芥川賞など数多くの文学賞の選考委員を務め、自身も『スティル・ライフ』で芥川賞を受賞した小説家「池澤夏樹」。文学全集の個人編集など、小説以外にも多方面で活躍し、紫綬褒章を受章した作家です。

今回は、池澤夏樹が手掛けた小説のなかから、おすすめの作品をピックアップしました。池澤夏樹の経歴や作品の魅力もあわせて、ぜひ参考にしてみてください。

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「池澤夏樹」とは?

池澤夏樹は、1945年北海道生まれの小説家・詩人です。作家・福永武彦、詩人・原條あき子を両親に持ち、埼玉大学理工学部を中退後、ギリシア詩や現代アメリカ文学の翻訳などで活躍していました。

翻訳活動に関連して世界各地を訪れ、帰国後の1978年に詩集『塩の道』を発表。1984年『夏の朝の成層圏』で小説家としてデビューします。そして、1987年『スティル・ライフ』で、中央公論新人賞と芥川賞を受賞しました。

その後も、1992年『南の島のティオ』で小学館文学賞、1993年『マシアス・ギリの失脚』で谷崎潤一郎賞、2000年『花を運ぶ妹』で毎日出版文化賞など、数々の作品で文学賞を受賞します。

小説以外にも随筆や評論などを執筆しているほか、海外文学や古典文学の翻訳なども継続。文学全集なども個人編集しています。2007年には紫綬褒章を受章した作家です。

池澤夏樹作品の魅力

海外文学の翻訳活動から経歴をスタートさせた池澤夏樹。海外の風土や文化にも造詣が深く、小説でも文化をリアルに感じられるような、異国を舞台にした作品を多く発表しています。

そして、まるで詩を読むように美しく、おしゃれな雰囲気を感じられる文体が池澤夏樹作品の特徴。哲学的な表現のなかに、社会派なテーマを織り込んだ物語もあり、現実社会の見方やあり方を表現しています。

また、”日本のマジックリアリズム小説の名手”とも評されている著者。マジックリアリズムとは、非日常を日常的なものとして描く表現技法のこと。非現実と現実の境界が曖昧になるような、不思議な世界観に引き込まれる作風も魅力のひとつです。

外国文化を交えた、どこか非現実的な世界観の物語を楽しみたい方や、美しい詩的な表現の小説を存分に味わいたい方はチェックしてみてください。

池澤夏樹のおすすめ小説

スティル・ライフ

中央公論新社 著者:池澤夏樹

スティル・ライフ

1987年に中央公論新人賞と芥川賞を受賞した、池澤夏樹の代表作。理工学部出身で、詩人としても活躍している同氏の感性を、存分に味わえる名作です。

アルバイトで生計を立てる主人公・ぼくは、職場で出会った謎多き男・佐々井に誘われ、彼を手伝いはじめます。佐々井との出会いによって、ぼくの感じる世界は徐々に変化していくのでした。

何気なく感じている世界の捉え方を、見直すような体験を味わえるのがポイント。理系の知的な2人の会話を、池澤夏樹らしい美しい詩的な表現で綴っていきます。

親子の関係性とロシア人の交流を描いた作品『ヤー・チャイカ』も収録。静かで幻想的な純文学が好きな方に、おすすめの池澤夏樹作品です。

夏の朝の成層圏

中央公論新社 著者:池澤夏樹

夏の朝の成層圏

By: chuko.co.jp

池澤夏樹の長編小説デビュー作。無人島に漂着した青年の体験を通して、文明への思いや自然への憧憬を描きます。

思わぬ事故で船から海へ投げ出された青年は、奇跡的に南の無人島に漂着。自然の試練にさらされながらも、青年は無人島生活のなかで、自然と一体化するような至福の感覚を味わいます。やがて、文明社会に戻る機会を得た青年は、どのような選択を取るのでしょうか。

無人島でサバイバル生活を営むことで、生きることや自由について改めて考えさせられる青年。青年の丁寧な心情描写に加え、豊かな情景描写で、無人島生活の様子が目に浮かぶような臨場感を味わえます。初期の池澤夏樹作品を読みたい方に、おすすめの小説です。

マシアス・ギリの失脚

新潮社 著者:池澤夏樹

マシアス・ギリの失脚

By: shinchosha.co.jp

南洋の島国の独裁者が失脚するまでを描いた、壮大なスケールの純文学作品。1993年に谷崎潤一郎賞を受賞し、海外でも翻訳出版されました。

ナビダード民主共和国は、マシアス・ギリが統治する南洋の島国。日本とのパイプを背景に大統領に上りつめた彼は、政敵もない独裁者と思われていました。しかし、日本からの慰霊団47人を乗せたバスが島内で失踪し、事態は思わぬ方向へ転がっていきます。

リアルな現実世界の事柄に、島国のスピリチュアルな信仰や体験が混ざり合う巧みな構成が見どころ。”世界観に引き込まれた”という読者も多く、池澤夏樹が表現するマジックリアリズムを、存分に味わいたいという方におすすめの1作です。

南の島のティオ

文藝春秋 著者:池澤夏樹

南の島のティオ

By: impala.jp

池澤夏樹初の児童向け小説。南の島を舞台に、少年・ティオを主人公にした連作短編集です。1992年に小学館文学賞を受賞しました。

小さな南の島で、父親が営むホテルの仕事を手伝う少年・ティオ。島に訪れる個性的な人々との交流や、島での不思議な出来事を描いた10編が収録されています。

児童文学らしい軽やかな筆致ながら、切なさや自然への畏敬の念も感じられる、深みのある物語が魅力。南の島ののんびりとした穏やかな空気感にひたれる情景描写も楽しめる、おすすめの池澤夏樹作品です。

キップをなくして

KADOKAWA 著者:池澤夏樹

キップをなくして

スタジオジブリプロデューサー・鈴木敏夫も「名作」として紹介している、池澤夏樹の鉄道ファンタジー小説。1980年代の東京駅を舞台に、少年の冒険と生死について描かれた人気作です。

キップをなくしてしまった少年・イタルは、同じくキップのない子どもたちと「駅の子」として、東京駅で暮らしはじめます。そんななか、共に暮らすミンちゃんが食事をとらないことに気がついたイタル。問いかけたところ、彼女は“私、死んでいるの”と答え…。

“世界一やさしい命の教科書”とも評される本作品。ノスタルジックで不思議な舞台設定ながら、心あたたまる爽やかな読後感を味わえます。イタルの成長を通して、生と死について深く考えさせられるのもポイント。小学生から大人まで、幅広い世代におすすめの小説です。

きみのためのバラ

新潮社 著者:池澤夏樹

きみのためのバラ

沖縄、バリ、ヘルシンキなど、世界各国を舞台にした8編の物語を収録。世界を旅してきた池澤夏樹の、リアリティ溢れる情景描写が魅力の短編集です。

表題作『きみのためのバラ』をはじめ、旅人や移住者を主人公に、さまざまな場所で起こる一期一会の関係性を描いています。

日常を切り取ったようにささやかでありながら、どれも少し不思議で、印象的な出会いと別れが綴られている本作品。旅情を感じられる文章に、“旅がしたくなった”という読者も多い、おすすめの池澤夏樹作品です。

花を運ぶ妹

集英社 著者:池澤夏樹

花を運ぶ妹

2000年に毎日出版文化賞を受賞した、池澤夏樹の傑作長編小説。バリ島を舞台に、死刑宣告を受けた兄とその妹の絶望と再生を描いた、重厚感のある1作です。

罠にはまり、バリ島で逮捕された画家・哲郎。兄の逮捕と死刑宣告を知った妹・カヲルは、単身パリからバリ島を訪れます。混沌としたアジアの空気のなか、兄救出のため奔走するカヲル。果たしてカヲルは、兄を救い出せるのでしょうか。

兄を救おうとする妹を通して、真の救済とは何かを問いかける1作。壮大なスケールを感じられるおすすめの小説です。

タマリンドの木

集英社 著者:池澤夏樹

タマリンドの木

池澤夏樹が初めて手掛けた恋愛小説。自分の意思を貫き、ひたむきに生きる女性と、優しくて不器用な男性の大人の愛を描いた作品です。

会社員の野山が偶然出会ったのは、タイのカンボジア難民キャンプで働く修子。2人は互いに強く惹かれ合いますが、修子はタイに戻ってしまいます。会社の期待を背負い、エンジニアとして東京に暮らす野山は、修子のためにある行動を取り…。

男性の視点から感じた運命の恋を、時に切なく、丁寧に描いているのが見どころ。池澤夏樹らしい舞台設定と、美しい表現で描かれた優しい恋愛小説を読みたい方に、おすすめの1作です。

アトミック・ボックス

KADOKAWA 著者:池澤夏樹

アトミック・ボックス

池澤夏樹作品のなかでも、エンターテインメント性の高い1作。社会派サスペンスの傑作と評される、核を巡る国家の陰謀を描いた長編小説です。

“人生でひとつ間違いをした”という言葉を遺し、亡くなった父。父の死の直後、美汐の前に警視庁を名乗る郵便局員が現れます。美汐の父はかつて、国産原子爆弾製造に携わっていたというのです。

国益に関わる機密資料を父から託され、父親殺人の容疑で指名手配されてしまう美汐。国家権力の監視網が張り巡らされるなか、美汐の命懸けの逃亡劇が幕を開けます。

父の罪を追って逃げる美汐の逃亡劇に、手に汗握る感覚を楽しめる本作品。痛快な冒険譚でありながら、核利用という重厚なテーマを含んだ社会派の物語でもあります。スリリングな小説が好きな方に、おすすめの池澤夏樹作品です。

すばらしい新世界

中央公論新社 著者:池澤夏樹

すばらしい新世界

ヒマラヤの奥地に風車を建てる主人公と通して、人と環境の関わりについて描いた社会派の長編小説。2000年に、芸術選奨文部科学大臣賞を受賞しました。

大企業の技術系サラリーマンである林太郎は、NGOからの依頼で小型風車の開発に携わります。ヒマラヤの奥地という、秘境の国の文化や信仰に触れ、そこに暮らす人々に林太郎は深く惹かれていくのでした。

途上国へのボランティアとして活動している妻・アユミと、エネルギー問題や人と環境の関わりについて考え始める林太郎。やがて、息子とともにヒマラヤを再訪した彼は、そこで秘密の任務を担うことになり…。

美しいヒマラヤの情景描写とともに、現代社会にも繋がるさまざまな問題を明らかにしている本作品。真の幸せや豊かさについて深く考えさせられる、おすすめの1作です。

短篇集 骨は珊瑚、眼は真珠

集英社 著者:池澤夏樹

短篇集 骨は珊瑚、眼は真珠

静かに美しい、詩的な文体を楽しめる短編集。収録作の『鮎』は、野村萬斎の演出によって狂言として上演されました。

亡くなった夫の骨を砕き、海に撒く妻を遠くから見守る夫。その夫が妻へ優しく語りかける表題作の『骨は珊瑚、眼は真珠』をはじめ、『眠る女』『アステロイド観測隊』『パーティー』など、幸福感とどこか寂しさを感じられる、9つの短編が収録されています。

ユーモラスな物語から、ホラーテイストな物語まで、さまざまな切り口の短編を楽しめるのが魅力。池澤夏樹の詩的な世界観に浸りたい方におすすめです。

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