性や欲望に関する物語を臆することなく描き続ける作家「村田沙耶香」。常識を疑い、ありのままの姿を肯定する作風で、独特な世界観の作品を読んでみたい方におすすめです。

そこで今回は、村田沙耶香氏のおすすめ小説と作品の魅力をご紹介します。どの作品も読み終えたあとに考えさせられるモノばかりなので、ぜひじっくりと向き合ってみてください。

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村田沙耶香作品の魅力

村田沙耶香氏は、人間の性や欲望の本質を描くのに長けているとされる小説家。センス・オブ・ジェンダー賞、野間文芸新人賞、芥川賞、三島由紀夫賞など、さまざまな文芸賞を獲得しました。

村田沙耶香作品は、登場人物の持つ闇や現実ではありえないような世界観を通して、既存の価値観を揺さぶります。

ただ読み終わったあとに気持ちよくなるのではなく、「普通」や「常識」とは何か、性とは何かを考えさせる力を持っているのが特徴。自分らしく生きたい方へのヒントが込められた作品が多い、おすすめの作家です。

村田沙耶香のおすすめ小説

コンビニ人間

文藝春秋 著者:村田沙耶香


コンビニ人間

現代における人間の在り方を問う村田沙耶香氏の代表作。村田沙耶香氏自身がコンビニで働いていたときに書いたという作品です。第155回芥川賞を受賞し、累計100万部を突破。多くの言語に翻訳されています。

世間の常識から外れている「異物」であることを自覚している主人公・古倉恵子。バイトをしているときだけは「世界の正常な部品」になれたのですが、36歳になって再び異物であることを突き付けられます。恵子は社会の常識から外れていないことをアピールするため、新しく入ってきた男性店員・白羽と一緒に暮らすことになりました。

コンビニのバイトで生活することを自分なりの生き方として肯定する恵子を通して、普通とは何なのかを問いかける作品。自分の生き方に、多少なりとも疑問を抱いたことのある方におすすめの村田沙耶香作品です。

授乳

講談社 著者:村田沙耶香


授乳

村田沙耶香氏のデビュー作で、3つの作品を収録した短編集です。『授乳』のほか、『コイビト』『御伽の部屋』を収録。表題作の『授乳』は2003年、群像新人文学賞で優秀作に選出されています。

『授乳』は、受験を控えた私と、週2回やってくる家庭教師の「先生」の物語です。思春期の女の子を不安定にさせてしまう両親のいる家庭。先生と一緒にいる空間は特別なモノだったはずでしたが…。

人間の内面に隠された闇を暴きだす、村田沙耶香氏の原点とも呼べる作品。まだ村田沙耶香作品を読んだことがない方はもちろん、村田沙耶香氏のルーツに触れてみたい方にもおすすめです。

殺人出産

講談社 著者:村田沙耶香


殺人出産

村田沙耶香作品において最大の衝撃作と謳われている『殺人出産』をはじめ、『トリプル』『清潔な結婚』『余命』の4作品を収録した短編集。第14回センス・オブ・ジェンダー賞で少子化対策特別賞を受賞しています。

表題作『殺人出産』は、10人の子供を出産したら1人の人間を殺せる「殺人出産システム」で人口を維持している日本が舞台。会社員の主人公・育子には、10代で出産している姉がいました。ある夏、姉の10人目の出産が迫ってきます。

あり得ない、理解しがたい世界観であるものの、引き込まれてしまうストーリーがポイント。倫理観や死生観について考えさせられる作品と出会いたい方におすすめです。

星が吸う水

講談社 著者:村田沙耶香

星が吸う水

真正面から性を描き出した村田沙耶香氏の小説です。第23回三島由紀夫賞の候補作品に選出。表題作である『星が吸う水』と『ガマズミ航海』の2編を収録しています。

鶴子と武人は一見すると恋人同士ですが、2人の性行為に愛情はありませんでした。それでも、武人は性欲に忠実な鶴子を満足させてくれるかけがえのない存在。しかし、2人の関係を友人たちは理解できるはずもなく…。

女性の性欲をストレートに描き、多様な性への向き合い方を示しているのがポイント。自分たちが当たり前のように受け入れている価値観について、改めて問い直すきっかけとなるおすすめの村田沙耶香作品です。

地球星人

新潮社 著者:村田沙耶香

地球星人

村田沙耶香氏が描く、世界が絶賛したといわれている衝撃作です。紀伊國屋書店の年間ベスト30を決定する「キノベス!2019」で第3位に選出。芥川賞を受賞した『コンビニ人間』を超える衝撃と驚愕をもたらすとされる作品です。

恋愛や生殖を迫る世間に馴染めない34歳の奈月が、田舎の親戚を訪ねるところから物語は始まります。幼少期に秘密の恋人同士だったいとこ・由宇に再会した奈月。しかし、大人になった彼が「地球星人」の常識に洗脳されかけていることに気付きます。

「普通」とは何かを考えさせられる作品です。奈月は魔法少女、由宇は宇宙人と信じていたなど独特の世界観も特徴。村田沙耶香氏の世界観にどっぷり浸かりたい方におすすめです。

ギンイロノウタ

新潮社 著者:村田沙耶香

ギンイロノウタ

第31回野間文芸新人賞を受賞した村田沙耶香氏の小説。川上弘美氏・角田光代氏・瀧井朝世氏といった小説家やライターからも注目されている作品です。表題作『ギンイロノウタ』と『ひかりのあしおと』の2作品を収録しています。

冷たい父親とヒステリックな母親を持つ、臆病な少女・有里。文房具屋で手に入れた「銀のステッキ」をふるうと、押入れに貼り付けられた無数の男性の目玉が由里を秘密の快楽に誘います。やがて、中学生になった由里は無神経な教師に殺意を抱くようになり…。

読み進めることが不安になるくらい、不穏な空気感が増していくストーリー展開に注目。読んでいて憂鬱な気分にさせられるけれど、読まずにはいられない中毒性のあるおすすめの村田沙耶香作品です。

タダイマトビラ

新潮社 著者:村田沙耶香

タダイマトビラ

家族とは違う帰る場所を求めてさまよう、自分探しを描いた村田沙耶香氏の小説。子供を愛せない母親に育てられた少女・恵奈が主人公の物語です。

ニナオと名付けたカーテンと戯れる「カゾクヨナニー」を通して、満たされない家族への欲望を解消している恵奈。高校に入って年上の男性と付き合ったことをきっかけに、家を出て同棲を始めました。しかし、今の状態が「カゾクヨナニー」なのではないかと気付いてしまいます。

子供は選べない親に対して閉塞した感情を持ち、親は自分が理想とする家族を作ろうと躍起になる。もはや制度になってしまったとも思える家族について問題提起した作品。家族とは何か、改めて考えてみたい方におすすめです。

丸の内魔法少女ミラクリーナ

KADOKAWA 著者:村田沙耶香

丸の内魔法少女ミラクリーナ

多様な世界との向き合い方を描く、村田沙耶香氏の短編集です。表題作の『丸の内魔法少女ミラクリーナ』は、小説誌のヒーロー特集に合わせて書かれた作品。そのほか、『秘密の花園』『無性教室』『変容』の計4編を収録しています。

魔法のコンパクトで魔法少女に変身する妄想で日々の無理難題を乗り切っているOL・茅ヶ崎リナ。彼女は元魔法少女仲間・レイコと喧嘩をした恋人・正志に対して、レイコの代わりに魔法少女になることを提案します。意外にも魔法少女の活動にのめりこむ正志でしたが、次第に行動がエスカレートしていき…。

魔法少女というポップでキュートな外観とは裏腹に、村田沙耶香氏ならではの強烈な風刺と問題提起が込められた作品。村田沙耶香作品の本質を味わいたい方におすすめです。

消滅世界

河出書房新社 著者:村田沙耶香

消滅世界

日本の未来を彷彿とさせる、村田沙耶香氏の衝撃作。性・家族・妊娠・人工授精といったテーマに果敢に挑戦しているのが特徴です。

夫婦間のセックスが近親相姦としてタブー視され、人工授精で子供を産むのが当たり前になった世界。両親のセックスによって生まれた坂口雨音は、自分の価値観を押し付ける母親を嫌悪し、清潔な結婚生活を送っていました。そして、雨音夫婦は千葉にある実験都市「楽園」に移住するのですが…。

作中ではタブーとされる価値観は、現実世界において正しいとされるモノ。いわゆるディストピア小説といえますが、そこに住んでいる人々はみな望んで自分たちの価値観を受け入れています。何が常識なのか考えさせられるおすすめの作品です。

しろいろの街の、その骨の体温の

朝日新聞出版 著者:村田沙耶香

しろいろの街の、その骨の体温の

クラス内の序列「スクールカースト」を描いた村田沙耶香氏の小説です。第26回三島由紀夫賞と第1回フラウ文芸賞の受賞作。村田沙耶香氏が生まれ育ったニュータウンを舞台にして描かれた作品です。

開発がストップしたニュータウンに住む・結佳は、クラスのなかでも目立たない存在。クラス内に形成された序列をバカにしつつも、はみ出すことを恐れて過ごしていました。スクールカースト上位の伊吹を「おもちゃ」にしたいという気持ちが高まりキスをします。親密な関係が続く2人ですが、ついに伊吹から告白された結佳は困惑してしまい…。

青春小説でありつつも、見えない大きな力に支配される息苦しさをごまかすことなく描いた作品。結佳が女の子から少女に変わっていく瞬間が伝わってきます。村田沙耶香作品の入門編としておすすめです。