世界中の映画人に多大な影響を与えてきた名匠・黒澤明監督。時代劇から現代劇まで、緻密な演出と普遍的なテーマを織り込んだ作品の数々は、今なお色あせることなく高い評価を受け続けています。
作品数が多いため、なかにはどれから観ればよいか迷ってしまう方もいるのではないでしょうか。そこで今回は、黒澤明監督のおすすめ作品をご紹介。代表作はもちろん、知る人ぞ知る名作まで幅広く取り上げています。
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黒澤明監督とは?何がすごいのか解説

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黒澤明は、日本映画を世界に知らしめた名監督のうちの一人です。戦後から1990年代まで長期にわたり活躍し、晩年まで作品を製作。映画人に多大な影響を与えました。
特徴的なのは、緻密な構図と動きを活かした画面設計、人物の心理を繊細に描く脚本力、そして重厚な人間ドラマを通して社会への問いを投げかける演出です。
『七人の侍』『羅生門』『生きる』などは、その革新的な演出と普遍的なテーマで世界的に高く評価されています。特に『羅生門』はヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞し、日本映画が国際的評価を押し広げるきっかけとなりました。黒澤作品は今なお世界中で研究・鑑賞され続けており、その功績は映画史において不動の地位を築いています。
黒澤明監督作品のおすすめ映画一覧
羅生門 – 黒澤明
1950年公開・上映時間:88分

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ひとつの事件を複数の視点から描き、“真実とは何か”を問いかけた映画『羅生門』。芥川龍之介の短編小説を原案とし、モノクロ映像と大胆な構成で世界的に高く評価された黒澤明監督の代表作です。人間の本質や主観のあいまいさに迫る物語を味わいたい方におすすめです。
平安時代、荒れ果てた羅生門の下で雨宿りをする三人の男。彼らはある山中で起きた武士の殺害事件について語り合います。盗賊、武士の妻、武士の霊、通りがかりの木こりといった関係者が語る証言は、どれも食い違い、それぞれに“真実”があるように思えます。果たして、事件の本当の姿はどこにあるのでしょうか……?
本作は、回想のなかで語られる出来事が語り手によって変化するという“多視点構成”を映画史上で初めて本格的に取り入れた作品として知られています。光と影を巧みに操った撮影技法や、緻密な演出も注目され、第12回ヴェネツィア国際映画祭では金獅子賞を受賞。人間の心理と欺瞞に切り込む古典的名作を鑑賞したい方はチェックしてみてください。
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七人の侍 – 黒澤明
1954年公開・上映時間:207分

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農民たちが野武士から村を守るため、腕利きの侍を雇うというシンプルな構図に、圧倒的な人間描写と緊迫感を加えた時代劇『七人の侍』。日本映画の金字塔として国内外で高く評価され、後のアクション映画にも多大な影響を与えた作品です。集団ドラマの原点ともいえる重厚な物語を堪能したい方におすすめです。
戦国時代、年貢もままならぬ農村が野武士の襲撃に怯えるなか、村人たちは自らを守る手段として“侍を雇う”ことを決断します。集められたのは、剣の腕は確かだがそれぞれに過去や信念を抱えた七人の男たち。彼らは村人と心を通わせながら、迫りくる略奪者との戦いに備えていきます。やがて迎える死闘の結末とは……?
本作は、キャラクターの個性と成長、そして生と死に向き合う姿を多面的に描きながら、三時間超の長尺を感じさせない完成度で観る者を引き込みます。戦術的な戦闘描写や緊迫したカメラワークも画期的で、世界中の映画監督に影響を与えてきた歴史的作品です。侍映画の原点を体感したい方はチェックしてみてください。
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生きる – 黒澤明
1952年公開・上映時間:143分

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余命を宣告された男が、それまでの空虚な人生と向き合い、“何のために生きるのか”を自らに問い続ける人間ドラマ『生きる』。官僚制度や社会の無関心さを背景に、一人の男の静かで力強い変化を描いた黒澤明監督の代表作です。生きる意味に悩むすべての人に寄り添う作品を観たい方におすすめです。
長年市役所に勤めてきた課長・渡辺勘治は、胃がんによって余命わずかであることを知ります。これまで機械的に日々をこなしてきた彼は、残された時間で“自分の存在意義”を探すようになります。さまざまな人と出会い、戸惑いながらも最後にたどり着いたのは、小さな公園づくりという市民の願いを叶える仕事でした。彼が遺したものとは……?
本作は、静謐な語り口とともに描かれる内面の変化が深く心に残る作品で、主演の志村喬による抑制の効いた演技も魅力。「生きるとは何か」という普遍的なテーマに正面から向き合いながら、ラストシーンでは希望と哀しみが静かに交錯します。人生を見つめ直すきっかけとなる映画を探している方はチェックしてみてください。
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夢 – 黒澤明
1990年公開・上映時間:119分

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黒澤明監督自身の夢や幻想、死生観をモチーフに構成されたオムニバス映画『夢』。八編から成る物語は、自然への畏敬や戦争の記憶、人間の業や希望をテーマに、象徴的な映像で綴られます。詩的で静謐な映像世界を通して心の奥を揺さぶる作品を味わいたい方におすすめです。
物語は監督自身を思わせる“私”の視点で語られ、幼少期の禁忌に触れる不思議な体験や、戦地をさまよう亡霊との遭遇、自然災害と原発事故の恐怖、そして桃源郷のような村での死の受容といった、現実と幻想の境界を揺らすエピソードが続きます。それぞれの章は独立しながらも、人生と死、文明と自然という根源的なテーマに貫かれています。
本作は、黒澤明が晩年に到達した精神世界を映像化した作品として位置づけられ、強いメッセージ性とビジュアルの美しさが際立ちます。アメリカの名匠スティーヴン・スピルバーグが製作に協力し、マーティン・スコセッシがゴッホ役として出演するなど国際的にも注目を集めました。映像詩としての映画を体験したい方はチェックしてみてください。
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隠し砦の三悪人 – 黒澤明
1958年公開・上映時間:139分

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落ち武者となった姫とその家臣が、戦火を逃れて国境を越えようとする姿を描いたアクション時代劇『隠し砦の三悪人』。軽妙な語り口と迫力ある合戦描写で、娯楽性と緊張感を併せ持つ黒澤明作品のなかでも異色の一本です。大胆な構成と映像演出で痛快な冒険劇を味わいたい方におすすめです。
戦乱の世、敗れた秋月家の姫と忠義の武将・真壁六郎太は、家の再興を願い、莫大な黄金を隠し持って敵地を脱出しようとしていました。案内役に選ばれたのは、欲深くもどこか憎めない農民ふたり。黄金を巡る欲望と戦い、そして逃避行のなかで、彼らは次第に姫や六郎太と心を通わせていきます。果たして彼らの運命は……?
本作は、軽妙なコンビの視点から物語を進行させる斬新な手法が話題を呼び、後に『スター・ウォーズ』の着想源のひとつにもなったことで知られています。馬上の長回しやスピーディな編集など、当時としては革新的な撮影技法も多く盛り込まれており、痛快なエンタメ作品としても完成度の高い仕上がりです。黒澤作品のなかでも娯楽性を重視した作品を観たい方はチェックしてみてください。
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椿三十郎 – 黒澤明
1962年公開・上映時間:96分

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孤高の浪人が若侍たちを導き、腐敗した権力に立ち向かう姿を描いた時代劇『椿三十郎』。前作『用心棒』のヒットを受けて制作され、痛快な剣戟アクションと皮肉の効いたユーモアが絶妙に融合した黒澤明作品です。剣の美学と軽妙なやり取りを楽しめる時代劇を観たい方におすすめです。
物語の舞台は、藩内の不正を告発しようとする若侍たちの前に現れた、無頼の浪人〈椿三十郎〉。彼は彼らの甘さと理想主義に苦笑しつつも、その正義感に心動かされ、影から力を貸していくことになります。やがて藩内の権力闘争が激化し、三十郎の知略と剣術が試される場面が訪れます。果たして彼らの正義は報われるのでしょうか……?
本作では、三船敏郎演じる椿三十郎の洒脱な振る舞いと、圧巻の殺陣が際立っており、中でも終盤の対決シーンは時代劇史に残る名場面とされています。シリアスなテーマに対し、絶妙な間合いで笑いを交えた脚本の妙も評価が高く、エンタメ性と社会批評のバランスが取れた作品です。剣豪ものと群像劇の融合を味わいたい方はチェックしてみてください。
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天国と地獄 – 黒澤明
1963年公開・上映時間:143分

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企業内部の権力闘争と誘拐事件を軸に、人間の欲望と正義を鋭く描いたサスペンス映画『天国と地獄』。エド・マクベインの小説を下敷きにしながら、社会の格差と犯罪の本質に迫る黒澤明監督の異色作です。心理的緊張と社会性を両立させた緻密なドラマを観たい方におすすめです。
物語の主人公は、靴メーカーの重役・権藤。彼は経営権を巡る策謀のなか、自身の屋敷で誘拐事件に巻き込まれます。誘拐されたのは彼の息子ではなく、運転手の子ども。要求された身代金の額は、権藤の出世を懸けた資金と同額でした。果たして彼は決断を下し、警察は犯人を追い詰められるのでしょうか……?
本作は、前半を屋敷の密室劇、後半を捜査の緊迫した展開とし、構成の妙が光る一本です。特に、白黒映像のなかで突如現れる“カラー演出”の使い方や、都市の闇に迫るロケ撮影が高く評価されています。三船敏郎の抑えた演技と、志村喬ら名優陣の存在感も見逃せません。人間の業と倫理観を深く問いかける社会派ドラマを求める方はチェックしてみてください。
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用心棒 – 黒澤明
1961年公開・上映時間:110分

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荒廃した宿場町を舞台に、無頼の浪人が二大勢力の争いに敢然と立ち向かう姿を描いた時代劇『用心棒』。三船敏郎演じる名もなき剣士が、知略と剣技で事態を翻弄していく痛快な一本です。ユーモアと緊張感のバランスが秀逸なエンターテインメント作品を観たい方におすすめです。
行き場をなくした浪人が、流れ着いたのは荒れ果てた宿場町。そこでは二つの勢力が利権を巡って対立しており、町全体が不穏な空気に包まれていました。浪人は両陣営に交互に雇われながら、双方の弱点を見抜き、策略を巡らせていきます。やがて、町を蝕む抗争に終止符を打つための一手が動き出すことに……。
本作は、後に数多くの西部劇やアクション映画に影響を与えた作品として国際的にも評価が高く、特にクリント・イーストウッド主演『荒野の用心棒』は本作の翻案として知られています。黒澤明ならではのカメラワークや乾いたユーモア、緻密な構成が光る名作です。型破りなヒーロー像に魅了されたい方はチェックしてみてください。
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赤ひげ – 黒澤明
1965年公開・上映時間:185分

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江戸時代末期の小石川を舞台に、貧民救済のため尽力する医師と、そこに派遣された若き医師の心の変化を描いた人間ドラマ『赤ひげ』。黒澤明監督が山本周五郎の小説をもとに、医療と人間の尊厳を真正面から描いた重厚な作品です。献身と成長の物語を静かに見届けたい方におすすめです。
蘭方医学を志す青年医師・保本は、貧しい者たちを診る小石川養生所に派遣され、そこを束ねる厳格な医師・新出去定、通称〈赤ひげ〉のもとで働くことになります。最初は不満と反発を抱いていた保本でしたが、貧しい人々の命と向き合う日々のなかで、次第に医師としての姿勢と人間としての生き方を問い直すようになります。彼が辿り着く答えとは……?
本作では、三船敏郎が演じる赤ひげの威厳と優しさ、そして庶民の暮らしを丁寧に映し出す演出が高く評価されました。重厚なモノクロ映像と長尺でありながら、人物描写と構成力の巧みさによって、観る者を深く引き込む力を持っています。黒澤映画の集大成とも称される名作を味わいたい方はチェックしてみてください。
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蜘蛛巣城 – 黒澤明
1957年公開・上映時間:110分

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戦国時代の日本を舞台に、シェイクスピアの『マクベス』を翻案した悲劇を描く『蜘蛛巣城』。黒澤明監督が能の様式美を取り入れつつ、裏切りと野望に取り憑かれる武将の末路を重厚に描いた一作です。運命と因果をテーマにした映像詩に触れたい方におすすめです。
戦乱の世、武将の鷲津武時は、霧に包まれた〈蜘蛛手の森〉で出会った妖しげな老婆から「やがて城主の座に就く」という予言を受けます。忠義と野心の間で揺れる彼は、やがてその言葉に導かれるように主君を討ち、妻とともに権力を手にします。しかし、欲に溺れた末に彼が見るのは、破滅の道筋にほかなりません。彼の行く末に待ち受けるものとは……?
能舞台を思わせる簡素で静謐な美術設計や、墨絵のようなモノクロ映像、そして三船敏郎の鬼気迫る演技が印象的です。とりわけ終盤の弓矢のシーンは、世界的にも評価の高い映画史上の名場面のひとつとして語り継がれています。日本の伝統表現と西洋悲劇が融合した異色の黒澤作品を堪能したい方はチェックしてみてください。
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乱 – 黒澤明
1985年公開・上映時間:162分

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シェイクスピアの『リア王』を下敷きに、戦国時代の日本を舞台に父と三人の息子の葛藤を描いた歴史大作『乱』。晩年の黒澤明監督が構想十年をかけて完成させた本作は、壮麗な色彩美と壮絶な人間模様によって、国内外から高い評価を受けました。裏切りと崩壊の果てにある“乱世”の悲哀を描いた作品を観たい方におすすめです。
国を三人の息子に譲った大名〈一文字秀虎〉は、平穏な晩年を願って隠居します。しかし、息子たちの権力欲と対立により、家族と国は急速に瓦解していきます。父の忠告に耳を貸さなかった次男と三男はそれぞれに反旗を翻し、長男もまた権力を保つため非情な決断を下していきます。裏切りが裏切りを呼ぶなか、秀虎の心と世界は崩壊の渦に巻き込まれていき……?
戦場を覆う赤・黄・青の軍旗や、広大なロケーションを活かした構図美が圧倒的な映像美を生み出しています。また、主演・仲代達矢の鬼気迫る演技と、武満徹による重厚な音楽が物語の悲劇性をより深く引き立てます。人間の業と家族の崩壊を壮麗なスケールで描き切った本作は、黒澤映画の到達点とも言える名作です。映画芸術の極致を体感したい方はチェックしてみてください。
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影武者 – 黒澤明
1980年公開・上映時間:180分

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戦国大名の死を隠すために影武者が担う重責と苦悩を描いた歴史劇『影武者』。黒澤明監督が製作・脚本も手がけた本作は、第33回カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞するなど、国際的にも高く評価されました。戦国の動乱と人間の葛藤を重厚に描いた時代劇を味わいたい方におすすめです。
天下統一を目前に控えた武田信玄が戦中で急逝。彼の死が知られれば軍の瓦解は必至とされ、家臣団は密かに信玄に瓜二つの男を影武者として据え、彼の存在を隠すことを決断します。だが、死と隣り合わせの重責を担うことになった影武者の男は、次第に「信玄として生きること」の重みに押しつぶされていきます。果たして彼は、偽りのなかにどのような真実を見出すのでしょうか……?
武田家の重厚な美術や軍勢の圧巻の動きが、戦国の緊迫感を鮮やかに映し出しています。特に、赤備えの甲冑や広大な野戦シーンの構成力は、黒澤監督ならではのこだわりが詰まった見どころです。主演の仲代達矢が一人二役で見せる緊張感あふれる演技も見逃せません。偽りと真実が交錯する人間ドラマに惹かれる方はチェックしてみてください。
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酔いどれ天使 – 黒澤明
1948年公開・上映時間:98分

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戦後の混乱期を舞台に、町医者と若きギャングの奇妙な関係を描いた『酔いどれ天使』。黒澤明と三船敏郎が初めてタッグを組んだ本作は、暴力と病に蝕まれた社会のなかで希望を見出そうとする男たちの姿を描いています。退廃的な時代背景と人間の再生を交差させた作品を観たい方におすすめです。
敗戦後のスラム街で診療所を営む医師・真田は、ある夜、銃創を負ったヤクザの男・松永を診察します。真田は彼の体に結核の兆候を見つけ、治療を促しますが、松永は傲慢で聞く耳を持ちません。それでも真田は彼を放っておけず、厳しくも真摯な姿勢で接し続けます。互いに反発しながらも、次第に奇妙な絆が芽生えていく二人。しかし、松永の過去と抗争の影が再び彼を追い詰めていき……?
本作では、三船敏郎の粗削りながらも圧倒的な存在感が強く印象に残ります。一方、志村喬演じる医師は、飄々としながらも芯の通った人物像で作品に温かみを添えています。湿地のような街並みや酒場の描写を通して、混沌とした時代の空気感を濃厚に映し出した点も高く評価されています。戦後日本の映画史に残る名作に触れてみたい方はチェックしてみてください。
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悪い奴ほどよく眠る – 黒澤明
1960年公開・上映時間:151分

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企業汚職と復讐をテーマに、黒澤明が現代劇として描いた社会派サスペンス『悪い奴ほどよく眠る』。戦後日本の腐敗した官僚制度を鋭く風刺しながらも、復讐劇としての緊張感と人間ドラマの奥深さが融合した一作です。社会の暗部を鋭くえぐる骨太なドラマを求める方におすすめです。
大手企業の幹部が一堂に会する結婚披露宴。その場で突然、かつて自殺した社員の息子・西幸一が新郎として現れます。彼の目的は、父を死に追いやった企業の実態を暴き、関係者に復讐すること。表向きは婿として会社の内部に潜り込みながらも、彼は冷静に標的を追い詰めていきます。しかし、企業側の警戒と隠蔽体質は予想以上に強く、野中の計画には思わぬ綻びが生じ始め……?
物語序盤から展開される披露宴の長回しや、無機質なオフィスビルの映像美は、黒澤監督の演出力の高さを象徴するものです。三船敏郎演じる主人公の抑制された演技も、緊張感を高める要素として機能しています。正義と悪の曖昧な境界を描く本作は、単なる復讐劇にとどまらず、人間の弱さや倫理を問う作品でもあります。現代にも通じるテーマに関心がある方はチェックしてみてください。
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野良犬 – 黒澤明
1949年公開・上映時間:122分

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終戦直後の東京を舞台に、一丁の拳銃を巡る刑事の苦悩と追跡を描いた『野良犬』。黒澤明がフィルム・ノワールの手法を取り入れながら、戦後社会の混乱と人間の弱さに迫った本作は、日本映画史に残る名作として高く評価されています。社会派サスペンスと人間ドラマの融合を味わいたい方におすすめです。
新人刑事の村上は、通勤中に拳銃をスリに盗まれてしまいます。職務に対する責任感から、自ら街に潜入して拳銃を追い始める村上。やがてその拳銃が凶悪事件に使われていることが判明し、事態は深刻化していきます。ベテラン刑事・佐藤の協力を得て捜査を進めるなかで、村上は犯人の境遇に自らの姿を重ねながら、正義と感情の狭間で揺れ動いていき……?
路地裏のマーケットや満員電車など、当時の東京のリアルな空気感を映し出すロケ撮影が印象的です。志村喬演じる佐藤刑事の穏やかで芯のあるキャラクターと、三船敏郎が体現する未熟な若者像が対照的に描かれ、物語に奥行きを与えています。人間の内面に切り込む丁寧な描写と、サスペンスの緊張感が両立した本作は、黒澤明作品のなかでも異彩を放つ一作です。骨太な刑事ドラマに興味のある方はチェックしてみてください。
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どですかでん – 黒澤明
1970年公開・上映時間:140分

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貧しいバラック街に生きる人々の日常を、多様な視点で描いた群像劇『どですかでん』。黒澤明が初めて手がけたカラー映画であり、実験的な演出と美術が話題を呼んだ本作は、社会の片隅で懸命に生きる人々の姿を詩的に映し出しています。形式にとらわれない人間ドラマを求める方におすすめです。
物語は、バラックに住む電車好きの少年をはじめ、夫に暴力を振るわれる妻、貧困のなか夢を見る父子、酒浸りの男といった、さまざまな人物たちの暮らしが交錯しながら進んでいきます。彼らの生活は苦しくも、どこかユーモラスで、時に幻想的な視点で描かれていきます。繋がりそうで繋がらないそれぞれの人生が、淡々と時間のなかを流れていくのでしょうか……?
本作では、鮮烈な色彩演出が日常の風景に非現実的な彩りを与えており、登場人物の心理や世界観を視覚的に表現しています。従来の物語構造にとらわれず、断片的な出来事が積み重なることで生まれる”生の重み”が感じられる作品です。完成後には賛否両論を巻き起こしましたが、現在では再評価も進んでおり、黒澤明の挑戦的な側面を知るうえでも貴重な一作といえます。独創的な人間模様に触れたい方はチェックしてみてください。
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まあだだよ – 黒澤明
1993年公開・上映時間:134分

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昭和初期の東京を舞台に、老境を迎えた国語教師の晩年を描いた『まあだだよ』。実在の随筆家・内田百間の回想を原作に、黒澤明が監督人生の集大成として撮り上げた本作は、静けさのなかに人生の機微を滲ませた作品です。穏やかで温かみのある人間ドラマを観たい方におすすめです。
物語の中心となるのは、教え子たちから慕われる老教師・百間。彼は変わりゆく時代を横目に、文学と酒を愛しながら気ままな日々を過ごしています。教え子たちはそんな彼の誕生日を祝うため、毎年集まりを開くのが恒例に。しかし、戦況が悪化していく中で、その穏やかな時間にも変化が訪れはじめ……。
本作は、人生の終盤を迎えた男の時間の流れを丁寧に描いた点が印象的です。松村達雄が演じる主人公の柔らかな存在感や、美しい映像設計が作品に独自のリズムを与えています。台詞の間や静謐な空気感が、黒澤作品のなかでもとりわけ優しく、味わい深い雰囲気を醸し出しています。老いと時間、師弟の絆を静かに見つめたい方はチェックしてみてください。
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静かなる決闘 – 黒澤明
1949年公開・上映時間:95分

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戦時中の野戦病院で感染症を負った若き医師の苦悩と決断を描くヒューマンドラマ『静かなる決闘』。原作は菊田一夫の戯曲で、黒澤明の初期フィルモグラフィにおいて”生き方”を真正面から見つめる一本として位置づけられます。静かな筆致で揺れる心を追う物語を求める方におすすめです。
軍医の藤崎恭二は、手術中の事故で梅毒に感染してしまいます。復員後、産婦人科を営む父のもとで診療を続ける一方、婚約者の松本美佐緒には真実を告げられず、距離を置く選択を取ります。治療が長期にわたる現実、患者や仲間との向き合い方、そして自らの倫理とのせめぎ合いのなかで、彼はどの道を選ぶのでしょうか……?
雨や汗の質感を活かしたモノクロ映像、三船敏郎の抑えた熱と志村喬の包容力ある存在感が、内面の葛藤に重みを与えます。台詞の間合いと構図で心情を刻む演出も見どころ。派手さではなく信念を描く医療ドラマに触れたい方はチェックしてみてください。
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白痴 – 黒澤明
1951年公開・上映時間:166分

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ドストエフスキー『白痴』を下敷きに、戦後日本の北海道を舞台へ移して撮り上げた文芸ドラマ『白痴』。極限状況で心を病んだ青年の”善良さ”が、欲望と打算が渦巻く社会に投げ込まれ、周囲の人々の内面を露わにしていく構成が見どころです。雪景と陰影を生かしたモノクロ映像で、感情の震えを味わいたい方におすすめです。
冬の北海道。戦地から戻った亀田は、温和で純真な気質ゆえに世間に馴染めず、旅の列車で出会った赤間と奇妙な縁を結びます。やがて社交界の中心にいる那須妙子と出会った亀田は、彼女の内なる孤独を直感し、寄り添おうとすることに。赤間もまた妙子に執着を強め、三人の感情は次第に絡み合っていきます。善良さは周囲の欲望を鎮められるのでしょうか……?
長回しやクローズアップを駆使し、言葉にしにくい心の震動を表現。森雅之、原節子、三船敏郎の演技が、清冽さと狂おしさの振幅を強く印象づけます。雪原と闇を対置する美術・撮影がドラマの緊張を支え、文学の難題を映画へ転換した意欲作となっています。人の善意と欲望のせめぎ合いを見つめたい方はチェックしてみてください。
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わが青春に悔なし – 黒澤明
1946年公開・上映時間:110分

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戦前から戦後へと移り変わる日本を背景に、ひとりの女性が自らの生き方を切り拓いていく姿を描いた人間ドラマ『わが青春に悔なし』。大学をめぐる思想弾圧と時代の圧力のなかで、主体的に選び取る”人生”が丹念に映し出されています。女性の視点から戦中・戦後の価値観を見つめ直したい方におすすめです。
京都の大学で教鞭を執る教授が思想弾圧で追われ、娘の雪江は学生の友人たちと交流を深めながら、自分の進む道を模索していきます。やがて雪江は行動派の青年・野毛と惹かれ合い、厳しさの増す社会のなかで大きな選択を下すことに。彼の身に起こる事件をきっかけに、雪江は彼の故郷へ向かい、自分の手で生きる道を掴もうと決意します。逆風のなかで彼女が見つける答えとは……?
雪景と土の手触りを生かした画づくりで、労働と尊厳を静かに浮かび上がらせています。原節子が演じる主人公の変化は力強く、終盤に至るまで一本の”意志”が通底。戦後第一作としての意義だけでなく、個が時代にどう向き合うかを問う普遍性を備えた一本です。生き方を見つめる物語を求める方はチェックしてみてください。
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黒澤明監督の作品は、画面構成の美しさや台詞の力強さ、人物描写の深さなど、今の映画にも通じる演出が随所に見られます。世界的に評価された七人の侍や羅生門をはじめ、日本映画の国際的評価を押し広げた名作群。本記事を参考に、ジャンルや時代を超えて語り継がれる理由を、実際に観て感じてみてください。