昭和の人気テレビドラマ『寺内貫太郎物語』の脚本を手掛けた「向田邦子」。脚本家として有名ですが、エッセイや小説も執筆しています。小説では『花の名前』など短編小説3作品で直木賞を受賞。ほかにもさまざまな作品があり、テンポよく読みやすい文章と、情景の浮かぶ描写が魅力です。

そこで今回は、おすすめの向田邦子の小説をご紹介します。何から読んだらよいか迷っている方は、選ぶ際の参考にしてみてください。

ドラマ作品の脚本でも有名な女性作家「向田邦子」とは?

向田邦子は、1929年東京都生まれの作家です。実践女子専門学校を卒業後、雑誌の編集やラジオ番組の放送作家を経験。俳優・森繁久彌に導かれ、ドラマ脚本家の道へ進みました。

『ダイヤル110番』をデビュー作に、人気テレビドラマとなった代表作『寺内貫太郎一家』や『阿修羅のごとく』など、数多くの作品を執筆。昭和時代の有名なドラマ脚本家となります。

小説の分野でも才能を発揮し、小説集『思い出トランプ』に収録された『花の名前』『かわうそ』『犬小屋』の短編3作品が第83回直木賞を受賞。また、エッセイにも定評があり、『父の詫び状』『夜中の薔薇』が有名です。

1981年、台湾旅行中の飛行機事故により、51歳の若さで他界しましたが、没後も多くの作品が出版・映像化されました。優秀な脚本作家へ贈られる賞として「向田邦子賞」が設立されるほど、多大な功績を残した作家です。

向田邦子作品の魅力

向田邦子作品は、戦前の昭和を背景にした作品が多いのが特徴。ありふれた日常のなかにある人の隠れた一面を鋭く捉え、あたたかな眼差しを通して表現しています。文章から映像が思い浮かぶような鮮やかな描写と、テンポのよさが魅力です。

家族をテーマにした作品も多数。複雑な人間模様ながら、ユーモアを含んだホームドラマのような面白さがあります。テレビドラマを見たことがある方も、小説ならではの味わいを楽しんでみてください。

向田邦子のおすすめ小説

寺内貫太郎一家

新潮社 著者:向田邦子

東京の下町に暮らす庶民の生活を描いた向田邦子の初めての長編小説。1974年にテレビドラマ化され、続編が制作されるほど人気シリーズとなりました。

口下手で気が短いが、情に厚く心優しい不器用な父・貫太郎とその一家の物語。登場人物の間には本気でぶつかりあうなかに思いやりを感じられるような関係性があり、笑って泣ける作品です。

主人公・貫太郎のモデルは、向田邦子の父・向田敏雄。執筆の5年前に亡くなった父への思いも込められています。昭和の下町の人情を刻んだ、おすすめの長編小説です。

阿修羅のごとく

文藝春秋 著者:向田邦子

家族をテーマに多くの作品を執筆してきた向田邦子にとっての「到達点ともいうべき問題作」と謳われている小説です。1979年、1980年に土曜ドラマとして放送され、テーマ曲のトルコ軍楽がポイントとなりました。

本作品は、四姉妹の父親に愛人がいるという設定から始まる家族の物語。対策に奮闘する四姉妹は、それぞれに複雑な問題を抱えていました。そして、母は…。家族のエゴと愛憎が赤裸々かつコミカルに描かれています。家族のあり方を考えさせられる、おすすめの小説です。

あ・うん

文藝春秋 著者:向田邦子

太平洋戦争がせまる世の中を背景にした向田邦子の長編小説。著者がもっとも愛着を抱いた作品といわれています。1980年と2000年に、テレビドラマとして放送されました。

主な登場人物は、質素な暮らしの水田仙吉と、軍需景気をうけて羽振りのよい生活を送る中小企業の社長・門倉修造。神社の狛犬「あ、うん」のように親密な男の友情と親友の妻へ抱く密かな思いを描いています。

思い出トランプ

新潮社 著者:向田邦子

直木賞を受賞した『花の名前』『犬小屋』『かわうそ』を含む、向田邦子の全13編の短編小説集です。たわいもない日常を鋭い観察眼で切り取り、鮮やかに表現しています。

浮気相手だった部下の結婚式に妻と参列する男の話や、防ぎようのない事故により子供の指を切ってしまった母親の話など、誰もが持つ弱さや後ろめたさを衝く内容。弱みも人間の愛しさと捉え、あたたかな視点で描かれています。

登場人物に自分を重ねて、癒やされたり励まされたりする読者も多い作品。直木賞受賞作品も楽しめる、面白く読みやすいおすすめの短編小説集です。

隣りの女

文藝春秋 著者:向田邦子

人生の悲しみや喜びをあたたかく描いた向田邦子の短編集。平凡な人妻の恋をテーマにした表題作『隣りの女』ほか、1982年と2011年にテレビドラマとして放送された『胡桃の部屋』、絶筆となった『春が来た』など全5編が収録されています。

短編ながら読みごたえがあり、年齢を重ねるほどに作品の奥深さを感じられる内容。大人のもどかしい恋愛小説を楽しめる、おすすめの短編集です。

男どき女どき

新潮社 著者:向田邦子

小説4編とエッセイからなる向田邦子の最後の作品です。1985年に朗読ドラマ、1988年にスペシャルドラマとして放送されています。

冒頭の『鮒』は、主人公・塩村の家に、何者かによってバケツごと置かれた一匹のフナから展開する物語。背びれの特徴から、塩村の元愛人が飼っていたモノだと気づきますが…。

ほかにも、果物屋の陰気な親父との奇妙なかかわり合いを描く『ビリケン』など、平凡な人々の心情を鋭く捉え、ユーモアに、あたたかく描いた作品が収録されています。

ページ数が少なく気軽に手に取れるのがポイント。意外な展開に夢中で読み進めてしまう読者も多くいます。向田邦子のラスト・メッセージとなった、おすすめの作品です。