独特の世界観で、人の深い心理を繊細に描き出す「山本文緒」。苦みのある恋愛小説に定評があり、吉川英治文学新人賞を受賞した『恋愛中毒』や直木賞を受賞した『プラナリア』など、数々の作品で読者を魅了してきました。

そこで今回は、山本文緒のおすすめ小説をご紹介。受賞作品のほか、ドラマ化・映画化された作品やデビュー作など、人気のある小説を幅広くピックアップしています。選ぶ際の参考にしてみてください。

※商品PRを含む記事です。当メディアはAmazonアソシエイト、楽天アフィリエイトを始めとした各種アフィリエイトプログラムに参加しています。当サービスの記事で紹介している商品を購入すると、売上の一部が弊社に還元されます。

山本文緒とは?

山本文緒は、1962年横浜市生まれの小説家です。神奈川大学を卒業したのち、OL生活を経て作家に転身。1987年には、デビュー作『プレミアム・プールの日々』でコバルト・ノベル大賞の佳作を受賞しました。

1992年『パイナップルの彼方』で、少女小説から一般文芸へ移行。1999年『恋愛中毒』で第20回吉川英治文学新人賞、2001年『プラナリア』で第124回直木賞を受賞しています。

その後、うつ病発症により執筆活動を一時中断しましたが、長期にわたる治療を経て、2020年には7年ぶりの小説『自転しながら公転する』を発表。ところが2021年10月13日、膵臓がんのため58歳の若さで他界しました。

親しみのある人柄で、生前は サイン会やSNSでもファンと交流していた山本文緒。数々の名作を残し、林真理子や村山由佳など、著名な小説家をも魅了しました。

山本文緒作品の魅力

作家・新海誠に「人の心をのぞく窓」と表された山本文緒作品。緻密に練り上げられた世界観で、複雑な人間関係と心の奥にある繊細で鋭い感情を表す、巧みな心理描写が魅力です。

山本文緒の描く作品は、必ずしもハッピーエンドではありません。人々の生きる現実は厳しく、変えられない性分によりさらにこじれていく人間関係。鋭い心理描写と独特の世界観に思わず引き込まれ、一気に読み進められます。

山本文緒作品は、ドラマ・映画・アニメと映像化した作品が多い点も注目です。『パイナップルの彼方』は単発ドラマ、『恋愛中毒』『ブルーもしくはブルー』『あなたには帰る家がある』は連続ドラマに。さらに『群青の夜の羽毛布』は映画化、『プラナリア』に収録されている『どこかではないここ』はテレビアニメ化されています。

山本文緒のおすすめ小説

恋愛中毒

KADOKAWA 著者:山本文緒


恋愛中毒

山本文緒の代表作といえるベストセラーになった長編恋愛小説です。1999年に第20回吉川英治文学新人賞を受賞し、連続ドラマ化されました。

恋に不器用な水無月は、2度の離婚を経験後、人を愛しすぎないように生きていくと自分に誓っていました。しかし、そこへ現れた小説家の創路に心奪われ、またしても恋に狂わされていきます。

終盤40ページからの衝撃の展開が見どころ。予想もできない結末は、多くの読者を驚かせました。山本文緒の代表作を読んでみたい方におすすめの作品です。

プラナリア

文藝春秋 著者:山本文緒


プラナリア

2001年に第124回直木賞を受賞し、ベストセラーとなった短編小説集。『恋愛中毒』にならぶ、山本文緒の代表作といえる作品です。本作品で収録されている『どこかではないここ』はテレビアニメ化されています。

25歳で乳がんの手術をし、社会復帰に興味が持てなくなった主人公の春香。恋人・親・バイト先とも関係をこじらせ、自分のひねくれた性格に疲れ果てていましたが…。

「無職」になった人をテーマに人間の複雑な感情が繊細に描かれる本作品。ひと癖あるそれぞれの主人公たちになぜか引き込まれ、自分でも知らなかった本心に気づかされます。短編で読みやすく、初めて山本文緒の小説を読む方におすすめです。

ブルーもしくはブルー

KADOKAWA 著者:山本文緒


ブルーもしくはブルー

山本文緒の世界観を堪能できる、切ない長編恋愛ファンタジー。1992年に単行本、1996年に文庫版が出版されており、2003年に連続ドラマ化された作品です。

主人公は、都心の高級マンションで夫と暮らす佐々木蒼子。周りからは順風満帆に見える夫婦ですが、夫にも蒼子にも別の相手がおり、夫婦関係は冷めきっていました。

ある日、蒼子が恋人と旅行の帰りに出会ったのは、自分そっくりの「ドッペルゲンガー」。もう一人の自分が一緒にいたのは、蒼子の「昔の恋人」でした。まったく異なる人生を送る2人の「蒼子」は、1ヵ月間だけ入れ替わることになりますが…。

互いの人生を羨む2人の蒼子の心理描写に、共感する読者も多数。山本文緒が描いた切なく美しい恋愛ファンタジー小説を読みたい方におすすめの小説です。

なぎさ

KADOKAWA 著者:山本文緒

なぎさ

『恋愛小説』以来、15年ぶりの長編小説。人生の半ばで迷い抗う大人たちの姿をテーマにしています。著名な作家の島本理生や辻村深月などもおすすめの山本文緒作品です。

舞台は、横須賀市の久里浜海岸。故郷を離れ、静かに暮らす同級生夫婦がいました。会社に行かず、妻の弁当を食べて釣りをする毎日を過ごす夫と、行動をともにする後輩。家事が取り柄の妻は、妹に誘われてカフェを始めますが…。

迷い抗う登場人物それぞれの人生のなかに、読者の誰もが感じたことのある深い感情が巧みに表現されています。繊細であたたかみのある山本文緒作品を読んでみたい方におすすめの作品です。

群青の夜の羽毛布

KADOKAWA 著者:山本文緒

群青の夜の羽毛布

苦しい母子の関係を描いた長編小説。次第に明かされていく真実に恐怖を感じる読者も多く、闇の深い世界観が描かれています。2002年に映画化された作品です。

学校教師である母親を恐れ、逆らえずに過ごしていた24歳の主人公・さとる。スーパーで知り合った大学生の男・鉄男は、少し神経質なさとるに心惹かれていきますが、次第にさとるは追い詰められていき…。

家族のなかにある恐怖の一面が描かれており、重い内容だけど一気に読み進められる作品。読み応えのある山本文緒作品を読みたい方におすすめです。

自転しながら公転する

新潮社 著者:山本文緒

自転しながら公転する

結婚・仕事・親の介護をテーマに、地方に住む平凡な女性を描いた山本文緒の恋愛小説。多くの読者の共感を呼び、林真理子や村山由佳などの著名作家にも絶賛された作品です。第16回中央公論文芸賞、第27回島清恋愛文学賞を受賞し、2021年本屋大賞にもノミネートされました。

母親の看病のため実家に戻り、地元のアパレルショップで働く女性・都の物語。職場でのセクハラや親の体調不良など、さまざまな壁にぶつかり思い惑う都の生き様が描かれています。

都の姿に共感し、励まされる読者も多数。元気になりたいときにおすすめの小説です。

おひさまのブランケット デビューセレクション

集英社 著者:山本文緒

おひさまのブランケット デビューセレクション

山本文緒が作家人生の初期に描いた少女小説。集英社コバルト文庫の復刻版として、1999年に出版されました。本作品には、デビュー作『プレミアム・プールの日々』も収録されています。

高校野球からプロ入りした幼なじみの周太郎を追いかけ、野々子は上京。純粋に想い合う周太郎と野々子のところに不良女子高生・美衣子が現れます。そして、美衣子と野々子の間に女同士の友情が生まれ、恋と友情の三角関係にもつれていき…。

巻末にある山本文緒のエッセイも読み応え十分。山本文緒の描くさわやかな青春恋愛ストーリーを楽しみたい方におすすめの作品です。

アカペラ

新潮社 著者:山本文緒

アカペラ

あたたかくて切ない3つの物語が収録された中編小説集。表題作『アカペラ』は、身勝手な両親のなかでも前向きに育った、中学3年生のタマコが主人公です。

老人ホームに入れられそうになった大好きな祖父を守るため、タマコは祖父と駆け落ちすると決意。タマコを気にかける若い担任教師の存在も絡み合い、予期しない展開へ向かっていきます。

20年ぶりに帰郷したダメな男の姿を描いた『ソリチュード』、独身中年の姉と弟の絆をテーマにした『ネロリ』を同時収録。少し変わった3つの家族の物語を垣間見られる、奇妙であたたかな山本文緒作品です。

パイナップルの彼方

KADOKAWA 著者:山本文緒

パイナップルの彼方

心に染みる山本文緒の長編小説です。1992年に単行本が出版され、単発ドラマにもなりました。本作品は1995年に出版された復刻版です。「女は嫁に行って子供を産む」という価値観が当たり前だった、平成初期の都心を舞台に描かれています。

都会の信用金庫に勤める主人公・深文は、仕事も恋愛も順風満帆。しかし、ある新人女性社員の登場により、穏やかだった生活はバランスを崩されていきます。そして起きた小さな出来事が引き金となり、深文の人生は…。

「逃げたい」と葛藤しながら、もがき続ける女性の心情をリアルに描写しています。誰もが共感できるような1人の女性の物語。多くの読者の共感を呼んだ山本文緒の作品を読んでみたい方におすすめです。

ばにらさま

文藝春秋 著者:山本文緒

ばにらさま

闇と光が反転するような驚きの展開が待ち受ける山本文緒の短編集。表題作『ばにらさま』では、白く冷たいバニラアイスのような彼女と主人公・僕の切ないストーリーを描いています。

本作品には、『ばにらさま』のほか『わたしは大丈夫』『菓子宛』『バヨリン心中』『20×20』『子供おばさん』の6つの短編小説を収録。ホラーではないのに恐怖を感じる独特の世界観に魅了され、次々と読み進めたくなる作品です。

山本文緒は、本作品を発表後、膵臓がんで他界しています。山本文緒が描いた最後の作品を読みたい方や、独特の世界観に浸りたい方におすすめの小説です。