喪失や欠落をテーマに独自の世界観を描き続けている「小川洋子」。読売文学賞と本屋大賞をダブル受賞した『博士の愛した数式』をはじめ、多くの作品で読者を魅了してきました。
そこで今回は、小川洋子のおすすめ小説をご紹介します。受賞作品はもちろん、映画化やドラマ化された作品もピックアップしているので、ぜひ参考にしてみてください。
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博士の愛した数式で有名な作家「小川洋子」とは?
小川洋子は、1962年岡山県生まれの小説家です。1984年に早稲田大学第一文学部を卒業後、故郷の岡山県に戻り川崎医科大学秘書室に勤務。1986年に退職し、結婚しました。
1988年に『揚羽蝶が壊れる時』で第7回海燕新人文学賞を受賞。1989年から『完璧な病室』『ダイヴィング・プール』『冷めない紅茶』で3回連続芥川賞候補となり、1991年に『妊娠カレンダー』で芥川賞を受賞しました。同年には岡山県文化奨励賞を受賞しています。
2004年に『博士の愛した数式』で読売文学賞と本屋大賞、ならびに『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞も受賞。2006年には『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞を受賞した作家です。芥川賞選考委員、河合隼雄物語賞選考委員を務めています。
小川洋子作品の魅力
小川洋子作品は、物語の世界に引き込む豊かな描写力が魅力です。喪失や欠落を題材に独自の世界観を描き続けています。
中学生のときに出会った『アンネの日記』が、小説家を目指すきっかけとなった小川洋子。複数の作品が翻訳されて海外でも販売されているため、フランスやアメリカなど海外にも愛読者を持ちます。
2007年には、フランス芸術文化勲章シュバリエを受賞。『薬指の標本』『いつも彼らはどこかに』『生きるとは、自分の物語をつくること』など多くの小説・エッセイを発表しています。
芸術や学術などの功労者を対象とした紫綬褒章を受賞しており、日本文学を語るうえで欠かせない作家のひとりです。
小川洋子のおすすめ小説
博士の愛した数式
新潮社 著者:小川洋子
2004年に第1回本屋大賞と第55回読売文学賞を受賞した作品です。2006年には映画化もされました。
博士の背広の袖には、“ぼくの記憶は80分しかもたない”と書かれたメモが…。博士は記憶を失うたびに、「私」を新しい家政婦と思い込み、靴のサイズや誕生日を尋ねます。博士との慣れない日々に、やがて10歳の息子も加わりました。
悲しくもあたたかい、奇跡と愛のストーリーを描いた本作品。小川洋子の代表作といえる人気作品を読んでみたい方におすすめです。
ことり
朝日新聞出版 著者:小川洋子
刊行当時12年ぶりに発表された書き下ろし長編小説です。2013年に芸術選奨文部科学大臣賞を受賞しています。
人間の言葉が話せない代わりに、小鳥のさえずりを理解できる「兄」と、兄の言葉をただひとり理解できる「弟」。小鳥の声だけに耳を傾ける兄弟は、世界の片隅でひっそりと支え合って生きていきます。
つつましく生きた兄弟2人のやさしく切ない物語。読み終わった後に、さみしさとやさしさが残る小説を読みたい方におすすめです。
密やかな結晶 新装版
講談社 著者:小川洋子
刊行から四半世紀以上たつ現在も、世界で評価される名作です。『The Memory Police』というタイトルで英訳版も出版。2019年「全米図書賞」の翻訳部門、2020年「ブッカー国際賞」の両方で最終候補作となりました。
モノが徐々に消滅する島。鳥、香水、ラムネ、左足…記憶狩りによる静かな消滅が進む島で、「私」は小説家として生きていました。モノが失われているなかで、消滅を阻止できず、事実を受け入れていく人々。そのようなある日、「小説」までもが消滅してしまいます…。
不思議な物語が描かれている本作品。独特な世界観をもつ小川洋子作品を求めている方におすすめです。
薬指の標本
新潮社 著者:小川洋子
恋愛の痛みと悦びを奇妙な世界で描いた、2作の短編が収録された小説です。2006年にはフランスで映画化もされました。
人々が思い出の品を持ち込む標本室で働いている「私」。あるとき、標本技能士にすてきな靴をプレゼントされます。“毎日その靴をはいてほしい。とにかくずっとだ。いいね”と。靴は「私」の足にぴったりでした。
摩訶不思議な空間を舞台に話が進むのがポイント。ひと味違う恋愛小説を楽しめます。小川洋子ワールドを堪能できるおすすめの小説です。
猫を抱いて象と泳ぐ
文藝春秋 著者:小川洋子
チェスプレイヤーを描いた、小川洋子の長編小説です。数字の魅力と美しさが描かれた『博士の愛した数式』に対して、本作品はチェスの魅力と棋譜の美しさが見事に描かれています。
伝説のチェスプレイヤーのリトル・アリョーヒンが主人公。けがれがなく純真な心を持つ少年の数奇な人生の物語です。
少年の心理描写やチェスというゲームの美しさが、丁寧に描かれているのがポイント。読了後に、繊細なやさしさと切なさの余韻を感じたい方におすすめです。
人質の朗読会
中央公論新社 著者:小川洋子
全9話が収録された、小川洋子の短編集です。2014年にドラマ化もされました。
つつましやかな拍手で朗読会が始まります。聞き手は人質たちと見張り役の犯人のみ、そして…。
タイトルの通り、人質たちが極限状態のなかで自分の人生を語っているのがポイントです。まるでノンフィクションのような読後感を味わえる本作品。人質たちが語る過去の思い出や出来事に引き込まれる、おすすめの小川洋子作品です。
ミーナの行進
中央公論新社 著者:小川洋子
2人の少女と家族の物語を描いた長編小説です。小川洋子が在住の兵庫県・芦屋が舞台の作品。2006年に谷崎潤一郎賞を受賞しました。
美しくかよわい、本好きのミーナが主人公。1972年のミュンヘンオリンピックの年に、芦屋の洋館で2人の少女と家族が過ごした日々が描かれています。
特定の場所や人物など時代設定がされた内容として、初めて小川洋子が挑戦した本作品。心地よい懐かしさとあたたかさを感じながら読めるおすすめの小説です。
海
新潮社 著者:小川洋子
全7作品を収めた小川洋子の短編集です。著者のインタビューも併せて収載しました。
海から風が吹いて鳴る「鳴鱗琴」について、青年が恋人の弟と一晩中語り合う表題作の『海』や、言葉を話せない少女と孤独なドアマンの交流を描いた『ひよこトラック』などを収録しています。
ユーモア系・ミステリアス系・ほっこり系など、広範囲にわたるジャンルの作品を1冊で楽しめるのがポイント。小川洋子の短編小説を読んでみたい方におすすめです。
寡黙な死骸 みだらな弔い
中央公論新社 著者:小川洋子
全ての作品が少しずつつながっている連作短編集です。タイトル通り、死をテーマに書かれています。
亡くした息子と一緒に食べるはずだった苺のケーキを買うために、洋菓子屋を訪れる『洋菓子屋の午後』をはじめ、『果汁』『ベンガル虎の臨終』『心臓の仮縫い』など、全11編を収録しました。
死をテーマに書かれていますが、陰湿な感じは少なく、恐ろしくも美しい本作品。ほかの連作短編集とは一線を画す構成も見どころです。それぞれの話の関連部分にも注目しながら、読んでみてください。
妊娠カレンダー
文藝春秋 著者:小川洋子
小川洋子の短編小説を3本収録した作品です。表題作の『妊娠カレンダー』は、1990年に第104回芥川賞を受賞しました。
出産の時期が近い姉に、妹は毒薬を仕込んだジャムを食べさせます。姉の妊娠が引き金となる、妹のゆがんだ嫉妬を描いた『妊娠カレンダー』。ほか2編、謎に包まれた学生寮が舞台の『ドミトリイ』や、小学校の給食室に魅了された男の話『夕暮れの給食室と雨のプール』が収録されています。
登場人物の心模様や描写がリアルに伝わってくるのが魅力。心のゆがみや狂気を感じる世界観に引き込まれたい方におすすめです。
ブラフマンの埋葬
講談社 著者:小川洋子
ブラフマンと過ごしたひと夏の物語を描いた小川洋子の小説です。2004年に泉鏡花文学賞を受賞しています。
主人公は創作活動をしている芸術家に仕事場を提供している「創作者の家」の世話係・「僕」。その僕のもとにブラフマンがやってきました。
謎の生き物・ブラフマンと主人公・僕の関係性が見どころ。不思議な世界を堪能できる小川洋子ワールドを楽しみたい方におすすめです。
ホテル・アイリス
幻冬舎 著者:小川洋子
小川洋子が少女と老人の純愛を描いた小説です。2022年2月に日本と台湾の合作で映画化もされています。
私が尽くす肉体は見苦しくかっこ悪いほどいい、乱暴に操られるただの肉の塊となったときに、ようやく純粋な快感がしみ出して…。
本作品は、エロティシズムをテーマに書かれているのがポイント。2人が抱く愛の生々しい描写に引き込まれる、おすすめの作品です。
国内はもちろん、海外でも高い評価を受ける小川洋子作品。不思議な物語を卓越した描写力で表現し、読者を小説の世界に引き込みます。作品のなかにちりばめられた美しい言葉も魅力のひとつです。気になる小川洋子作品がある方は、ぜひ読んでみてください。