反社会的な人格を持った登場人物が描かれた「サイコパス小説」。理解できないサイコパスなキャラクターの行動や考え方に恐怖を感じることで、ホラーやスリラー作品として楽しめます。常人では理解できないからこそ、キャラクターの魅力にひきつけられることも少なくありません。
そこで今回は、サイコパス小説のおすすめをご紹介します。さまざまなサイコパスが登場する作品をピックアップしました。ぜひ参考にしてみてください。
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そもそも「サイコパス」とは?
サイコパスとは、反社会的な人格を持ったパーソナリティ障害のこと。一般社会に溶け込んで生活を送っているケースも多く、周囲からは善良な人間として認知されている場合もあるのがポイントです。
罪悪感や道徳心が欠如しているのが特徴。他人を利用するためにあえて人当たりよく装ったり、冷静にうそをついたりすることがあります。自己中心的な考えになりがちで他人に共感することが少なく、物事を結果でのみ判断する性質も。実際に、サイコパスが起こしたとされる事件も存在しています。
サイコパス小説の魅力
サイコパス小説は、サイコパスな一面を持つ登場人物が描かれているのが特徴。サイコパスと称される人たちのなかには、優れた能力を発揮して活躍する人物も少なくありません。魅力的で豊かなイマジネーションを持ったサイコパスなキャラクターの考え方に、小説を通して近づけるのがサイコパス小説の特徴です。
共感能力に乏しいとされるサイコパスの行動原理は非常にシンプル。周囲の人間や社会との折り合いをつけず、合理的で感情的な判断のみで行動するため、共感はできずともサイコパスの行動に解放感を覚えることもあります。
理解も予測もできない彼らの行動に恐怖を感じることで、ホラーやスリラーとしての楽しみも。サイコパス小説は人の内側に潜む闇を描き出すことで、現代社会ならではの怖さを体験できるのも魅力です。
サイコパス小説のおすすめ
殺人勤務医
KADOKAWA 著者:大石圭
結末が衝撃的な大石圭のサイコパス小説。シリアルキラーが起こした猟奇殺人を描いています。殺人鬼の真の目的が明かされたとき、犯人の心の闇もまた明らかになる作品です。
中絶専門医・古河は優秀な医師。人当たりのよさと整った顔立ちで周囲の人間からも慕われています。しかし、幼少期の出来事によって古河はサイコパス的な側面を持ち合わせた大人になっていて…。
生きているべきでないと判断した人間を拉致して地下室に閉じ込め、恐ろしい手段で次々に殺していく古河の行動と動機に注目したい作品。猟奇殺人犯がどのようにして形成されたのかが気になる方におすすめです。
殺人鬼 覚醒篇
KADOKAWA 著者:綾辻行人
気分が悪くなるような描写が頻出する綾辻行人のサイコホラー小説。単なるエログロ小説ではなく、著者らしい読者の裏をかく仕掛けが用意された読みごたえのある1冊です。
ある夏の日に双葉山に集った「TCメンバーズ」は、現れた殺人鬼によってひとりずつ惨殺されていきます。突如訪れた地獄のような状況の先に隠された、衝撃的な展開が気になる作品です。
シリーズ作品として『殺人鬼 逆襲篇』も執筆しているので、本作品を読んで気に入った方はチェックしてみてください。スプラッター作品が得意な方におすすめの作品です。
マリアビートル
KADOKAWA 著者:伊坂幸太郎
娯楽小説の到達点とうたわれる伊坂幸太郎の小説。『グラスホッパー』や『AX アックス』と並んで「殺し屋シリーズ」と称されている作品です。
息子のために復讐をもくろむ殺し屋・木村と、優等生を演じながらも悪魔のような心を持つ中学生・王子。裏社会の大物から依頼を受けた蜜柑と檸檬や、ツキに恵まれず自信もない殺し屋・天道虫といった個性豊かな登場人物が、東北新幹線の車内で出会うことで起きた物語を描いた作品です。
一見すると優等生のように見えて、大人を翻弄することに快感を覚える恐ろしい一面を持った王子というキャラクターに注目。エンターテインメント性の高いサイコパス小説を探している方におすすめです。
黒い家
KADOKAWA 著者:貴志祐介
読む者を戦慄させる貴志祐介のサイコパス小説。恐怖がたたみかける、常識外れのサスペンスストーリーが展開されます。第4回日本ホラー小説大賞を受賞していることもポイントです。
生命保険の会社に勤める若槻慎二は、保険金の支払い査定に追われていました。ある日、顧客の家を訪ねた際に、子供の首つり死体を発見。顧客から死亡保険金の申請が出されたものの、怪しい態度から他殺と考えた若槻は自ら調査を始めて…。
調査の先で若槻を待っている恐怖に注目です。典型的なサイコパスが登場する作品。日常に潜んでいそうな、リアリティがある設定のサイコパス小説を読みたい方におすすめです。
悪の教典 上
文藝春秋 著者:貴志祐介
高い知能を持つ殺人犯が完璧な殺人を繰り返していく、貴志祐介のサイコパス小説です。第1回山田風太郎賞をはじめ、さまざまな賞を受賞している作品。2012年には実写映画化もされ、話題になりました。
蓮実聖司は生徒から慕われ、PTAや職員からも高い評価を得ている英語教師。しかし、本性はサイコパスでした。不良生徒やモンスターペアレント、淫行教師といった闇を抱える私立高校で、蓮実は「モリタート」の旋律に合わせて犯行を重ねていきます。
著者の得意とする、心を持たない人間の所業に焦点を当てた小説。教育現場に放たれたサイコパスの悪行、ピカレスクロマンを楽しみたい方におすすめです。
新装版 殺戮にいたる病
講談社 著者:我孫子武丸
ありふれた家庭が抱える闇を描き出した我孫子武丸のサイコパス小説。1ページ目からおぞましい結末まで、殺人者の行動と心のありようを追い続けるミステリー作品です。
東京の繁華街にシリアルキラーが出現しました。犯人は被害者を凌辱し惨殺する猟奇殺人を、何度も繰り返します。永遠の愛を求める犯人の男の行く末は、どのようなものなのでしょうか。
読後に、犯人の心理描写や嗜好性に気持ちが悪くなってしまう方もいるといわれる作品。最後の最後で起きるどんでん返しにも注目してみてください。理解の範囲を超えたサイコパスが登場する作品を読んでみたい方におすすめです。
告白
双葉社 著者:湊かなえ
語り手とその立場が次々と変わることで、少しずつ事件の全体像が明かされていく湊かなえの小説。著者のデビュー作であり、「週刊文春ミステリーベスト10」の1位や本屋大賞1位に選ばれています。2010年に実写映画化されているのもポイントです。
物語は、とある女性教師が中学校のホームルームで突然行った告白によって始まります。“愛美は死にました。しかし事故ではありません。このクラスの生徒に殺されたのです”。やがて、事件に関わった人物たちに悲劇がふりかかっていき…。
理解しがたい登場人物たちの行動に隠された心の闇が、視点が変わることで垣間見えるのがポイント。人間の心理がリアルに描かれた作品が読みたい方におすすめです。
イン ザ・ミソスープ
幻冬舎 著者:村上龍
新聞連載中より注目を浴びていた村上龍の問題作です。読売文学賞を受賞した作品でもあります。
奇妙な肌に包まれるアメリカ人・フランクに夜の性風俗ガイドを依頼されたケンジ。フランクの顔を見てケンジは、売春をしていた女子高生が体をバラバラにされて歌舞伎町のゴミ処理場に放置されていた事件を思い出します。一抹の不安を感じながらも、ケンジはフランクとともに夜の新宿を歩いていき…。
狂気を抱えるフランクの不気味さが、ケンジの心情を通して伝わってくる点に注目。理解が及ばないサイコパスな人物が事件を引き起こしていく物語を読みたい方におすすめです。
火の粉
幻冬舎 著者:雫井脩介
冒頭からページをめくる手が止まらなくなる雫井脩介のサイコパス小説。2016年には、連続テレビドラマ化された作品でもあります。
梶間勲は元裁判官。ある日、住んでいる家の隣にかつて無罪判決を言い渡した男性・武内が引っ越してきます。武内の良心的な振る舞いに梶間家の人々は次第に心を許していきますが、やがて次々と事件が起き始めて…。
一見すると善良な人間が巧みに懐に入り込んで事件を引き起こす、典型的なサイコサスペンス。サイコパスが迫りくる恐怖体験の物語を読みたい方におすすめです。
リカ
幻冬舎 著者:五十嵐貴久
家族を愛するごくありふれた会社員・本間が、狂気に満ちた女性に迫られるサイコパス小説。第2回ホラーサスペンス大賞の受賞作です。
ある日、軽い気持ちで始めた出会い系で、リカという女性と知り合います。しかし彼女は、サイコパス気質の女性でした。普通では考えられない方法で本間をストーキングするリカに追いつめられた本間は、彼女に立ち向かうことを決意して…。
「リカ」という美しい怪物にとりつかれた恐怖を描く「リカシリーズ」の1作。ほかに、『リハーサル』『リターン』『リバース』などがあります。迫力のあるサイコパスが登場する作品を読みたい方におすすめです。
ハサミ男
講談社 著者:殊能将之
緻密な計算によって描かれる殊能将之のおすすめ長編ミステリー。美しい少女を殺し、研ぎあげたハサミを首に突き立てる殺人を繰り返す猟奇殺人犯・ハサミ男が主人公の物語です。
ハサミ男は次に殺害するターゲットを定め、綿密な下調べを行っていました。しかしある日、殺そうとしていた少女の死体を発見。しかも、彼女はハサミ男の殺し方をまねて殺されていました。一体誰が、何のために自分と同じ手口で殺人を犯したのか、ハサミ男は自ら事件の真相を暴こうとします。
想像だにしない結末に衝撃を受けた方も多い作品です。物語のラストシーン、意外な犯人の正体が気になる方はぜひ手に取ってみてください。
脳男 新装版
講談社 著者:首藤瓜於
2000年に第46回江戸川乱歩賞を受賞した、首藤瓜於の代表作。愛宕市という架空の街を舞台に展開されるサスペンス小説です。本作品はシリーズ化され、続編に『指し手の顔 脳男Ⅱ』『ブックキーパー 脳男』があります。
猟奇的な連続爆弾犯のアジトにいたのは、心を持たない男・鈴木一郎でした。逮捕されると、新たな爆弾の設置場所を告白。精神鑑定医として鈴木に接する医師・鷲谷真梨子は、彼の素顔を暴こうとします。やがて、男が入院する病院にも爆弾が仕掛けられて…。
感情が欠落した鈴木と事件との関わりはどのようなものなのでしょうか。江戸川乱歩賞で、選考員全員が絶賛したといわれる作品を読みたい方におすすめです。
ミザリー
文藝春秋 著者:スティーヴン・キング
ファン心理の恐ろしさを描き出した、スティーヴン・キングのサイコパス小説。本作品は、著者の体験がエッセンスといわれています。1990年には実写映画化も行われている作品です。
雪道で事故にあってから半身不随になった人気作家・ポール・シェルダン。元看護師のファン・アニーが手助けをしてくれることになります。しかし、彼女はポールを監禁したうえで、自分だけのための作品を書けと脅してきて…。
サイコパスの一面を持つアニーのもとから、ポールが逃げ出せるのかが見どころです。作中に恐怖小説が差し込まれる演出にも注目。行き過ぎた関心が生み出す恐怖を描いた作品に興味のある方におすすめです。
嵐が丘
新潮社 著者:エミリー・ブロンテ
永遠の恋愛小説とうたわれる、イギリスの作家・エミリー・ブロンテの小説。2つの家族が世代を超えて繰り広げる、愛憎が入り混じった物語を描いた古典作品です。
ヨークシャーにそびえる嵐が丘の屋敷主人に拾われ、屋敷の娘・キャサリンに思いを寄せながらも若主人の虐待に耐え忍んでいるヒースクリフ。やがてキャサリンに結婚の話が持ち上がり、ショックを受けたヒースクリフは屋敷を去ります。時は流れ、ヒースクリフは大金持ちとなって復讐のために屋敷へ戻ってくるのでした。
復讐に異常な執念を持つヒースクリフにサイコパスを感じる作品。サイコパスが登場する恋愛小説として楽しむのもおすすめの名作です。
羊たちの沈黙 上
新潮社 著者:トマス・ハリス
1980年代末からサスペンススリラーを代表する作品として知られるトマス・ハリスの小説。1991年には実写映画化され、アカデミー賞を受賞しています。
誘拐した女性を殺して生皮を剥ぐ、通称「バッファロウ・ビル」と呼ばれる殺人犯に苦戦するFBI。事件に関わることになった訓練生クラリス・スターリングは捜査への助力を要請すべく、患者を次々に殺害して精神異常犯罪者用病院に拘束されている医学博士・ハンニバル・レクターを尋ねますが…。
圧倒的な存在感を放つ犯罪者が登場するサイコパス小説の金字塔。サイコパス小説が好きな方には、避けては通れないおすすめ作品のひとつです。
サイコパス小説は、猟奇的な殺人を犯すキャラクターの登場作品が多く存在します。考え方が理解できず、感情移入できない不気味さも相まって恐怖を感じる場合も。なかには、エンターテインメント性の強い作品や恋愛をテーマにしたサイコパス小説もあります。ぜひ、作品を通してサイコパスの本質に触れてみてください。