叔父に任せ、さらに叔父が亡くなり、弟の学費を打ち切られても積極的な解決に乗り出すこともしません。やがて宗助は救いを求めて禅寺の門をくぐりますが…。

罪悪感を抱えながらひっそりと暮らす夫婦の日常が、淡々とした静かな筆致で綴られていくのが本作品の魅力。『それから』との繋がりを感じさせますが、本作品単独でも楽しめます。ビターな夏目漱石作品を読みたい方におすすめの一作です。

草枕

新潮社 著者:夏目漱石

草枕

当時の自然主義や西欧文学の現実主義への批判が感じられる、夏目漱石の初期の名作です。人生について考えながら山奥へ向かった青年画家と、絶世の美女との不思議な出会いを描いています。

“とかくに人の世は住みにくい”で締める冒頭の一節が有名な本作品。きらびやかな筆致で表現された情景描写に、まるで絵画を見ているような読書体験を味わえます。西洋文化を目撃してきた夏目漱石の芸術論が存分に綴られた、おすすめの小説です。

明暗

新潮社 著者:夏目漱石

明暗

夏目漱石の死により未完で終わった、600ページを超える大作長編。濃密な人間ドラマを描きながら人のエゴイズムの本質に迫り、未完にして“日本近代小説の最高峰”とも評される傑作です。

勤め先の社長夫人の仲介で妻・お延と結婚した津田には、お延と知り合う前に将来を誓い合った女性・清子がいました。しかし、清子はある日突然、津田を捨てて友人の元に嫁いでいったのです。

そんな清子が一人で温泉街に滞在していると知った津田は、密かに彼女の元へ向かいます。

津田を中心に、さまざまな人々の心の明暗が群像劇のように描かれるおすすめの夏目漱石作品。人物同士の緊張感あふれる心理的駆け引きが見どころです。夏目漱石の集大成ともいえる名作をぜひ手に取ってみてください。

彼岸過迄

新潮社 著者:夏目漱石

彼岸過迄

『行人』『こころ』へと続いていく、夏目漱石の後期三部作の第1作目です。自意識が強い近代知識人と自由で積極的な女性の恋愛を軸に、物語が連作短編のような形式で描かれています。

物語の中心は、誠実ながら行動力がない内向的性格の須永と、恐れることなく行動する純粋な彼の従妹・千代子。千代子を愛しながらも恐れている須永に対し、千代子は須永の煮え切らない性格に苛立ちながらも、心の底では須永に惹かれており…。

新聞小説として連載されていた本作品は、章ごとにさまざまな展開が繰り広げられ、短編としても読み応えがあります。代表作『こころ』へと繋がる夏目漱石の男女観も垣間見られる、おすすめの小説です。

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