人情味溢れる時代小説で人気の小説家「山本一力」。直木賞受賞作『あかね空』をはじめとして、江戸時代中期の市井の人々を題材にした共感しやすい時代小説を数多く執筆しています。

今回は、山本一力氏の数ある小説から、おすすめの作品をピックアップ。短編集から読み応えのあるシリーズ作品まで、まず手に取りたい山本一力作品をご紹介します。あわせて解説している山本一力作品の魅力とともに、ぜひ参考にしてみてください。

※商品PRを含む記事です。当メディアはAmazonアソシエイト、楽天アフィリエイトを始めとした各種アフィリエイトプログラムに参加しています。当サービスの記事で紹介している商品を購入すると、売上の一部が弊社に還元されます。

人気時代小説作家「山本一力」とは?

山本一力氏は、1948年高知県生まれの小説家。14歳で高知県から上京し、東京都立世田谷工業高等学校を卒業しました。就職後は幅広い職種をまたいで、十数回に及ぶ転職を経験します。

2億円以上にものぼる借金の返済のため、40歳を越えてから作家を志し、1997年に『蒼龍』で第77回オール讀物新人賞を受賞。2000年『損料屋喜八郎始末控え』で単行本デビューしました。そして、2002年に『あかね空』で第126回直木賞に輝きます。

『大川わたり』『ジョン・マン』など、時代小説を中心に精力的な執筆活動を続け、2012年には歴史時代作家クラブ賞、2015年には長谷川伸賞などを受賞。時代小説に関連して江戸の食や文化にも精通し、人々の生活に根付いた作品を手がける小説家です。

山本一力作品の魅力

山本一力氏は、江戸時代の市井の人々をモチーフとして多く取り扱っており、現代との共通点を感じられる時代小説を多数発表しています。家族愛や仕事に対する姿勢など、時代小説になじみがない方でも共感でき、イメージしやすい主題の作品が多いのが特徴です。

さらに、山本一力作品は人情味溢れるあたたかな人物描写も魅力。出版社の編集者からも、“江戸の人情を描かせたら当代一”という評価を受けるほど、時代小説家として際立った人情物語を味わえます。

長編だけでなく短編や、シリーズものなども手がけており、さまざまなスケールの時代小説を楽しめるのもポイント。わかりやすく、爽やかな読後感の作品が多いので、難解な舞台設定の時代小説が苦手な方、小説から人のあたたかみを感じたいという方におすすめの小説家です。

山本一力のおすすめ作品

あかね空

文藝春秋 著者:山本一力


あかね空

2002年に第126回直木賞を受賞した、山本一力氏の代表作。江戸で開業した豆腐職人と、その家族の絆を描いた人情時代小説です。2007年に映画化もされました。

上方で修行し、江戸へ下った豆腐職人の永吉は、江戸で出会ったおふみと夫婦になります。京と江戸の味覚の違いに悩みながら、おふみとともに店を構え、商売を軌道に乗せていく永吉。3人の子宝にも恵まれますが、次第に家族の関係に暗い影が差し…。

親子二代の奮闘と家族愛を、2部構成で描いています。リアリティのある人間模様には緊張感もあり、単なるサクセスストーリーに留まらない読み応えのある展開がポイント。山本一力作品をはじめて読む方にも、おすすめの長編小説です。

蒼龍

文藝春秋 著者:山本一力


蒼龍

1997年に第77回オール讀物新人賞を受賞した『蒼龍』を含む短編集。表題作の『蒼龍』は、山本一力氏の処女作でもあります。

大きな借金を背負う若い夫婦が、江戸で2人貧しい暮らしをしながらある夢を追いかける表題作『蒼龍』など、5編の短編を収録。江戸を舞台に、武家社会の心意気や商人の気概など、困難に立ち向かう人々のプライドと奮闘を鮮烈に描き出しました。

どの物語も誠実に人生を生きる人々に焦点を当て、読後には前向きな気持ちになれるような希望のある展開が魅力。初期の山本一力作品に触れたい方におすすめの1作です。

大川わたり

祥伝社 著者:山本一力


大川わたり

1995年に、山本健一名義で第1回小説新潮新人賞の候補作に選出された、山本一力氏の長編時代小説。2008年には舞台化もされました。

博打にはまり、多額の借金を負った大工の銀次。“二十両をけえし終わるまでは、大川を渡るんじゃねえ。一歩でも渡ったら、始末する”と、博徒の親分に命がけの約束を言い渡され、銀次は永代橋を渡れなくなってしまいます。

老舗呉服屋で再起しようとするも、大川を渡れないことで数々の困難に直面する銀次。そんな主人公を取り巻く人々のあたたかさが胸を打ち、どんでん返しの展開には爽快感も。歴史や史実が苦手という方でも読みやすい時代小説として、おすすめの山本一力作品です。

損料屋喜八郎始末控え

文藝春秋 著者:山本一力

損料屋喜八郎始末控え

人気シリーズの1作目であり、山本一力氏の単行本デビュー作。江戸で損料屋を営む主人公が、横暴な札差たちに頭脳で挑む連作短編集です。

上司の不始末の責任を負って奉行所を辞め、刀を捨てた喜八郎は、日用品などのレンタルを生業にする損料屋へ転身することに。しかし、損料屋を営む裏で喜八郎は、仲間たちとともに、巨利を貪る札差たちを相手に渡り合います。

エンターテインメント性もありつつ、単なる勧善懲悪に留まらない人情味溢れる展開が魅力。男気あふれる登場人物たちが、知恵と度胸で悪に挑む痛快さを味わいたい方に、おすすめの山本一力作品です。

かんじき飛脚

新潮社 著者:山本一力

かんじき飛脚

藩の窮地を救うため、命がけで金沢と江戸を往復する飛脚たちのドラマを描いた山本一力作品。江戸時代を生きる職人たちが主題の、長編時代小説です。

江戸の老中・松平定信の陰謀により、加賀藩主・前田治脩は内室同伴の宴に招かれます。病に臥せる治脩の内室を救うため、16人の飛脚たちに課せられた任務は、病の特効薬を極秘裏に運ぶこと。しかし、彼らの前に、大雪・荒波・刺客など数々の困難が立ち塞がります。

藩の命運を握る飛脚たちの奮闘を、サスペンスやアクションなども交えながら描いているのが特徴。次々に襲いかかる困難に、ハラハラドキドキとした臨場感を味わえるのもおすすめの山本一力作品です。

梅咲きぬ

文藝春秋 著者:山本一力

梅咲きぬ

山本一力作品にたびたび登場する料亭の女将を主人公にした1作。四代目秀弥の成長と、その母の子育てを描いた長編時代小説です。

深川の料亭「江戸屋」の一人娘・玉枝。母の三代目秀弥や周囲の人々の、あたたかく、厳しい目に見守られながら、玉枝は次代の老舗料亭の女将として一人前に成長していきます。

江戸時代を生きる女性たちを、凛とした美しさとともに魅力的に描いている本作品。子育てに関する背筋が伸びるような言葉の数々に、江戸の粋と普遍的な教訓を感じられる、おすすめの山本一力作品です。

ジョン・マン 1 波濤編

講談社 著者:山本一力

ジョン・マン 1 波濤編

高知県出身の山本一力氏が、同郷の偉人・ジョン万次郎を主人公として描いたシリーズの1作目。山本一力氏が歴史大河小説として執筆に挑んだ、大長編小説です。

わずか14歳で仲間とともに海で遭難してしまった、貧しい漁師の万次郎。太平洋でアメリカの捕鯨船に助けられ、万次郎の運命が動き出します。

鎖国中の日本で生まれ、西洋文明のなかで過ごした初めての日本人となった万次郎。彼の奇跡の生涯を描いた山本一力氏渾身のシリーズ、その序章として手に取りたいおすすめの1作です。

いっぽん桜

新潮社 著者:山本一力

いっぽん桜

花にちなんだ物語4編からなる短編集。リストラや転職などを題材に、現代にも通じる普遍的な物語としても楽しめる山本一力氏の時代小説です。

“仕事ひと筋で、娘に構ってやれずにきた。せめて嫁ぐまでの数年、娘と存分に花見がしたい。”1本の桜に、そんな娘への思いを込めた番頭。しかし、世代交代として、彼は突然番頭の職を辞さなければならなくなります。

表題作の『いっぽん桜』のほか、どれも家族の愛を感じられる物語が収録されており、穏やかで清々しい読後感が魅力。山本一力氏の描く、人としてのあたたかさを味わいたい方におすすめの小説です。

銀しゃり 新装版

小学館 著者:山本一力

銀しゃり 新装版

町人と武士の交流と職人魂を描いた、感動の長編時代小説。立場の違う男たちが、互いの仕事にかける心意気と生き様を目の当たりにし、絆を強めていく物語です。

元号が寛政へと改元された頃、鮨職人・新吉は深川のそばに「三ツ木鮨」を開店します。親方から受け継いだ柿鮨の伝統の味を守るため、精進を重ねる新吉。慣れない土地で商売に苦戦するなか、旗本・秋之助と出会いが新吉にとって転機になるのでした。

登場人物が職務と信念の間で揺らぐさまには、現代人としての共感も。また、男たちの粋な人情描写だけでなく、完成度の高い食の描写を楽しめる点でも、おすすめの山本一力作品です。

おたふく

文藝春秋 著者:山本一力

おたふく

2008年から日本経済新聞にて連載されていた、山本一力氏の経済エンターテインメント小説。時代小説ながら、現代にも通じる経済小説としても楽しめます。

舞台は寛政の江戸。札差商人への借金棒引き令をきっかけに、江戸は未曾有の不況に襲われていました。そんななか、美味くて安い弁当屋を始めた大店の次男・裕治郎。彼の志高い商いとその心意気は次第に人々に伝播し、冷え切った江戸経済をも動かし始めます。

それぞれの誇りを胸に活躍し、勧善懲悪の痛快さも味わえる山本一力作品。普段あまり時代小説を読まない方にもおすすめの1作です。

だいこん

光文社 著者:山本一力

だいこん

江戸で愛される定食屋を営む主人公と、その家族を描いた長編時代小説。才覚がありながらも自らの知恵を使い、ひたむきに商売に励む女性の成長譚です。

江戸・浅草で一膳飯屋「だいこん」を営むつばきは、飯炊きの技と抜きん出た商才を持っていました。そんなつばきが大火や台風、洪水などの天災や苦難と闘い、女手ひとつで店とともに成長していきます。

続編にあたる『つばき』もあわせて楽しめる本作品。つばきを支える家族や周囲の人々のあたたかさには、江戸時代の粋がリアルに感じられます。登場人物たちのひたむきさに背筋が伸びる、おすすめの山本一力作品です。