女性の生きる姿をリアルに描いた作風が魅力の小説家「窪美澄」。デビュー作をはじめとする多くの作品で、著名な文学賞を受賞してきた実力派作家です。さらに、短編集『夜に星を放つ』が2022年上半期の直木賞を受賞し、注目を集めています。
今回は、そんな窪美澄が手掛けた小説から、おすすめの作品をご紹介。話題の新刊から、映画化された人気作まで魅力とともにピックアップしました。ぜひ選書の参考にしてみてください。
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女性の生きる姿を描く作品が多い「窪美澄」とは?
1965年、東京都出身の小説家・窪美澄。雑誌などの編集ライターを経験し、2009年に短編『ミクマリ』が女による女のためのR-18文学賞を受賞します。同作品を収録した単行本『ふがいない僕は空を見た』で、2010年に作家デビューしました。
デビュー作は2011年の本屋大賞で第2位に選ばれたほか、山本周五郎賞を受賞し、注目を集めます。その後も、2012年『晴天の迷いクジラ』で山田風太郎賞、2019年『トリニティ』で織田作之助賞など、数々の文学賞を受賞しました。
さらに、短編集『夜に星を放つ』が2022年上半期の直木賞を受賞。自身のライター時代の経験を活かし、仕事と子育ての両立や、シングルマザーとしての生き方など、女性の生きる姿をリアルに描いた作風で多くの読者からの支持を集めています。
窪美澄作品の魅力
窪美澄作品は、女性を取り巻く社会的な実情や女性の本心を正面から見つめた作風が魅力です。女性にとっての性愛や妊娠・出産などのデリケートな課題に寄り添った物語を、繊細な心情描写とともに描いています。
また、女性以外にも社会規範に生きにくさを感じている人や、家族や周囲との関係に悩みながら生きている人に焦点を当てた作品が多いのもポイント。さまざまな立場の人の孤独や苦しみを丁寧にすくい上げており、男女問わず共感しやすいのも魅力です。
既存の価値観にとらわれない、さまざまな形の家族が窪美澄作品には描かれています。女性や親としての生き方、家族のあり方について悩んだときに、そっと心を照らしてくれるおすすめの小説家です。
窪美澄のおすすめ小説
ふがいない僕は空を見た
新潮社 著者:窪美澄
第8回女による女のためのR-18文学賞大賞を受賞した『ミクマリ』を含む連作短編集。窪美澄の単行本デビュー作でもあります。2011年に山本周五郎賞、同年の本屋大賞第2位を受賞しました。2012年に映画化もされた窪美澄の代表作です。
年上の人妻と関係を持っている高校1年生の斉藤。やがて、斉藤は彼女への気持ちが性欲だけではなくなってきたことに気が付くのです。
そのほか、姑に不妊治療を迫られる女性や、ぼけた祖母と2人で暮らす高校生、助産院を営みながら女手ひとつで息子を育てる母親など、斉藤と周囲の人々の姿から、生きることの痛みと喜びを鮮やかに描いています。
官能的な性愛の描写とともに、人間の生々しい「生」を表現した名作です。各章で主人公が入れ替わりつつ、それぞれの関係性に繋がりがあるのもポイント。一気読みした読者も多い、おすすめの窪美澄作品です。
夜に星を放つ
文藝春秋 著者:窪美澄
かけがえのない人間関係を失い、人生に戸惑う人々の姿を、星や天体などのモチーフとともに描いた窪美澄の傑作短編集です。本作は、2022年に第167回直木賞を受賞しました。
双子の妹を亡くした女性が、コロナ禍に婚活アプリで出会った男性と妹の彼氏との間で揺れ動く『真夜中のアボカド』。学校でいじめられている女子中学生と亡くなった母親との奇妙な同居生活を描いた『真珠星スピカ』など、多彩な5編が収録されています。
喪失感を抱えた人々が、再び誰かと心を通わせられるのかを問いかける窪美澄作品。人の心の揺らぎが繊細に表現されています。ささやかな希望を感じる読後感も魅力の、おすすめの直木賞受賞作です。
晴天の迷いクジラ
新潮社 著者:窪美澄
2012年に山田風太郎賞を受賞した、窪美澄の長編小説。生まれや育ち、年齢もバラバラな3人の男女の姿から、命の極限とその果ての希望を描いた窪美澄初期の名作です。
デザイン会社に勤務するも、失恋と激務でうつを発症した由人。さらに、彼の雇い主・野乃花も、自社の倒産に人生を終わらせることを決意します。死ぬ前にクジラを見るため南の半島へ向かった2人が道中で出会ったのは、女子高生の正子でした。
親の干渉に疲れきって心を壊した正子もまた、生きることを諦めようとしていましたが…。
人生への希望を見失った3人の心の再生を、あたたかな言葉とともに描き、涙した読者も多い本作品。努力が報われない人生にも生きる勇気を貰える、おすすめの感動作です。
水やりはいつも深夜だけど
KADOKAWA 著者:窪美澄
普通の家庭の現実を生々しくえぐり出した、珠玉の連作短編集です。収録作『かそけきサンカヨウ』は2021年に映画化もされました。
セレブママでありながら周囲の評価に怯える主婦や、仕事が忙しくて妻や義理の両親からうとまれる夫。父の再婚によって突然やってきた義母に戸惑う女子高生など、同じ街に住む5人のさまざまな家族の形を描いた5編が収録されています。
一見、幸せそうに見える家族が抱える寂しさや切なさ、行き違いを痛切に描いた物語。リアルな人間関係や心情描写に、思わず共感する読者も多いおすすめの窪美澄作品です。
やめるときも、すこやかなるときも
集英社 著者:窪美澄
2020年にドラマ化もされた、窪美澄の長編小説。大切な人の死を忘れられない男性と恋の仕方を知らない女性の、出会いから心を通わせていくまでを描いたあたたかな感動作です。
過去のトラウマによって、1年のうちの数日間声が出なくなってしまう家具職人・壱晴。一方で、パンフレット制作会社勤務の桜子も困窮する実家を支えており、恋に縁遠い生活を送ってきました。それぞれに欠けた心を抱えた32歳の2人。彼らの出会いの行方はどのように終着するのでしょうか。
他者と共に生きることの愛おしさに満ちた恋愛小説。互いに事情を抱えた人と人が、生身で真摯にぶつかることの意義が丁寧に描かれています。家族や結婚をテーマにした小説を読みたい方におすすめの窪美澄作品です。
よるのふくらみ
新潮社 著者:窪美澄
男女の三角関係を描いた究極の恋愛小説。切ない想いと欲望が溶け合う、窪美澄の人気作です。
物語の中心は、幼なじみとして育ったみひろ・圭祐・裕太。圭祐と同棲しているみひろは彼との性関係がないことに悩み、そんな自分に嫌悪感を抱いていました。一方、みひろに惹かれている圭祐の弟・裕太は、2人がうまくいっていないと察していますが…。
3人それぞれの切実な心情が胸を打つ窪美澄作品。濃密な情景描写が、登場人物の人間らしさを際立たせます。人間の本能と愛の在り方について深く考えさせられる、おすすめの恋愛小説です。
朔が満ちる
朝日新聞出版 著者:窪美澄
“著者の新境地を拓く問題作”と謳われる、窪美澄の長編小説。家庭内暴力を受けていた主人公が、過去と決別し前を向く過程を痛切に描いた作品です。
主人公・史也は、酒を飲む度に荒れる父親を中学1年生の頃に殺そうとした過去を持っています。心に傷を負ったまま家族と離れ、東京でカメラマンとして働く史也。荒んだ生活のなか、看護師・千尋との出会いをきっかけに史也は己の過去に向き合おうとします。
壮絶な家庭環境から生き延びた子どもが、大人になってからも抱え続ける苦しみをリアルな心の動きとともに表現しているのがポイント。社会問題に触れた、重厚感のある読み味の小説を読みたい方におすすめの窪美澄作品です。
トリニティ
新潮社 著者:窪美澄
織田作之助賞を受賞し、窪美澄の新たな代表作とも称される長編大河小説。3人の女性の半生から、現代社会を生き抜く女性たちの夢と祈りを描いた傑作です。直木賞の候補作にも選出されました。
1960年代の出版社で出会った、登紀子・妙子・鈴子の3人。後に3人はそれぞれライターやイラストレーター、専業主婦として活躍します。昭和から平成へ変わりゆく時代のなかで、彼女たちが得たもの、失ったもの、そして未来に繋ぐものとは何なのでしょうか。
仕事や結婚、子どもなど、人生にとってかけがえのないものの選択に揺らぐ、女性たちの葛藤が胸に迫る1作。読みごたえのある長編小説を読みたい方におすすめの窪美澄作品です。
現代に生きる女性や家族の実情を真摯に捉える窪美澄作品。性愛や人の本音を生々しく描きながらも、人間味を感じられる登場人物に共感しやすいのが魅力です。選書に迷ったときには、『夜に星を放つ』などの受賞作からチェックするのがおすすめ。さまざまな人の心に寄り添う窪美澄の筆致を、ぜひ堪能してみてください。