仕事のやりがいや厳しさをリアルに描くお仕事小説。登場人物が奮闘する姿に共感したり、働くことの意義を再発見したりとさまざまな魅力があります。しかし、作品によって舞台となる業界やテーマなどが異なるので、どれを読むか迷ってしまう方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、お仕事小説のおすすめをご紹介します。仕事について見つめ直したい方、仕事で悩んでいる方はぜひ選書の参考にしてみてください。
お仕事小説のおすすめ
舟を編む
光文社 著者:三浦しをん
2012年本屋大賞第1位に輝いた三浦しをんの代表作で、辞書編集という専門的な世界を舞台にしたお仕事小説です。映画化・ドラマ化もされ、多くの読者に愛され続けているベストセラー。言葉への深い愛情と編集者たちの情熱が織りなす、心あたたまる人間ドラマが描かれます。
玄武書房の営業部で、変わり者として持て余されていた馬締光也が主人公。言葉への鋭い感覚を買われ辞書編集部に異動となりました。
新しい辞書『大渡海』の編纂という壮大なプロジェクトに、個性豊かな編集部の仲間たちと共に挑むことになります。下宿先の大家の孫娘・林香具矢との出会いを通じて、馬締は言葉で想いを伝える大切さも学んでいくのです。
15年という長い歳月をかけた辞書作りの過程で、登場人物たちの人生が優しく「編まれて」いく様子が美しく描かれています。言葉の奥深さと魅力を再発見できるのが魅力。言葉を大切にしたい方や、地道な仕事に情熱を注ぐ人々の物語を読みたい方におすすめです。
和菓子のアン
光文社 著者:坂木司
デパ地下の和菓子店で働く女性の成長を描いた、和菓子の魅力と人間ドラマが融合したお仕事ミステリー小説です。坂木司による人気シリーズの第1作品目。和菓子の深い知識と季節感あふれる文化を学びながら楽しめる作品です。
高校卒業後の進路に迷う18歳のアンちゃんこと梅本杏子は、デパ地下の和菓子店〈みつ屋〉でアルバイトを始めます。
少しふくよかで自分に自信のない杏子でしたが、個性的な店長や同僚に囲まれながら、和菓子の歴史や季節の意味を学んでいくうちに、少しずつ成長していきます。
店を訪れるお客様の和菓子にまつわる謎解きや、それぞれの人生ドラマが織りなす心温まるエピソードが魅力。読後に和菓子が食べたくなり、日本の美しい文化を再発見できるのが魅力。ほのぼのとした雰囲気で癒されたい方や、和菓子・日本文化に興味がある方におすすめです。
下町ロケット
文藝春秋 著者:池井戸潤
男たちの矜持がぶつかり合う、感動のお仕事小説。直木賞受賞作で、池井戸潤の代表作のひとつです。ドラマ化もされており、シリーズ累計350万部を突破しています。
主人公は研究者の道をあきらめ、家業の大田区にある町工場・佃製作所を継いだ佃航平。製品開発で業績を伸ばしていました。しかし、ある日商売敵の大手メーカーから理不尽な特許侵害で訴えられます。
圧倒的に形成不利のなか、取引先を失い資金繰りに困る佃製作所。創業以来のピンチに、国産ロケットを開発する巨大企業・帝国重工は、佃製作所が持つ特許技術に食指を伸ばしてきます。特許を売れば窮地を脱せますが、その技術には佃の夢が詰まっていたのです……。
佃製作所の熱いメンバーたちや、不屈の挑戦や意地に胸を打たれる読者が多い1冊。中小企業で働く方や夢を追う方、逆転劇や熱い人間ドラマが好きな方におすすめです。
半沢直樹 1 オレたちバブル入行組
文藝春秋 著者:池井戸潤
銀行を舞台に、バブル期に入行した男たちの意地や挑戦を描いた、痛快エンターテインメント小説です。池井戸潤の代表作のひとつで、「半沢直樹シリーズ」の第1作品目。堺雅人主演でドラマ化され、人気を博しました。シリーズ累計発行部数は615万部を突破した大ベストセラーシリーズです。
大阪西支店融資課長を務めるバンカー・半沢直樹。あるとき、浅野支店長の命令で5億円の融資を行った会社が、あえなく倒産してしまいます。融資ミスの責任をすべて半沢に押し付け、浅野支店長は醜い保身に走りました。
沸きあがる怒りを抑えつつ、半沢は巨額な債権を回収する方法を探っていきます。「やられたら、倍返し」というセリフで有名な、痛快な逆転劇が始まるのです……。
経済小説のなかでも読みやすく、読後の爽快感を味わえる1冊。池井戸潤の金融小説や、人気ドラマの原作に触れたい方におすすめです。
コンビニ人間
文藝春秋 著者:村田沙耶香
「普通」とは何かや現代の実存を問うベストセラーのお仕事小説。村田沙耶香のコンビニバイト経験を投影しており、芥川賞を受賞した純文学作品です。20か国語に翻訳され、世界各国でも人気を博しています。
主人公は36歳で未婚、彼氏もいない、コンビニバイト歴18年目の古倉恵子。彼女は毎日コンビニ食を食べ、夢のなかでもレジ打ちをしています。完璧なマニュアルのあるコンビニこそが、自分を世界の正常な「部品」にしてくれると考えていました。
そんなある日、婚活目的の新入り・白羽がやってきて、恵子に「そんなコンビニ的生き方は恥ずかしい」と突きつけますが……。
普通や常識について考え悩みながら、不器用に生き抜いていく恵子の姿が印象的な作品。エンターテインメント性も高く読みやすいため、芥川賞受賞作品に初めて触れる方にもおすすめです。
ちょっと今から仕事やめてくる
KADOKAWA 著者:北川恵海
現代のブラック企業問題を描いた社会派ヒューマンドラマ小説。2017年には福士蒼汰・工藤阿須加主演で映画化され話題となった作品です。過酷な労働環境に苦しむ、現代人の心に寄り添う救済譚として高く評価されています。
ブラック企業で営業マンとして働く青山隆は、厳しいノルマと上司のパワハラで心身共に疲弊していました。ある日、疲労のあまり駅で線路に飛び込もうとした瞬間、関西弁を話す謎の男・ヤマモトに救われます。
ヤマモトは昔の同級生だと名乗りますが、青山は彼のことを覚えていませんでした。ヤマモトとの不思議な交流を通じて、青山は徐々に笑顔を取り戻し、仕事や人生に前向きな気持ちを抱けるようになります。
働く人の心に響き、生きることの意味を考えさせられる1冊。現代社会の労働問題に悩む多くの人の共感を呼んでいます。仕事に疲れた方や、人生について考え直したい方におすすめのお仕事小説です。
県庁おもてなし課
KADOKAWA 著者:有川浩
有川浩による地方振興をテーマにしたお仕事小説です。高知県庁に実在した「おもてなし課」を舞台に、若手職員の成長と地域の魅力再発見を描いています。第3回ブクログ大賞を受賞し、2013年には錦戸亮・堀北真希主演で実写映画化されました。
高知県庁に新設された「おもてなし課」の若手職員・掛水は、地方振興企画の第一歩として地元出身の人気作家・吉門を観光特使に依頼します。
しかし、吉門からは県の観光施策に対して厳しいダメ出しを受け、お役所仕事の硬直性を痛感。柔軟な民間感覚を持つアルバイト・多紀の協力を得ながら、真のおもてなしとは何かを模索していきます。
地方公務員の現実と観光振興の課題をリアルに描いた作品として高く評価されています。掛水の成長物語に恋愛要素も絡み、キュンとできるのも魅力。地方創生や観光業に興味がある方、恋愛要素も入った心あたたまるお仕事小説を読みたい方におすすめです。
これは経費で落ちません! 経理部の森若さん 1
集英社 著者:青木祐子

2019年に多部未華子主演でドラマ化された、経理OLが主人公のお仕事コメディ小説。経理という職種にスポットライトをあて、働くことの本質を描いた大人のための青春小説として注目を集めています。
主人公は、中堅石鹸会社〈天天コーポレーション〉経理部に勤める27歳のOL・森若沙名子。きっちりと働き、適正な給料は自分のために使う完璧な生活を送りたいと願っています。27年間彼氏なしで、常にイーブンを求める彼女の元に舞い込むのは、各部署から持ち込まれるさまざまな領収書でした。
「たこ焼き代」「テーマパーク代」など、経費として認められるか怪しい領収書の数々。森若さんは領収書の調査を通じて、社内のトラブルや人間関係に巻き込まれていきます。特に営業部の山田太陽が持ち込む問題の多い領収書は、彼女の完璧な日常を揺るがしていくのです。
経理という職種のリアルな描写と、職場の人間関係をユーモラスに描いた作品。働くことや人と関わることに悩む大人の読者に共感と爽快感を与える、おすすめの職場コメディです。
この世にたやすい仕事はない
新潮社 著者:津村記久子
燃え尽き症候群で仕事を辞めた36歳女性が、5つのマニアックな仕事を通じて働く意味を見つめ直すお仕事小説。2016年に芸術選奨新人賞を受賞した、津村記久子の代表作です。NHKでドラマ化もされ、多くの読者から支持を集めています。
主人公の「私」は14年間勤めた業界を辞めた女性。ハローワークで「1日コラーゲンの抽出を見守るような仕事はありますか?」と相談すると、相談員はメガネをキラリと光らせます。紹介されたのは隠しカメラで小説家を監視する仕事でした。
その後も、おかきの袋に書く豆知識を考案する仕事や、森の小屋での簡単な事務仕事など、世の中に実在するニッチな短期アルバイトを経験し……。
どの仕事も一見楽そうに見えますが、実際にはそれぞれの苦労や困難があることを知ります。私が各職場で出会う人々との交流を通じて、働くことの本質と自分なりの価値観を取り戻していく物語。働くことに疲れを感じている方や人生の転機を迎えている方におすすめです。
ハケンアニメ!
マガジンハウス 著者:辻村深月
アニメ業界で覇権を争う熱いクリエイターたちの魂を揺さぶるお仕事小説。直木賞作家・辻村深月による傑作で、制作現場での葛藤やスタッフとの軋轢、プロデューサーとの関係など、アニメ業界のリアルな内幕を通じて成長していく物語です。2019年に舞台化、2022年に映画化され、スピンオフ小説『レジェンドアニメ!』も刊行されています。
主人公は、地方公務員から転身した新人監督・斎藤瞳と、プロデューサー・有科香屋子、原画アニメーターの並澤和奈と、章ごとに代わります。
瞳が手掛ける『サウンドバック 奏の石』が、憧れの王子監督の9年ぶりの復帰作『運命戦線リデルライト』と同じクールで放送されることが決まりました。業界の覇権をかけた制作現場の激闘が始まるのです。
辻村深月らしい心理描写の巧みさと、アニメ業界への深い敬意が込められた作品。アニメ制作への熱い情熱と業界の厳しさが丁寧に描かれています。アニメ制作の裏側に興味がある方や、お仕事小説を読みたい中高生にもおすすめです。
本日は、お日柄もよく
徳間書店 著者:原田マハ
原田マハが、仕事をテーマに人と人を結び合わせる言葉の可能性を描いた青春小説。2017年にはドラマ化もされ、累計75万部を突破した人気作品です。
OLの二ノ宮こと葉は、密かに片思いをしていた幼なじみ・今川厚志の結婚式に最悪の気分で参列していました。しかし、彼女は披露宴で伝説のスピーチライター・久遠久美のすばらしいスピーチに感動し、涙します。
そして、こと葉は言葉の修行を始めるため久美に弟子入り。成長したこと葉は、父の遺志により初めて衆議院選に立つ、厚志の選挙を手伝うことになりますが……。
「言葉」について考えさせられる原田マハ作品です。ハートフルで感動する読者も多いのがポイント。読後には爽やかな気持ちになれるおすすめのお仕事小説です。
神様からひと言
光文社 著者:荻原浩

食品会社のクレーム処理部門を舞台に、左遷されたサラリーマンの奮闘と成長を描いたユーモアあふれるお仕事小説。荻原浩らしいコミカルさとあたたかさが詰まった作品です。2006年にドラマ化されました。
主人公は、大手広告代理店を辞めて食品会社〈珠川食品〉に転職した佐倉良平。入社早々の販売会議でトラブルを起こしてしまい、リストラ要員収容所と恐れられる「お客様相談室」へ左遷されます。プライベートでも恋人に逃げられており、仕事も私生活も苦しい状況に追い込まれてしまいました。
しかし、日々のクレーム処理業務を通じて、個性的な同僚たちや面倒な顧客とのやり取りを重ねていくうちに、彼は働くことの意味や人生の価値を見つめ直していきます。
広告代理店経験を持つ作者ならではのリアルな職場描写が魅力。職場の序列や人間関係の滑稽さがユーモラスに描かれ、働くことに悩む方や転職を考えている方に勇気を与えてくれます。前向きな気持ちになれる作品を探している方におすすめの1冊です。
校閲ガール
KADOKAWA 著者:宮木あや子
ファッション誌編集者を夢見る女性が、校閲部で奮闘するお仕事コメディ小説です。宮木あや子による人気小説シリーズで、仕事を通じて自分自身の成長や夢の再定義を経験していく物語です。2016年には『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』として石原さとみ主演でドラマ化され、大きな話題となりました。
主人公は憧れのファッション誌編集者を目指し、激戦の出版社入社試験を突破して総合出版社〈景凡社〉に入社した河野悦子。しかし、配属されたのは希望とは正反対の「校閲部」でした。校閲とは出版物の誤字脱字や事実誤認をチェックする地味な仕事です。
最初は夢と現実のギャップに落胆する悦子でしたが、校閲の仕事に真剣に取り組むうちに、想像以上の奥深さや面白さに気づいていきます。些細な誤りを追うために現地調査に飛び回ったり、週刊誌の内容検証で潜入取材をしたりと、校閲の枠を超えて活躍していき……。
「地味だけどスゴイ」というコンセプトで、校閲という知られざる職業の魅力を描いた秀作。仕事への真剣な取り組みや、夢を追う姿勢が多くの読者の共感を呼んでいます。出版業界に興味がある方におすすめです。
配達あかずきん 成風堂書店事件メモ
東京創元社 著者:大崎梢
駅ビルの書店を舞台に書店員コンビが身近な謎を解き明かす、本邦初のお仕事ミステリー小説。元書店員の大崎梢による「成風堂書店事件メモシリーズ」の第1弾です。リアルな書店描写とあたたかみのあるキャラクターで、ミステリーファンと本好きから高い評価を受けています。
舞台は駅ビルの6階にある書店〈成風堂書店〉。しっかり者の書店員・木下杏子と勘の鋭い学生アルバイト・西巻多絵の2人が主人公です。近所に住む老人から〈いいよんさんわん〉謎の探求書リストを託されるところから物語は始まります。
書店に持ち込まれる不思議な出来事は日常的でありながら謎に満ちたもの。コミック『あさきゆめみし』を購入後に失踪した母を探す女性や、配達したばかりの雑誌に挟まれていた盗撮写真の謎など、書店ならではの事件が5編収録されています。
杏子と多絵のコンビが本への愛情と書店員としての経験を活かして謎を解いていく過程が魅力です。本と書店への愛が詰まった作品で、書店の舞台設定を存分に活かしたストーリー展開が印象的。書店ミステリーや日常の謎を楽しみたい方や、中高生にもおすすめです。
外資系オタク秘書 ハセガワノブコの華麗なる日常
祥伝社 著者:泉ハナ
アメリカ名門大学卒の外資系銀行秘書が、実は筋金入りのオタクという二面性を描いたお仕事コメディ小説。泉ハナによる斬新な設定の作品で、仕事とオタク趣味を両立する現代女性のリアルな姿をユーモラスに描いています。
主人公は外資系銀行で秘書として働くハセガワノブコ、32歳独身。華麗な帰国子女で仕事では有能な秘書として活躍する彼女の正体は、筋金入りのオタクです。婚活やイケメン、ブランド品には一切興味がありません。
週末は録り貯めたアニメの鑑賞やオタ友とのイベント参加に没頭し、オタク活動にすべてを捧げる日々。しかし、最近は公私ともにトラブルや横やりが入り……。
外資系企業のリアルな仕事風景と、オタク生活のギャップが面白く描かれています。仕事では英語を駆使してバリバリ働く一方で、プライベートではアニメグッズに囲まれて幸せそうに過ごすノブコの姿が印象的。外資系企業で働く方やオタク文化に親しみのある方に特におすすめです。





























お仕事小説は出版社や銀行など、さまざまな世界が舞台となっています。自分の仕事と重ね合わせられる作品や、未知の職業の魅力に気づかされる作品もあるのがポイント。明日への仕事への活力が得られることもあるのが魅力のひとつです。ぜひ本記事を参考に、お気に入りの作品を見つけてみてください。