新進気鋭の若手作家による、優れた純文学作品に贈られる「芥川賞」。1935年に菊池寛が直木賞とともに創設した、歴史ある文学賞です。受賞作は芸術性の高い名作ばかりですが、選書に悩む方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、これまでの芥川賞受賞作のなかからおすすめの小説をご紹介。ベストセラーになった話題の作品から、最新の受賞作まで取り上げました。ぜひ参考にしてみてください。

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芥川賞とは?

芥川龍之介賞は、文藝春秋の創業者・菊池寛が1935年に創設した文学賞です。菊池寛の友人である芥川龍之介の名を冠し、直木賞と同時に制定されました。授賞は年2回で、上半期(7月)と下半期(翌年1月)に分けて選考会が行われます。

芥川賞の特徴は、公募形式ではないこと。対象期間内の文芸雑誌に掲載された、中編・短編作品のなかから選定されます。新進気鋭の若手作家を対象としていますが年齢制限はなく、10代から70代まで幅広い年齢層の作家が受賞してきました。

また、直木賞がエンターテインメント作品から選出される一方、芥川賞は純文学作品を対象にしています。よって、受賞作はどれも芸術性の高い文学作品が揃っているのもポイントです。

デビュー作で受賞する作家も多いので、これから注目の若手作家を見つけ出したい方、純文学が好きな方は芥川賞受賞作をチェックしてみてください。

芥川受賞作品のおすすめ

火花

文藝春秋 著者:又吉直樹

火花

2015年上半期の芥川賞を受賞した、芸人・又吉直樹の作家デビュー作。「お笑い」を主軸に、笑いとは何か、人間が生きるとは何かを描ききった渾身の感動作です。第28回三島由紀夫賞の候補作にも選出され、2017年には実写映画が公開。舞台化もされました。

売れない芸人・徳永は、熱海の花火大会で先輩芸人・神谷と運命的な出会いを果たします。天才肌で人間味が豊かな神谷に、弟子入りを申し出る徳永。神谷の斬新なお笑い哲学に心酔し、行動を共にしますが、やがて運命は2人を別離の道へ歩ませるのでした。

芸人の世界の厳しさをリアルに描きつつ、青春群像劇としても楽しみやすい本作品。エンターテインメント性も兼ね備えており、純文学初心者にもおすすめです。累計部数326万部を突破した芥川賞受賞の傑作にぜひ触れてみてください。

コンビニ人間

文藝春秋 著者:村田沙耶香

コンビニ人間

2016年上半期に芥川賞を受賞した、村田沙耶香のベストセラー小説。コンビニのアルバイトという立場から「普通」とは何かを軽やかに問う、衝撃のリアリズム小説です。約20の言語に翻訳され、世界各国でも話題を集めています。

コンビニのバイト歴18年目の古倉恵子は、36歳で交際経験もない独身女性。幼少期から世間とずれた感性を持っていた彼女は、完璧なマニュアルが存在するコンビニで働くことによって、自分が「世界の歯車」であると実感できていました。

しかし、婚活目的の新入りバイト・白羽は、恵子のそんなコンビニ的生き方を真っ向から否定し…。

コンビニバイトという身近な職種に現代の世相を反映させた本作品は、自分らしさや個性の在り方を読者に問いかけます。ユーモアを交えた筆致で読みやすく、芥川賞受賞作に初めて触れる方にもおすすめの小説です。

スクラップ・アンド・ビルド

文藝春秋 著者:羽田圭介

スクラップ・アンド・ビルド

介護を通して人間の生と死に向き合う、羽田圭介の芥川賞受賞作。2015年に『火花』とともに上半期の芥川賞を受賞し、話題になりました。2016年にドラマ化もされています。

主人公は転職活動に勤しむ青年・健斗。同居している87歳の祖父は、“早う死にたか”と毎日のようにぼやいており、そんな祖父の扱いに悩んでいました。そんななか、介護業界で働く友人の助言を受けた健斗は、祖父の願いを叶えるべく、ある計画を実行に移します。

在宅介護という閉塞感のあるテーマのなかに可笑しみを交え、“新しい家族小説の誕生を告げた芥川賞受賞作”とも謳われる1作。介護する側とされる側の認識の違いについて深く考えさせられる、おすすめの芥川賞受賞作です。

おいしいごはんが食べられますように

講談社 著者:高瀬隼子

おいしいごはんが食べられますよう

“心をざわつかせる、仕事+食べもの+恋愛小説”と称される、高瀬隼子の中編小説。2022年上半期の芥川賞を受賞しました。ままならない人間関係を「食べること」を通して描いた傑作です。

物語の中心は、仕事も私生活も要領のいい二谷と、仕事ができてがんばり屋の押尾。そんな2人の職場にいる女性・芦川は、心身ともに繊細で周囲から配慮されており、押尾は芦川の言動に苛立ちを募らせていました。

そんななか、芦川は厚意へのお礼とお詫びとして、手作りのお菓子を職場で振る舞うようになります。

人間関係で感じるさまざまな違和感や他者への苛立ちを、作中の「食」とともに痛烈に描いている本作品。自分の嫌な部分を浮き彫りにさせられるような読書体験を味わえる、おすすめの芥川賞受賞作です。

ブラックボックス

講談社 著者:砂川文次

ブラックボックス

極限状態に置かれた人間の心理を巧みに描いてきた作家・砂川文次の、“新境地の傑作”と謳われる1作。2021年下半期の芥川賞受賞作です。

主人公・サクマは、東京の都心で自転車便のメッセンジャーをしている28歳の男性。同棲相手もいるものの、職を転々としてきたサクマは“ちゃんとしなきゃ”と焦燥感に駆られていました。しかし、感情の暴発を抑えられず、社会から転落してしまうのです。

どうしようもない己の衝動を自覚しながら、生きていこうと焦り、もがく若者の内面が生々しく表現されています。非正規雇用など、現代の社会的な問題が踏まえられているのもポイント。骨太な芥川賞受賞作を読みたい方におすすめの1作です。

貝に続く場所にて

講談社 著者:石沢麻依

貝に続く場所にて

2021年上半期の芥川賞受賞作であり、群像新人文学賞を受賞した石沢麻依のデビュー作。東日本大震災を主題に、ドイツに留学している大学生が震災の記憶に向き合う鎮魂の物語です。

物語の舞台は、コロナ禍が影を落とすドイツ・ゲッティンゲン。異国の学術都市で留学生として暮らす私の元に、仙台の大学時代に同じ研究室にいた野宮がドイツに来るという知らせが入ります。しかし、彼は9年前の震災で行方不明になっていたはずでした。

“人文的教養溢れる大人の傑作”とも評された芥川賞受賞作。時が経ち、風化していく震災の記憶を、コロナ禍のドイツと震災当時の日本を重ねながら丁寧に描き出しました。知的な純文学を読んでみたい方におすすめの小説です。

彼岸花が咲く島

文藝春秋 著者:李琴峰

彼岸花が咲く島

台湾出身の日中二言語作家・李琴峰の中編小説です。2021年上半期の芥川賞を受賞し、三島由紀夫賞の候補作にも選出されました。

とある島の浜辺に1人の少女が流れ着くところから物語はスタート。記憶を失った少女は「宇実」という名を授けられ、島で暮らすことになります。島には「ノロ」と呼ばれる女性が統治し、さらに男女で違う言葉を学ぶという不思議な風習がありました。

言語の使用者が区別された女性主導の島という、不思議な舞台設定が本作品の魅力。歴史について風刺的な側面もあり、現実社会と寓話が入り混じるような物語が読んでみたい方におすすめの芥川賞受賞作です。

推し、燃ゆ

河出書房新社 著者:宇佐美りん

推し、燃ゆ

三島由紀夫賞を最年少で受賞し、作家デビューした宇佐美りんの第2作目。「推し」であるアイドルの追っかけを生きがいにしている女子高生の姿を、痛切に描き出しました。2020年下半期の芥川賞に輝き、累計発行部数50万部を突破しています。

主人公は、アイドル・上野真幸をファンとして「解釈」することに心血を注ぐ女子高生・あかり。推しの活動をつぶさに追いかけ、ブログで公開する日々を送っています。ところが、上野はファンを殴り、世間で炎上してしまうのです。

「推しを推す」という現代的な行為のリアルを描き、“時代を見事に活写した傑作”と評された芥川賞受賞作。生きにくさを抱えた人々にとっての精神的支柱の意義を、推しにのめり込むあかりの姿で表現しました。青春小説として中高生にもおすすめの1作です。

新装版 限りなく透明に近いブルー

講談社 著者:村上龍

新装版 限りなく透明に近いブルー

退廃的な若者たちの青春を描いた、村上龍のデビュー作であり代表作。“永遠の文学の金字塔”とも謳われる、1976年上半期の芥川賞受賞作です。累計部数367万部を突破しており、歴代の受賞作品のなかでもトップクラスの売上を記録しています。

米軍基地が近い東京・福生の街が物語の舞台。そこでは日常的に性やドラッグ、暴力に満ちた宴が繰り広げられていました。荒廃した日々を過ごす主人公・リュウの姿から、スキャンダラスな青春の奥に潜む空虚さと孤独を描き出します。

現実と幻想が入り乱れる混沌が、詩的で繊細な文体とともに淡々と表現されているのが見どころ。アンダーグラウンドな世界の濃厚な群像小説を読んでみたい方におすすめです。当時の文芸界に大きな衝撃を与えた鮮烈な文学を、ぜひ堪能してみてください。

蹴りたい背中

河出書房新社 著者:綿矢りさ

蹴りたい背中

史上最年少・19歳で2003年下半期の芥川賞を受賞した、綿矢りさのベストセラー小説。累計部数127万部を突破している青春小説の名作です。

物語の中心である高校1年生の「ハツ」と「にな川」は、クラスの余り者同士。ある日、ハツはオリチャンというモデルの熱狂的なファンであるにな川から、彼の部屋に招待されます。臆病ゆえに孤独な2人の関係はどこへ行き着くのでしょうか。

思春期のモヤモヤとした感情が丁寧に言語化されており、世代を超えて多くの読者が共感した1作。中学生が芥川賞受賞作に触れるきっかけとしてもおすすめの青春小説です。

むらさきのスカートの女

朝日新聞出版 著者:今村夏子

むらさきのスカートの女

2019年上半期の芥川賞に輝いた、今村夏子の中編小説です。“何も起こらないのに面白い”とSNSなどで話題を集め、累計19万部を突破。17言語23の国と地域で翻訳出版もされました。

物語は、近所に住む「むらさきのスカートの女」と呼ばれる女性が気になって仕方ない「わたし」の一人称で語られていきます。わたしは彼女の生活を観察し続け、さらには「ともだち」になるために、自分と同じ職場で彼女が働きだすよう誘導するのです。

変わり者として噂になっている女と、それをただ観察するわたしを淡々と描きながら、得体の知れない違和感が徐々に浮き彫りになっていくのが本作品の見どころ。じっとりとした不気味な感覚の虜になる、おすすめの芥川賞受賞作です。

ポトスライムの舟

講談社 著者:津村記久子

ポトスライムの舟

“新しい脱力系勤労小説”と謳われる、津村記久子の中編小説。契約社員として働く女性のつつましい生活を描き、2008年下半期の芥川賞に輝きました。

主人公は、29歳で社会人8年目の女性・ナガセ。食いぶちのために工場勤務をしながら、「時間を金で売る」虚しい日々を送っていました。そんなある日、ナガセは自分の年収と同じ163万円で、世界一周旅行に行けるということに気が付きます。

1年分の勤務時間を、“世界一周という行為にも換金できる”と考えたナガセは、163万円を貯めることを目標にしますが…。

お金とは何なのか、働くとはどういうことなのかを考えさせられる芥川賞受賞作。生活のなかの些細なきっかけで揺れ動く人間の心情が、丁寧に表現されています。働くことを肯定したくなる、おすすめの1作です。

苦役列車

新潮社 著者:西村賢太

苦役列車

2012年に映画化もされた、西村賢太の代表作です。2010年下半期の芥川賞に輝きました。「最後の私小説家」とも呼ばれた西村賢太が、自身を投影させた19歳の青年・北町貫多を主人公として綴った私小説です。

中学卒業以来、日雇仕事で生計を立てている貫多は、途方もない劣等感と暴力癖の持ち主。将来への希望もなく、恋人や友人もおらず、1杯のコップ酒を慰めに生きています。そんなある日、仕事で同い年の青年と出会い、友情らしきものが芽生えますが…。

厄介な自意識を抱え、自ら破滅に向かっていく貫多の姿は、露悪的でありながらもユーモアを感じさせます。表題作に加え、短編『落ちぶれて袖に涙のふりかかる』を併録。私小説を読んだことがない方にもおすすめの芥川賞受賞作です。

蛇にピアス

集英社 著者:金原ひとみ

蛇にピアス

すばる文学賞と芥川賞をダブル受賞した、金原ひとみのデビュー作。同時受賞した綿矢りさに次ぐ、当時20歳という若さでの芥川賞受賞が話題になりました。2008年に映画化され、漫画化などもされた人気作です。

主人公は、ピアスの拡張にハマっていた19歳の少女・ルイ。「スプリットタン」という2股に分かれた舌を持つ男・アマとの出会いをきっかけに、ルイは舌にピアスを入れ、刺青などの身体改造にのめり込んでいきます。

やがてルイはアマと同棲しながらも、アマが懇意にしている彫り師・シバとも関係を持つようになり…。

大人でも子供でもない年代の繊細で危うい感性が、肉体の痛みとともにリアルに表現されているのが見どころ。芥川賞受賞作をはじめて読む方も読みやすい、おすすめの小説です。

新潮社 著者:安部公房

壁

“日本のシュルレアリスム文学の第一人者”ともいわれる安部公房の短編集です。独特の寓意とシュールなユーモアにあふれた物語を、3部6編のオムニバス形式で綴りました。1951年上半期に芥川賞を受賞しています。

自分の名前を突然失ってしまった男や、影を盗まれて体が透明になってしまった詩人。帰るべき家を探しているうちに、足が絹糸のように解けていく男など、奇怪で不条理な出来事に巻き込まれる人々を描いた物語を堪能できます。

自分という存在の価値が揺らぎ、何をもって自分であるといえるのか曖昧な感覚に陥る不思議な読み味が魅力。前衛的な世界観ながら、読む手が止まらなかったという読者も。幻想的で芸術的な文学作品が読みたい方におすすめの芥川賞受賞作です。

死者の奢り・飼育

新潮社 著者:大江健三郎

死者の奢り・飼育

日本人として史上2人目となるノーベル文学賞を受賞した、大江健三郎の傑作短編集。1958年上半期の芥川賞に輝いた『飼育』を含む、6編の短編が収録されています。

医学部にある死体処理室の、無数の遺体を移動させるアルバイトをする『死者の奢り』。脊椎カリエスを患い、療養所の厚い壁に閉じ込められた少年たちによる『他人の足』。黒人兵と寒村の子どもたちの無惨な悲劇を描く『飼育』など、濃密な短編が揃いました。

どの物語も、閉塞的な環境における人間ドラマが生々しく描かれているのがポイント。戦後の重苦しい雰囲気が全編に漂いつつ、読後には痛烈な印象を残します。じっくりとそれぞれのテーマについて考えながら読みたい、おすすめの短編集です。

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