女性たちの困窮や憤怒を描き続けている作家・桐野夏生。多くの賞を受賞している実力派の女性作家です。テーマには、実在の事件や人物を取り上げることも。現実に隠れている理不尽を、虚構の世界を通して訴えかける作風で多くの読者を魅了しています。

今回は桐野夏生のおすすめ小説をご紹介します。発表当時から話題になっていた作品や、映像化された作品もピックアップしました。ぜひ参考にしてみてください。

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ミステリーやファンタジーなど多ジャンルで人気の作家「桐野夏生」とは?

桐野夏生は、1951年石川県金沢市生まれの作家。ミステリー小説を軸に、社会の底辺で生きる人々や女性が抱える苦悩を描き出します。徹底的な取材に基づいた緻密な構成が、作品の大きな魅力です。

会社員やシナリオライターなどの経験を経て、1993年に『顔に降りかかる雨』で江戸川乱歩賞を受賞し、本格的に作家活動をスタート。日本の女性ハードボイルドの先駆けとして知られる作品を生み出しました。

その後も、1998年に『OUT』で日本推理作家協会賞、1999年に『柔らかな頬』で直木三十五賞を受賞するなど、数々の文学賞を手にしています。

なお、2004年には英訳版『OUT』が、日本人として初めてアメリカのエドガー賞にノミネートされたことでも話題になりました。2015年には紫綬褒章を受章し、2021年からは日本ペンクラブ会長を務める実力派です。

桐野夏生作品の魅力

桐野夏生はさまざまなジャンルで評価される作品を執筆している作家です。インタビューでは、小説を書く原動力を「怒り」であるとし、訴えかけるような社会派の作品も多いのが魅力。現実に潜む理不尽を作品世界を通して読者に提示しています。

また、実際に起きた事件や実在の人物をテーマにした作品もあり、虚構と現実が入り混じるかのような作風が特徴。さらに、受賞作や映像化された作品も多いので、これから桐野夏生作品を手に取りたい方におすすめです。

桐野夏生のおすすめ小説

顔に降りかかる雨

講談社 著者:桐野夏生

顔に降りかかる雨

桐野夏生のデビュー作にして第39回江戸川乱歩賞を受賞したハードボイルド・ミステリ・小説。日本では珍しい女性主人公によるハードボイルド作品の先駆けとして評価されています。「村野ミロシリーズ」の記念すべき第1作品目です。

主人公は夫の自殺後、新宿の歌舞伎町で無為に暮らしていた村野ミロ。彼女の親友のノンフィクションライター・宇佐川耀子が、1億円を持って忽然と失踪します。大金を預けた成瀬時男は暴力団上層部とつながりのある危険な人物でした。

ミロは共謀を疑われながらも、耀子の行方を追う決意を固めます。調査を進める中で明らかになる親友の知られざる過去。愛情と裏切りの狭間で足掻く女性の姿が、リアルに描かれています。

女性の脆さとしなやかさを描かせたら比肩なき桐野夏生の原点。社会派ミステリーの新たな地平を開いた記念すべき作品を読みたい方におすすめです。

グロテスク 上

文藝春秋 著者:桐野夏生

グロテスク 上

実際に起こった「東電OL殺人事件」をモチーフにした桐野夏生の小説。第31回泉鏡花賞の受賞作品でもあります。

名門女子高を卒業し大手建設会社に総合職として勤めていた和恵と、学内で売春し退学した美女・ユリコは渋谷の娼婦として再会し、やがて殺害されてしまうのでした。

一流企業に勤めるOLだった和恵が、夜の街で働いていた理由に注目。読み終えた後に不思議な印象を残す作品を読みたい方におすすめです。

柔らかな頬 上

文藝春秋 著者:桐野夏生

柔らかな頬 上

第121回直木賞を受賞した桐野夏生の代表作にして、現代社会の闇と母親の罪悪感を深く掘り下げた心理サスペンス小説。天海祐希主演で映画化もされました。幼児失踪という現代の神隠し事件を通して、人間の内面を鋭く描き出しています。

北海道出身のカスミは東京で印刷工場経営者の森脇と結婚し、2人の娘を授かりました。しかし、夫の取引先社員である石山との不倫関係に陥ったカスミ。石山の北海道の別荘で家族旅行中に、長女の友香が突然失踪してしまいます。

「現代の神隠し」と呼ばれた謎の事件に、カスミは罪悪感に苛まれながら、娘の行方を必死に探し続けます。そして4年後、ガンで余命宣告を受けた元刑事・内海が再捜査を申し出て……。

明快な解決を拒否し、母親の心理と家族の複雑な感情を主軸とした独特な結末で議論を呼んだ問題作。社会派心理小説の傑作を読みたい方におすすめです。

OUT 上

講談社 著者:桐野夏生


OUT 上

至って普通の女性たちが引き起こした事件を描く桐野夏生の犯罪小説です。第51回日本推理作家協会賞長編部門の受賞作。1999年にテレビドラマ化、2002年には実写映画化もされた作品です。

誰にも理解されない不安と失望を抱えていた深夜の弁当工場で働く主婦たち。日々の生活に嫌気がさしている彼女たちは、ある事件をきっかけに日常の外へ導かれます。その事件とは、パート仲間が殺害した夫の死体をバラバラにして捨ててしまうというものでした。

なぜ平凡な主婦たちが事件を引き起こしたのかが見どころ。発表当時、大きな話題にもなりました。桐野夏生の代表作を読みたい方におすすめです。

燕は戻ってこない

集英社 著者:桐野夏生

燕は戻ってこない

桐野夏生の予言的ディストピア小説。本作品では、地方出身の非正規労働者で29歳の独身女性を通して、女性の貧困や生殖の問題を描いています。

北海道で介護職を辞して、あこがれの東京で病院事務の仕事に就いたものの、非正規雇用で困窮を極めるリキ。ある日、「いい副収入になる」と同僚のテルに卵子提供を勧められます。

リキはためらいながらも、アメリカの生殖医療専門クリニック〈プランテ〉の日本支部を訪問。すると、国内では認められていない「代理母出産」を持ちかけられ……。

重く考えさせられるテーマの物語です。リキの苦悩や戸惑いなどがリアルに描かれており、感情移入しやすいのが魅力。社会問題を扱った小説を読みたい方におすすめです。

東京島

新潮社 著者:桐野夏生

東京島

31人の男性と1人の女性が流れ着いた孤島での物語です。第44回谷崎潤一郎賞の受賞作。2010年には実写映画化もされています。

夫と計画した世界一周クルーズの最中、悪天候によって孤島に流れ着いた清子。さらに、日本の若者や謎めいた中国人も漂着します。助けは来ず、夫・隆も死んでしまいますが、唯一の女性として男性たちから求められる清子は、しだいに悦びを感じるようになって…。

極限状態での人間の行動について考えさせられる作品。桐野夏生が描くサバイバル作品を読みたい方におすすめです。

猿の見る夢

講談社 著者:桐野夏生


猿の見る夢

哀れで欲深い50代男性を描いた桐野夏生の小説。過激な「定年小説」と謳われている作品です。

59歳の薄井の楽しみは、10年の付き合いになる愛人・美優樹。ある日、逢い引きに行こうとするところを会長に呼び止められ、揉め事に巻き込まれていきます。さらに、家庭では妻が占い師を連れ込んでいたり、妹から電話で母が突然亡くなったと知らされたりするのでした。

順風満帆に見えた薄井の人生の歯車が崩れていく様子がポイント。自身の人生と重ね合わせながら読んでみるのがおすすめです。

だから荒野

文藝春秋 著者:桐野夏生


だから荒野

家族との生き方を描いた桐野夏生の小説。家族の在り方、家族関係のなかに生まれる希望や孤独を描き、連載当時から反響の大きい作品です。

主婦・朋美は会社員の夫、2人の息子と一緒に東京の郊外で暮らしていました。家庭を支える主婦の苦労を理解しようとせず、ねぎらいの言葉どころか暴言まで浴びせる家族。朋美は46歳の誕生日に、わがままな家族たちと決別し、夫の車で高速道路を駆け抜けるのでした。

登場するキャラクターたちの気ままな生き方にも注目。家出した主人公の道中や家族の行く末が気になる方はチェックしてみてください。

夜の谷を行く

文藝春秋 著者:桐野夏生

夜の谷を行く

実際に起きた事件をベースに描かれた桐野夏生の傑作長編。1970年代、戦後日本の転機を考えさせられる作品です。

連合赤軍事件の山岳ベースで起きた「総括」と呼ばれる惨いリンチ。12人の仲間が死んでいくなか、アジトから逃げ出して警察に捕まった西田啓子は五年間の服役を終え、静かに暮らしています。しかし、元同志・熊谷が接触してきたことをきっかけに、忘れようとしていた過去と向き合うことになり……。

男性の視点ではなく、女性の視点から1971年に起きた「山岳ベース事件」を問い直した意欲作。戦後の日本の空気感を、桐野夏生作品を通して体感してみたい方にもおすすめの作品です。

日没

岩波書店 著者:桐野夏生

日没

「表現の不自由」が横行する近未来を描いた桐野夏生の小説。ポリコレ・ネット中傷・出版不況・国家の圧力といった、現代社会のリアルの一端ともとれる世界観を描き出しているのがポイントです。

小説家・マッツ夢井は〈文化文芸倫理向上委員会〉と名乗る政府組織から呼び出しを受けます。指定された先に向かった彼女は、海辺にある療養所へと収容されてしまうのでした。時間が経てば解放されると考えていたマッツ夢井でしたが、しだいに異変を感じ始めて……。

一見すると絵空事のようで、じつは現実の世界にも似たような話がたくさんあることに気づかされる作品。小説を読みながら社会の在り方についても考えたい方におすすめです。

とめどなく囁く

幻冬舎 著者:桐野夏生

とめどなく囁く

生きているのか死んでいるのかわからない元夫の存在に悩む女性とその周りの人間関係を描いた作品。主人公は歳の離れた資産家の男性と再婚し、高級分譲地「母衣山庭園住宅」の豪邸で暮らしている塩崎早樹です。

資産家の夫は前妻を突然の病気で、早樹は前夫を海難事故でそれぞれ亡くした者同士。後悔や愛情が混じり合う生活を送っていたある日、早樹の携帯に疎遠になっていた前夫の母親から連絡がきて…。

物語の結末が、読み手によって感じ方が異なる点が魅力です。ていねいに描かれた登場人物の心情にも注目してみてください。

ハピネス

光文社 著者:桐野夏生

ハピネス

ママ友の間に巻き起こる「ママ友カースト」を描いた桐野夏生の作品。雑誌『VERY』に連載されていた話題作で、続編に『ロンリネス』があります。

高級タワーマンションに暮らし、子育てやママ友との関係に苦しめられている岩見有紗。彼女には、誰にも言えない過去がありました。やがて、周囲との関係のなかで明かされていくそれぞれの秘密。一見すると幸せな生活のなかに隠されている、虚しさや悪意に満ちた現実とは…。

狭いコミュニティのなかで、自分のポジションを確立しようと奮闘する有紗の行動に注目。人間関係のしがらみを描いた作品を読みたい方におすすめです。

ナニカアル

新潮社 著者:桐野夏生

ナニカアル

戦争に翻弄される女流作家の生き様を描いた桐野夏生の小説。第17回島清恋愛文学賞と第62回読売文学賞の小説賞をダブル受賞しているのもポイントです。

昭和17年、林芙美子は陸軍の命令で偽装病院船に乗って南方へ向かいます。辿り着いたボルネオ島で、新聞記者・斎藤謙太郎と再会。年下の愛人との出会いに喜びますが…。

本作品は、実在の人物である林芙美子の、戦時下における行動を桐野夏生の視点を通して描いた作品。著者独自の解釈に注目しながら読むのがおすすめです。

ダークネス

新潮社 著者:桐野夏生

ダークネス

「村野ミロシリーズ」の最新作で、衝撃の前作『ダーク』から23年ぶりの続編となる長編小説です。2025年7月30日に新潮社から発売され、桐野夏生が「これを書くまで死ねないと思っていました」と語る熱意を込めた作品。女性私立探偵・村野ミロが主人公の人気シリーズの集大成として注目されています。

舞台はコロナ禍の那覇で、ミロと息子ハルオが20年間ひっそりと暮らしていました。しかし、ハルオのバイト先での出会いをきっかけに運命が動き始めます。ミロの宿敵である久恵や山岸たちが2人の元に引き寄せられ、物語は新たな展開を迎えるのです。

ハルオは自らの出生の秘密を知り、「悪」を知る旅に出てしまいます。息子を取り戻すため、60歳になったミロの最後の闘いが始まる展開。暗さがありながらも力強い文章と引き込まれる物語展開が魅力で、ダークな人間ドラマを好む方におすすめです。

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