無頼派を代表する作家「坂口安吾」。戦後の日本文学を語るうえで欠かすことのできない作家のひとりです。社会への反骨精神に満ちた作品を、鋭い洞察力を持って執筆しているのが特徴。作品のジャンルは評論からミステリーまで多岐にわたります。

今回は、坂口安吾のおすすめ小説をご紹介。エンターテインメント性の強いモノから著者の思想を読み解けるモノまで幅広くピックアップしました。ぜひ参考にしてみてください。

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戦前~戦後に活躍した無頼派「坂口安吾」とは?

坂口安吾は、1906年新潟市生まれの作家です。中学時代に東京の学校へ編入し、東洋大学文学部印度哲学倫理学科に入学。さらに、語学学校「アテネ・フランセ」に通い、卒業後に同人誌『言葉』を創刊します。

1931年に『青い馬』にて発表した短編『風博士』が評価され、新進作家として活躍。さらに、『堕落論』『白痴』などで新文学のパイオニアとして注目されます。戦争中には仲間と犯人当てに興じていたミステリー愛好家で、探偵小説も執筆。同時代の作家として、太宰治や織田作之助と親交があったのもポイントです。

坂口安吾作品の魅力

坂口安吾は戦後における日本文学の革命児「無頼派」の旗手のひとり。文学だけでなく、日本思想や日本文化の分野においても重要な作家として知られています。

作品のジャンルは多岐にわたり、評論集からミステリー、幻想的な話まで執筆しているのが特徴。すぐれた洞察力と強い反骨精神によって、読みごたえのある作品を多数執筆しています。破滅的で堕落した生き方を肯定する、新しい考え方を模索している点にも注目してみてください。

坂口安吾のおすすめ小説

堕落論

新潮社 著者:坂口安吾


堕落論

坂口安吾が自らの考えるところをひたすらに書き綴った評論集。強い意志のもとに執筆された、坂口安吾を代表する作品のひとつです。

“単に、人生を描くためなら、地球に表紙をかぶせるのが一番正しい”という言葉で知られる『FARCEに就て』ほか、無頼派として批評精神に満ちた12編の批評を収録。時代を鋭く批評し、文学を疑い続けた著者ならではの感性を堪能できます。

戦後すぐの作品ながら、現代にも通ずる生き方を訴えかけてくる点に注目。全編を通して心に刺さる言葉がちりばめられています。坂口安吾の思想を知りたい方はもちろん、名言に励まされたい方にもおすすめです。

白痴

新潮社 著者:坂口安吾


白痴

無頼派として名を馳せた坂口安吾の代表作。観念的作風でデカダン派とも称された7編を楽しめる1冊です。

表題作『白痴』は、白痴の女性と火炎から逃げのび、連れて行っても養うアテもないけれど女性を見捨てる気概はなく、日々を過ごす主人公の話。戦後のカオスな社会に生きる人の心に響いた作品です。また、収録作のひとつである『戦争と一人の女』は、2013年に実写映画化もされています。

自嘲的で常識の外にある生き方を続けていた著者が、『堕落論』の思想を本作品で小説へと落とし込んでいるのがポイント。退廃的な雰囲気の作品を読みたい方におすすめです。

桜の森の満開の下

講談社 著者:坂口安吾


桜の森の満開の下

坂口安吾の作品集。表題作『桜の森の満開の下』に加え、『梟雄』『花咲ける石』の計3編を収録しています。1975年に実写映画化されたり、『贋作・桜の森の満開の下』として戯曲化されたりしている点にも注目です。

『桜の森の満開の下』は、美しくもどこか気がおかしくなる満開の桜の下で起こる物語。屈強な山賊は美しい女性に出会いますが、女性のおそろしい本性に翻弄されていきます。

著者が自身の心の中にあるわだかまりと向き合い描き出した作品。端正な文章によって人間の持つエゴが浮き彫りになっています。坂口安吾の世界観を、思う存分堪能してみたい方におすすめです。

風と光と二十の私と

講談社 著者:坂口安吾


風と光と二十の私と

坂口安吾が40歳のときに、20歳の自分を振り返って執筆した自伝世界。わざわざ孤独な世界で自らを追い込む著者の人間性が現れている作品です。

死んだ父親の借金を工面すべく、小学校の代用教員になった主人公。受け持つことになったのは男女合わせて70名の5年生でした。しかし、やむを得ず教職についた主人公は、子供と心を通わせ生徒の持つ個性や魅力を理解する能力に長けていて…。

著者の考える子育てに対する哲学が示されている点にも注目。坂口安吾という作家が、どのような人間であったのかを知りたい方にもおすすめの1冊です。

不良少年とキリスト

新潮社 著者:坂口安吾


不良少年とキリスト

坂口安吾が執筆した評論集。太宰治や織田作之助といった文壇の仲間たちが死んでいった際に、著者が何を感じていたかを知れる作品です。

1948年6月13日に自殺した太宰治。太宰論から文明論に到るまで、彼の死を通して著者が何を感じたかが記された『不良少年とキリスト』。さらに、もうひとりの盟友・織田作之助の死を悼む『大阪の反逆』など、戦後日本の文壇において注目を集めた著者の評論を9編収録しています。

太宰治や織田作之助らと語らう『無頼派座談会』2編と、掌篇『復員』を収録しているのもポイント。当時の日本文学界に興味のある方はチェックしてみてください。

木枯の酒倉から・風博士

講談社 著者:坂口安吾


木枯の酒倉から・風博士

坂口安吾の初期作品を収録した作品集。『木枯の酒倉から』『風博士』『黒谷村』『竹籔の家』など、計13編が楽しめます。

他人の目からはただ呆れられる青春は、本人にとってはどのようにして壁を乗り越えるかを苦悩するための日々でした。人生においても文学においてもさまざまなモノを背負い込み、もがきながら活動した先に作家・坂口安吾の原型が誕生しています。

坂口安吾が頻繁に使用する「ファルス」と呼ばれる概念がよく現れた作品を収録しているのが特徴。特にデビュー作『木枯の酒倉から』や『風博士』はファルスの代表作として注目したい作品です。

不連続殺人事件

KADOKAWA 著者:坂口安吾


不連続殺人事件

坂口安吾が描いたミステリー作品です。著者はミステリー作品の愛好家で、戦争中は仲間内で犯人当てゲームにいそしんでいたといわれています。また、本作品は、第二回探偵作家クラブ賞受賞作です。

詩人・歌川一馬によって山奥の豪邸に集められた人々。屋敷の中はしだいに異常な雰囲気に包まれてゆき、8つの恐ろしい殺人が発生します。

独創的なトリックを展開する、著者初の本格探偵小説かつ日本ミステリー史に名を残している作品です。江戸川乱歩ら、ミステリーの専門家が評価している点にも注目。ミステリー好きの方におすすめの坂口安吾作品です。

肝臓先生

KADOKAWA 著者:坂口安吾

肝臓先生

坂口安吾の世界観が堪能できる作品集。戦中戦後の世相を描いた短編集で、当時の荒んだ空気を反映しています。

表題作『肝臓先生』は、戦時中に患者を肝臓病に診たてて診察していた「肝臓先生」と呼ばれる医師・赤木風雲。彼の滑稽でありながらも真面目な人柄を描いた作品です。ほか、『魔の退屈』『私は海をだきしめていたい』『ジロリの女』『行雲流水』計5編を収録しています。

『肝臓先生』は、1998年に今村昌平によって実写映画化されている点にも注目。坂口安吾の個性を堪能できる作品を探している方におすすめです。

明治開化 安吾捕物帖

KADOKAWA 著者:坂口安吾


明治開化 安吾捕物帖

坂口安吾が、得意のミステリー要素を絡めることで面白さを高めたエンターテインメント作品です。『堕落論』や『白痴』が有名な著者ですが、本作品も隠れた名作と謳われています。

文明開化が真っ只中の明治時代に起きた謎の連続怪事件。事件の解決に乗り出したのは、赤坂氷川町の隠宅で自由な生活をしていた幕末の英傑・勝海舟でした。事件解決のため彼のもとに集まる紳士探偵・結城新十郎や個性的な仲間たちと共に、事件を解決へと導きます。

個性的なユーモアと毒舌による文明批評を交えているのがポイント。娯楽要素の強い坂口安吾作品を読みたい方におすすめです。

復員殺人事件

河出書房新社 著者:坂口安吾


復員殺人事件

『不連続殺人事件』に続く坂口安吾のミステリー小説です。連載雑誌が廃刊し未完の作品に。著者の没後、『樹のごときもの歩く』という題にて高木彬光が完結させています。

昭和22年9月、白衣姿のおぞましい姿をした軍人が小田原の富豪・倉田家に出現。身体の一部を失い言葉も発せない男は倉田家次男・安彦と考えられました。そして、男の出現を機につぎつぎと殺人事件が起こって…。

複雑に練りこまれた構成で、読みごたえのある1冊。ミステリー好きの方はぜひ謎解きに挑戦してみてください。