明治から大正にかけて数々の小説を遺した文豪「森鷗外」。国語の教科書にも掲載されてきた『舞姫』『高瀬舟』などの名作を手掛け、後の作家に大きな影響を与えました。軍医や翻訳家として活躍していたことでも有名です。

今回は、森鷗外のおすすめ小説をピックアップ。映画化などもされた人気作から傑作歴史小説まで、各作品の魅力とともにご紹介します。気になる作品があれば、ぜひ手に取ってみてください。

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軍医でもあった文豪「森鷗外」とは?

森鷗外は現在の島根県出身の作家です。1862年、津和野藩の典医を務める森家の長男・林太郎として生まれました。1873年には東京大学予科に最年少で入学。医学を学び、卒業後は軍医になります。

1884年から衛生学の調査・研究のためにドイツへ留学し、留学後は海外文学や戯曲の翻訳家としても活動。そして、留学の経験をもとにした小説三部作『舞姫』『うたかたの記』『文づかひ』が高く評価され、文壇での確固たる地位を確立させました。

陸軍医のトップとして活躍するかたわら、数多くの評論や小説を執筆。幅広い分野で才能を発揮しました。1922年、肺結核により60歳で永眠します。

森鷗外ゆかりの地が多くある東京文京区には「文京区立森鷗外記念館」が建設されました。没後100年を過ぎた今でも多くの読者・作家に愛される文豪の1人です。

森鷗外作品の魅力

夏目漱石と並び、明治の二大文豪とも称される森鷗外。翻訳家としても活躍していた背景から、西洋文化を感じられる作品を手掛けました。一方で、当時の日本社会や思想を客観的に描写した物語も多くあり、幅広い知見を得てきた森鷗外ならではの筆致を楽しめます。

森鷗外作品は古文で書かれたモノが多いのもポイント。言文一致で書かれた作品も、文中にフランス語やドイツ語が織り交ぜられるなど、格調高い文体が特徴です。森鷗外が生み出す西洋文化を取り入れた美しい言葉や文体は、後の多くの作家へ影響を与えました。

小説内でも人の善や罪についてなど、哲学的な問いかけが多く描かれています。それぞれの物語にさまざまな問題意識が込められており、現代にも通じる考え方を読み取れるのが森鷗外作品の魅力です。

森鷗外のおすすめ小説

舞姫・うたかたの記 他三篇

岩波書店 著者:森鷗外

舞姫・うたかたの記 他三篇

森鷗外の処女作ともいわれる表題作『舞姫』をはじめ、初期から中期の作品5編を収録した短編集。日本人留学生とドイツの少女の非恋を描いた『舞姫』は、舞台化などもされている森鷗外の代表作です。

明治時代、日本の近代化に向けた学びのため、エリート官僚・太田豊太郎はドイツのベルリンに派遣されます。欧州の文化に触れるうちに、自分の生き方に疑問を抱き始める豊太郎。そんななか、彼は美しい踊り子・エリスと出会い、2人は恋に落ちていきますが…。

『舞姫』は、西洋の新たな思想と日本の古い体制に挟まれ苦悩する「近代的自我」を、初めて小説として描いたとされています。そのほかにも、『うたかたの記』『文づかひ』などの異国情緒を感じる名作を併録。時代を超えて読み継がれるおすすめの1作です。

高瀬舟

集英社 著者:森鷗外

高瀬舟

映像化もされてきた短編『高瀬舟』をはじめ、森鷗外後期の代表作を収録した作品集。表題作は安楽死や貧困など、現代にも通じる問題を淡々とした文章で綴った森鷗外の傑作です。

弟殺しの罪で島送りにされる喜助。護送人の同心・羽田庄兵衛は、罪人らしからぬ晴れやかな顔の喜助を不思議に思い、島への道中で彼の身に起こった顛末を尋ねます。『高瀬舟』はこの2人の会話から、人間の持つ不可思議や尊厳について見つめた物語です。

高瀬舟の上で繰り広げられる短い問答に、人の幸せや人を裁くことの難しさについて考えさせられます。多様な価値観に触れてきた森鷗外の思想が垣間見られる、おすすめの短編集です。

新潮社 著者:森鷗外

雁

明治維新による文明開化を背景に、妾になった庶民の女性と大学生の非恋を描いた短編小説。たびたび映画化やドラマ化などもされてきた森鷗外の名作です。

高利貸しの末造に望まれて妾になった庶民の娘・お玉は、大学近くで女中と2人で暮らしていました。ある日、家の前を通りがかった大学生・岡田を目にしたお玉は、彼に密かな想いを寄せるようになります。しかし、偶然が重なり…。

お玉と岡田を中心とした人間模様を、岡田の友人「僕」の回想という形で表現しました。明治時代に生きた女性の自我の目覚めや恋のままならなさを、時代の雰囲気とともに感じられます。近代文学初心者も読みやすいおすすめの森鷗外作品です。

ヰタ・セクスアリス

新潮社 著者:森鷗外

ヰタ・セクスアリス

幼少期から青年期までの性的体験を淡々と描いた、森鷗外の自伝的小説。本作品を掲載した文芸雑誌「スバル」が発売禁止処分を受けた異色作です。

日頃から、人が書かないことを書いてみたいと考えていたドイツ帰りの哲学講師・金井湛。ある日、自分の性欲の歴史を記そうと思い立った金井は、6歳の頃に見た絵草紙の話から初めて吉原を訪れたときのことまで、淡々と赤裸々に綴っていきます。

金井の自伝小説という形式で書かれた本作品は、森鷗外ならではの科学的な視点がポイント。成長過程の性について客観的に分析されており、当時の性に対する考え方の記録としても楽しめます。森鷗外をより身近に感じられるおすすめの小説です。

山椒大夫・高瀬舟

新潮社 著者:森鷗外

山椒大夫・高瀬舟

教科書などにも掲載されてきた表題作2編を含む、全12編からなる短編集です。『山椒大夫』は中世の芸能「説経節」の演目をもとに、森鷗外が改めて物語として発表した名作。1954年に映画化もされ、ベネチア国際映画祭銀獅子賞を受賞しました。

人買いに騙されて、母と引き離された安寿と厨子王丸の受難を描いた『山椒大夫』。そのほかにも、滞欧生活で学んだことを振り返りながら、森鷗外の世界観や人生観をうかがう『妄想』や『最後の一句』など、珠玉の作品が収録されています。

日本人の心を当時の視点から描き、それぞれの物語にちりばめられた人生観や哲学が胸を打つ1作。森鷗外作品を初めて手に取る方にもおすすめの1作です。

阿部一族 他二篇

岩波書店 著者:森鷗外

阿部一族 他二篇

森鷗外の初期歴史小説の代表作を含む、3編からなる短編集です。殉死をテーマに描いた短編『阿部一族』は“歴史小説の逸品”とも称され、ドラマ化のほか漫画化などもされています。

細川忠利公の死を受け、18名もの忠臣が殉死。しかし、なぜか生前の忠利から殉死の許しが出なかった阿部弥一右衛門に、世間からの中傷が浴びせられます。やがて、弥一右衛門が許されない殉死を遂げたことで、阿部一族に悲劇が襲うのでした。

武士道が支配する封建制下の日本社会で、人々がどのような思想のもとに生きていたのかを描いている本作品。表題作のほか、『興津弥五右衛門の遺書』『佐橋甚五郎』の2編も併録しました。森鷗外の歴史小説の名作を読んでみたい方におすすめの1作です。

渋江抽斎

岩波書店 著者:森鷗外

渋江抽斎

江戸時代末期に生きた弘前藩の医官・考証学者の渋江抽斎について、森鷗外が人生を克明に記した長編史伝。“鷗外文学の最高峰”とも評される、鷗外史伝ものの代表作です。

弘前津軽家の医官の伝記をはじめ、森鷗外は抽斎の交友関係や趣味、性格、家庭生活に至るまで徹底的に調べ上げ、新たな史伝として記しました。抽斎の生涯を生き生きと描くだけでなく、彼の子孫や関係者についてまで内容豊かに綴られています。

史実を追求していく過程も作中に織り込み、伝記文学に新たな手法を開いたといわれている本作品。緻密に調査していく様子からは、森鷗外の抽斎に対する熱い思いを感じ取れます。探偵小説を読むように楽しめる、おすすめの史伝です。

青年

新潮社 著者:森鷗外

青年

夏目漱石の『三四郎』に影響を受けて執筆されたという、森鷗外初の現代長編小説。純粋な美青年の内面の成長過程を追求した傑作青春小説です。

作家を志し、田舎から上京してきた資産家の息子・小泉純一が本作品の主人公。有名な作家を訪ねたり、医科大学生に啓発されたりと、文学に浸る日々を過ごしています。その一方で、劇場で知り合った未亡人と交渉を重ね…。

明治時代に生きた若者の、将来への不安や異性に対する葛藤などを丁寧に綴った森鷗外作品。森鷗外が生きた時代の東京を追体験できるような情景描写も見どころになっています。日本文学における青春小説の代表作を読んでみたい方に、おすすめの1作です。

大塩平八郎 他三篇

岩波書店 著者:森鷗外

大塩平八郎 他三篇

森鷗外が大塩平八郎について描写した表題作をはじめ、人気の歴史小説4編を収録した作品集です。

幕藩体制時代、「大塩平八郎の乱」の1日を中心に動乱の渦中にいる人物たちの葛藤を描いた『大塩平八郎』。武士の切腹を主題にした『堺事件』や儒学者の妻の生涯を辿った『安井夫人』など、歴史史料を踏まえつつ、当時の思想を反映させた物語が揃っています。

大塩平八郎の人物像や行動の歴史的意味を見つめ直し、大塩平八郎への見方を変えたともいわれる表題作。明治・大正時代の価値観から見た歴史小説を読んでみたい方におすすめの森鷗外作品です。

ちくま日本文学017 森鷗外

筑摩書房 著者:森鷗外

ちくま日本文学017 森鷗外

開国後の激動の時代を生きた文豪・森鷗外が手掛けた小説を、文庫本1冊にまとめたベストセレクション作品集です。代表作『舞姫』をはじめとする全16作品を収録しました。

『高瀬舟』『山椒大夫』といった名作に加え、森鷗外の怪談小説の傑作『鼠坂』などの人気作も揃っているのがポイント。ルビや年譜なども充実しており、森鷗外入門編としてもおすすめの1作です。各作品を読み比べてみたい方は、ぜひチェックしてみてください。

雁・カズイスチカ

教育出版 著者:森鷗外


雁・カズイスチカ

気難しいイメージの強い森鷗外が残した、やさしさのあふれる小説を集めた短編集です。本作品からは、陸軍軍医総監という堅苦しい肩書や、若くから頭角を現していた実績からは想像のつかない鷗外の意外な一面が垣間見られます。

表題作の『カズイスチカ』は、千住の町医者として親しまれている父を持ったエリート医学士・花房が主人公。父親の家業を手伝うなかで、医者として葛藤していく姿を描いています。

ほか、『雁』も収録した2本立て。いずれの作品も、語り手が過去を回想する形式をとっているのが特徴です。森鷗外が、市民に向けるぬくもりのある視線を感じ取れるのがポイント。著者の持つ多様な側面を感じたい方におすすめの1冊です。

現代語で読む「舞姫」

理論社 著者:森鷗外


現代語で読む「舞姫」

小学校高学年以上を対象にした、子供でも理解しやすい森鷗外の作品集。難解な文章で知られる森鷗外の小説を現代語へ翻訳し、楽しみやすくしているのが特徴です。

収録しているのは『舞姫』『うたかたの記』『文づかい』の3作。いずれも、ドイツ人女性と日本人青年の恋愛を描いた作品です。現代語への翻訳は高木敏光が担当しています。

読みやすい言葉を選びながら、原文の意図を極力そのままに翻訳しているのがポイント。言葉遣いの難しさから森鷗外を避けていた方におすすめの作品です。

鷗外随筆集

岩波書店 著者:森鷗外

鷗外随筆集

森鷗外の随筆集。封建イデオロギーと漢文に対する造詣の深さ、近代西欧文明への理解、自然科学者の視点など、多様な素養を備えた森鷗外の考え方が集約された1冊です。

作家・夏目漱石について書いた『夏目漱石論』や、短い文章のなかに著者の草花へ対する想いを感じ取れる『サフラン』など、計18編の随筆を収録。さらに、森鷗外本人の『遺言』も掲載しています。

多才な森鷗外が、思いついたことを綴った文章を楽しめるのが魅力。編纂(へんさん)は、日本文学を専門とし、早稲田大学の名誉教授としても活躍する千葉俊二が担当しています。作家・森鷗外への理解をより深めたい方におすすめの作品です。

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