多くの名作を執筆した作家「太宰治」。教科書に取り上げられた作品もあり、多くの読者に深い共感を呼んでいるのが特徴です。暗い雰囲気の作品からユーモアのある明るい雰囲気の作品まで、執筆された時期によって作風が異なるのもポイントです。

そこで今回は、太宰治のおすすめ小説をご紹介します。初心者の方にも読みやすい作品から長編作品までピックアップ。ぜひ参考にしてみてください。

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太宰治とは?

太宰治の生い立ち

太宰治は1909年に青森県金木村、現・五所川原市金木町に生まれました。本名は津島修治。東大仏文科を中退、のちに酒場の女性と鎌倉の小動崎で心中を企てますが、太宰だけ助かってしまいます。

1936年に初の作品集として『晩年』を刊行。以後、さまざまな作品を執筆します。さらに、1947年発表の『斜陽』がヒット作に。1948年に山崎富栄と玉川上水で入水自殺し生涯を閉じました。

太宰治の性格

学生時代より芥川龍之介を敬愛していた太宰治。芥川賞を受賞するために想像を絶する長さの手紙を審査員に送り、作品を酷評した川端康成に暴言を述べたエピソードからは、執着心の強い人物像であることが分かります。

作品からはたびたびゆがんだ自意識の強さ、自己嫌悪、他人への優越感が垣間見られるのが特徴。一方で、故郷・津軽への帰郷を基にして描いた風土記『津軽』では、ほかの作品ではあまり見られないやさしい一面やユーモラスな側面を感じられます。ぜひ、作品を手に取って著者の本質を読み解いてみてください。

太宰治作品の魅力

太宰治作品には、暗い雰囲気のモノからユーモラスなモノまで幅広い作風の作品が存在します。作風は、執筆された時期と著者の置かれた環境に関係しているのがポイント。例えば、初期の作品は生への恐ろしさが作品ににじみ出ており、暗い作品が多く描かれました。

しかし、心中事件を経て結婚を機に作風は比較的明るいモノへと転換。戦争を経て、戦後には滅びの美しさを訴えかけるような、独自の哲学を反映させた作品を残しました。

読者に語りかけるような筆致も特徴。自意識に語りかけるような作品も多く、深く共鳴した方は根強いファンとして太宰治作品を読み続ける方も少なくありません。

太宰治のおすすめ小説|初心者向け

走れメロス

新潮社 著者:太宰治

走れメロス

友情・青春・愛について描いた太宰治の代表作。21世紀に生きる人々の心にも響く、9つの短編を収録した作品集です。

表題作『走れメロス』は、友のために命をかける男性の姿を描いた作品。長年にわたり教科書にも採用されている名作です。ほかにも、はじめての恋を経験した青年の独白から始まる『ダス・ゲマイネ』や、少女の1日を通して、思春期の女性心理を鮮明につづる『女生徒』などを収録しています。

太宰治の作家生活においては、比較的落ち着いた環境のなかで自身のセンスをいかんなく発揮した中期の作品集に位置づけられるのがポイント。多彩なテーマを取り扱った著者の筆力を体感できる1冊として、初心者の方にもおすすめです。

パンドラの匣

新潮社 著者:太宰治

パンドラの匣

暗い作風のイメージが強い太宰治の、正反対の姿を体験できる1冊です。20歳の青年が抱く恋心と純情をユーモラスな筆致で描く青春小説。2009年に実写映画化もされており、初心者の方は映画を見てから原作を読むのもおすすめです。

『パンドラの匣』は、結核の療養所である「健康道場」で、死と向き合いながらも病気と闘い一生懸命に生きる少年と、彼の周囲にいる人々との交流を書簡形式で描いています。もう1作の『正義と微笑』では、社会に出ようとする学生の内面を日記形式で表現しているのが特徴です。

いずれも、実在の知人の日記を素材にしたとされています。日記や手紙の形式をとりながら、人のありように迫る著者の作品に興味を持った方におすすめです。

お伽草子

新潮社 著者:太宰治

お伽草子

太宰治が名作を独自に解釈した作品集。大人も衝撃を受ける残酷な民話には、特に注目してみてください。戦禍において、芸術にまい進することで時代への抵抗を示し、日本文学の維持に貢献した著者の中期の作品です。古典や民話をテーマにしています。

『カチカチ山』などの知名度が高い昔話を題材に借り、人間の持つ本質をえぐる『お伽草紙』。現代に生きる人間のありようを鋭くとらえた『新釈諸国噺』ほか3編を収録しています。

著者の作品のなかでは読みやすさもあり、初心者向け。太宰治が古典をどのように考えたのかを知りたい方におすすめです。

太宰治のおすすめ小説|短編

グッド・バイ

新潮社 著者:太宰治

グッド・バイ

太宰治の戦後期における到達点ともいわれる作品。未完のままとなった表題作を含めた16編の短編集です。

絶筆の『グッド・バイ』をはじめ、時代が変わろうとする瞬間の告白を示す『苦悩の年鑑』『十五年間』、さらに戦後日本の現実に対し、絶望の気持ちを吐き出す『冬の花火』『春の枯葉』などを収録しています。

いずれも、被災・疎開・敗戦の絶望的な状況のなかで、命を燃やしながら描いたであろう点に注目。太宰治の作品をあらかた読み終えた方におすすめの1冊です。

晩年

新潮社 著者:太宰治

晩年

太宰治の初期作品を読める1冊。遺書の代わりに書いたことから『晩年』と名づけられています。死を予感させるような暗い雰囲気に満ちた作品が多く収録されているのが特徴です。

ヴェルレーヌのエピグラフから始まる『葉』や、著者の子供時代を描いた処女作『思い出』、心中騒動前後の内面を真新しい方法で示した『道化の華』など、15編を収録しています。

妻に裏切られ、共産主義運動から脱落、さらに心中から生き残ってしまった著者が描いている点に注目。作家の背景を感じながら作品世界に没入したい方におすすめです。

きりぎりす

新潮社 著者:太宰治

きりぎりす

太宰治の内面と外面の対立が現れている作品。著者の中期の作品群から14編が収録されたおすすめの短編集です。

表題作『きりぎりす』は、有名になった結果うまくいかなくなった画家夫婦の内面を、妻の視点で明らかにしています。著者の文学観や時代への考察が示される『鴎』『善蔵を思う』『風の便り』や、本格的ロマンの『水仙』『日の出前』などを収録しています。

作品を通して著者自身への内省をうかがえるのが特徴。コンプレックスや自己嫌悪をはじめとする、痛切な自意識に共感してしまう作品です。

ヴィヨンの妻

新潮社 著者:太宰治

ヴィヨンの妻

太宰治晩年の集大成と呼ばれる短編集。希望と絶望感のはざまで、もがきながら模索した新しい倫理の形を提示しています。

表題作『ヴィヨンの妻』では、酒屋で酒代を踏み倒し売上金まで盗もうとした男性の妻が、酒屋の店主を納得させるため酒屋を手伝うことになります。しかし、働くなかで妻は酒屋の店主もまた旦那以上に悪事を働いていることに気付き…。

本作には、ほかにも『親友交歓』『トカトントン』『父』『母』『おさん』『家庭の幸福』『桜桃』などを収録。死が間近に感じられる太宰治の作品に触れたい方におすすめです。

太宰治のおすすめ小説|長編

人間失格

新潮社 著者:太宰治

人間失格

人間としてのあり方や生きる意味を問う、太宰治の代表作。出版社が本作に対してうたいあげた「この主人公は自分だ、と思う人とそうでない人に、日本人は二分される」というキャッチフレーズにも注目してみてください。

“恥の多い生涯を送って来ました”という言葉からはじまる大庭葉蔵の手記。自分も他人も欺き、後戻りができなくなった大庭は自らに「失格」の烙印を押します。一方で、女性は大庭のことを褒めるように語り…。

誰もが持ちうる自意識について、語りかけるような筆致で描いているのがポイント。自分自身の内面と照らし合わせながら読むのがおすすめの1冊です。

斜陽

新潮社 著者:太宰治

斜陽

1947年に発表された太宰治を代表する作品のひとつです。社会に与えた影響力も大きく、当時「斜陽族」という言葉がブームになりました。

舞台は没落貴族の家庭です。破滅衝動を携えつつも恋と革命を生きがいとするかず子、麻薬中毒の直治。そして、最後の貴婦人として生きる母と戦後に生きる自分を風刺する流行作家・上原の滅びゆく姿を描き出しています。

本作品の成功もあり、五所川原にある太宰治の生家は現在、太宰治記念館として「斜陽館」という名を冠している点にも注目。著者の作品を語るうえで、避けては通れないおすすめの人気作品です。

津軽

新潮社 著者:太宰治

津軽

太宰治の愛読者が行き着く先のひとつとして挙げられる作品です。戦争のさなか、故郷・津軽へと旅立った太宰治は生家の使用人たちとの再会を通して、風土記の体をなした秀作を書き上げました。

太宰文学に付きまとう、「家」からの脱出や自分自身からの逃避というテーマと、改めて向き合うきっかけになったともいわれる津軽旅行。故郷の姿を、著者の視点を通して克明に示しながらも、一方で著者自身の幼少期を追憶した作品です。

著者の根底にある人間性がいかんなく発揮されているのが特徴。太宰治の人間的魅力を知りたい方におすすめの1冊です。