2017年にノーベル文学賞を受賞した日系イギリス人作家「カズオ・イシグロ」。『日の名残り』で英語圏最高峰の文学賞・ブッカー賞を受賞するなど、多数の文学賞に輝いた世界を代表する作家の1人です。

今回は、そんなカズオ・イシグロのおすすめ小説をご紹介。人気の受賞作から、新刊までピックアップしました。カズオ・イシグロの作風なども参考に、気になる作品があればぜひチェックしてみてください。

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ノーベル文学賞を受賞した「カズオ・イシグロ」とは?

日系イギリス人作家であるカズオ・イシグロ。1954年長崎県に生まれ、5歳の時に父親の仕事の関係でイギリスに渡った後、英国籍を取得しました。ケント大学で英文学を、イースト・アングリア大学の大学院で創作を学び、1981年短編で作家デビューします。

1982年の長編デビュー作『遠い山なみの光』では、王立文学協会賞を受賞。1986年には『浮世の画家』でウィットブレッド賞など、デビュー直後から英語圏の著名な文学賞を獲得します。

さらに、1989年発表の『日の名残り』はイギリス文学の最高峰・ブッカー賞に輝き、イギリスを代表する作家に。以降も数々の名作を手掛け、2017年にノーベル文学賞を受賞しました。

その功績から2018年に日本の旭日重光章を受章したほか、2019年には英王室からナイトの爵位を授与。国際的にも高い評価を受ける、現代を代表する作家の1人です。

カズオ・イシグロの魅力

カズオ・イシグロはジャンルにとらわれない、多彩な世界観の小説を手掛けています。SFミステリーの『私を離さないで』から、『忘れられた巨人』のような歴史ファンタジーまで、作品ごとに異なるテイストの物語を楽しめるのがカズオ・イシグロ作品の魅力です。

また、カズオ・イシグロ作品は「信頼できない語り手」の手法がたびたび用いられるのが特徴。物語の重要な情報を意図的に語らなかったり、語り手自身に認識違いがあったりと、人間の主観や記憶などを巧みに利用した仕掛けが多くちりばめられています。

読み進めるにつれて物語の前提や世界観が揺らぐような作風で、多くの読者を驚かせてきたカズオ・イシグロ。魅力的な物語設定や構成に加え、人間の本質や複雑な心の動きも描きます。

日本を題材にした作品もあり、海外文学に馴染みのない方にもおすすめのノーベル賞受賞作家です。

カズオ・イシグロのおすすめ小説

日の名残り

早川書房 著者:カズオ・イシグロ


日の名残り

長編小説3作目にして、英語圏最高の文学賞とされるブッカー賞を受賞した、カズオ・イシグロの傑作長編小説。老執事の現在と過去から失われゆく伝統的イギリスの姿を描き、大きな感動を呼びました。1994年に映画化もされています。

舞台は1956年のイギリス。アメリカ人の主人の勧めと、かつて屋敷で女中頭を務めていた女性からの手紙に心を動かされ、老執事・スティーヴンスは彼女に再会するべく短い旅に出ます。美しい田園風景のなか、スティーヴンスは古き良き時代の思い出を回想し…。

スティーヴンス視点で旅の様子と過去の思い出を描きながら、執事としての品格を追求し続けてきた彼の生き様と時代の輝きを語る本作品。カズオ・イシグロの代表作としてまず手に取りたいおすすめの1作です。

わたしを離さないで

早川書房 著者:カズオ・イシグロ


わたしを離さないで

イギリスで100万部を突破したカズオ・イシグロのベストセラー小説。1990年代末のイギリスを舞台に、寄宿舎風の施設で巡り会った男女3人の切ない運命を描いた衝撃作です。映画化されたほか、日本でも2016年に俳優・綾瀬はるか主演でドラマ化されました。

主人公は、「提供者」と呼ばれる人々を世話する介護人・キャシー。生まれ育った施設・ヘールシャムで「提供者」の友人たちと過ごした日々を、キャシーが回想する形式で物語は進みます。彼女の回想は次第に、施設に隠された真実を明らかにしていくのです。

思春期の若者の友情と恋を丁寧に描きつつ、読み進めるにつれて物語の世界観が少しずつ明らかになっていくのが本作品の見どころ。SFテイストな小説が好きな方にもおすすめのカズオ・イシグロ作品です。ぜひ前知識は最小限で読み進めてみてください。

忘れられた巨人

早川書房 著者:カズオ・イシグロ


忘れられた巨人

カズオ・イシグロが『わたしを離さないで』以来、約10年ぶりに手掛けた長編小説。ブリテン島を平定したとされるアーサー王伝説を下敷きに、6〜7世紀ごろのイングランドを舞台にした歴史ファンタジーです。

アーサー王亡き後、ブリトン人の老夫婦・アクセルとベアトリスが、息子に会うために旅に出るところから物語はスタート。鬼や竜が棲む過酷な世界を旅するなかで、2人はさまざまな人々と出会いながら、記憶を奪う謎の霧に満ちた世界の真実に迫っていきます。

老夫婦の冒険譚である本作品は、記憶と忘却について真正面から見つめたテーマ性も魅力。社会や個人が記憶にどのように向き合うべきかを考えさせられます。カズオ・イシグロならではの謎に満ちた筆致で、ファンタジーの世界を冒険できるおすすめの人気作です。

わたしたちが孤児だったころ

早川書房 著者:カズオ・イシグロ


わたしたちが孤児だったころ

1930年代の上海を舞台にした、カズオ・イシグロの記憶と過去をめぐる冒険小説。上海の租界で孤児になった男が、私立探偵として失踪した両親の行方を探す物語です。

10歳で孤児になったクリストファー・バンクスは、ロンドンに帰された後、寄宿学校で学びながら探偵を志します。やがて、数々の難事件を解決し、社交界でも名声を得たバンクス。両親を探すために念願の上海に舞い戻りますが…。

バンクスの過去の記憶と現在の描写を行き来しながら、両親失踪の真相を明らかにしていくミステリー性が魅力の1作。驚きの展開に思わず二度読みしたくなるおすすめのカズオ・イシグロ作品です。

浮世の画家 新版

早川書房 著者:カズオ・イシグロ


浮世の画家 新版

1986年にウィットブレッド賞を受賞した、カズオ・イシグロの出世作。終戦後の日本を舞台に、戦時中の戦意高揚に協力した画家が己の人生を回想する長編小説です。2019年に俳優・渡辺謙主演でドラマ化もされています。

日本精神を鼓舞する作風で名をなした画家・小野は、多くの弟子に囲まれ、尊敬を集める立場にありました。しかし、終戦を迎えた途端、周囲から冷たい目を向けられるように。小野は過去を振り返りながら、貫いてきた自らの信念と新しい価値観の間で葛藤します。

時代の変化に取り残され、揺れ動く心情が巧みに表現されている作品。戦後の日本のノスタルジックな風景描写も見どころになっています。海外の作家の視点から日本人を描いた物語を読んでみたい方にもおすすめの小説です。

遠い山なみの光

早川書房 著者:カズオ・イシグロ

遠い山なみの光

『女たちの遠い夏』を改題した、カズオ・イシグロの長編デビュー作。イギリス在住の日系女性を主人公に、戦後の微かな光を求めて懸命に生きる人々の姿を描き、王立文学協会賞を受賞した名作です。

故国・日本を去り、イギリスに住む主人公・悦子は、娘を自殺で失った喪失感に苦しんでいました。戦後混乱期の長崎で懸命に生きていた若い頃の日々を振り返りながら、悦子は新たな人生を求めて犠牲にしてきたものに想いを馳せます。

さまざまな人々の運命が交わり、戦後の仄暗さのなかに希望を感じる雰囲気が魅力の本作品。カズオ・イシグロの作風の原点を感じられるおすすめの1作です。

充たされざる者

早川書房 著者:カズオ・イシグロ


充たされざる者

カズオ・イシグロの異色作と評される長編小説。実験的手法を駆使し、英国ピアニストが体験する不条理な出来事の数々を描いた大作です。

世界的ピアニスト・ライダーは、とあるヨーロッパの街に招待されます。催しで演奏する予定のようですが、日程や演目さえ知らされていません。しかし、その演奏会は街の危機を乗り越えるための最後の望みだというのです。

ライダーはそれとなく詳細を探ろうとしますが、奇妙な相談を持ちかける市民たちが次々と邪魔に入り…。

現実と虚構が入り乱れ、時空や記憶が曖昧になるような前衛的な筆致が本作品の特徴。白昼夢のような独特の世界観で描かれる不条理文学が好きな方に、おすすめのカズオ・イシグロ作品です。

クララとお日さま

早川書房 著者:カズオ・イシグロ


クララとお日さま

ノーベル文学賞受賞後第1作目にあたる、カズオ・イシグロの長編小説。AIロボットが売買される近未来を舞台に、人間の少女とロボットの交流を描いたおすすめのSF小説です。

高度な人工知能を搭載した人型ロボット・クララは、売れ残りの型落ち品ながら、ずば抜けた洞察力と高い共感力を備えていました。そんなクララを購入したのは、病弱な少女・ジョジーとその家族。クララはジョジーの「人工親友」として、友情を育んでいきますが…。

純粋で献身的なAIロボット・クララの愛情が胸を打つ本作品。格差社会などの現実的な問題とともに、人間性とは何かを問いかけます。カズオ・イシグロが手掛ける近未来の小説をチェックしてみてください。

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