国内外で高い評価を受ける人気作家「中村文則」。人間の内面を深く掘り下げる重厚な作風が魅力です。『土の中の子供』で芥川賞を受賞。ミステリーやノワール小説の側面も持っており、物語性のある純文学作品として幅広い層に親しまれています。
そこで今回は、中村文則氏のおすすめ作品をご紹介。さまざまな受賞作品だけでなく、映画化された作品もピックアップしています。ぜひチェックしてみてください。
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人気ミステリー作家「中村文則」とは?
中村文則氏は1977年愛知県生まれの小説家です。高校時代に出会った太宰治の『人間失格』に強い感銘を受け、文学に傾倒していきました。
福島大学を卒業後は作家になるまでフリーターを続け、2002年に『銃』で新潮新人賞を受賞してデビュー。2004年に『遮光』で野間文芸新人賞を、2005年には 『土の中の子供』で芥川賞を受賞しました。
2010年に『掏摸(スリ)』で大江健三郎賞を受賞。同作の英語版『The Thief』はウォール・ストリート・ジャーナル紙で「Best Fiction of 2012」の10作品にも選出されました。さらに、2014年には日本人で初めて米文学賞の「デイビッド・グディス賞」を受賞するなど、国内外で高い評価を受けています。
中村文則作品の魅力
中村文則氏は、ミステリーやスリラーの要素を感じさせる純文学作品で人気の作家。アメリカ・イギリスなど15の言語に翻訳されており、海外にも多くのファンがいます。
人間のなかの「悪」をテーマにした作品が多いのがポイント。人間の存在意義や運命への抵抗、戦争やテロリズムなどに対するメッセージを、小説を通して真摯に表現しています。
ドストエフスキー・カミュ・カフカなどから影響を受けており、一人称による内面の独白や回想、手記といった形で物語が交差するのも特徴。重く暗い物語だとわかっていても読みたくなり、繰り返し読み返す方が多いのも中村文則作品の魅力です。
中村文則のおすすめ小説
掏摸(スリ)
河出書房新社 著者:中村文則
第4回大江健三郎賞を受賞し、各国で翻訳された中村文則氏の代表作です。日本人で初めて米文学賞の「デイビッド・グディス賞」を受賞。海外での評価も高い作品です。
主人公は東京で活動する天才スリ師。ある日、彼はかつて仕事をともにした木崎と再会します。闇社会に生きる木崎は“これから三つの仕事をこなせ。失敗すれば、お前を殺す。逃げれば、あの女と子供を殺す”とささやきますが…。
純文学ながらも小説として読みやすいのが魅力です。また、緊張感が伝わってくるスリの描写も見せ場のひとつ。次々に読み進めたくなる、スリリングな物語を楽しみたい方におすすめです。
去年の冬、きみと別れ
幻冬舎 著者:中村文則
2013年に刊行された中村文則氏のミステリー小説。先の読めない物語展開で話題となり、発売後すぐに重版がかかった作品です。2014年本屋大賞にノミネート、2018年には映画化もされました。
ライターである主人公は、ある猟奇殺人事件の被告との面会に行きます。彼は2人の女性を殺した容疑で逮捕され、死刑判決を受けていました。“なぜ彼は事件を起こしたのか? 本当に殺人だったのか?” 調べを進めるほどに、事件の異様さに飲み込まれていく主人公。真相は迷宮入りするかに思われたのですが…。
終盤へ向かって加速していくスピード感と、伏線をすべて回収するラストに圧倒されます。人間の内面の奥深さに迫り続けている中村文則氏ならではの「悪」の描写も魅力。真相を知ったうえでもう一度読み返したくなるおすすめの作品です。
教団X
集英社 著者:中村文則
中村文則作品のなかでも圧倒的なボリュームの大長編小説。あるカルト教団にまつわる物語が描かれています。文芸誌『すばる』連載中から話題を集めた人気作品のひとつです。
楢崎の前から突然姿を消した女性。行方を探しているうちにたどり着いたのは奇妙な老人を中心とした宗教団体と、性の解放を謳う謎のカルト教団でした。対立する2人のカリスマ。絶対的な悪の教祖と4人の男女の運命が絡まり合い、やがて教団は暴走し始めます。
デビュー以来、“人間とは何か、悪とは何か”を問い続けてきた中村文則氏。究極の悪を描くと同時に、強い光と希望が込められています。著者自らが最高傑作と語る作品を読んでみたい方におすすめです。
銃
河出書房新社 著者:中村文則
河出文庫からリニューアル刊行された中村文則氏のデビュー作。新潮新人賞受賞作品であり、芥川賞候補にもなった作品です。河出文庫版には単行本未収録の『火』を併録しています。
雨が降りしきる河原で「動かなくなっていた男」に出会った、大学生・西川。男の傍らに落ちていた黒い物体は銃でした。圧倒的な美しさと存在感を持つ銃に魅せられた西川は、“私はいつか拳銃を撃つ”と確信を持ち始めます。
拾った銃を持ち歩いているうちに、銃の「力」に支配されてしまう青年。テレビで流れる事件のニュースや、刑事の訪問によって追い詰められていく描写が印象的です。2016年には併録の『火』、2018年には『銃』が映画化。中村文則氏の原点に触れてみたい方におすすめです。
遮光
新潮社 著者:中村文則
第26回野間文芸新人賞を受賞した作品。ある虚言癖の青年と、美紀の物語です。
恋人・美紀の事故死を周囲に隠しながら、今でも彼女は生きていると幸福を語り続ける青年。彼の手元には黒いビニールに包まれた謎の瓶がありました。中に入っていたのは、他人が知れば仰天するような「あるモノ」だったのです。
喪失感と行き場のない怒りに包まれた青春。ウソをつき通すことで世界に立ち向かっていく青年の姿を描いています。中村文則氏の第2作であり、初期代表作のひとつ。新人作家時代の作品を探している方におすすめです。
土の中の子供
新潮社 著者:中村文則
人間の業と希望を追求し賞賛を集めた、第133回芥川賞受賞作品。暴力そのものを分析して描かれた名作です。中村文則氏としては初となる短編『蜘蛛の声』を併録しています。
主人公は27歳のタクシードライバー。親に捨てられ、孤児として日常的に虐待された日々の記憶に今もなお脅かされています。理不尽に引き込まれる被虐体験に、生との健全な距離を見失う主人公。自分の半生を呪い、持てあましながらも、精神の闇にかすかな再生の芽を探ります。
虐待をテーマとした暗い内容ではあるものの、運命や巨大な力に逆らう意志を感じられるのが魅力です。土の中から顔を出して生きていこうとする主人公の姿に胸を打たれる方も多い小説。中村文則氏の世界に触れてみたい方におすすめです。
私の消滅
文藝春秋 著者:中村文則
第26回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞した作品。純文学とミステリーが見事に融合した中村文則氏の最高傑作といわれています。恋愛に潜む想像を超える悪意を描いた長編小説です。
ある男が古びたコテージへ行き、置かれていた手記を読むところから物語が始まります。手記には“このページをめくれば、あなたはこれまでの人生の全てを失うかもしれない”と書かれていました。男は部屋にあった保険証や住民票などを使って、全くの別人に成り代わりますが…。
人間の精神の奥底にあるものを描き出し、存在そのものを問う重厚な小説です。犯罪者の内面を独白や手記という形で描写すると同時に、ミステリーの手法を取り入れているのが特徴。ノンフィクション的な要素も楽しめます。
最後の命
講談社 著者:中村文則
2014年に映画化され、ニューヨークで開催されたチェルシー映画祭のコンペ部門で最優秀脚本賞を受賞しました。中村文則氏にとって初めての映像化作品です。
ある事件がきっかけで疎遠になっていた幼馴染みの冴木。“お前に会っておきたい”と連絡が入り7年ぶりに再会した直後、私の部屋で女性の死体が発見されてしまいます。部屋から検出された指紋は、指名手配中である冴木のモノでした。
ひとつの殺人事件をめぐる物語。テーマは重く鬱々としたモノではありますが、読み進めやすいのが魅力です。中村文則氏の小説や文学に対する熱い想いを感じ取りたい方におすすめ。物語の世界観を表すようなカバーデザインも印象的です。
悪と仮面のルール
講談社 著者:中村文則
世界の悪を超えようと奔走する青年の姿を描いたサスペンス長編です。講談社創業100周年記念書き下ろし作品として2010年に刊行。2018年には映画化もされています。
邪の家系を断ち切り、少女を守るために父親の殺害を決意した少年。大人になった彼は顔を変え、他人の身分を手に入れて動き出します。同じ頃、街ではテロ組織による連続殺人事件が発生。過去の事件を追う刑事が現れ、彼の周辺をうろつき始めますが…。
本質的な悪、悪の連鎖という重いテーマを描いているものの、純度の高い恋愛小説としても楽しめる作品。登場人物も魅力的に描かれているといわれています。中村文則作品の入門書としてもおすすめです。
何もかも憂鬱な夜に
集英社 著者:中村文則
重大犯罪と死刑制度、生と死などさまざまなテーマに真摯に向き合った長編小説です。一人称が「僕」に変わった最初の作品。文庫版にはピースの又吉直樹氏による解説が収録されています。
施設で育った刑務官の僕が担当しているのは、強姦目的で女性と夫を刺殺した20歳の未決囚・山井。1週間後の控訴期限が切れれば死刑が確定しますが、山井は何かを隠している様子でした。山井との対話を通して、自殺した友人の記憶や大切な恩師とのやり取りなど、僕が抱える混沌もあぶり出されていきます。
ノートに書かれている文章は、実際に中村文則氏が高校生の頃に書いたノートを抜き出したモノ。自殺した友人・真下のノートに感動を覚える方が多い作品です。
王国
河出書房新社 著者:中村文則
世界各国で翻訳され絶賛されたベストセラー小説『掏摸(スリ)』の兄妹編。世界観はリンクしていますが、シリーズではなくそれぞれが独立した作品です。文庫版には中村文則氏の解説風エッセイが収録されています。
ユリカの仕事は、組織によって選ばれた社会的要人の弱みを人工的に作ること。ある日、彼女は最悪の男・木崎に出会ってしまいます。不意に鳴り響く電話、受話器のなかから語りかけてくる男の声。ある陰謀に巻き込まれた彼女の逃亡劇が始まります。
逃亡・策略・裏切りなどのエンターテインメント性を全面に出しながらも、運命や存在といった純文学のテーマを描いているのが特徴。自分の人生を奪われること、運命を拒否することについて考えさせられる作品です。
あなたが消えた夜に
毎日新聞出版 著者:中村文則
中村文則作品としては初となる新聞連載小説です。純文学と警察小説が融合した、衝撃的な人間ドラマ。文庫版には、毎日文庫レーベルの第1作を記念し、巻末に『あなたが消えた夜に 番外編』を収録しています。
連続通り魔殺人事件の容疑者である「コートの男」を追う、所轄の刑事・中島と捜査一家の女刑事・小橋。しかし、事件はさらなる悲劇の序章に過ぎませんでした。刑事たちが追う悪の正体とは一体何者なのでしょうか…。
中村文則氏によると、本作のテーマは「無意識」。後に続く『私の消滅』や『その先の道に消える』にもテーマは受け継がれています。人間の内面を深く掘り下げていく描写が魅力。深層心理に興味がある方におすすめです。
R帝国
中央公論新社 著者:中村文則
中村文則氏の問題意識が垣間見えるディストピア小説です。2016年に読売新聞夕刊で連載をスタート。2017年に単行本が刊行され、大きな反響を呼んだ作品です。
物語の舞台は近未来の島国・R帝国。人々は人工知能搭載型携帯電話・HP(ヒューマン・フォン)の画面を常に見ながら生活していました。ある日、矢崎はR帝国が隣国と戦争を始めたことを知ります。絶対的な権力で国家を支配する「党」と、謎の組織「L」。やがて世界は思わぬ方向へと暴走していきます。
独裁政権下に生きる4人の男女の姿を描いた驚愕の物語です。現在の日本に危機感をおぼえる中村文則氏が、政治や戦争などの社会問題に深く切り込んだ作品。小説だからこそ表現できる世界観を感じてみたい方におすすめです。
その先の道に消える
朝日新聞出版 著者:中村文則
朝日新聞出版10周年記念作品として2018年に刊行され、累計10万部を突破した話題作。『美しい星』など三島由紀夫作品の翻訳を手がけたサム・ベット氏による米国版の刊行も決定しています。
アパートの1室で発見されたのは、ある「緊縛師」の死体。重要参考人として名前が挙がった桐田麻衣子は、刑事・富樫が想いを寄せていた女性でした。彼女の疑惑をそらすため証拠を偽造する富樫と、すべてを見破ろうとする同僚の葉山。やがて、ある存在告白がつづられた驚くべき内容の手記が見つかります。
細部にはりめぐらされた伏線と緊張感に満ちた文体が魅力です。緊縛で用いられる麻縄やしめ縄、日本神話などにも注目し、“日本とは何か”にまで向かっていく中村文則氏ならではの壮大な物語。中村ワールドを堪能したい方におすすめです。
カード師
朝日新聞出版 著者:中村文則
朝日新聞の連載小説を書籍化した作品。中村文則氏の新たな代表作と称される長編小説です。
主人公は占いを信じていない占い師であり、客を翻弄する違法カジノのディーラー。彼のもとにある組織から指令が舞い込みます。指令内容は“冷酷な資産家の顧問占い師になること”でした。
先のわからない世界で人生を放り出さずに生きていくことは、めくるまで何が出るかわからないカードに似た切なさと希望があります。本作品は“絶望するにはまだ早い”と語る中村文則氏の祈りを具現化した小説。政治的な話が苦手な方にもおすすめです。
中村文則作品は、人間の内面にあるモノに深く切り込んでいく作風が特徴。重く暗いテーマのなかに、希望や光が込められているのも魅力です。芥川賞を受賞した『土の中の子供』をはじめとして、海外でも高い評価を受けた『掏摸(スリ)』や 『私の消滅』などおすすめの名作が多数あります。ぜひ手に取ってみてください。