北海道を舞台に人々のリアルな生き様を描く「桜木紫乃」。性に対する独自の視点を持ち、「新官能派」としても注目されています。『ラブレス』で島清恋愛文学賞、『ホテルローヤル』で直木賞、『家族じまい』で中央公論文芸賞を受賞した小説家です。
そこで今回は、桜木紫乃の手掛けた作品からおすすめの小説をピックアップ。受賞作や映像化された作品を中心にご紹介しますので、選ぶ際の参考にしてみてください。
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北海道を舞台とする作品が多い作家「桜木紫乃」とは?
桜木紫乃は、1965年北海道釧路市生まれの小説家です。釧路市は、北海道東部の拠点都市。釧路湿原があり、全国有数の「霧の街」としても知られています。14歳の頃に、原田康子の小説『挽歌』と出会ったのが人生の転機。北海道の景色を美しく描いた同作品に感銘を受け、文学を志しました。
高校卒業後は進学を断念し、裁判所に勤務。24歳で結婚し、専業主婦になります。挽歌碑建立式への参加をきっかけに、北海文学の主催者・鳥居省三に才能を見出され、再び小説家を目指しました。
2002年『雪虫』で第82回オール讀物新人賞を受賞し、2007年に同作品を収録した単行本『氷平線』でデビュー。その後も、北海道を舞台にした多くの作品を発表しています。
2013年に『ラブレス』で島清恋愛文学賞、2013年に『ホテルローヤル』で直木賞、2020年に『家族じまい』で中央公論文芸賞など、数々の賞を受賞している小説家です。
桜木紫乃作品の魅力
桜木紫乃作品の多くは、生まれ育った釧路市を中心とする、北海道が舞台。風景描写の美しさはもとより、北海道の凍てつく寒さや、湿原の暗く湿った空気を感じさせる、重みのある独特の世界観が特徴です。
また、性愛文学の代表作家ともいわれている桜木紫乃。男女の性愛への独特な視点を持っており「新官能派」と呼ばれて注目を集めています。
厳しい自然とともに力強く生きる人々の物語を通して、生き方を考えるきっかけにもなる桜木紫乃作品。短編でも濃厚な内容が多いので、短い時間で小説を楽しみたい方にもおすすめの小説家です。
桜木紫乃のおすすめ小説
ホテルローヤル
集英社 著者:桜木紫乃
釧路の湿原に建つラブホテルを舞台に描かれた、桜木紫乃の代表作です。著者の父が経営していたラブホテルをモデルに描かれています。2013年に第149回直木賞を受賞、2020年に映画化された作品です。
ホテルの一室で、心まで開放し、生々しく抱き合う男女。互いの孤独を重ね合うなかで見えてくるモノとは…。北海道のどことなく寂しい雰囲気を背景に、人生の儚さや切なさが表現されています。
性愛をテーマに、さまざまな人間模様をオムニバス形式で描いた本作品。ホテルが廃墟になったところから始まり、開業まで遡っていきます。短編それぞれの繋がりに注目しながら読んでみるのもおすすめです。
ラブレス
新潮社 著者:桜木紫乃
姉妹の絆を軸に、母・娘たちを含む3世代の生き様を描いた長編小説。桜木紫乃の大ブレイク作品で、2013年には島清恋愛文学賞を受賞しています。
物語の舞台は、北海道の開拓村。ひどく貧しい家庭で育ち、中学卒業後は奉公に出された百合江は、のちに旅芸人の一座に飛び込みます。一方、堅実な性格の妹・里実は地元で理容師の道へ進み…。
性格の違う姉妹の60年にわたる絆と、母娘3代それぞれのすさまじい人生が描かれています。生きることの素晴らしさを感じられるおすすめの作品です。
氷平線
文藝春秋 著者:桜木紫乃
北海道に生きる男女の「生」と「性」をテーマにした桜木紫乃のデビュー作。オール讀物新人賞を受賞した『雪虫』を含む、全6編の短編集です。
跡継ぎを作るプレッシャーを抱える人や、フィリピンから嫁として買収された少女などの、それぞれの物語。北海道の道東を舞台に、独特の閉塞感のなかに生きる人々の葛藤や寂しさ、虚しさをリアルに描写しています。デビュー作とは思えないほどの巧みな筆致にも注目です。
1編ごとに読み応えがあり、桜木紫乃の世界観を存分に味わえるデビュー作。桜木紫乃の小説を初めて読む方におすすめの作品です。
起終点駅 ターミナル
小学館 著者:桜木紫乃
表題作を含む6編の短編集。北海道の各地を舞台に、それぞれの人生を描いています。桜木紫乃の手掛けた小説のなかで、初めて映画化された作品です。
北海道の釧路にある法律事務所を開業して、30年のベテラン弁護士・鷲田完治。国選の弁護のみを引き受けていたが、ある日、30歳・椎名敦子の覚醒剤使用事件を担当することになり…。
”始まりも終わりも、ひとは一人。だから二人がいとおしい。生きていることがいとおしい”。孤独とその先にある希望が描かれており、生きることの意味を考えさせられる作品です。
俺と師匠とブルーボーイとストリッパー
KADOKAWA 著者:桜木紫乃
寒さ厳しい北海道を舞台に繰り広げられる、あたたかな人間模様を描いた小説です。2020年に、書店員・新井見枝香が選定する「新井賞」を受賞しています。
ギャンブル依存の父と働き詰めの母から離れ、ひとり暮らしをしていた章介。仕事先のキャバレーで、どん底のタレント3人と出会い、同居生活をはじめます。彼らと過ごす1ヵ月間が、なんとなく生きてきた章介の人生を変えていき…。
人のあたたかさに触れられる本作品。笑いあり涙ありの日常が描かれ、ラストシーンでは希望を感じられます。前向きな気持ちになりたいときにおすすめの小説です。
家族じまい
集英社 著者:桜木紫乃
直木賞受賞作『ホテルローヤル』のその後を綴った桜木紫乃の連作短編小説です。2020年に中央公論文芸賞を受賞しました。母が認知症を患ったのを機に、戸惑いながらも「家族」に向き合っていく姉妹の姿を描いています。
商売人で借金を重ね、横暴だった父・猛夫と、夫に苦労しながらも共に歳を重ね、記憶を失いつつある母・サトミ。家族は、いつまで家族として関わり合うべきなのか…。
介護をテーマにした重みのある内容。さまざまな年齢の女性の視点で描かれているため、幅広い世代の方におすすめです。介護問題に関心がある方や『ホテルローヤル』のその後が気になる方は、チェックしてみてください。
蛇行する月
双葉社 著者:桜木紫乃
高校時代の同級生6人が歩む、それぞれの人生。自分らしい生き方を実現する難しさと、そのなかにある希望を描いた連作長編です。
同級生の一人・順子は、高校卒業後に上京し、20歳年上の男と駆け落ちすることに。故郷を捨てた極貧生活を、順子は「幸せ」だと言います。それぞれに悩みや孤独を抱えた高校時代の仲間たちは、順子の姿に引き寄せられ….。
それぞれの大切なモノを探していく女性たちの姿に、励まされる読者も多数。幸せの意味を考えさせられるおすすめの作品です。
氷の轍 北海道警釧路方面本部刑事第一課・大門真由
小学館 著者:桜木紫乃
2016年にスペシャルドラマとして放送された長編ミステリー小説。ロングセラー文庫『凍原 北海道警釧路方面本部刑事第一課・松崎比呂』を含む「北海道警釧路方面本部シリーズ」の1作です。
北海道釧路市の千代ノ浦海岸で見つかったのは、高齢男性の遺体。被害者は、身寄りのない札幌の元タクシー運転手・滝川信夫でした。北海道警釧路方面本部刑事第一課に属する大門真由は、滝川の自宅で北原白秋の詩集『白金之独楽』を発見し…。
”二人デ居タレドマダ淋シ、一人ニナツタラナホ淋シ、シンジツ二人ハ遣瀬ナシ、シンジツ一人ハ堪ヘガタシ”。滝川の過去を紐解いていく新人刑事の物語。意外な展開に、思わず引き込まれていきます。桜木紫乃の手掛けた警察小説を読んでみたい方におすすめです。
ふたりぐらし
新潮社 著者:桜木紫乃
”家族のはじまり”を夫婦それぞれの視点で描いた、桜木紫乃の連作短編集です。看護師の妻をもつ、元映写技師の夫・信好は、映画脚本家になるのが夢。定職に就かず、ほとんど妻の稼ぎに頼って生活していました。
一方、妻・紗弓は、収入の少ないなかで子供を望むことや、義母・実母との関係など、家族の形に悩む日々。「夫婦」とは、一体何なのか…。
ささやかな幸せを重ねながら夫婦になっていく2人の日常が描かれており、著者のあたたかく優しい眼差しを感じられます。夫婦のあり方や、幸せの価値観を考えさせられる、おすすめの作品です。
星々たち
実業之日本社 著者:桜木紫乃
主人公の女性・塚本千春と、関わる人々の闇と光を描いた9編の連作短編集。「桜木紫乃の真骨頂」と謳われており、著者の作品の魅力を存分に味わえる1冊です。
千春は、実母や2度目の結婚で授かった娘と生き別れていました。時代は、昭和から平成へ移り変わる頃。血縁にこだわらず流浪する千春は、現代詩の賞を受け、作家を目指しますが…。
桜木紫乃の研ぎ澄まされた筆致で登場人物一人ひとりの命の輝きを描き出している本作品。著者の魅力を堪能できるおすすめの小説です。
北海道を舞台に多くの作品を生み出している桜木紫乃。短編集が多く、短い時間でも小説を楽しめます。初めて読む方は、デビュー作である短編集『氷平線』がおすすめ。独自の性愛観の原点が綴られた代表作『ホテルローヤル』や、映画化された『起終点駅 ターミナル』など、気になった作品があれば手に取ってみてください。