極道モノやミステリー小説が人気の作家「柚月裕子」。ヤクザと刑事の争いや、社会問題などを、細かい心情描写とともに描く作風が特徴です。映画化やドラマ化された作品も多く、「令和のベストセラー作家」としても知られています。

そこで今回は、柚月裕子の小説からおすすめの作品をご紹介。受賞歴のある作品や映像化された作品を中心にピックアップしているので、ぜひ参考にしてみてください。

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極道モノやミステリーで人気の作家「柚月裕子」とは?

柚月裕子は、1968年岩手県生まれ。2008年に『臨床真理』で「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、40歳でデビューしました。

代表作『孤狼の血』をはじめ、極道モノやミステリー小説を数多く執筆しています。2013年には、『検事の本懐』で第15回大藪春彦賞を受賞。2016年に発表した『孤狼の血』では、第69回日本推理作家協会賞を受賞しました。

その後、『盤上の向日葵』で、2018年本屋大賞2位を獲得。直木賞や山田風太郎賞といった文学賞にも、ノミネートされています。映像化された作品も多く、「令和のベストセラー作家」として名高い作家です。

柚月裕子作品の魅力

柚月裕子作品の魅力は、内容にぐっと引き込まれる構成と丁寧な心情描写です。

世の中の理不尽や不条理を自身の作品のテーマのひとつとしており、実際に起きた事件や社会問題を扱うことも。読者の時間を無駄にしないような作品を心がけ、“いい意味で予想を裏切る作家でありたい”との思いで執筆しています。

“一番の謎は人間の心”だと考えている柚月裕子。動機に興味を持ち、そこからミステリーに仕上げていく方法で執筆しているのもポイントです。人間の心情表現には定評があり、なかでも登場人物が、自分の正義を貫こうとする姿を丁寧に描いています。

また、柚月裕子は映画『仁義なき戦い』の大ファン。その嗜好が反映された硬派でハードボイルドなテイストも人気のひとつです。

柚月裕子のおすすめ小説

孤狼の血

KADOKAWA 著者:柚月裕子

孤狼の血

暴力団抗争を描いた警察小説。シリーズ3部作の第1巻です。2016年に、第69回日本推理作家協会賞の長編部門および連作短編集部門を受賞。柚月裕子の代表作で、映画化やマンガ化もされています。

舞台は昭和63年の広島。捜査二課に配属された新人の日岡は、ヤクザとの癒着の噂がある刑事・大上とコンビを組むことになりました。

ある日、金融会社の社員が失踪したことをきっかけに、ヤクザ同士の抗争が発生します。違法捜査を繰り返し、抗争解決のためにある秘策を持ち出す大上。日岡は大上に戸惑いながらも、ともにヤクザに立ち向かっていくのですが…。

「今世紀最高の悪徳警官小説」とも評価される人気作。正統派ハードボイルド小説を読みたい方にもおすすめです。

最後の証人

KADOKAWA 著者:柚月裕子

最後の証人

柚月裕子のデビュー後2作目の作品で、法廷ミステリー小説です。「佐方貞人シリーズ」とも呼ばれています。2015年にはドラマ化もされました。

検事を辞めて弁護士になった佐方貞人のもとに、ある殺人事件の弁護依頼が入ります。現場に残った証拠から、被告人が犯人であることが濃厚。しかし、佐方は「面白くなりそう」という理由で、弁護依頼を引き受けるのです。

佐方は法廷で若手敏腕検事・真生と、事件の真相に迫ります。すると、7年前に起きたある交通事故との関連性が浮かび上がってきました。

自身の正義を貫こうとする佐方の姿に胸を打たれる作品。ファンの間で名作ともいわれている、シリーズの第1作目を楽しみたい方はチェックしてみてください。

検事の本懐

KADOKAWA 著者:柚月裕子

検事の本懐

「佐方貞人シリーズ」の2作目で、検事時代の佐方を描く5編の短編集。第15回大藪春彦賞を受賞しており、2016年にはドラマ化もされました。

連続放火事件の解決に奔走する「樹を見る」、東京地検特捜部にフォーカスした「掌を握る」など、5編の物語を収録。窮地に立たされた人間たちの本性を丁寧に描いています。

法廷ミステリーながら、濃厚な人間ドラマも楽しめる作品。弁護士時代の佐方との違いを読み比べてみるのもおすすめです。

パレートの誤算

祥伝社 著者:柚月裕子

パレートの誤算

生活保護の闇をテーマにした、社会派サスペンス小説。2020年にはドラマ化もされました。

ある日、ベテランのケースワーカー・山川が殺される事件が発生。山川は燃えた訪問先のアパートで、撲殺死体で見つかりました。

新人職員の牧野聡美は彼の仕事を継いで、生活保護受給世帯の訪問支援をすることに。聡美は受給者を訪ねるうちに、山川がヤクザと関係があったのではと気づきます。そして、山川の素顔と生活保護不正受給の闇に迫ることになり…。

重厚なテーマながら、テンポよく読める作品。社会問題について考えたい方にもおすすめです。

盤上の向日葵

中央公論新社 著者:柚月裕子

盤上の向日葵

棋士達の戦いを描く、柚月裕子渾身の将棋ミステリー小説。2018年の本屋大賞では2位を受賞。ほかにも、多くの賞を受賞しています。

埼玉県の山中で、白骨死体が発見されました。唯一の手がかりは、遺留品として見つかった将棋の駒だけ。棋士を目指した過去のある新米刑事・佐野は、ベテラン刑事の石破とコンビを組み、将棋の駒の持ち主を探します。

捜査を進めるうちに、佐野と石破は全国から注目を集める山形県天童市の竜昇戦会場に向かうことに。その先には、壮絶な結末が待ち受けていました。

人間の葛藤や、苦しみについて考えたい方にぴったりの作品。著者自ら、松本清張の『砂の器』をテーマにオマージュした作品と謳っており、読み比べてみるのもおすすめです。

臨床真理

KADOKAWA 著者:柚月裕子

臨床真理

このミステリーがすごい!で大賞を受賞した、柚木裕子のデビュー作。障害者施設での事件が題材のミステリー小説です。

臨床心理士・佐久間美帆は、人の感情が色で分かる「共感覚」を持つという青年・藤木司を担当することに。知的障害者更生施設の入所者の司は、仲のよかった少女・彩の死により問題を起こしていたのです。

美帆は警察官の友人とともに、彩の死の真相を調査します。しかし、徐々に恐るべき真実が浮かび上がってきて…。

過激で、容赦なく物語が進んでいくのが特徴。一度読み出すと止まらないミステリー小説を探している方におすすめです。

凶犬の眼

KADOKAWA 著者:柚月裕子

凶犬の眼

柚月裕子の代表作『孤狼の血』の続編。平成2年の広島を舞台にした続編小説。“史上最大の暴力団抗争”といわれた「山一抗争」をモデルに、正義と仁義をテーマに描きます。

広島の暴力団抗争から2年後、日本最大の暴力団・明石組のトップが暗殺され、日本中を巻き込む抗争が発生。一方、刑事・大上の血を受け継いだ日岡は、広島県北の駐在所勤務をしていました。

しかし、ある日突然、日岡の前に抗争の首謀者とされている最後の任侠・国光寛郎が現れます。これを機に、日岡は暴力団抗争に巻き込まれていくのですが…。

極道・国光との出会いを経て成長していく、日岡の姿は必見。心揺さぶられるヤクザ小説が読みたい方におすすめです。

慈雨

集英社 著者:柚月裕子

慈雨

さまざまな葛藤を抱く元警察官が、事件の真実を追う長編ミステリー小説。「本の雑誌が選ぶ2016年度ベスト10」で、第1位にも選ばれました。

警察官を定年退職した神場智則は、妻・香代子とお遍路の旅へ。その途中で、幼女殺害事件が発生します。その事件が自身も捜査に加わり、心に深い傷を負った16年前の事件と酷似していたため、神場は動揺。神場は捜査に協力し、自身の過去と向き合い始めます。

登場人物達の「誇り」を感じられる生き方に、胸が熱くなる作品。深みのあるミステリーを読みたい方におすすめです。

合理的にあり得ない 上水流涼子の解明

講談社 著者:柚月裕子

合理的にあり得ない 上水流涼子の解明

元弁護士が、頭脳明晰なアシスタントとともに、さまざまなあり得ない依頼に挑むミステリー小説。著者自ら、「今まで発表した小説のなかで、一番エンターテインメント色が強い」と謳っている作品でもあります。

不祥事で弁護士資格を剥奪された、元弁護士・上水流涼子。IQ140のアシスタント・貴山とともに、「殺しと傷害」以外は何でも引き受ける探偵エージェンシーを運営しています。

2人の元には、表の世界では解決できないトラブルが多数持ち込まれるように。彼女らは頭脳を駆使し、解決に向けて駆け回ります。

上水流と貴山が協力し、鮮やかにトラブルを解決していく姿が痛快。すでに柚月裕子のほかの作品を読んだことのある方にもおすすめです。

ミカエルの鼓動

文藝春秋 著者:柚月裕子

ミカエルの鼓動

柚月裕子初の医療長編小説。北海道を舞台に、医師の正義と葛藤を描きます。

心臓外科医の西條は、大学病院で手術支援ロボット「ミカエル」の推進派。しかし、ドイツから帰国した天才医師・真木が、西條の前で「ミカエル」を使わない手術を高速で完遂しました。

ある日、難病の少年の治療に「ミカエル」を使うか否かで対立。そんななか、西條を慕う若手の医師が自殺します。大学病院の闇を暴こうとする記者は、“ミカエルは人を救う天使じゃない。偽物だ”と西條に迫り…。

病院の医師への取材をしており、読みどころ満載。「命とは何か」という問いについて考えたい方にもおすすめの柚月裕子作品です。

ウツボカズラの甘い息

幻冬舎 著者:柚月裕子

ウツボカズラの甘い息

日常生活にひそむ危険や、人間の心の弱さを描いたミステリー長編小説です。

主人公は、家事に育児にと忙しく過ごしている主婦・高村文絵。文絵はある日、中学時代の同級生・加奈子に再会します。そして、加奈子に誘われ、文絵は化粧品販売ビジネスを始めることに。ビジネスは順調に進み、文絵は大金と自身の生き甲斐を手にします。

しかし、文絵はある殺人事件の容疑者として突然逮捕されてしまったのです。無実を訴えるものの、事件のキーパーソンである加奈子は失踪。さらに、詐欺の疑いまでかけられてしまいます。

2つの事件を通して、女性ならではの暗部を描いている作品。リアリティあふれる犯罪小説が読みたい方におすすめです。

あしたの君へ

文藝春秋 著者:柚月裕子

あしたの君へ

家庭裁判所をテーマにした短編集。家庭調査官補が相談者の未来のために悩み、成長する姿を描く感動作です。裁判所職員採用試験に合格し、家裁調査官に採用された望月大地は、九州の家庭裁判所に配属されます。

配属直後は書類整理等が主な業務でしたが、初めて実際の少年事件を扱うことに。窃盗を犯した少女や、親権争いに巻き込まれる少年を対応します。心を開かない相手の真実にたどり着き、相談者を救えるのでしょうか。

ほかの作品とは異なり、身近な問題を扱った内容が多いのがポイント。考えさせられるおすすめの柚月裕子作品です。

チョウセンアサガオの咲く夏

KADOKAWA 著者:柚月裕子

チョウセンアサガオの咲く夏

柚月裕子の短編を収録した作品集です。ミステリーからユーモア、時代小説まで、バラエティ豊かな11編の物語が楽しめます。

認知症の母を介護する娘に焦点を当てた表題作『チョウセンアサガオの咲く夏』や、「佐方貞人シリーズ」のスピンオフ『ヒーロー』などを収録しています。

『ヒーロー』以外の短編は、既出の作品との関連性がないのが特徴。柚月裕子の長編作品しか読んだことのない読者にとって、著者のイメージを一新させる作品です。