1996年に『蛇を踏む』で芥川賞を受賞した作家「川上弘美」。現実離れした世界と日常が交差する短編小説を多数執筆しています。読み進めるうちに、独特の世界観に引き込まれる作品が多いのが魅力です。

そこで今回は、川上弘美のおすすめ作品をご紹介。デビュー作『神様』や映画化された『ニシノユキヒコの恋と冒険』のほか、文学賞を受賞した作品もあるので、ぜひチェックしてみてください。

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芥川賞受賞作家「川上弘美」とは?

川上弘美は、1958年東京生まれの小説家です。中高一貫の女子校を卒業後、お茶ノ水大学理学部生物学科に進学。その後結婚し、夫の転勤とともに専業主婦になりました。

大学在学中から所属していたSF研究会で短編などを書いていた川上弘美ですが、専業主婦になってから本格的に執筆活動を開始。1994年に執筆した短編『神様』が第1回パスカル短篇文学新人賞を受賞し、1996年『蛇を踏む』で第115回芥川賞を受賞しました。

その後も、2000年に『溺レる』で第11回伊藤整文学賞と第39回女流文学賞を受賞。2001年には『センセイの鞄』で第37回谷崎潤一郎賞、2007年には『真鶴』で第57回芸術選奨文部科学大臣賞、2015年には『水声』で第66回読売文学賞小説賞など多くの作品で文学賞を受賞しています。

小説家としての活躍だけではなく、芥川賞の選考委員や谷崎潤一郎賞の選考委員を歴任。2019年には紫綬褒章を受章しました。

川上弘美作品の魅力

川上弘美作品は、作品の幅が広いのが特徴です。『神様』『蛇を踏む』『七夜物語』などは、SFやファンタジーの要素にあふれた作品。不思議ですが、どことなく懐かしさを感じる世界観が魅力です。

一方で、男女の性愛を包み隠さず描いた『溺レる』や、年齢の離れた男女のプラトニックな恋愛を描いた『センセイの鞄』など、現実をモチーフにした作品も多数あります。短編集から長編小説までさまざまな作品があるので、興味を惹かれたモノから読み始めるのがおすすめです。

川上弘美のおすすめ小説

神様

中央公論新社 著者:川上弘美

神様

川上弘美のデビュー作『神様』など、9作品を収めた短編集です。第9回紫式部文学賞、第9回Bunkamaruドゥマゴ文学賞を受賞。さまざまな季節に現れる不思議な生き物たちとの、心がぽかぽかとしながら切ない交流が描かれています。

表題作の『神様』は、隣の部屋に越してきた「くま」に誘われ、主人公が川まで散歩に行くところから物語がスタート。人間の世界に合わせているつもりだったくまですが、川辺で子供に蹴られ、思わず野性的な一面が出てしまいます。

風変わりな童話のような雰囲気の作品集で、大人の絵本を読んでいるような感覚になれる作品。川上弘美の独特な世界観に浸りたい方におすすめです。

蛇を踏む

文藝春秋 著者:川上弘美

蛇を踏む

1996年に第115回芥川賞を受賞した、川上弘美の代表作のひとつです。表題作『蛇を踏む』のほか、消えるうちの家族と縮む兄の家族を描いた『消える』、夜や闇の世界を幻想的に描いた『惜夜記』の3作で構成されています。

『蛇を踏む』は、公園に行く途中で蛇を踏んでしまったわたしの物語。夜になってうちに帰ると、見知らぬ女が“あなたのお母さんよ”といって、料理やビールの準備をして待っています。女はわたしが踏んだ蛇で、やがて部屋に棲み付くようになり…。

若い女性の自立と孤独を描いた作品。川上弘美作品ならではの、不思議な空気をまとった小説を読みたい方におすすめです。

溺レる

文藝春秋 著者:川上弘美

溺レる

男女の性愛を描く8作品を集めた短編集。1999年に発表され、翌年には第11回伊藤整文学賞を受賞しています。表題作『溺レる』のほか、『さやさや』『七面鳥が』など、時間を超えるほどの恋を集めた作品です。

『溺レる』は、“アイヨクにオボレ”逃避行を続ける、ちょっとだめな男とつまらない女の物語。『さやさや』は日々盃を重ね合う男女の物語、『七面鳥が』は女性の愛情からのらりくらりと逃げる男の物語です。

食欲や愛欲など、人間が生きていくうえで純粋に求める「欲」にフューチャーした作品。川上弘美の官能的な純文学を楽しみたい方におすすめです。

センセイの鞄

文藝春秋 著者:川上弘美


センセイの鞄

2001年に第37回谷崎潤一郎賞を受賞し、ベストセラーとなった作品。漫画化やドラマ化もされています。

ひとりで通っていた居酒屋で、37歳のツキコは学生時代の国語の恩師と再会。センセイとツキコはお互いに憎まれ口をたたきながらも、一緒に酒をくみかわし、ときには花見やキノコ狩りに出かける仲になっていきます。

ツキコとセンセイのなかなか縮まらない距離にヤキモキして、何度も読み直したくなる作品。季節の描写が繊細であたたかさを感じられます。川上弘美作品に初めて触れる方におすすめの小説です。

真鶴

文藝春秋 著者:川上弘美


真鶴

『真鶴』は、東京と神奈川県の真鶴を何度も往還する女性の物語。存在とは何かをテーマに書かれた作品で、2007年には第57回芸術選奨文部科学大臣賞を受賞しています。

主人公・京は、母親と娘・百の3人暮らし。夫は12年前、「真鶴」という言葉を残して姿を消していました。夫を気にかけながらも、新しい恋人と付き合いを重ねる京。何かに惹かれるように真鶴を訪れる京でしたが、後ろを付いてくる“目に見えない女”の存在があり…。

シュールな世界観ながら、情景や心情の描写が非常にリアルで心に迫る作品。不思議な読後感を味わいたい方におすすめです。

水声

文藝春秋 著者:川上弘美


水声

『水声』は、2014年に発表された長編小説。文藝春秋が発行する月刊誌『文學界』に掲載された小説で、第66回読売文学賞を受賞しています。

きょうだいとして育った「都」と「陵」。1996年に2人で戻ってきた家で、都は死んだはずの「ママ」が夢のなかに現れるようになります。“ママはどうしてパパと暮らしていたの”、と都は語りかけますが…。

都と陵の関係、パパとママの関係を、さまざまな時間軸を行ったり来たりしながら追いかけていく物語。家族とは何か、愛とは何かを考えさせられるおすすめの作品です。

ニシノユキヒコの恋と冒険

新潮社 著者:川上弘美

ニシノユキヒコの恋と冒険

2003年に発表された連作の短編集です。ルックスがよく女性にモテる主人公を、かつて付き合っていた10人の女性の視点で回想しています。2014年には映画化され、第88回キネマ旬報ベスト・テンの第10位にも選ばれた作品です。

女性にとても優しく、そして女性が大好きな主人公・ニシノユキヒコ。出会った女性と深い関係になっても、最後は必ず女性が去っていってしまいます。それでも懲りることなく、また別の女性を追いかけるニシノ。真実の愛を求めてさまよったニシノの“恋とかなしみの道行き”とは何なのでしょうか。

長い時間が経過して、幽霊になったニシノも登場。昔の約束通りに現れたニシノに対し、すでに割り切った感情で対応する女性との対比に切なさを感じます。大胆なようで実は悲しいおすすめの恋愛小説です。

古道具 中野商店

新潮社 著者:川上弘美

古道具中野商店

小さな古道具屋「中野商店」を舞台に描かれた長編小説。目の前の恋がつかめない年の離れた4人の姿を描いています。

中野商店でアルバイトをする「わたし」と、ダメな男の雰囲気を漂わせる店主・中野さん、凛としてきっぷのよい姉・マサヨさん、むっつり屋でわたしと微妙な関係のタケオの4人が主要人物。中野商店に出入りするどこかあやしい常連たちを巻き込んで、じれったい恋と世代を超えた友情が展開していきます。

ゆっくりとした時間が流れる、ノスタルジックな空気感が魅力。日常のできごとを切り取った、落ち着いて読める小説を探している方におすすめです。

どこから行っても遠い町

新潮社 著者:川上弘美

どこから行っても遠い町

都心からほど近くにある、どこにでもありそうな商店街が舞台の作品。平凡な日常のなかに潜んでいる、あやうさと愛おしさを描いています。

男同士、奇妙な仲のよさで同居する魚屋。差し向かいで真夜中に紅茶を飲む主婦と姑、裸足のまま男を追いかけていく女の話が収録されています。平凡な日常で起こるそれぞれのできごとが、実はゆるくつながっていて…。

ちょっとした端役として登場した人物が、別の話では主人公になっており、登場人物の人間関係を追う楽しみのある作品。不思議な読後感で、ついもう一度読み返したくなる小説です。

幻冬舎 著者:川上弘美

某

人間とそっくりな形をしており、男女どちらにも擬態できる不思議な生き物「某」が、悲しみや愛を学んでいく物語です。

ある日突然この世に現れ、名前も記憶もお金も持たない「某」。生きていくすべがなく困り果てた某でしたが、絵を描くのが好きな女子高生や性欲の強い男子高校生、真面目な教員などに擬態してなりすまします。少しずつ人間として生活することに自信がつき、某は自立して生きることにしました。

某は別の人間に擬態しても以前の記憶がうっすらと残っており、はじめは無機質だった人間性が次第に変化していくのがみどころ。川上弘美の原点ともいえるSFチックな作品を読みたい方におすすめです。